仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第二十一話 「海鳴 冬の陣 完結編」

海鳴市の夜は肌を突き刺すような風が吹いて寒いことこのうえない。

その中を野上良太郎、フェイト・テスタロッサ、ハラオウン親子(クロノとリンディ)、エイミィ・リミエッタ、高町姉妹(なのはと美由希)、イマジン四体(モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス)、コハナ、アリサ・バニングス、月村すずかが風呂桶とタオルと着替えを持ってとある場所へと向かっていた。

「何かえらい大所帯になっちゃったね……」

良太郎は歩いている面々を見回しながら率直な感想を述べる。

この一行が目指すところは海鳴市で最近開店したばかりの通称『スーパー銭湯』こと『海鳴スパラクーア』である。

「でけぇ風呂なんて久しぶりのような気がするぜ」

モモタロスが高町家で入っている浴槽を思い出す。

「なのはちゃん家のお風呂は足は伸ばせるけど、全体的に狭く感じるんだよね」

ウラタロスも前々から感じていたことを口に出していた。

「しゃーないやろ。温泉旅館の風呂やないねんから狭いんは」

キンタロスが住宅に温泉レベルの風呂を求める事自体、無理があるという。

「今から行くところって広いから泳げるんだよね?」

リュウタロスは後ろ歩きをしながら、片手で背泳ぎの真似をしている。

「リュウ君、広いからって人の迷惑になるから泳いじゃダメだよ?」

美由希が保護者のようにして注意する。

「えー」

リュウタロスはどこか不満そうだ。

良太郎はここに姿がない、高町家の主と高町家の長男のことを訊ねる。

「恭也や士郎さんはどうしたの?美由希さん」

「恭ちゃんとお父さんは留守番だよ。連れていってもカラスの行水だからねぇ」

美由希が解説も含めて答えてくれた。

「ああ、なるほど」

良太郎はそれだけで理解して、納得する事ができた。

「良太郎、カラスの行水とは何だ?」

日本の『喩え』に疑問顔をするクロノ。

「クロノのお風呂の入り方、かな」

クロノにとって最も身近な事で喩える良太郎。

「……それで十分だ。理解した」

クロノは今日くらいはカラスの行水をせずに、ゆっくり堪能しようと思った。

 

 

八神家では現在、夕飯としておでんが出来上がろうとしていた。

ぐつぐつと空腹の者を刺激する音が出ている。

ソファで読書がてら昼寝をしていた桜井侑斗の鼻腔をくすぐった。

「うん!仕込みはOK!」

作り主である八神はやては満足げに笑みを浮かべた。

「ああぁ、いい匂い~。はやてぇ、お腹減ったぁ~」

ヴィータがふらふらと匂いに釣られてリビングに入ってきた。

「まだまだぁ。このまま置いといて、お風呂入って出てきた頃が食べごろや」

はやては食べようとするヴィータに一番美味しい状態のことを説明する。

「うぅ、待ち遠しい~」

ヴィータはお預けと命令された犬のように素直に従っていた。

「ふぁーあ。もう夕飯か。早いな」

「侑斗さん、お昼寝しとったん?」

「本を読んでたら知らない間に寝ていた」

侑斗は首を回しながら言う。

「疲れてるんやない?ベッドやお布団であんまり寝てへんのやろ?」

はやては侑斗が八神家で居候するまでの経緯、特に日常生活においては疲れが取れる環境ではないと推測する。

「まぁな」

「八神家

ここ

にいる間は、好きなだけベッドやお布団で寝てええねんで」

「ああ、わかった。本当に疲れたらそうさせてもらう」

侑斗は、はやての厚意を素直に受け取る事にした。

「ヴィータちゃんとシグナム、それに侑斗君はこれでも食べて繋いでてね」

シャマルが三人分の腹の足し程度に一品料理を持ってきた。

わかめとタコのゴマず和えである。

リビングにいるシャマルに名指しされた三人は盆の上に乗っかっている一品料理を見る。

「「「………」」」

三人は積極的に手を出そうという気配がない。

「三人ともどうしたの?」

シャマルが動こうとはしない三人に訝しげな表情を浮かべる。

それでも三人は動こうとはしない。

三人は目でそれぞれに訴えていた。

(シャマルの料理は当たりが半分、ハズレが半分だからな……。ヴィータ、お前腹減ってるんだよな?先に食っていいぞ?)

侑斗が見下ろすようにしてヴィータに視線でそのように訴えた。

(シグナム、確か今日は剣道の無料体験でいつもより疲れてるんじぇねぇの?先に食べていいよ?)

ヴィータが見上げるようにして、シグナムに目で訴える。

(桜井、お前は運がいいと自慢していたではないか。お前の運に私は賭ける。だから食べろ)

シグナムが侑斗に目で訴えた。

三人に共通する考えは一つ。

自分以外の誰かを犠牲にして助かろうと考えていた。

この時ばかりは結束も友情も関係ない。

なお、シャマルの名誉のために言っておくが、彼女の失敗料理は単に『不味い』だけで食べられないわけではないのだ。

はやて及びデネブの料理を食べている彼等にしてみればある意味贅沢なものだが。

「三人とも、本当にどうしたの?お互いをにらみ合っているけど……」

この原因を作ったといってもいいシャマルが三人がなかなか動かないのでもう一度訊ねてみる。

「シャマル」

「なに?侑斗君」

「今回ハズレは三個のうち何個だ?」

「ハズレ!?」

侑斗の質問にシャマルは目をぱちくりしてしまう。

「見た目に騙されるんだよな……。シャマルの料理は」

ヴィータが過去の体験を思い出すようにして語る。

「お前の料理は時折、暴発するからな」

シグナムも腕を組んでヴィータの語りに首を縦に振る。

「ひ、ひどぉい!」

三人のあまりの物言いにシャマルは若干涙目になって、抗議するシャマル。

「シャマルの料理も大分上達しているから大丈夫だと思う。俺も八神も味見したしな」

今までキッチンでおでんの仕込みの片づけをしていたデネブが、そばまで歩み寄った。

「そうやで。わたしとデネブちゃんが食べても大丈夫やねんから平気やよ」

はやても今回のシャマル料理は太鼓判を押すようだ。

「八神とデネブが言うなら、大丈夫だな」

侑斗はそう言いながら、和え物を手にして口の中に含んだ。

「そうだな。主とデネブが保障してくれるのだからな」

「いただきまぁーす」

シグナムとヴィータも口に入れた。

「むうぅぅ。ザフィーラぁ、うちのリーダーとアタッカーとよその仮面ライダーはひどいと思わない?」

シャマルはどこか納得できない表情でリビングに入ってきた大型の蒼毛の獣---ザフィーラに意見を求める。

「……聞かれても困る」

表情はわからないが、声色からしてシャマルの意見を聞こうという気はないことはわかる。

味方がいないとわかると、落ち込みながらもシャマルは風呂場へと向かっていった。

「さぁ、ザフィーラの分だよ」

デネブがザフィーラの分となる和え物を置いた。

ザフィーラは黙々と食べる。

「八神。風呂はもう入れてあるのか?」

八神家の風呂担当は本来は侑斗なのだが、先程まで眠っていた侑斗が洗浄及び湯を入れることはできない。

「シャマルがやってくれてるで。後でちゃんとお礼言いよ?」

「きゃあああああああ!!」

風呂場からシャマルの悲鳴らしき声が聞こえた。

「ゴキブリでも出たか?」

侑斗はそんなことを言いながら、風呂場に向かう。

「ごめんなさあああい!温度設定間違えて、冷たい水が湯船いっぱいにぃ!」

シャマルが謝罪と報告をしてくれた。

侑斗は確認のために、湯船に右手を入れてみる。

「冷た!これじゃ、完全に水風呂だな……」

八神家の追い炊きは結構時間がかかる。正直、夕飯のタイミングにあわせることは不可能だろう。

闇の書の主と守護騎士達は改善策を模索しようとする。

ヴィータはシグナムにレヴァンティンを突っ込ませたらと打診するが、即却下された。

はやては魔法を行使して、水を湯にしようと言い張る。

魔法関連は侑斗とデネブは蚊帳の外だが、こんな事で使っていいはずがないということだけは理解できる。

「デネブ。チラシはまだ捨ててないな?」

「今週の分はまだあるけど、どうするんだ侑斗」

「いいから持ってこい。俺の記憶が確かなら、風呂関連のことがあったはずだ」

「了解」

デネブはチラシ及び新聞紙が束になっているところからチラシのみを持ってきた。

「侑斗、持ってきた」

「おう。確か……」

チラシをパラパラと捲りながら、目で内容を確認していく。

侑斗のチラシを捲る手が止まった。

「あった!これだ。おい、お前等。コレ見ろコレ」

侑斗はそう言いながら、湯船を見ながら考え事をしていた四人と一匹に声をかける。

「どうしたん?侑斗さん。何コレ?」

「いいから中身読んでみろ」

「海鳴スパラクーア。新装オープン記念大サービス?」

「侑斗。何コレ?」

「「??」」

はやては侑斗が見せたチラシを読んでいき、ヴィータはそれが何なのか侑斗に訊ねてシャマルとシグナムも疑問顔になっている。

ザフィーラに至っては表情から何を考えているのかわからないが。

「みんなで入る大きなお風呂やな」

はやてが疑問顔になっている守護騎士達に簡潔に教えた。

「みんな……ですか?」

シャマルが侑斗を見てから頬を赤くする。

「ちゃ、違うよ!男女は別々やで!」

はやてもシャマルが何を想像していたのか理解したのか同様に頬を赤く染めていた。

「ざっと目を通しただけでも、十種類近くはあるな」

侑斗は風呂の種類を読み上げていく。それだけで、はやて、シャマル、ヴィータ、デネブは行く気マンマンになっている。

ザフィーラはやっぱり表情が読めない。

シグナムがどこか浮かない表情になっているのを侑斗は逃さなかった。

「お前、身内の不手際を八神が尻拭いするのが申し訳ないと思ってるんだろ?」

「うっ……」

侑斗の一言はシグナムの正鵠を得ていた。

「八神も勘付いているかもしれないな。あいつ、子供の癖にこういうことは敏感だからな」

「そ、そうか……」

「お前が真面目なのは八神もよく知ってる。一ヶ月しかいない俺でもそう思うくらいだからな。だがな、真面目さは時として不協和音の引き金になるんだぜ」

侑斗は何かを思い出したかのような表情で語る。

「むぅ……」

「お前がハメを外したって、八神は喜びこそはすれ非難はしないさ」

「桜井……、たった一ヶ月で主の事をそこまで理解していたのか……」

「顔に出やすいんだよ。あいつ」

侑斗はそう言ってから、はやて達の会話に混ざっていった。

「行ってこい。時に休息は必要だ。それに今日のお前は特に必要だろう?」

ザフィーラが含みのある台詞をシグナムにぶつける。

「ザフィーラ?」

「右腕の動作がいつもよりワンテンポ遅い。目立った外傷はないがダメージゼロというわけではなかろう」

「見抜いていたか。今日、幸か不幸か野上と戦った」

「野上?野上良太郎か?」

ザフィーラは一瞬だけ表情を変えるが、また元に戻る。

シグナムは首を縦に振る。

「勝ちはしたが、正直辛勝だった」

「嬉しそうだな?」

「そうだな。何故かはわからないが嬉しい。もう一度野上と会ってみたいと思ってしまっているくらいだからな」

「そうか……」

ザフィーラはシグナムの表情が今まで見たことがないものだと気付いた。

それから十分後、ザフィーラを残して八神家とチームゼロライナーは海鳴スパラクーアへと足を向けた。

 

 

海鳴スパラクーアに到着した良太郎一行は男風呂と女風呂に分かれて、入っていった。

女性陣は当然すんなりと入っていった。

男性陣も良太郎とクロノは入ることができた。

「あ、お客さん」

番頭に呼び止められたイマジン四体。

「何だよ?俺達、背中に刺青なんかしてねぇぞ?」

モモタロスが自分達は注意書きされている看板とは違うと言い張る。

「ええとですね。その……」

番頭はモモタロスに凄まれているかたちになっている。

「「「じー」」」

ウラタロス、キンタロス、リュウタロスもじっと番頭を見ている。

側から見ると、四体の得体の知れないものに因縁をつけられている哀れな番頭という図式が成り立っている。

「……どうぞ、行ってください」

番頭は職務より自身の安全を選んだようだ。

入浴体勢をとっている良太郎はすでに準備を整え終えているイマジン四体を見ていた。

「みんな、念のために釘を刺しておくけど、暴れ回ったりしないでね?」

「おいおい。良太郎、そんな問題ばっかり起こすわけねぇだろ?」

「心外だよ良太郎。センパイ達ならともかく、僕が問題起こす訳ないじゃない?」

「お前は女がおらへんから問題起さんだけやろ!」

「僕、いい子にしてるよ!」

良太郎に釘を刺されたイマジン四体はそれぞれの自己主張をする。

「良太郎、それに貴方達も早く来ないか?」

焦れていたクロノが一人と四体を促した。

男性陣は広がる銭湯へと向かっていった。

 

 

「全く、二つ姿があるってのも時には面倒だよねぇ」

「でも、あの姿じゃないと上手くやりきれない事もあるからね」

そんな会話をしながら海鳴スパラクーアに向かっているのはアルフ(人型)とユーノ・スクライア(人間)だ。

この二人は本来の姿を高町家の面々やアリサやすずかにさらすわけにはいかないので、時間帯を態と遅らせていたのだ。

「やっぱりお風呂に入るのはこの姿の方がいいからね」

「それは同感だねぇ。ユーノ」

動物形態で日常生活をしていてもユーノは人間体が本来の姿なので疲れを取るにはこちらの姿に限るのだ。

それに、動物形態は何かと危険が多いのだから。

「いらっしゃいませぇ」

番頭が営業スマイルを向けてきた。

「それじゃアルフ。また後で」

「ああ、疲れ取りなよ。ユーノ」

二人は入っていった。

 

ユーノとアルフが入場してから五分後に八神家とチームゼロライナーも入場していた。

「新装開店の割には随分とガラガラだな」

侑斗は脱衣所で入浴準備をしながら感想をもらしていた。

「皆、出てくる」

入浴準備をし終わっているデネブが浴場から脱衣所に出てくる客を見ていた。

客の誰もが何かに怯えているような顔をしていた。

客の一人がデネブと目が合う。

「わあああああああ」

悲鳴を上げて、客は服を着終えていないのに出て行ってしまった。

「そんなに怖いかな……。俺」

デネブは怖がられていることにショックを受けた。

 

 

「うむ。やはり動きは悪いままだな……」

効能がある湯に浸かっているシグナムは右腕を動かしながらそのような感想をこぼしていた。

「シグナム、貴女どうしたの?嬉しそうだけど?」

隣で浸かっているシャマルが笑みを浮かべている理由を訊ねる。

「そうか?ザフィーラも同じ様な事を言っていたな……」

「珍しいじゃん。いつもしかめっ面なのに」

先程まで別の湯にいたヴィータが入ってきた。

「そういう日もあるさ」

「シグナムが嬉しそうな顔するんは、わたしも嬉しいよ」

はやてが笑顔で言ってくれた。

「ありがとうございます」

シグナムは表情を崩さなかった。

その後、ヴィータはまた別の湯へと向かっていった。

この三人がすずかとバッタリ会うのはそれから数分後の事である。

 

「あぁ、いい湯だねぇ。やっぱりこの姿の方が落ち着くねぇ」

アルフは一人で湯船に浸かってくつろいでいた。

フェイトやなのはの姿を見たが、声をかけることはしなかった。

自分は以前、この姿でなのは、アリサ、すずかにアヤをつけたことがあるからだ。

この姿でなのはやフェイトに声をかけると、折角良好な人間関係を築けているフェイトの枷になりかねないと判断したのだ。

「あら、アルフ」

見知った声がしたので顔を向けてみると、そこにはリンディがいた。

「他の連中はどうしたんだい?」

「エイミィと美由希さんは意気投合して、二人で行動してるわ。子供達は子供達で行動してるわよ」

「ふーん」

リンディの状況説明にアルフは一通り理解してから天井を見上げていた。

「それにしてもアースラで航行してると、こういうくつろぎって中々得られないわね」

リンディはアルフの隣に浸かる。

「確かにねぇ」

二人は緩みきった表情をしていた。

 

 

男湯ではというと。

「っ痛。まだあちこち痛いや」

良太郎は身体の節々を触りながらジャグジー湯に浸かっていた。

「無料体験だろ?何故頬にまで傷を作ったんだ?」

クロノは頬の傷の経緯を訊ねてきた。

「ちょっと、盛り上がっちゃってね」

良太郎は苦笑しながら、当たり障りのない台詞を述べた。

シグナムと戦ったなんて言う訳にはいかない。

「ガラガラになってしまったな……」

クロノは男湯を見回してから言う。

まるで貸しきり状態のように人がいない。

「やっぱり原因は……」

「まず間違いなく彼等だろうな」

風呂を静かに楽しむ事は良太郎もクロノも反対ではないが、このような結果を作ってしまった原因を知っているため、素直には喜べなかった。

 

「ふぅ。サウナも久しぶりだな」

侑斗が一人入っていた。

デネブも一緒だったのだが、暑さに耐え切れずに今頃は隣の水風呂の中にいるだろう。

じりじりと太陽が近くにあるかのように感じさせてくれる暑さ。

サウナ好きにはこれがたまらないのだ。

ドアが開いて、一人の少年が入ってきた。

「あ、どうも」

少年は先客である侑斗に頭を下げて入室した。

少年は侑斗の隣に座る。

貸しきり状態なので、どこを座っても構わないため侑斗も何も言わない。

「お一人ですか?」

「いや、連れときている」

少年が訊ねてきたので、侑斗は答えた。

「もしかして、連れって女性?」

「ああ、よくわかるな」

「何となくそんな気がしたんです」

「お前こそ一人か?子供はこんな時間に一人というのは感心しないが」

「いえ、僕も連れと来たんです。僕はちょっとした事情があるんで、時間をわざと遅らせてきたんですけどね」

「ふーん」

少年も律儀に侑斗の質問に答えてくれた。

「お前の連れも女か?」

「よくわかりますね」

「そんな質問が出るって事は自身が経験した事があるからだろうと思っただけだ」

「もしかして、女所帯か?」

「えぇ!?何でそこまで!?」

侑斗が少年にぶつけた質問は決して当てずっぽうではない。

確信のようなものがあったのだ。

十代にも満たない少年が、気苦労のようなものをしているとすれば大概が異性との交流だと。

「俺も女所帯に世話になっているからな」

侑斗もザフィーラとデネブを除くと、全員女性だ。

男がいるといってもザフィーラは寡黙だし、デネブは異性問題に関してはズレてるしと正直自身の心労をねぎらってくれるとは思えない。

「正直苦労するよな……」

「ええ……、本当にそう思いますよ」

侑斗は不思議とこの少年に好感を持てた。

自分と似たような何かがあるのかもしれないと感じたからだろう。

「桜井侑斗だ。しばらくはここにいる」

「僕はユーノ・スクライアです。よろしくお願いします。桜井さん」

「侑斗で構わない。親しい奴は大抵そっちで呼んでいる」

侑斗は笑みを浮かべて言った。

「はい!侑斗さん」

少年---ユーノは侑斗と知り合いになった。

初めて会ったのに、気が合うと二人は妙な確信を持っていた。

 

「あー、何か飽きちまったなぁ」

モモタロスは打たせ湯に打たれながら、隣にいるウラタロスに言った。

「三十分も同じ湯に浸かってれば飽きるって」

ウラタロスはまだ十五分くらいだ。

「他の湯も入っちまったしよぉ。暇でしょうがねぇんだよ」

「先に上がってジュースでも飲んでれば?」

「そうすっか」

モモタロスはウラタロスの提案に乗ることにした。

その後、すぐにキンタロスとリュウタロスがやってきた。

「カメの字、モモの字はどうしたんや?」

「飽きたから先に上がるってさ。キンちゃんはどうするの?」

「俺も一通り堪能したから上がるつもりや」

「僕も僕も!」

「何さ、みんな飽きちゃったの?しょうがない。僕も上がるかな」

ウラタロスも特に未練があるわけではないので便乗する事にした。

 

湯船に浸かろうとしたクロノには先客がいた。

「……君は何なんだ?」

クロノは目の前にいる得体の知れないものに冷静さを持ちつつ訊ねた。

「デネブです。初めまして」

得体の知れないもの---デネブは礼儀正しくクロノに頭を下げた。

「それじゃ失礼します」

デネブは湯船から出て行った。

「………」

クロノは毒気を抜かれた表情をしていた。

外見に反して礼儀正しかったからだ。

「イマジンだよな。多分……」

自分が知っているイマジンとは大きく違っていたからだ。

 

 

二時間が経過した。

 

 

海鳴スパラクーアで寛いでいた面々はそれぞれの帰路を辿っていた。

明日からまた新しい日々が訪れる。

期待、不安、決意を胸に秘めて。

 




次回予告

第二十二話 「フェイト・テスタロッサの初恋」

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