仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十五話 「命を救う手段 後編」

天候は晴れで青一色に済んだ空で時間にして正午。

桜井侑斗と八神はやてはファーストフード店で昼食を取っていた。

「ハンバーガーなんて久しぶりやな」

侑斗の向かいに座っているはやてがハンバーガーを頬張る。

「たまに食べると美味いよな。何でかわからないが」

侑斗はチキンナゲットをバーベキューソースにつけてから口の中に入れる。

「うん。そうやね」

はやてはフライドポテトを一つ摘んでサクサクとかじる。

食べるたびに幸せそうな表情を浮かべている。

「平和だな」

侑斗は窓から見える風景を見ながらそんな言葉を漏らす。

「どうしたん?侑斗さん。急にそんな事言い出して」

「何だよ。俺が言ったら変か?」

「ふふ。そうやね。いっつもムスッとしてるから意外やな」

はやては侑斗が別世界から来た存在だという事は知っている。

彼が『時の運行』を守るために戦っている事も知っている。

そして、彼が仮面ライダーゼロノスに変身できるという事も知っている。

そのために支払われる代価の事ももちろんだ。

全て居候になる条件として全て話したからだ。

「侑斗さん」

「ん?何だよ」

はやては急に真剣な表情になって侑斗の名を呼ぶ。

 

「わたしは絶対、侑斗さんのことを忘れたりなんかせぇへんからね」

 

侑斗としてはその言葉にどう返答したらいいのかわからない。

『時の運行を守る者』になってからは同業者ぐらいにしかそのような事は言われた事はない。

そういったことと全く関わりのない者に言われたのは初めてだ。

嬉しいと同時にその願いが叶う事はないと侑斗は今までの経験から判断した。

「そうか……」

そう答える事しか出来なかった。

 

 

梅垣夫妻は目の前にいる上半身と下半身が逆転して砂で出来ている怪人を見ていた。

「お前達の望みを早く言え。叶えてやるから」

「言ってもらわないと、俺達も行動できないからな」

怪人二体は梅垣夫妻に早く望みを言うように急かす。

「あ、あなた。この方達は……」

梅垣夫人が梅垣に眼前の怪人が何なのかを訊ねる。

「わ、わからない。ただどう見ても人間ではない事は確かだ。宇宙人か何かだろ……」

「「俺達はイマジンだ。宇宙人ではない」」

鯛型のイマジン二体---シー・ブリームイマジンが自身の正体を明かした。

梅垣夫妻は顔を見合わせる。

「望みを言え」と言われて、あっさりと鵜呑みする人間はまずいないだろう。

だが、二人の心の中には同じタイミングである望みが芽生えた。

そして、梅垣夫妻は同時にシー・ブリームイマジンに向かって試しに言う。

 

「「お金が欲しい」」

 

と。

「「その望み、確かに聞いた」」

シー・ブリームイマジンの上半身と下半身がきちんと正常な位置にくっつくと、また光球となって梅垣家から飛び立っていった。

その望みをかなえるために。

 

 

昼食を食べ終えた侑斗とはやては八神家への帰路を辿っていた。

「侑斗さん。今日の夕飯は何がええ?」

「今日はお前の当番じゃないだろ?確かデネブが作るはずだ」

「でも、メニューを決めるんはわたしやで」

八神家の台所事情の最高権力者は彼女、八神はやてである。

「椎茸が入ってないなら何でもいいけどな」

「もぉ!侑斗さんいっつもそない言うから、わたし悩むんやで!」

はやては頬を膨らませる。

「お前。俺がリクエストした料理にいつも椎茸入れてるだろ」

侑斗は、はやてが自分の分にだけ椎茸を放り込む事に不服を申し立てる。

「侑斗さんの好き嫌いをなくすためや。好き嫌いしたら大きくなれへんで」

はやてが振り向いて、お姉さんぶりながら侑斗に言う。

「お前より大きいから安心しろ」

侑斗がささやかな抵抗をする。

「うっ。侑斗さんの意地悪」

はやては悔しがりながら侑斗を睨んでから、そっぽを向いてしまった。

(またへそ曲げたな……)

はやては侑斗と二人きりの時にこのような仕種を取ることがある。

ヴォルケンリッターやデネブにも見せないはやての素顔だ。

侑斗は、そんな彼女が出会って一ヶ月くらいしか経過していない自分にそこまで心を許してくれる嬉しいと同時に怖かった。

「八神」

「ふーんだ。椎茸山ほど入れたるもん」

はやてはそっぽを向いてそんなことを言う。

「ったく、じゃあ洋食が食べたい」

侑斗は椎茸地獄に落とされてはたまらないので思いつく限りのもののを言う。

デネブが作ってくれるものは和食が多いので、知らず知らずに洋食や中華といったものには疎遠になっていた。

「洋食の何がええの?」

はやてが再びこっちに向いてきた。

「ロールキャベツかハンバーグ、オムライスもいいな」

「侑斗さん。オムライス好きなん?」

「今の状態になるまでは特に好きでも嫌いでもなかったんだよ。でも今は食べる機会がなくなったから、それでな」

今の状態---『時の運行を守る者』になる前の自分は十年前

自分

の時間でそれなりに好き勝手に生きていくことが出来ただろう。

だが、それはもう叶わない。何故なら自分のことを憶えている人間が何処にもいないのだから。

母親が作ってくれたオムライスのことは今でも憶えている。

二度と作ってもらえない上に、食べれないとわかると恋しくもなるものだ。

「ならオムライスにしよか」

はやては本日の夕飯をオムライスに決定した。

「ああ。頼む」

侑斗は笑みを浮かべていた。

一つの話題を締めくくった直後、パトカーがサイレンを鳴らして走っていた。

「また事件やろか……」

はやてが先程までとは違い不安そうな表情になる。

「検問と思いたいがな」

侑斗はなるべくはやてに事件から遠ざけようとパトカーが走る可能性を述べる。

「あっちの方にはたしか……」

「コンビニがあるで」

侑斗が言おうとした事をはやてが先に言った。

一瞬、梅垣夫妻が脳裏に過ぎった。

「まさか、な」

侑斗は自分の予想が外れて欲しいと願いながら、はやてが乗っている車椅子を押した。

 

 

とあるコンビニエンスストアでは、ATMとレジが破壊されて中に入っていた現金が根こそぎ強奪されていた。

パトカーが数台停車し、制服警官が野次馬を通さないように黄色い立ち入り禁止のテープの前に立っている。

海鳴警察署の私服警官達が破壊されたATMとレジを見ていた。

「明らかに強盗だな」

「それで犯人の特徴はわかりませんか?」

私服警官の一人が手帳を片手に目撃者である店員に事情を聴取していた。

「え、ええとですね。二本足で頭が鯛の怪人でした」

目撃者である女性店員は見た事を正直に話した。

「「………」」

私服警官二人は何とも言いようのない表情をしていた。

 

 

梅垣夫妻の目の前には一万円札が置かれている。

一枚ではなく数百枚だ。

しかもそれが、さらにどんどん増えていく。

正直数を数えるのが馬鹿らしくなるくらいに。

「お前達が望んだ金だぞぉ」

シー・ブリームイマジンが強奪したお金をシャワーのようにして梅垣夫妻に向けて浴びせる。

彼等がこんな短期間でこれだけの大金を持ってくる方法なんかひとつしかない。

それは梅垣夫妻が今まで手を出さなかった方法、つまり犯罪だ。

「違う!私達はこんな事を望んではいない!」

梅垣が一万円札を浴びせてくるシー・ブリームイマジンに抗議する。

「そうです!こんなお金で助けても、あの子は喜ばないわ!」

梅垣夫人も夫同様に抗議する。

「もうひとつ追加だぁ!」

ジェラルミンケースを五箱持ってきたもう一体のシー・ブリームイマジンがケースを開けて、花逆爺さんが灰を撒くかのごとく万札をばら撒いた。

「ほぉら金だぁ!」

梅垣夫妻はまたも万札のシャワーを浴びてしまう。

夫妻は自分のそばにある一万円札を一枚手に取る。

そして、部屋に散乱している紙幣という紙幣を見る。

最初にばら撒いたシー・ブリームイマジンが梅垣夫妻にしゃがみ込む。

「綺麗事を言うなよ。この金があればお前達の子供は助かるんだぜ?」

梅垣夫妻は眼前のイマジン二体の認識を改めた。

『救いの神』から『悪魔』へと。

 

 

侑斗は先程何者かに襲撃されたコンビニエンスストアの前にいた。

まだ制服警官が行く手を阻むかたちで立っていた。

一旦八神家に戻って単身ここに来たのだ。

はやては現在、デネブとシャマルに夕飯を何にするか教えているだろう。

(被害に遭ったのはATMとレジだけで他に被害はない、か)

明らかに金目当てのものだろう。

ATMの中に入っている金を狙う場合、ATMごと乱暴な手口で奪う方法が多い。

人間の力ではその場で破壊して強奪する事は不可能だからだ。

だが、この強盗はATMをその場で破壊している。

つまり、人では有り得ないという事だろう。

「イマジンが絡んでいる可能性は大だな」

侑斗は踵を返して、次なる目的地へと向かった。

石田医師がいる海鳴大学病院だ。

 

海鳴大学病院に到着すると、侑斗は迷うことなく受付嬢に石田医師を呼ぶように頼んだ。

五分後に石田医師がフロントにやってきた。

自分を呼び出した人間を見て石田医師は目を丸くする。

当然と言えば当然なのかもしれない。

「まさか貴方が呼び出し人とは……」

「急ぐ事なんで単刀直入に聞きます。昼間に病院に入っていった夫婦の住所を教えて欲しいんです」

「梅垣さんのこと?どうして?」

石田医師がそう訊ねるのも無理はない。

彼女は医師であり、『守秘義務』があるからだ。

業務上で知りえた情報を正当な理由もなく、口外してはならないというルールが取り決められている。

そして、今侑斗が訊ねようとしていることも医師の『守秘義務』に抵触している可能性は十分にあるのだ。

石田医師は侑斗の目を見る。

彼が自分が教えた情報を悪用するようには思えなかった。

しかし、自分から法を犯すわけにもいかない。

「桜井君。今から言う事は独り言だと思ってね……」

石田医師は独り言を始めた。

侑斗は石田医師に頭を下げて、更なる進路を変えた。

その中でまたパトカーが数台走っていた。

「さっきのコンビニと違う所か?ったく、今回のイマジンは一体じゃないのかよ!?」

二体いるなら一度に仕留められるが、それぞれが単独行動となると各個撃破しかない。

そうなると一体目と戦っている間はもう一体はフリーとなり、好き放題している事になる。

「これだけ騒ぎになってるなら、野上も気付いているはず……だよな」

侑斗は自分の近くにいるイマジンを倒す事を選ぶ事にした。

野上良太郎がこの騒動に気付いて戦う事を信じて。

 

 

夕方となり、学校帰りの中高生でごったがえしている翠屋。

「ん?」

外でチラシ配りをやっていたオオカミが顔を客がいない方向へと向ける。

正確にはオオカミの着ぐるみを着ているモモタロスが、そちらに顔を向けているのだが。

両手でオオカミの頭を自分の頭の方向に向けることも忘れない。

「どうしたの?センパイ」

チラシを配っているペンギンが配る手を止めて、オオカミを見る。

「イマジンの臭いがするぜ」

オオカミが早速行こうとする。

「駄目だって。センパイ、まだノルマ残ってるじゃん」

オオカミの手にはまだチラシがぎっしりとある。

ゾウとドラゴンもチラシがぎっしりとある。

ペンギンだけがノルマを達成したのだ。

「で、センパイ。イマジンの臭いはどっちから?」

「あっちだよ」

オオカミが指差す方向にペンギンは顔を向ける。

「なーるほど。今回は僕がやるから安心してよ」

ペンギンはオオカミの肩を軽く叩いてから翠屋の中に入っていった。

 

良太郎は中高生の客を接客していた。

ミルクディッパーでの経験が活かされているのか、難なくこなしている。

午前中に比べて表情はもちろんの事、身体から噴出している雰囲気もよくなっていた。

彼は立ち直ったのだ。

悔しさや自分への怒りをバネにして。

「良太郎。出たよ」

ペンギンが店内に入り、そう告げた。

「わかった。行こう」

良太郎はそう言うと、エプロンを外す。

「士郎さん、すいません。僕行かなきゃいけないんです」

良太郎は高町士郎を真っ直ぐ見る。

「わかった。今日はもうあがっていいよ」

「ありがとうございます」

良太郎は士郎に頭を下げてから、更衣室で上着を羽織って翠屋を出た。

ちなみに更衣室にはペンギンの着ぐるみが残っていた。

 

七三分けで青色のメッシュが入り、青い瞳をして伊達眼鏡をかけている良太郎(以後:U良太郎)がデンバードⅡに乗って、モモタロスが指差した方向へと走らせていた。

「今回のイマジンは何が目的なんだろうね?」

(わからないよ。でも、急に現れて行動したんだから前回のイマジンとは違う事だけは確かだけどね)

ウラタロスと深層意識の中にいる良太郎がやり取りをする。

風で揺られて一枚の紙がひらひらとU良太郎の眼前に現れる。

手にしてみると、それは一万円札だった。

「神様が僕達にサービス、じゃないよね」

U良太郎の表情に笑みが出てきた。

今度のイマジンの目的が何となく見えてきたからだ。

 

 

『時の列車』であるゼロライナーが海鳴の夕陽をバックに線路を敷設と撤去を繰り返しながら、空を走っていた。

侑斗は石田医師から教わった場所まで向かっていた。

正直、ゼロライナーのコントローラーとなっているバイク---マシンゼロホーン(以後:ゼロホーン)で乗ってもよかったのだが、道路を走らなければならないためどうしても目的地には時間がかかる。

梅垣家があるアパートの前でゼロライナーから降りる。

「確か二階だったな」

侑斗は階段を上っていく。

ドアの前に立って、深呼吸をしてからコンコンとノックする。

「ごめんください」

ドアノブを回して引っ張るとつっかえがかかったような感触がない。

つまり、開いているという事だ。

「これって……」

床一面に一万円札等の紙幣が散乱していた。

そして、現金輸送車から強奪したとも思われるジェラルミンケースの空があちこちに転がっていた。

梅垣夫妻がいた。

その表情はお金が手に入って喜んでいるようには思えなかった。

むしろ今日初めて見たときよりもひどくなっていた。

顔は俯き加減で、何かをブツブツ言っているようにも思えた。

侑斗は玄関から入ろうとはせず、ドアを閉めた。

「イマジンに何を頼んだのかは聞くまでもないな」

待機させているゼロライナーに乗り込む。

客席である二両目のナギナタに入ると、胸元を見るようなかたちで口を開き始める。

「デネブ。行けるか?」

契約関係であり、相棒でもあるデネブに語り始めた。

魔導師同士で行われる念話のようなものである。

 

八神家には現在、家主のはやて、居候のデネブ、そしてそのデネブに料理の教えを請うているシャマルの三人がいた。

今日はデネブが料理当番なので、はやてとシャマルは見学人兼サポートだ。

「じゃあ、今日は侑斗のリクエストに応えてオムライスだ」

「「はい!デネブちゃん!!」」

はやてとシャマルが教師に教えを請う生徒のように返事をした。

「……やっぱり慣れない」

デネブは二人の反応に戸惑っていた。

元々デネブは異性(女性)が苦手だ。

嫌いではないのだが同性(男性)とは違うので、対応に戸惑うのだ。

それでも八神家

ここ

で一ヶ月以上生活しているので、だいぶマシにはなっているのだが。

「侑斗!」

デネブが侑斗からの交信を受けた。

「デネブちゃん?」

「どうしたんですか?」

はやてとシャマルが普段とは違うデネブの様子に心配げな声を出す。

デネブは意を決した表情で、はやてとシャマルを見る。

「八神、シャマルごめん!侑斗がイマジンと戦おうとしてるんだ!」

デネブは深々と頭を下げた。

「えええっ!?」

「デネブちゃん、それって……」

『侑斗が戦う』と聞いて、はやてとシャマルが青ざめる。

「……カードを使う。覚悟をした方がいい」

そう言うとデネブはもう一度頭を下げて、八神家を出た。

 

 

デネブと侑斗がシー・ブリームイマジンの行方を追っている頃。

U良太郎はもう一体のシー・ブリームイマジン(以後:SBイマジンB)を発見した。

SBイマジンBはコンビニの前に立っていた。

外にいるということはまだ襲撃していないという事だろう。

「何だオマエ?」

「僕の事を知らないなんてねぇ。オマエもしかして時代遅れじゃない?」

U良太郎がパスをちらつかせながら挑発じみた台詞を吐く。

「仮面ライダー電王か!?」

パスを見たことでSBイマジンBは相手が誰なのか理解した。

「そういうこと。だったら僕がここに来た理由はわかってるよね?」

U良太郎はデンオウベルトを具現化させて、腰元に巻きつける。

青色のフォームスイッチを押す。

ミュージックフォーンが流れる。

「変身!」

パスをターミナルバックルにセタッチする。

『ロッドフォーム』

プラット電王となって、オーラアーマーが出現する。

黒がメインで金色がポイントカラーとなっているオーラアーマーが展開して、青色がメインのオーラアーマーとなって、それぞれの部位に装着されていく。

海亀をモチーフにした電仮面が頭部に走り、仮面としての形状をとっていく。

全身から青色のフリーエネルギーが放出される。

右手を曲げ、左掌を右肘を支えるように置いてインテリのようなポーズを取る。

 

「オマエ、僕に釣られてみる?」

 

仮面ライダー電王ロッドフォーム(以後:ロッド電王)が前に立った。

 

 

侑斗もまたロッド電王がSBイマジンBと対峙している時、もう一体のシー・ブリームイマジン(以後:SBイマジンA)と戦おうとしていた。

自らのオーラでゼロノスベルトを具現化させて腰元に巻きつける。

ゼロノスベルトの左側に装着されている黒いケースを開く。

緑色のカラーと黄色のカラーが施されているゼロノスカードを取り出した。

バックル上部にあるチェンジレバー右側へスライドさせる。

和風のミュージックフォーンが流れる。

「侑斗!」

デネブが全速力で来たのか、肩を上下にしてやってきた。

「デネブ遅いぞ!それよりもあのイマジン、さっさと片付けるぞ」

「了解!」

デネブは両手を構える。

その構えは独特で、専用武器というゴルドフィンガーからフリーエネルギーの弾丸を射出できる構えだ。

「変身!」

ゼロノスカードをゼロノスベルトのバックル部のクロスディスクにアプセット(挿入)した。

チェンジレバーは自動で左側へとスライドされる。

『アルタイルフォーム』

ゼロノスベルトが電子音声で発すると同時に、緑色の『A』という文字が浮かび上がった。

侑斗の姿からプラット電王のような状態からオーラアーマーが装着される。

頭部及び胸部のデンレールは銀色から金色へと変わり、頭部のデンレールに沿って左右からゼロライナーの頭部を髣髴させるものが走り、一定の位置になると停まって電仮面となっていく。

右手を天に掲げる。

青空だったのが曇りだして、近くの電柱に向かって雷が落ちた。

電柱は火花を上げて左右に倒れていく。

民家がなかったのがせめてもの幸いだろう。

右腰に収まっているゼロガッシャーの右パーツを左腰に収まっている左パーツに縦連結させてから、刀を

鞘から抜刀するようにして引き抜く。

上へ下へと振り回すと同時にフリーエネルギーで武器としての大きさになっていく。

最後に右手から左手へと持ち手を替えてからゼロガッシャーサーベルモード(以後:Zサーベル)を地に突き刺すようにしておく。

空いた右手でSBイマジンAを指差す。

 

「最初に言っておく。俺はかーなーり強い!」

 

仮面ライダーゼロノスアルタイルフォーム(以後:ゼロノス)の完成である。

「貴様!仮面ライダー電王か!?」

「今から倒されるお前に名乗る必要なんてねぇ!」

ゼロノスはZサーベルを左手から右手に持ち替えて、SBイマジンAへと駆け寄る。

デンガッシャーより武器としては巨大なため、両手で持って攻撃する。

そのまま袈裟斬りを繰り出す。

「ぐおわああああ!」

SBイマジンAの身体から火花が飛び散る。

弾みで後方に下がるところをゼロノスは逃さずに更に間合いを詰めて、右切り上げへとZサーベルで狙いをつけて斬りつける。

SBイマジンAは後方へ更に下がるが、Zサーベルの切先のみがかすった。

かすっただけだが、それなりにダメージはある。

「これでも食らえ!」

SBイマジンAは両腕を交差にしてから、広げる。

同時に全身の鱗が弾丸のようにゼロノスに向かって飛んでいく。

「デネブ!」

「了解!」

ゼロノスは捌ききれないと判断すると、デネブを呼ぶ。

デネブがゼロノスの前に立ち、ゴルドフィンガーから弾丸を射出させる。

ダンダンダンダンダンという音を立てながら、向かってくる鱗を破壊していく。

「おのれぇ!」

SBイマジンAは悔しげな声を上げる。

「侑斗、確実に倒すなら今だ!」

「ああ!」

ゼロノスはゼロノスベルトのクロスディスクからゼロノスカードを抜き取る。

デネブはゼロノスの背後に回る。そして、両腕を交差してゼロノスの肩辺りに置く。

ゼロノスベルトのチェンジレバーを右にスライドさせる。

ゼロノスカードを黄色が施されている面をゼロノスベルトのクロスディスクにアプセットする。

和風のミュージックフォーンが流れる。

『ベガフォーム』

背後にいたデネブはフリーエネルギーによってゼロノスの追加装甲へとなっていく。

オーラアーマーの上に黒いアーマーが出現し、胸部にデネブの顔が浮かび上がってからデネブの両手がゼロノスの肩にがっちりと覆われる。

そして、背後からマントのようなデネブローブが出現する。

ゼロノスの電仮面が消え、左右からドリルの半分が走って中央で一つとなってからその場で数回転してから、開いて電仮面となる。

「はっ!」

右手に握られているZサーベルを振ると、そのパワーによるものなのか、ゼロノスを中心に半径三十センチくらいはクレーターのように窪む。

仮面ライダーゼロノスベガフォーム(以後:Vゼロノス)へと変身した。

 

「最初に言っておく!早く帰って夕飯を作りたい!」

 

デネブの声でVゼロノスはそのように告げた。

「はあ!?」

SBイマジンAはあまりの台詞に呆気に取られた。

(お前、何言ってんの!?)

深層意識の中にいる侑斗もそれはないだろうという感じの声を出している。

「俺の本音だ!」

Vゼロノスは高らかと叫んだ。

(ったく。だったら早く片付けろ!)

「うむ!」

侑斗の言葉にVゼロノスは頷き、先程とは違いゆっくりと間合いを詰める。

鱗攻撃が繰り出されるが、Vゼロノスは両肩のデネブの指から『ゼロノスノヴァ』を発射させて、鱗を破壊しながらも堂々と前へ歩む。

「こ、こいつ!?」

「今度はこちらからだ!」

Vゼロノスはゼロノスベルトのバックル左上のフルチャージスイッチを押す。

『フルチャージ』

ゼロノスカードの黄色の部分が輝きだす。

抜き取って、Zサーベルのガッシャースロットにゼロノスカードを差し込む。

Zサーベルにフリーエネルギーが伝導されていき、バチバチバチと鳴り出す。

SBイマジンAとの距離がほぼゼロになると、VゼロノスはZサーベルを右側を狙うようにして構える。

「はああっ!!」

Zサーベルを右薙ぎを狙って横一直線に切り裂く。

「うおわあああああ!!」

SBイマジンAに許容量以上のフリーエネルギーが叩き込まれて、爆発した。

爆煙が立ちこめる中、Zサーベルのガッシャースロットからゼロノスカードを抜き取る。

ゼロノスカードは炭酸水の泡のようにしてシュウウウと消えてしまった。

Vゼロノスはゼロノスベルトを外すと、侑斗とデネブへと分離した。

「これで別世界に来て二枚目か……」

「……うん」

これでゼロノスカードは二枚消費した。

一枚目の消費の際には何とかはやて達は消費の対象にならずに済んだが、二枚目になるとどうかはわからない。

八神家に戻った際に、「誰?」と言われたら洒落にならない。

侑斗としてはこのままどこかに行こうかとさえ考えてしまう。

だが、そういうわけにも行かないので重い足取りでデネブと共に八神家への帰路へと辿る事にした。

 

 

「食らえ食らえ食らえええ!!」

SBイマジンBは鱗攻撃をロッド電王はデンガッシャーロッドモード(以後:Dロッド)で叩き落し、また時には受け止めていた。

「ネタはもしかして鱗攻撃

これ

だけ?」

頭上でDロッドを回して刺さっていた鱗を吹き飛ばす。

「だったら今から僕の番だ!」

ロッド電王はDロッドの後方部を握って、そのまま駆け出す。

SBイマジンBは右に避けるが、ロッド電王は後方部から中心部へと方向を転換する際に握る位置を替えて、細かい突きを何発も繰り出す。

一発のダメージは大した事ないが、それでも来るものはある。

Dロッドを右肩にもたれさせて、外側から大振りで叩きつけるようにして攻撃する。

左脇腹を狙い、直撃させた後はすぐさまDロッドを引いて突きを繰り出す。

「ぐっ。ぐっ。ぐううう!」

突かれるたびにSBイマジンBは後方へと下がっていく。

その場でDロッドを浮かせて、左手で後方部を握って右手で中心部を持つ姿勢に変わる。

それを隙だと狙いをつけるSBイマジンBだが、左脚に衝撃が走った。

「脚がガラ空きだよ!」

ロッド電王がDロッドを浮かせて姿勢を変えるのをえさにして、ローキックを食らわせていた。

SBイマジンBは迂闊に攻めようとはしない。

明らかにこちらを恐れているのだろうということは誰から見ても明らかな事だった。

「そろそろ釣り時だね」

パスを取り出して、ターミナルバックルにセタッチする。

『フルチャージ』

デンオウベルトからDロッドへとフリーエネルギーが伝導されていく。

フリーエネルギーが充填されているDロッドを標的の心臓部へと狙いをつける。

「はあっ!」

Dロッドを投げつける。

DロッドはSBイマジンBの心臓部へと溶け込み、フリーエネルギーの亀甲状の網であるオーラキャストが出現して、金縛り状態にさせる。

「ぐ、ぐうううう」

動けなくなるとSBイマジンBは悔しげな声を上げる。

「網にはかかったから、後は捌くだけ!」

勢いよく駆け出して、跳躍して右脚を前に突き出してそのままオーラキャストの中心に狙いをつけて降下する。

「せやあああああ!!」

足の裏とオーラキャストが触れた時、フリーエネルギーがSBイマジンBに注ぎ込まれて耐え切れなくなって、爆発した。

「うおわあああああ!!」

断末魔の悲鳴がこだました。

爆煙が空に昇る中、ロッド電王はデンオウベルトを外して良太郎とウラタロスに分離する。

「良太郎が強くなったおかげなのかな。全然手ごたえなかったね」

「そうかな……」

ウラタロスの評価に、良太郎はただ嬉しいと同時に照れが入った。

空は夜になろうとしていた。

 

 

八神家の前に立った侑斗とデネブはインターホンを鳴らす。

『どちらさまですかぁ?』

シャマルの声がした。

「デネブです」

デネブが出た。

『デネブちゃん?じゃあ侑斗君も一緒?』

シャマルは侑斗を憶えているようだ。

「シャマル。八神は出れるか?」

デネブに代わって侑斗がインターホンから声をかけた。

『はやてちゃんですか?ちょっと待ってくださいね。はやてちゃーん』

シャマルが恐らくキッチンにいるはやてを呼んでいることが台詞の内容からして推測できる。

『どうしたん?侑斗さん。あ、もしかしてカード使って仮面ライダーになったから、わたしが侑斗さんのこと忘れてるって思たん?』

図星だった。

ゼロノスカードを用いているからといって、一回の使用でどれだけの人間の記憶を消去できるかなどは把握しているわけではないのだ。

「よかったな。侑斗」

「うるさい」

侑斗はそう言うが、表情は穏やかだった。

ドアを開き、侑斗とデネブは入っていった。

リビングに入ると、八神家が全員いた。

「桜井、デネブおかえり」

「侑斗、おデブおかえりー」

シグナムとヴィータが快く声をかけてくれたのが嬉しかった。

ザフィーラ(獣)は首を縦に振っていたから、「戻ったか」と言っているのだと思った。

(悪くないな)

侑斗は久しぶりに人の温かさというものを実感した。

 

 

雨は降りそうにないが、天候は晴れ時々曇りといったところだろう。

八神家の電話がコール音が鳴った。

「もしもし、八神ですが」

受話器を取ったのは、家主のはやてではなく侑斗だった。

『あ、桜井君。石田です』

電話をかけてきたのは石田医師だった。

「どうしたんですか?」

『実はね。貴方が気にかけていた梅垣さんのお子さんの事だけどね……』

石田医師の言葉に侑斗は耳を傾けていた。

「そうですか。どうも、ありがとうございます」

侑斗は受話器を置いた。

知らず知らずなのか、笑みを浮かべていた。

「侑斗さん、どうしたん?嬉しそうやで」

はやてが車椅子を巧みに操って、侑斗の側まで来た。

「あの夫婦の子供な。無事に手術を受けられるようになったんだってさ」

「えっ!そうなん。よかったやん!でも、何で?」

はやても我が事のように喜ぶが同時に疑問も生まれた。

「海鳴大学病院とは違う病院の医師が面倒見てくれるんだってさ。しかも手術代は全額病院負担だと」

「へええ」

はやてはとにかく驚きの声を上げるしかなかった。

(あの人達は結局、あの金を使わなかったんだな)

世の中綺麗事では生きられない。

それが金銭が絡むなら尚の事だろう。

でも、そんな中でも自らの信念を曲げなかった者にだけ『奇跡』というプレゼントがあるのだと侑斗は思った。




次回予告

第十六話 「隣人は密かに妬む 前編」

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