仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十七話 「隣人は密かに妬む 後編」

冬の夜はとにかく冷える。

それはどこでも、そう海鳴市でも変わらないことだ。

だが、今シャマルの身体を襲うものは自然によってもたらされる『冷え』よりも眼前の怪人が繰り出す攻撃を辛うじてかわすことで味わう『冷え』だった。

(以前の私ならこんな気持ちにはならなかったのよね……)

八神はやてが主になる前の自分ならばイマジンの攻撃を避けても今のように『恐怖』を感じることはなかっただろう。

ザフィーラ(獣)が怪人---レイディバードイマジンに噛み付きにかかる。

だが、レイディバードイマジンはひらりと身体を動かして避ける。

ガキンとザフィーラの口元が鳴った。

「くっ」

ザフィーラは唸り声を上げる。

正直言って、状況としてはよくない。

(正直言って、私達イマジンと戦った事ってないのよね……)

魔導師として行動する時は海鳴市とは違う次元世界が殆どであり、イマジンと出くわした事もない。

それが不幸なのか幸運なのかというと、昨日までは幸運だったといえる。

だが、今は一度でも出くわしておけばと不幸に思ってしまう。

それに何故イマジンが自分を狙うのかがわからない。

契約者が自分を襲うように望んだという事になる。

「恨めしい。妬ましい」

そんなことを言いながらヌンチャクを振り回してくるのだから正直、怖い。

「貴方を襲うように仕向けたのは誰なの!?」

シャマルはヌンチャク攻撃を避けながら、レイディバードイマジンに訊ねる。

「シャマルが憎い!」

聞く耳は持たないようだ。

右側のヌンチャクをシャマルの顔面に狙いをつける。

「!!」

シャマルはスレスレで避け、ヌンチャクが壁にめり込む。

「シャマルさえいなければ!シャマルがいるから!」

そんなことを言いながら、レイディバードイマジンは左右のヌンチャクを生き物のようにして操りながらシャマルに攻撃を仕掛ける。

「させん!!」

ザフィーラが身体を張ってシャマルを護る。

「ぐっ!」

ヌンチャクを腹部にまともに食らい、ザフィーラは地に崩れ落ちる。

「ザフィーラ!」

「シャマル逃げ……ろ。こいつの狙いはお前だ。私を狙ったりはしない……」

ザフィーラはシャマルに逃げるように薦める。

「シャマルゥゥゥゥゥゥ!!」

叫びながらヌンチャクをシャマルに向かって振り下ろそうとする。

確実にやられるとシャマルは覚悟した時だ。

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇい!!」

 

どこか関西弁交じりの男の声がレイディバードイマジンの手を止めた。

こちらに向かって一人の男が走ってきた。

「ようやく見つけたで!」

男はそう言ってからレイディバードイマジンを掴んでそのまま後ろへと投げ飛ばした。

男はシャマルとザフィーラの側まで歩み寄る。

「大丈夫みたいやな?」

「は、はい。助けてくれてありがとうございます」

シャマルは首を縦に振る。

男---金色のメッシュが入った長髪を後ろに束ねて金色の瞳をした、キンタロスが憑依している野上良太郎(以後:K良太郎)がシャマルとザフィーラが大事に至っていない事に安心した。

「女子や動物を狙うとは許せん輩やな」

K良太郎は親指で首を捻ってから、レイディバードイマジンを睨む。

(キンタロス、行くよ)

深層意識の良太郎が主人格となっているキンタロスを促す。

「おっしゃ、やろか!」

K良太郎はデンオウベルトを出現させて腰元に巻きつける。

デンオウベルトの金色のフォームスイッチを押す。

ミュージックフォーンが流れる。

パスを右手に持つ。

「変身!」

パスをターミナルバックルにセタッチする。

『アックスフォーム』

K良太郎からプラット電王となり、オーラアーマーが出現する。

ソード電王時に背部となっていた部分が胸部となり、胸部となっていた部分が背部となり金色と黒色が目立つアーマーとなる。

頭部には斧型のレリーフが走り、『金』の文字をモチーフとした左右のパーツが展開して電仮面となっていく。

身体全体から金色のフリーエネルギーが噴出す。

仮面ライダー電王アックスフォーム(以後:アックス電王)の完成である。

両手を前に突き出して、パンと音を鳴らしてから相撲取りが取るポーズを取る。

 

「俺の強さにお前が泣いた!」

 

アックス電王が決め台詞を吐く中で、シャマルとザフィーラは前にいる存在を凝視していた。

「あれが……」

「間近で初めて見るわ。これが……」

シャマルとザフィーラは同時に言った。

 

「「仮面ライダー電王……」」

 

デンガッシャーを右と左のパーツを縦に連結させてから、右の一つを縦連結させたパーツの上に更に縦に連結させる。

そして、左のパーツを縦連結させたパーツの一番上のパーツの横に連結させると斧の刃が出現してフリーエネルギーによって、『武器』となる。

デンガッシャーアックスモード(以後:Dアックス)にすると、アックス電王は走らずにゆっくりと、レイディバードイマジンの距離を詰めていく。

「憎い!憎い!妬ましい!」

対照的にレイディバードイマジンはヌンチャクを振り回しながら一気にアックス電王と間合いを詰める。

右、左とオーラアーマーに直撃し、火花が飛び散るがアックス電王は下がろうともせず、まるで何事もないようその場で足を止める。

左手を開手にして、張り手にして後方へ飛ばす。

「今度はこっちの番やで!」

Dアックスを振り下ろして、レイディバードイマジンの胸部を狙う。

「ぐわああ!」

斬撃箇所から火花が飛び散り、足を二、三歩下がってしまう。

「シャマルを殺す!邪魔をするなぁぁぁ!」

反撃に転じるが、左手に握っていたヌンチャクをアックス電王に掴まれてしまう。

「ふん!」

声と同時に掴んでいたヌンチャクを潰してしまう。

その直後に、Dアックスを袈裟に切りつけてから右薙ぎから腹部へと切りつける。

「ぐううっ。このままではシャマルを殺せない!」

そう言って、アックス電王とシャマルを睨みつけてからレイディバードイマジンは翼を展開させてから足を浮かせて、身体全体を宙に浮く。

「次に会った時は必ず殺す!いいな!」

そう言うとレイディバードイマジンは夜空へと飛び去った。

「あ、コラ!待たんかい!」

アックス電王の声は海鳴の夜空に溶け込んだレイディバードイマジンには届かなかった。

アックス電王はデンオウベルトを外す。

姿が良太郎とキンタロスに分離した。

「逃げ足の速いヤツやな……」

キンタロスは腕を組んで悔しげに言う。

「うん。でも、深追いは禁物だよ」

良太郎はそう言うと、後ろにいるシャマルとザフィーラへと顔を向ける。

「あの……確認のためにお訊ねしますが、貴女がシャマルさんですね?」

「はい」

シャマルは首を縦に振った。

 

シャマルは今初めて良太郎の顔を見た。

桜井侑斗とは違い、穏やかな雰囲気を醸し出していた。

しかし共通する所としては強い決意を持った瞳だった。

(彼が侑斗君とデネブちゃんの仲間であり、今の私達の敵……)

シャマルは冷静に自分達と彼等の立ち位置を確認する。

(あれ、でも彼に面が割れてるのはシグナムとヴィータちゃんだけなんじゃ……)

ヴィータは良太郎と会った事を既に身内には告知していた。

つまり自分とザフィーラがシグナムとヴィータ、果ては侑斗やデネブとつながりがあるのだと彼等は知らないのだ。

「あの、イマジンに狙われるような理由に心当たりはありますか?」

良太郎はシャマルに狙われる動機を訊ねる。

シャマルは考える仕種をとる。

(正直、私達がイマジンに狙われる理由はあるけど、私個人が狙われる理由なんて・・・)

『闇の書』のページのために何人もの魔導師からリンカーコアを奪ったことがあるため、ヴォルケンリッター『湖の騎士』としての自分なら被害をこうむった魔導師の身内がイマジンと契約を交わして自分達を襲う事は十分にある。

だが、自分達は足がつくような間抜けな事はしていないため、その心配は完全にないとは言い切れないがそれでもないだろう。

それ以上に可能性が薄いのは『八神家の一員』としての自分だ。

ハッキリ言って狙われる理由はない。

半年間生活しているが、恨みを買うような事をした憶えはない。

だが、逆恨みならばどうしようもないだろう。

「正直に言いますと、恨みを買った憶えはないと思います。ただ、逆恨みならばどうしようもありませんけど……」

シャマルは考えていた事をそのまま口に出した。ヴォルケンリッターや『闇の書』のことは伏せておいたが。

「逆恨みかぁ。それは厄介やで」

キンタロスが動機が逆恨みだとわかると難色の混じった声を出す。

「そうですか。キンタロス、帰ろう」

それ以上のことを良太郎は追及せず、キンタロスに促す。

「そうやな。ほな夜道には気をつけるんやで。姉ちゃん」

キンタロスはシャマルにそう告げると、良太郎の横に並んで帰っていった。

「はい。助けていただいてありがとうございました」

シャマルは背を向けて帰路へと向かう良太郎とキンタロスにもう一度感謝の言葉を述べた。

「ザフィーラ、大丈夫?結構効いたんじゃない?」

「問題ない」

シャマルの心配にザフィーラは短く答えた。

 

キンタロスと分かれてハラオウン家に戻り、ドアを開けて廊下からリビングに向かうと鼻腔をくすぐる匂いがした。

「ただいまぁ」

良太郎がリビングに入ると、側のキッチンから廊下にまで溢れていた匂いがした。

「おかえり。良太郎」

「おかえりー」

フェイト・テスタロッサとアルフ(人型)が笑顔で迎えてくれた。

「良太郎君。今、夜食作ってるんだけど食べる?」

キッチンにいるエイミィ・リミエッタが良太郎に食べるかどうか訊ねる。

「お願いします」

良太郎は「食べる」という意思表示を示した。

「かしこまりー」

エイミィは了承してくれた。

「帰ってたのか」

「おかえりなさい。良太郎さん」

クロノ・ハラオウンとリンディ・ハラオウンがそれぞれの私室から出てきた。

二人は両目を瞬きをしていた。

恐らく、『闇の書』に関する事の資料と睨めっこをしていたのかもしれないと良太郎は推測していた。

「イマジンはどうなったの?」

フェイトは良太郎にイマジンの安否を訊ねる。

「逃げられたよ」

良太郎は誤魔化すことなくストレートに答えた。

「そんなに強かった?前みたいに……」

フェイトが言う『前』とはレイイマジンのことだ。

「強い弱いで言えば弱いに入るね。ただ今までのイマジンと違って何を考えてるのかわからない部分が大きいけどね」

「何を考えているのかわからない?どういう意味だ?」

クロノが話題に入ってきた。

「契約者との望みはわかるんだけど、イマジン個人の性格みたいなものかな。それが僕が今まで戦ってきたイマジンとは違うんだよ」

良太郎が戦ってきたイマジンには『性格』というものがあった。

好戦的だったり怠惰だったり、短気だったり、のんびり屋だったり寡黙だったりと色々だ。

だが、今回戦ったイマジンにはそのどれもが当てはまらない。

強いて言うならサイコ(精神異常)なイマジンなのかもしれない。

「次で確実に倒すよ」

良太郎は決意を込めた瞳を持って、フェイトとクロノに告げた。

「うん!」

「そうだな」

応援があることは有難い事だと良太郎は二人に感謝していた。

「みんなー、夜食できたよぉ!」

「ラーメンだぞぉ!」

エイミィとアルフが夜食が出来たので、待機している良太郎、フェイト、クロノ、リンディを呼んだ。

「行きましょうか。良太郎さん」

「はい」

リンディに促され、良太郎は夜食のラーメンが待っているテーブルに向かった。

 

 

八神家の隣にある北川家は時刻が深夜に近い事もあって、暗かった。

北川佐和子はリビングで一人、酒を飲んでいた。

ちなみに夫の北川は一泊二日の出張でいない。

息子の北川ジュニアは今日は友人の家に泊まっている。

つまり、北川家には佐和子一人しかいないということだ。

「あの女を始末し損ねたのね……」

佐和子の身体から砂が溢れて、レイディバードイマジンとなった。

「電王が通せんぼしやがった。まずは電王殺してからシャマルを殺そう。そうしようそうしよう」

提案と自己完結をするレイディバードイマジン。

「電王の方は貴方に任せるわ。シャマルは確実に仕留めるのよ。いいわね?」

「はいはいはいはーい」

佐和子はまだシャマルに対する嫉妬の炎が消えていなかった。

「あの女がいる限り、私はご近所の注目の的にはなれないのよ!そのためならばどんな手も使うわ!」

自分が注目されるためにはどんな汚い手も非情な手段も辞さない北川佐和子。

彼女は気付いていない。

その代償が既に自分の身に降りかかろうとしている事に。

 

 

翌日となり午前から正午までは良太郎は翠屋で働いて、そこから先は契約者捜し兼イマジン討伐に乗り出していた。

「で、良太郎。どうやってイマジン見つけるの?契約者もわかんないんでしょ?」

良太郎の隣でシャボン玉を膨らましている遊んでいるリュウタロスが訊ねる。

「そうだね。正直、雲を掴むような話だよ」

「雲なんか掴めないよー」

リュウタロスは雲を掴もうと空に手をかざすが、掴むどころか届きもしなかった。

「それだけ難しいって事だよ」

良太郎は笑みを浮かべてから、あることを思いつく。

「昨日シャマルさんが襲われた場所に行ってみようか」

「わかったー」

良太郎の提案にリュウタロスは首を縦に振った。

それから数分後。良太郎とリュウタロスは昨日シャマルとザフィーラがレイディバードイマジンに襲撃された現場に来ていた。

殺人が起こったわけでもないので血痕などがあるはずがない。

壁の一部分が穿たれたように穴が空いていた。

昨日の戦いの跡だった。

「手掛かりはなし……か」

良太郎は手掛かりになりそうなものがないとわかると、周囲を見回す。

「良太郎良太郎、あそこにオバさんがたくさんいるよ」

リュウタロスが指差す方向に四人くらいの奥様方がいた。

年齢からして高町桃子やリンディよりも年上だろう。

「聞き込みしたら、案外契約者のことわかるかもしれないね」

良太郎とリュウタロスは奥様方がたくさんいる領域に入り込むことにした。

「すいません。ちょっといいですか?」

「何だい?」

「実はですね……」

良太郎とリュウタロスは奥様方の証言からトリビア知識とゴシップネタとこの近辺の事情を知る事が出来た。

 

奥様方からの情報収集を終えた良太郎とリュウタロスは河川敷で休憩をしていた。

そこではグラウンドでは翠屋JFCとは違うサッカーチームが練習をしていた。

「そういや、明日サッカーの試合があるんだった」

リュウタロスが忘れていた事を思い出すかのようにして言った。

「リュウタロス。サッカーしてたの?」

「前に来たときにね。面白そうだったから」

「でも、僕達の世界では全然やらなかったよね?」

「だって、デンライナーの中じゃ狭すぎるもん」

「そりゃそうだね」

リュウタロスの尤もな言い分に良太郎は頷くしかない。

それから、良太郎は奥様方の証言を思い出していた。

「シャマルちゃんを恨んでいる人。だったらあの人くらいじゃないかしら?」

「あの人ならシャマルちゃんを恨むわね」

「そうねぇ。本当に救いようがない女よね」

「女の名前は北川佐和子っていうの。シャマルちゃんが住んでる八神家の隣に住んでいるわ」

「ご亭主とお子さんはとってもいい人なのにねぇ」

「動機?あの女は自分より目立つ人が許せないだけなのよ。だから、あの女が言う憎しみとか恨みはね、全部あの女の逆恨みみたいなものよ」

奥様方の証言からして、シャマルを襲うようにイマジンと契約を交わしたのは北川佐和子だということがわかった。

そして、契約者はどうやら相当の嫌われ者であるということだ。

謂れのないことで命を狙われる。これほど馬鹿げているものはない。

奥様方は誰もがシャマルを心配していた。

彼女が自分にイマジンに襲われる動機を訊ねられた時、一瞬だけ間のようなものがあった。

そこから考えるに、シャマルは恐らく『一般人』ではない。

何かを隠している事は確かだが、それがイマジンに襲撃される理由と関係はないと思ったから敢えて聞かなかったのだ。

イマジンが昼夜を考えて出現してくれるとは思えないので、シャマルを見つけて張り込むしかない。

傍から見ればストーカーに思われても仕方がないのだが。

「リュウタロス。今日で終わらせるよ」

「うん!」

良太郎とリュウタロスは休憩を終えてから、また八神家近辺の地区へと足を運ぶことにした。

 

シャマルを見つけるのは比較的に楽だった。

昨日と同じ様にあの巨大な狼のような獣---ザフィーラを連れている。

「アレ、何かワンちゃん(アルフ)に似てない?」

動物好きのリュウタロスはシャマルよりもザフィーラに目を向ける。

「言われてみたらそうかもね……」

特に意識して見ていたわけでもないので、改めて言われるとそうかもしれないと思ってしまう。

「人が多い所に行くよ」

「今日の夕飯だろうね」

リュウタロスがシャマルの行く場所を告げ、良太郎が目的を推測する。

シャマルがスーパーに入ると、良太郎とリュウタロスは出てくるまで待つことにする。

ザフィーラはペット扱いなのか、スーパーの外で忠犬ならぬ忠狼となって、待機していた。

その中で妙な格好をした人物(帽子にサングラスにマスクにロングコート)がシャマルを追うようにして、入っていった。

「良太郎、何?あの変な人」

「シャマルさんを追うようにして入っていったね」

良太郎はあれが契約者なのでは推測する。

契約者の顔を知らないため、断定が出来ないところが辛い。

それから数十分後にシャマルがスーパーから出てきた。

手には買い物袋が握られていた。

そして、やはりあの怪しい人物も出てきていた。

シャマルとは対照的に手ぶらだった。

良太郎とリュウタロスはシャマルから怪しい人物の背中を追うようにして、目標を変えた。

そもそも怪しい人物が契約者だとスーパーに出た時に確信したからだ。

怪しい人物の身体から砂が噴き出ていたのだから。

 

人があまりいない道になると、怪しい人物の身体から砂が大量に噴出してレイディバードイマジンへと象っていく。

「シャマルゥゥゥゥゥ!!」

そんな声を上げながら、前にいるシャマルに襲い掛かろうとする。

「!?」

シャマルが振り向き、ザフィーラが戦闘態勢に入ろうとするが間に合わない。

やられる!、とシャマルとザフィーラの脳裏によぎった時だ。

「へぶぅ!」

そんな間抜けな声を上げながら、レイディバードイマジンは何かに撥ね飛ばされた。

無人のデンバードⅡが撥ね飛ばしたのだ。

良太郎と自前の力を使ってデンバードⅡを操ったリュウタロスがシャマルとザフィーラの前に立つ。

「大丈夫ですか?シャマルさん」

「ええ。もしかして、私の後を尾けてたの?」

シャマルの問いに良太郎は首を縦に振る。

「すいません。イマジンがどういう手で来るかわからなかったので、こういう形をとることにしたんです」

「いいえ気にしないで。私が貴方でもそのようにしたと思うわ」

良太郎は謝罪をするが、シャマルは自身が良太郎と同じ事をしたと笑みで擁護してくれた。

「良太郎!」

リュウタロスが急かしているのは良太郎にはすぐにわかった。

「うん。行くよ!リュウタロス!」

デンオウベルトを出現させてから、腰元に巻き付けて紫色のフォームスイッチを押す。

軽快な感じのミュージックフォーンが流れ出す。

「変身!」

パスを右手に持って、ターミナルバックルに向かってセタッチする。

『ガンフォーム』

デンオウベルトが電子音声で発すると、リュウタロスがフリーエネルギー体となって良太郎の中に入り込み、良太郎の姿からプラット電王へと変わる。

オーラアーマーが出現する。

ソード電王時の胸部が展開して、展開した裏側に宝玉---ドラゴンジェムを掴んだ龍の前脚を模したデザインが現れる。紫色のカラーの入ったアーマーとなって、装着されていく。

龍をモチーフとしたものが頭部に走り、電仮面としての姿を整えていく。

その場でくるりとターンしてからレイディバードイマジンを指差す。

身体全身から紫色のフリーエネルギーが噴出す。

仮面ライダー電王ガンフォーム(以後:ガン電王)の完成である。

 

「オマエ、倒すけどいいよね?」

 

ガン電王は腰元のデンガッシャーの左パーツを投げて、その間に右パーツの一つと残った左パーツを横連結させる。

余った右パーツを横連結させたパーツの後ろに斜めに連結させる。

そして、最初に投げた左パーツを三つのパーツが連結させた先端に連結させた。

フリーエネルギーによって、武器らしい大きさとなる。

デンガッシャーガンモード(以後:Dガン)の銃口をレイディバードイマジンに向ける。

 

「答えは聞いていない!」

 

同時にDガンの引き金を絞った。

フリーエネルギーの弾丸が数発Dガンから射出される。

「あぐあぐあぐあぐあぐ!!」

レイディバードイマジンの身体に直撃して、被弾箇所には火花が飛び散る。

ガン電王は引き金を絞ったまま、軽快なステップを踏みながら間合いを詰める。

Dガンを自分の元に引き戻してから、もう一度構えなおして引き金を絞る。

流石に奇襲とはいえ、初撃を食らったためかレイディバードイマジンはヌンチャクを両手に出現させて、

振り回しながら弾丸を弾いていく。

「うわぁー、すごいすごい!」

ガン電王はその仕種を見て、曲芸を見ている子供のようにはしゃいでいた。

「すごいすごいすごいすごいすごーい。俺はすごーい!」

互いの距離がゼロに近くなった所で、先程よりも的確にヌンチャクを振り回す。

側頭部に来るヌンチャクをしゃがんで避けながら、がら空きになっている腹部にDガンの狙いを定めて放つガン電王。

ガンガンガンガンガンガンと腹部に狙い撃ちした弾丸は全弾直撃する。

後方へと下がっていくレイディバードイマジン。

その拍子に右手に握っていたヌンチャクを落とす。

被弾した腹部を右手で押さえながらも、左手に握られているヌンチャクをガン電王の顔面に狙って振り回す。

ヌンチャクの鎖がDガンに絡みつく。

「あっ」

「龍の頭ぁ!いっただきぃ!!」

「ええい!」

左側頭部にレイディバードイマジンの拳が届く前にガン電王が、自身の体勢を横向きにして右脚で中段蹴りを放つ。

「ぐおお!」

Dガンを絡めていたヌンチャクを手放して、後方へと吹き飛ぶ。

壁がないため、そのまま仰向けになって倒れる。

(リュウタロス、今だよ!)

「オッケー!」

Dガンに絡まっていたヌンチャクを引き離して、その辺りに放り捨てる。

Dガンを左手に持ち替える。

「最後、行くよ?」

ガン電王の手にはパスが握られている。

「最後、最期、最高ぉぉぉぉぉ!」

レイディバードイマジンが起き上がって叫びながらこちらに来る。

「答えは……」

(聞いてないみたいだね)

ガン電王が決め台詞を言う前に、深層意識の良太郎がレイディバードイマジンの状態を告げた。

パスをデンオウベルトのターミナルバックルに向かって、セタッチする。

『フルチャージ』

Dガンを両手に持ち直す。

左右のドラゴンジェムからフリーエネルギーが放出され、Dガンへと収束していく。

バチバチバチバチとDガンの先端から紫色のフリーエネルギーの光球が練り上げられていく。

 

「いっちゃえええええ!!」

 

ガン電王は叫びながら、Dガンの引き金を振り絞る。

紫色の光球が一直線にこちらに向かってくるレイディバードイマジンに向かって飛んでいく。

光球がレイディバードイマジンの身体に触れ、許容範囲以上のフリーエネルギーを急激な速度で叩き込まれる。

「むむむむむむ無理ぃぃぃぃぃぃ!!」

レイディバードイマジンは最期まで妙な台詞を吐きながら、爆発して果てた。

「なーんか変なヤツだったね」

爆煙を眺めながら、ガン電王はレイディバードイマジンについてのコメントを述べながらデンオウベルトを外した。

良太郎とリュウタロスに分離される。

「これでイマジンに襲われることはないと思います」

良太郎は笑みを浮かべてシャマルに告げる。

「よかったね!シャマルちゃん!」

リュウタロスがシャマルの肩を叩きながら言う。

「は、はい。ありがとうございます」

シャマルは叩かれながらも、一人と一体に感謝の言葉を述べる。

「あの、貴方は私が何故イマジンに狙われているのか知っているのですか?」

シャマルが平静を取り戻してから、良太郎に訊ねる。

「逆恨みだと思います。契約者はあそこにいる人です」

良太郎は怪しい格好をした人物に顔を向ける。

その人物は怯えたように一目散に逃げ出した。

「名前も知っていますけど、どうします?」

「いえ、折角ですけど遠慮します。知らない方がいいのかもしれませんし」

「そうですか」

良太郎は契約者の名前も知っているので、シャマルが知りたいのならば言おうとしたが彼女が拒んだため口をつぐんだ。

「ねぇねぇ、シャマルちゃん。この青いワンちゃんの名前は何て言うの?」

リュウタロスがザフィーラをいろんな角度でジロジロと見ながら訊ねてきた。

「犬じゃないわ。ザフィーラっていう立派な狼よ」

シャマルは笑顔でザフィーラをリュウタロスに紹介してくれた。

 

 

契約者である北川佐和子にも自らが起こした行為への代償が支払われていた。

夫の北川から離婚届を突きつけられたのである。

北川は妻が今まで犯してきた事を知らないわけがなかった。

妻が自身を改める事を信じて敢えて黙認していた。

だが、そんな雰囲気は一向になくますますエスカレートしていった。

とうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのだ。

母の行動を父よりも見ていたのは息子の北川ジュニアだった。

北川ジュニアも父が離婚届を突きつけた事には異議を申し立てる事はなかった。

母に愛想が尽き果てていたからである。

実を言うと、北川と北川ジュニアは週末にはそれぞれ出張や友人の家に行くなどと言って外泊をしているが、目的地は同じだったのである。

そう、北川にとって後妻となる人物、北川ジュニアにとって義母となる人物のマンションに赴いていたのである。

人は絶対的に強いものではなく、弱いものだ。

悪魔の住処よりも天使のいる地を求めるのはある種、当然といえば当然だからだ。

北川家の家と土地は、すべて北川が購入したものであるため佐和子にはびた一文何一つ残らない状態で外に放り出されるかたちになったのは言うまでもない。

理不尽な理由で人を陥れた人間の哀れな末路である。

なお、その事をシャマルが奥様方から教えてもらうのは週明けだったりする。




次回予告

第十八話 「海鳴 冬の陣 上編」

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