仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第三十一話 「守護騎士 『プログラム』から『人間』となる」

時期は午後。それでも太陽は照り、肌で感じると寒いと思える風は吹いている。

八神家へ到着の道のりとしては今で大体半分程度だ。

その気になれば午前で帰る事も可能といえる距離だが、それは車椅子に乗っている八神はやてをほったらかしにした場合だ。

そんな事を八神家の居候である桜井侑斗とデネブができるわけがないし、するつもりもない。

それに、二人と一体は急いで帰宅する必要もないのでこのくらいの速度でいいと思っている。

(八神の語りは家に着く頃には終わりそうだな)

そんな予想を立てながら侑斗は、はやての言葉に耳を傾けていた。

 

 

はやてはヴォルケンリッターのサイズを記したメモを持って一人、服屋に向かっていた。

車椅子を押すたびに、両側の車輪がカラカラと音を鳴らしている。

ヴォルケンリッターも「同行する」と言って聞かなかったが、さすがに病院の帰りのように周囲から奇異な眼差しを向けられたくもないので断った。

一日に二度もそんな経験はしたくないといえばしたくない。

(ソファに座って寛いどるわけ……あらへんよなぁ)

多分、自分が帰ってくるまでずっとそのまま佇んでいそうだ。

仮に座っていたとしても、膝を折って顔を下に伏した『忠誠』の姿勢である可能性が高い。

(早よ服買って帰ろ)

はやては車椅子を押す勢いを増して、速度を速めた。

最寄の服屋に到着したはやては、店員に訝しげな眼差しを向けられていた。

「ええと、お客様。これはご両親かご姉妹の方のものでしょうか?」

「え、ええ。まあ……、そうです」

店員の質問にはやては当たり障りなく答えた。

自分にとってヴォルケンリッターはとりあえず家族という認識だ。

店員は、はやてから受け取ったメモを見てからはやてを確認するように見る。

(な、何やろ?わたしが大人モンの服買いにきたんがまずかったんやろか?)

はやてにしてみれば初めての事なので、このような不安が出てくるのは当然なのかもしれない。

店員はしつこいくらいに、はやてとメモを交互に見る。

店員はしゃがんで目線をはやてに合わせてきた。

はやては店員に両肩を掴まれた。

店員の目は何故か涙目になっていた。

「え?あの、どないしたんですか?」

「いじめられてるのね?」

店員はくぐもった声で、そんな事を言い出した。

「は?」

はやてはわからない。

「親戚のお姉さん達にいじめられてるのね?ええ、言わなくてもわかっています!ご両親が亡くなった貴女は遺産を相続し、親戚は貴女のご両親の遺産を目当てに貴女を引き取ったことも!遺産を食い潰した挙句に貴女を厄介者扱いしていることも!みぃんなわかってますとも!」

店員は立ち上がって興奮気味に語っている。

「え、え~とぉ……」

はやては「違う」と言いたいのだが、眼前の店員は歌劇団の役者がやりそうなポーズを取って聞く耳を持ってくれそうにない。

(な、何か……、わたし悲劇のヒロインにされてる!?)

両親が他界していることは合っているが、他は間違っている。

親戚にいじめられていると言われても、親戚がいないのでいじめられようがないのだが。

「店長!こんな健気な子に定価で売りつけたりなんて出来ません!四割引で売りましょう!!」

店員の一人が涙を流しながら言い出した。

どうやら、はやてを『悲劇のヒロイン』とみなしている店員は店長らしい。

(ええええぇ!?この人店長なん!?)

はやてとしては何とか誤解を解こうとするが、それよりも早く物事が進む。

「おバカぁ!」

店長が四割引と進言した店員の頬を軽く叩いた。

(そうやんね。いくらなんでも四割引なんてのはいきすぎや)

はやては店長が常識人だと思い感心しようとしていた。

「何みみっちいこと言ってるの!七割引になさい!!」

「すいませんでしたぁ!!」

店長はさらにいきすぎていた。

(ええええええ!?ええんですかぁ!?)

驚きと嬉しさと申し訳なさがはやての中に混じっていた。

七割引ということは一万円のものが三千円で購入できるということだ。

物凄く魅力的である。

だが、しかし嘘はよくない。

ただでさえ、石田医師にもヴォルケンリッターのことで嘘を述べているのにこれ以上は吐きたくない。

「あ、あのですね……」

はやては何とか言おうとするが、店員も店長もそれよりも早く行動していた。

結局はやては、ヴォルケンリッターの洋服を予想よりも安く購入したのだった。

 

 

車椅子がカラカラと音を立ている。

「で、結局その店での誤解は解けたのか?」

侑斗としては、はやてが誤解したままほったらかしにしているとは思えなかった。

「うん。あれからシャマルと一緒に行くようになって、わたしがその……『悲劇のヒロイン』というのは何とか解けたんよ」

はやての表情からして別の誤解が生まれたのだろうと侑斗は安易に想像できた。

「でも、それから別の誤解が生まれたんよ。今度はシャマルをわたしのお母さんやって誤解してな。シャマルを落ち込ませてもうたんよ」

「思い込みが激しいのも考えものだ……」

デネブが腕を組んでうんうんと頷く。

「お前が言うな。お前が」

デネブの一言に侑斗はさらりと突っ込んだ。

 

 

予想外の安値でヴォルケンリッターの洋服を購入したはやては、八神家に戻って広げていた。

シグナム、シャマル、ヴィータはどう対処したらいいのか戸惑っていた。

「好きな服を着たらええんよ」

はやてが言うと、服を物色し始める。

シャマルは嬉しそうに、捜し始める。

シグナムは今ひとつ、ピンと来ない表情だが捜していた。

ヴィータは着られる服のサイズが限られているので、迷いがなかった。

ザフィーラは人型ではなく、青色の毛並みが目立つ巨大な狼となっおり床に伏せていた。

衣服を捜し始めてから数分後。

三人とも、それぞれセンスがいいのかよく似合う服を選んでいた。

シグナム、ヴィータ、シャマルが男物の服を持っていた。

ザフィーラに着せようと言うのだ。

ザフィーラは一度見てから、また顔を伏せた。

はやては笑みを浮かべてそんな後景を見ていた。

家で笑ったのは、そしてこんなに賑やかなのは本当に久しぶりだった。

翌日となり、はやてはヴォルケンリッターに日常生活の仕方を自分が教えられる事はすべて教えようと決意した。

『闇の書』の主として、あと石田医師のときのように苦し紛れの嘘を吐かないためにもだ。

シグナム、シャマルはきりっと真面目な表情をしており、ヴィータはどこか明後日の方向を向いていた。

ザフィーラは獣型なので、表情が読めなかった。

「ええと、まずは朝の挨拶からや。おはようございます」

「「「「おはようございます」」」」

はやてが言うと、ヴォルケンリッターも復唱するように言った。

これがはやてが最初に教えた事だ。

ヴォルケンリッターは、はやての教えをスポンジのように吸収していった。

はやてもそれが嬉しくなり、色々と教えていった。

 

ヴォルケンリッターにとって、今の主であるはやては異質な存在といってもよかった。

今までの主は自分達をぞんざいに扱い、『物』として扱っていた。

主従関係なんて上品なものではなく、隷属関係に近いものだったのかもしれない。

主従でも隷属でも共通するのは人間対人間の関係の上で成立する。『物』として扱われてきた自分達はそれよりひどい関係だったのかもしれない。

ある程度の日常生活が身につき、それなりに勝手が利きはじめたと思えるようになった頃の事だ。

はやては既に眠っている。

リビングにはヴォルケンリッターしかいない。

誰もが今の自分達の待遇に戸惑っていた。

このようなかたちで定例会議を開くのはもう何度目だろうか。

「今回の主は私達に妙な命令を下したりはしないわよね?」

先陣を切ったのはシャマルだ。

「年齢は今までの主の中では間違いなく最年少だろう。しかし、我々に対して向ける眼差しはまるで家族でも接するようなものだな」

シグナムが思ったままの感想を述べた。

「なに企んでるかわかんねーぞ。今までだってそうだったじゃんか」

否定的な意見を述べたのはヴィータだ。

「表と裏があるような行動を取っているとは思えないが」

ザフィーラも、はやてに対して率直な感想を述べた。

ヴィータは面白くなさそうな顔をする。

「とにかく、今の我等の主はあの方なのだ。どんな方であれ従うのが我等の役目だ。違うか?」

シグナムがリーダーらしく、メンバーに言い含める。

シャマル、ヴィータ、ザフィーラは黙って頷いた。

 

はやてが『闇の書』の主となり、ヴォルケンリッターが人間社会に入り込んで二ヶ月近くが経った。

 

「騎士甲冑?え、そんなんが必要なん?」

はやては図書館で読みたい本を眼で追いかけながら、左側にいるシグナムが告げた。

「我等、武器は持っていますが甲冑は主に賜らなければなりません」

「自分の魔力で作りますから、形状をイメージしてくだされば……」

車椅子を押してくれているシャマルが補足説明した。

「そっかぁ。そやけど、わたしはみんなを戦わせたりせえへんから……うーん」

はやてはヴォルケンリッターの希望を叶えてあげたいが戦わせたくない感情が混じって、困惑の表情を浮かべる。

イメージとはいえ、戦うための衣装を作ることには抵抗を感じているのだ。

(甲冑は嫌やけど、服ならええんやけどなぁ。試しに聞いてみよか)

「服でええか?騎士らしい服。な?」

「ええ。構いません」

はやての決断にシグナムとシャマルが異を唱えるはずがなかった。

「ほんなら資料探して、カッコええの考えたげななぁ」

はやては笑顔で言った。

 

資料探しとして、はやて、シャマル、ヴィータが訪れたのは『といざるす』という玩具店だった。

この時、シグナムとザフィーラは家で留守番である。

「ここは……」

シャマルは、はやてに扇動されて行き着いた場所に戸惑う。

「ええからええから、こういう所にこそソレっぽいものがあるんよ」

はやてとシャマルは奥へ奥へと進んでいく。

(ったく、シグナムの奴。あたしに面倒ごと押し付けやがって……)

ヴィータは興味なさそうな目つきで右へ左へ視点を移動していく。

早く帰りたいという気持ちが彼女の中でどんどん大きくなっていた。

(あーもう、イライラする!)

苛立ちが表面に出始めた頃だ。

気を紛らわせるために、ヴィータは視線を移動させるとソレがいた。

ソレは他の者達と違っていた。

何がどう違うのかはわからなかったが、確かにそれは他の並んでいる連中とは違っていた。

外見はウサギなのだが、顔立ちには愛嬌の欠片もなかった。

ヴィータにはウサギが「何見てんだよ?」と言っているようにも思えた。

負けじとヴィータは「あたしの勝手だろ」という思いを込めて睨み返す。

シャマルが「ヴィータちゃん、どうしたの?ヴィータちゃん」と呼びかけていたりするがヴィータの耳には入っていなかった。

もちろん、はやてが気にかけていたことも知る由がない。

青色からオレンジ色へと空の色が変わって夕方となって心地よい風を浴びながら、帰宅しようとしていた。

ヴィータは、はやてから渡された紙袋を握っている。

何が入っているのかは知らされていないが、少なくともアイツではないことは確かだと思っている。

理由は色々とある。

自分はシグナムやシャマル、ザフィーラと違って反抗的な態度しかとっていないからだ。

好かれるはずがないし、自分が欲しいと思うものを買ってくれるはずもない。

(この袋の中に入ってるのだって、服のための資料だよなぁ。きっと……)

はやてとシャマルが何かを話しているが、自分にはどうでもよかった。

(多分、二度と逢えないよなぁ。アイツには……)

我がままを言えば、はやては買ってくれるかもしれない。しかし、それは自分の何かが許さなかった。

自分が自分でなくなる。そんな感じがしたのだ。

「ヴィータ」

はやてが声をかけてきた。

ヴィータは伏しがちだった顔を上げる。

「もう袋の中のモノ。開けてもええで」

そう言うと同時に、ヴィータは側から眼には見えない速度で手を突っ込んで、中のモノを取り出した。

アイツ---ウサギだった。

ウサギは「また逢ったな。お前の家主に感謝しろよ?」と言っているように思えた。

ヴィータは次第に笑顔となって、ウサギを抱きしめていた。

今までの主にはなかった行動だった。

この主は、自分をいや自分達を『物』扱いしないと確信した。

「はやて、ありが……」

ヴィータが礼を言うより早く、シャマルが車椅子を押してはやてを移動させていた。

礼は言えなかったが、ヴィータはもう迷わなかった。

はやてが自分の主である事に。

はやてのためなら自分は全てを投げ打っても構わないことに。

 

 

侑斗は車椅子を押しながら意外そうな顔をしていた。

「ヴィータが一番、お前に懐かなかったのは驚きだな」

「侑斗さんやデネブちゃんからしてみたら、驚くことかもしれへんね」

はやては無理もないことだと思い、侑斗やデネブが驚いても否定するつもりはない。

「うん。俺達が知ってるヴィータは八神にベッタリだから」

デネブも今のヴィータとはやてが話してくれた過去のヴィータを比較して感想を述べた。

「確かに一番変わったのはヴィータかもしれへんね」

はやても今と当時を思い出しながら、率直な感想を述べていた。

 

 

ヴォルケンリッターが八神家の一員となって、四ヶ月が経過した。

その間に彼女達もそれぞれの生きがいのようなものを持っていた。

シグナムは剣道場の非常勤の講師をしていた。

ヴィータは近所の老人会が主催しているゲートボールクラブに入っている。

シャマルはご近所の奥様方のグループに入って、噂話を聞いて楽しんでいる。

ザフィーラは彼女達三人の内の誰かと常に行動していた。

夜空は雲ひとつなく、数多の星が輝いていた。

「ほわああぁ。きれぇ」

はやてはシグナムに抱きかかえられながら、中庭に出て夜空を見上げていた。

「主はやて、本当によいのですか?」

シグナムがはやてに確認するかのように訊ねる。

「何が?」

「『闇の書』のことです。貴女の命あらば我々はすぐにでも『闇の書』のページの蒐集をし、貴女は大いなる力を得ることが出来ます。この足も治るはずですよ」

シグナムは、はやての不自由な両脚を見る。

「あかんて。『闇の書』のページを集めるには色んな人にご迷惑をおかけせなアカンねやろ?」

自分の私利私欲で他者を蹂躙することになるので、はやては表情を曇らせてから母親が我が子に諭すような表情で語る。

「そんなんはアカン。自分の身勝手で人に迷惑をかけるんはよくない」

はやては、また夜空を見上げる。

「今のままでも十分幸せや。父さん母さんはもう、お星様やけど遺産の管理はおじさんがちゃんとしてくれてる」

「お父上のご友人でしたか?」

シグナムが記憶の片隅にあったものを引っ張り出すようにしていた。

「うん。おかげで生活に困ることもないし、それに何より今はみんながおるからな」

はやては笑顔でいい、甘えるようにしてシグナムに抱きついた。

シグナムは思わず表情が緩んでしまう。

「はやてぇ」

リビングからヴィータの声がした。

ヴィータの右脇にはウサギが抱えられている。

「ねぇ。冷凍庫のアイス、食べていい?」

「お前、夕食をあれだけ食べておいてまだ食うのか?」

シグナムが呆れ表情で言う。

「うるっせぇな!育ち盛りなんだよ!はやてのご飯はギガうまだしなぁ」

ヴィータはシグナムに言い返すと同時に、はやての料理の腕前を称賛する。

「しゃあないなぁ。ちょっとだけやで」

「おお!」

はやての許しを貰ったヴィータは笑顔で返事すると、冷凍庫へと向かっていった。

「シグナム」

ヴィータの背中を笑顔で見送ったはやては、シグナムに視線を向ける。

「はい?」

「シグナムはみんなのリーダーやから、約束してな?」

はやては真面目な表情となる。

 

「現マスター八神はやては『闇の書』にはなーんも望みない。わたしがマスターでいる間は『闇の書』の事は忘れてね?みんなのお仕事はウチで一緒に仲良く暮らすこと。それだけや」

 

はやての言葉にシグナムは真剣に耳を傾けている。

「約束できる?」

はやての言葉に対してシグナムはというと。

「誓います。騎士の剣に懸けて」

即答した。

はやてはその答えに満足したのか笑顔だった。

 

 

「えぐっぐすぅ。ううううう」

デネブが感激のあまり咽び泣いていた。

「デネブちゃん。そんなに泣かんでも……」

はやては笑顔を見るのは好きだが、泣き顔を見るのは苦手だ。

ハンカチを取り出して、車椅子を押している侑斗に渡す。

デネブに渡してほしいという意味なのは侑斗にはすぐに理解できた。

「デネブ」

「あ、ありがとう。侑斗」

デネブは侑斗からハンカチを受け取って涙を拭いていた。

後数分で八神家が見えてくる距離となっていた。

 

八神家にいるシグナムとシャマルは暗い表情をしていた。

それはリビング内の暗さに勝るとも劣らずかもえいれない。

昔語りの行き着く終着点は現在だ。

それはつまり、つい最近の出来事になればなるほど嫌なものを思い出すことにもなる。

「………」

「………」

シグナムもシャマルも口を開かない。

だが、二人とも互いがどのような事を思い出しているかは語らずとも理解できていた。

 

 

十月二十七日。

海鳴大学病院にはやてとヴォルケンリッターは訪れていた。

四ヶ月の間に石田医師とヴォルケンリッターはすっかりと打ち解けており、石田医師も当初のような訝しげな表情を浮かべることはなかった。

「命の危険!?」

「はやてちゃんが!?」

シグナムとシャマルが石田医師から非情な宣告を受けた。

その間、はやてとヴィータは廊下で談話していた。

「はやてちゃんの足は原因不明の神経性麻痺だとお伝えしましたが、この半年で麻痺が少しずつ上に進んでいるんです。この二ヶ月は特に顕著でこのままでは内蔵機能の麻痺に発展する可能性もありえます」

石田医師も辛そうなな表情で語っていた。

話が終わると、シグナムは廊下で拳を壁に叩きつけていた。

「何故!何故気がつかなかった!」

「ごめん。ごめんなさい……。私……」

シャマルが両手で顔を覆って泣きながら、シグナムの怒号に謝罪する。

「お前にじゃない!自分に言っている!」

シグナムは自分の不甲斐なさを責めていたのだ。

夜となり、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが八神家とは違う海鳴臨海公園に集まっていた。

「主はやての麻痺は病気ではなく、『闇の書』の呪いだ」

その場にいる誰もが、黙ってシグナムの言葉に耳を傾けている。

「主はやてが生まれた時から共にあった『闇の書』は主の体と密接に繋がっている。抑圧された巨大な魔力はリンカーコアが未成熟な主の身体を蝕み、健全な肉体系どころか生命活動さえ阻害しているのだろう」

シグナムはなおも続ける。

「そして、主が第一の覚醒を迎えたことでそれは加速。それは私達四人の活動を維持するために、ごく僅かとはいえ主の魔力を使用していることも無関係とはいえないはずだからな」

シグナムのはやてと『闇の書』の因果関係の説明が終わった。

「助けなきゃ……」

呟いたのはヴィータだった。

「はやてを助けなきゃ!シャマル!シャマルは治療系が得意なんだろ!?そんな病気くらい治してよ!」

ヴィータの悲痛の叫びをシグナムとザフィーラは痛々しい表情で見るしか出来なかった。

「……ごめんなさい。私の力じゃどうにも……」

シャマルはそう答えるしか出来なかった。

「何でだ?何でなんだよぉ!!」

ヴィータはとうとう嗚咽を漏らして泣き出した。

「シグナム……」

ザフィーラはリーダーの指示を仰ごうとしている。

「我等に出来ることはあまりに少ない。だが……」

シグナムはアクセサリー状態になっているレヴァンティンを見ていた。

 

ヴォルケンリッターは海鳴市の数あるビルのうちのひとつの屋上にいた。

まるで陣形のようにして、三時、六時、九時、十二時の位置に立っていた。

(主の体を蝕んでいる『闇の書』の呪い)

シグナムは決意の表情でレヴァンティンを振る。

(はやてちゃんが『闇の書』の主として真の覚醒を得れば!)

シャマルもいつもの穏やかな表情ではなく、どこか厳しい表情でクラールヴィントをはめている右手を前にかざす。

(我等の主の病は消える。少なくとも停まる!)

ザフィーラは青い体毛をなびかせながら、決意を秘めた表情をしているのだろう。

(はやての未来を血で汚したくないから、人殺しはしない。だけどそれ以外なら何だってする!)

ヴィータがグラーフアイゼンを上段に構えてから振り下ろし、自身の胸辺りの位置で停めた。

ヴォルケンリッターの宣言に呼応するかのように雷鳴が響き始めた。

(申し訳ありません我等が主。貴女との誓いを破ります)

シグナムの心苦しい思いと共に、ヴォルケンリッターの足元に巨大な紫色の魔法陣が展開した。

シャマル、ヴィータは私服から騎士服へと変わる。

ザフィーラは獣状態から人型へと変わる。そのときの衣装は、はやてがイメージしてくれたのか以前のものとは違っていた。

そして、シグナムも私服から騎士服へと変わった。

 

「我等の不義理をお許しください!!」

 

ヴォルケンリッターは一つの光となって天に昇って、四つの光へと分かれて、海鳴の夜空を駆けた。

 

別世界の『時の列車』が訪れるのはそれから五日後のことである。

 




次回予告

第三十二話 「はやて 仮面ライダーゼロノスと名付ける」

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