仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十六話 「隣人は密かに妬む 前編」

ヴォルケンリッター参謀であり、『湖の騎士』であるシャマルはご町内でも人気がある。

美人で性格も悪くなく、たまに見せるうっかりした部分が愛嬌となって人気を生み出しているのだ。

「あ、シャマルちゃん。おはよう」

いつもシャマルにスーパーの特売やゴシップネタを提供してくれる恰幅のいいおばさんが挨拶してきた。

「おはようございます。今日も冷えますね」

シャマルも笑顔で返す。

「そうだねぇ。こんな時は鍋とかにかぎるねぇ」

「お鍋ですか。確かに温まりますからね」

おばさんとシャマルが会話をしだすと、近辺に住んでいる奥様方もぞろぞろと輪に入ってきた。

シャマルは丁寧に奥様方にも挨拶をする。

奥様方もシャマルに返してから、色々と話し出した。

「ワン!」

シャマルの側に青色の大型の狼らしき獣---ザフィーラが財布を銜えていた。

「おやま、シャマルちゃん。また財布忘れたのかい?」

おばさんがからかい混じりに言うと、シャマルはスカートのポケットやコートのポケットの中を探るが、どこにもなかった。

「……忘れてたみたいです」

シャマルは顔を赤くしてしまう。

とたんに奥様方も笑い出す。

シャマルは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「!?」

シャマルは不意に背後を見る。

「どうしたんだい?シャマルちゃん」

おばさんがシャマルの急な態度に驚く。

「あ、いえ。何でもないです」

シャマルはあの時、確かに感じた。

自分に向けられた『敵意』または『殺意』を。

 

最寄のスーパーに行くと店員達がシャマルの姿を見ると、気軽に手を上げて挨拶してきた。

「こんにちは。今日は何が目玉商品ですか?」

笑顔で挨拶してから本日の目玉商品を訊ねる。

店員は色々と話してくれていた。

シャマルは一通り話を聞き終えると、頭を下げた。

「ありがとうございます」

と、礼を言う事も忘れない。

「!?」

シャマルはまたも背後に顔を向ける。

(気のせいかしら……)

先程、外で感じたあの『敵意』もしくは『殺意』だ。

一通りの買い物を終えると、シャマルはスーパーを出て家路を歩いた。

 

 

八神家の隣には北川家という家族が生活している。

家族構成としては三人家族であり、どこにでもあるような平凡な家族だと思われる。

夫の北川はサラリーマンであり、それなりに収入もあってご町内の噂としては良い方だ。

子供の北川ジュニア(便宜上、そう呼ぶ)は中学生だが、特に問題のある行動をするタイプの子供でもない。

北川夫人である佐和子はどうだろうかと言われると、ご町内の噂はというとあまりよくなかったりする。

特に奥様方の評判はすこぶる悪いとの事だ。

ある事ない事を吹聴して人を貶める。という人間関係をいとも簡単に崩壊できる技能を持っているのだ。

それによって、悲惨な目に遭った家族はひとつやふたつではなかったりする。

そして、自分こそがご町内で一番注目を浴びたがっているため、その脅威となるものは徹底的に排除するほど嫉妬深いとも言われているのだ。

正直言って、関わりたくない相手である。

「許さない。許さないわよ。あの女……」

自室にはシャマルの写真が貼られており、それぞれが顔面部分に画鋲が刺さっていた。

そう、外とスーパーの中でシャマルが感じた『敵意』や『殺意』は彼女が放っていたものだ。

「私よりちょっと美人でスタイルがよくて、性格がいいからって……。許さないわよ」

北川佐和子は理不尽としかいいようがない嫉妬の炎を燃やしていた。

そんな彼女を空に浮揚している光球はじっと窓越しに眺めていた。

 

 

高町家の道場では現在、ある準備が行われていた。

ギターにマイクにドラムに音響機器。

本日、D・M・CwithRの初ライブを行うのだ。

道場にはモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナ、そして今回から参加する野上良太郎がいた。

コハナは音響機器の確認をし、他の面々は必死の表情で歌詞を憶えていた。

高町なのは、フェイト・テスタロッサがお菓子と飲み物を持ってきてくれた。

「皆さーん。すこし休憩しませんかー?」

「お菓子もジュースもあるよ」

なのはとフェイトが没頭している面々に声をかける。

「今回から、良太郎さんも参加するんですよね?」

「うん。歌とか歌うのってあんまり得意じゃないんだけどね」

なのはの右肩に乗っかっているユーノ・スクライア(フェレット)が飛び降りて、良太郎が憶えようとしている歌詞を覗き見る。

「良太郎さん……」

ユーノが驚きが混じったような声を漏らす。

「どうしたの?ユーノ」

「コレ、全部憶えるんですか!?」

「そうだけど、どうしたの?」

「いや、凄いなぁって思って……。五曲ありますよ」

「僕が一人で歌わなきゃいけないのは一曲だけだよ。後は皆と一緒のがほとんどだしね」

良太郎は歌詞を口ずさみ始めた。

「ユーノ。邪魔しちゃダメだからあっちに行こう。じゃあ良太郎、頑張ってね」

フェイトがユーノを抱きかかえる。

「うん」

良太郎は頷いてからまた、歌詞を憶える事に集中した。

 

 

海鳴の夜は冷えていた。

ビルや街灯などが明るく灯っており、人工的にひとつの風景が彩られていた。

その中シャマルとザフィーラはあるものを観るために、歩いていた。

「いくら近所付き合いが大切とはいえ、ここまでする必要はないのではないか?」

ヴォルケンリッター『盾の守護獣』のザフィーラはシャマルの行動は少々『演じる』という部分の度を超えているのではないかと注意する。

「そうなんだけど、興味も湧くじゃない。あんな感想が出たら」

シャマルとザフィーラは昼間、奥様方の話題になっているものをこれから観に行こうとしていた。

「シャマルちゃんも観にいったほうがいいわ。いいストレス発散になるから」とか。

「息子に勧められたんだけど、今じゃ私がハマってるくらいよ」とか。

「塾でいい点取れなかった娘が、あのライブを見たとたんに自己新記録を塗り替え続ける毎日なのよ」とか。

嘘か本当かはわからないが、奥様方が満場一致で絶賛しているのは驚きと同時に興味深かった。

何せここの奥様方は結構目敏いからだ。

「あの人達が絶賛するのだから興味深いじゃない。それに私達はいつもはやてちゃんに迷惑をかけているわ。今から観るものがよかったら、はやてちゃんを連れてきて喜ばせてあげたいじゃない?」

シャマルは自分達の主である八神はやてに隠し事をしている事に関しては心を痛めている。

「そのことに関しては異議はない」

ザフィーラもシャマルの提案には賛成のようだ。

彼もまた、主に隠し事をしている事には心を痛めているのだ。

「ザフィーラ、見て!」

シャマルは人だかりになっている部分を指差す。

「あそこのようだな」

一人と一匹は人だかりの中を入り込んだ。

目指すは一番前だ。

「ううん。うーんしょっと、やっと前に出れたわ。ザフィーラ?」

隣にいる守護獣の姿がない。

しばらくしてからザフィーラが顔を出した。

そして、口ではなく念話でシャマルに告げる。

(流石にこの姿に観客は怯えていたがな)

その証拠にザフィーラはモーゼの如く、堂々と歩いていた。

街中でこんな大型の獣を見たら大抵の人間はビビッて逃げるだろう。

(まぁ、それはある意味当然といえば当然ね)

シャマルも念話を用いて返した。

「さて、噂の人達は……え?」

シャマルは噂になっている面々を見て、口をぽかんと開けてしまった。

(どうした?シャマル)

ザフィーラがシャマルに念話で訊ねる。

(ザフィーラ、貴方も見て。アレが噂になっているバンドマンの正体らしいのよ)

「!?」

シャマルに促されるようにしてザフィーラも見てみる。

そこには赤色、青色、金色、紫色の怪人と人間という異色のユニットが観客を賑わかしていた。

(あれって、もしかしなくても……)

(電王一派だな……)

シャマルとザフィーラは確認するかのような言葉を念話で交わす。

そう彼女達が今観ているもの、奥様方の話題となっているものとはD・M・CwithRだった。

「あの子達まで……」

応援しているギャラリーの中には、ヴィータやシグナムと戦った二人の魔導師もいた。

二人とも凄く生き生きとした笑顔をしていた。

「はやてちゃんを連れてきたら元気になるかしら?」

(わからん)

シャマルの問いにザフィーラは短く念話で返答した。

 

良太郎とリュウタロスがマイクを持ってメインで歌っており、モモタロス、ウラタロス、キンタロスは楽器を用いながらサビのサブとなっている部分を歌っていた。

観客はもはや興奮状態だった。

モモタロスを応援する声。

ウラタロスを応援する声。

キンタロスを応援する声。

リュウタロスを応援する声。

良太郎を応援する声。

それらが一つとなり、場は盛大に盛り上がっていた。

そこには、なのは、フェイト、アリサ、すずかといった『仲良し四人組』も例外なく盛り上がっていた。

なのはの肩に乗っかっているユーノは辺りを見回す。

半年間、行方知れずとなったバンドチームが新メンバーを連れて海鳴に帰ってきたためか、従来のD・M・C信者+D・M・CwithR信者となると、かなりの数になっていた。

「凄い数だ……」

ユーノはフェレットの姿で通常の言葉を発するが、誰にも聞かれていなかった。

というより、今この盛り上がりに皆が夢中になっており、そんなものを聞くほどの余裕はないということだ。

ちなみに今回のD・M・CwithRで集まった金額は半年前のD・M・Cのデビューの際の金額の三倍以上だった。

 

 

D・M・CwithRが海鳴市の一部を最高潮にさせている時間帯の八神家。

「シャマルとザフィーラはどこにいったのですか?主」

シグナムは夕飯の支度をしている主---八神はやてにいつもはいる人物と動物がいないので所在を訊ねた。

「何か最近ご近所で有名になってるバンドチームを観に行ったみたいなんよ」

はやては味噌汁を味見してから言う。

「話題づくりですか?」

「そうやと思うで」

確認するかのように訊ねたシグナムにはやては首を縦に振った。

「大変だなぁ。シャマルも」

ヴィータはそう言いながら、デネブキャンディーを口の中に放り込む。

「ヴィータそろそろ夕飯だ。キャンディーはこれでおしまい」

デネブはデネブキャンディーが入っているバスケットを持ち上げた。

「ええー」

ヴィータは抗議の声を上げる。

「お前、食べすぎだ。それじゃ夕飯食べれなくなるぞ?」

今まで黙って新聞を読んでいた桜井侑斗がヴィータをたしなめる。

「ご飯とデネブキャンディーとアイスは別腹だ!」

それは「ケーキとご飯は別腹!」といって食べる女子学生及びOLの言い分のように聞こえた。

「牛か。お前は……」

侑斗はそんなヴィータの言い分にただただ呆れるしかなかった。

はやての携帯電話にコール音が鳴ったのはそれから数秒後の事だった。

 

 

シャマルとザフィーラは八神家への家路を辿っていた。

「凄まじいものだったわね。はやてちゃんが聞いたら元気になるかしら?」

「主が心臓に病を持たない限りは問題ない」

先程まで観ていたライブを、はやてに観せたら元気になるかどうかを話していた。

シャマルは携帯電話ではやてに「もうすぐ帰ります」と告げてから、しまいこんだ。

「ん?」

ザフィーラは自分達が歩いてきた道を振り返る。

「どうしたの?ザフィーラ」

「何かいる……」

「え?」

ザフィーラの短い言葉にシャマルは表情を強張らせる。

「もしかして、あの子達かしら?」

「いや、むしろデネブに近い臭いがする」

ザフィーラは鼻をクンクンながら言う。

その仕種がアルフと違って気品を感じられるのは彼の持つ雰囲気からなるものだろう。

「え?イマジン?」

「ああ」

ザフィーラも獣状態ながら、戦闘態勢に入る。

その証拠に唸っていた。

「シャマル。クラールヴィントは使うな。管理局の連中に気取られたら元も子もない」

「ザフィーラ……」

確かにここで魔力を発動させたら、海鳴市に駐屯している時空管理局に探知されるだろう。

「来るぞ!」

ザフィーラがそう告げると同時に、一体のイマジンが一人と一匹の前に現れた。

てんとう虫型のイマジン---レイディバードイマジンだ。

「シャマルだな?」

「そうですけど……」

レイディバードイマジンはフリーエネルギーで左右にヌンチャクを出現させる。

その後部を持ち、前部をブンブンと風車のように振り回す。

「その命、もらったぁ!」

レイディバードイマジンが飛び掛ってきた。

 

ライブが終了し、D・M・CwithRと縁のある者達は後片付けをしていた。

「ん?」

ギターをケースに入れ終えたモモタロスは鼻をクンクンさせた。

「モモタロス?」

マイクを片付けている良太郎が明後日の方向に顔を向けているモモタロスの様子を見る。

「良太郎、イマジンだ!」

「また!?」

「ああ。ここのところ、立て続けだぜ」

モモタロスは行く気マンマンだ。

「待てモモの字。今回は俺やで」

キンタロスがモモタロスを強引に引っ込める。

「何だよクマ?オメェはもう寝る時間じゃねぇか。さっさと寝てろ」

「そうはいかへん。俺にもたまにはやらせてもらうで」

キンタロスは引かなかった。

「ったく、良太郎の足ひっぱんじゃねぇぞ?」

「わかっとるがな。行くで良太郎」

「うん」

キンタロスと良太郎はイマジンがいるところへと駆け出した。

そんな二人を見ていた仲良し四人組はというと。

「ねぇ、なのは。良太郎さんとキンタロスはどこに行ったの?モモタロスが何か言ったら急に良太郎さんの表情が変わったし」

「え、ええとね……」

アリサ・バニングスがなのはに訊ねる。

なのはとしてはどう返答すればいいか困るところだ。

「良太郎とキンタロスは仕事に行ったんだよ」

フェイトが当たり障りのない事をアリサに言った。

「お仕事?しかもこんないきなり?」

その事に疑問を感じたのは月村すずかだった。

「うん。急にやり残した事を思い出したんだよ」

フェイトがさらに続けた。

フェイトの心臓はバクバクだったりする。

「おいカメ。得意の嘘で何とかしろよ?」

モモタロスが窮地に追い込まれているなのはとフェイトを見てウラタロスに助け舟を出すように言う。

「無理だって。いくら僕でも二人がついた嘘を真実にするのは難しいよ」

ウラタロスは両手を挙げて、お手上げのポーズを取る。

「じゃあ、どうするのさ?」

リュウタロスはこのままでは、なのはとフェイトの言った事が嘘だとバレてしまうのではないかと心配する。

「コレをアリサちゃんとすずかちゃんに見えないように、なのはちゃんとフェイトちゃんに見せてあげて」

音響機器の片づけを終えたコハナはスケッチブックにこう記していた。

『ちんもくを決め込んで』

と。

モモタロスはスケッチブックをなのはとフェイトにのみ見える位置で見せた。

それを見たなのはとフェイトは嘘を嘘で塗り固めるようなマネはしなかった。

アリサとすずかは二人の言葉を信じたのかそれ以上は追求しなかった。

「なるほど。沈黙つまり、肯定も否定もしないことで嘘を真実にしたんだね」

ウラタロスはコハナがしたことの意味をやっと理解した。

人は嘘をついた場合、更に信憑性を持たせるために嘘を上乗せすることがある。

これが嘘をつかれた側にしてみれば、「私は嘘をついていますよ」と受け止める事も出来る。

嘘をつかれた側にそのような印象を持たせないようにするためには、嘘をついた側は一度吐いた嘘を真実にするためにはそれ以上何も言わずに沈黙を保つ事の方が高い確率で成功したりするのだ。

コハナはそれをなのはとフェイトにさせたのだ。

「あの子達にはあまり薦めたくはなかったけどね……」

コハナとしてはいたいけな少女にこのような邪道を薦めた事を後悔した。

 




次回予告

第十七話 「隣人は密かに妬む 後編」

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