仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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最新話を投稿します。


第十三話 「濁りの末路」

ハラオウン家では本日は、エイミィ・リミエッタが朝食を支度していた。

手際のよさをみて野上良太郎は驚きの声を上げた。

本日の朝食は洋食ものだ。

パンにベーコンエッグだ。

同時にエイミィの手伝い?をしているクロノ・ハラオウンを見る。

あまりの手際の悪さに良太郎はため息を吐いてしまう。

(クロノは主夫にはなれないなぁ)

クロノの性格上、一生無縁な職業だと思いながらもそんなことを考えてしまう。

良太郎はソファに腰掛けて本日の新聞を広げる。

『海鳴市連続斬殺事件。これで三件目。警察の対応に疑問視』

などと大きく書かれていた。

記事の内容を読む中で良太郎は難しい表情になっていく。

この事件にはイマジンが絡んでおり、契約者の名前は楠という。

動機は今日調べて、そのまま撃退へと向かいたいところだ。

新聞を読み終えると、良太郎はテーブル席に着く。

聖祥学園の制服を着たフェイト・テスタロッサとアルフ(人型)がリビングに入ってきた。

「おはよう。みんな」

「おはよー」

「「「おはよう」」」

とそれぞれ挨拶を交わす。

「エイミィさん。リンディさんは?」

ここにいない家主のリンディ・ハラオウンの姿がまだない。

「艦長なら朝の散歩に行ったと思うよ」

「散歩?」

「寝ぼけ眼を覚ますにはちょうどいいとか言ってね。多分そろそろ帰ってくると思うよ」

「そうなんだ」

良太郎はエイミィの言葉に納得する。

それから五分後にリンディが帰宅し、全員で朝食を取った。

 

 

私立聖祥学園。

本日も生徒達は希望と不安を胸に秘めて一日を送ろうと誰もが思うだろう。

「ねぇねぇ。昨日の事件って君の友達なんでしょ?」

「よく無事だったよね」

「でも、どうして君は狙われなかったんだろ?」

「わからないよ」

彼等のもっぱらの話題は昨日起こった殺人事件のことだ。

「やっぱり昨日の事よねぇ」

アリサ・バニングスは男子生徒達の話題を耳にして納得していた。

「物騒だよね。もう、立て続けに三人も亡くなってるもん」

月村すずかは不安げな声を上げる。

自身にも降りかかるのではと思っているのだろう。

「フェイトちゃん……」

「イマジンが絡んでることは間違いないから良太郎達が解決してくれるよ」

高町なのはを安心させるようにしてフェイトは言った。

「良太郎さんがどうかしたの?二人とも」

アリサが耳聡く聞いていた。

「ええとね。良太郎さんがこの事件の事を調べてるんだって」

なのはは上手く誤魔化そうとした。

「何のために?」

アリサが更に詰める。

「良太郎は困っている人を見たら放っておけないんだよ」

フェイトも何とか誤魔化そうとするが、もともと嘘が下手な彼女はこんな言い方しか出来ない。

 

「困っている人を見たら放っておけないって、まるで仮面ライダーみたいだね」

 

「「!!」」

ドキィっとなのはとフェイトはすずかの言葉に心臓が飛び出しそうな感覚に襲われる。

「すずか、何その、かめんらいだーって?」

「ええとね。わたし達が生まれる前にこの日本を救ったといわれている伝説のヒーローだよ」

「そんなの本当にいるの?」

アリサは仮面ライダーの存在に懐疑的な表情をしてすずかに訊ねる。

フェイトとなのははというと。

((いるんです。仮面ライダーとは名乗ってないけど、似たような人が……))

と心の中で肯定した。

「皆さん席に着いて。授業を始めますよ」

担任教師が入ってきた。

 

昼休みとなり、持参した弁当を持って屋上へと向かう四人組(なのは、フェイト、アリサ、すずか)。

その中で先客である男子達が会話をしていた。

内容はやはり話題となっている殺人事件だ。

「あれはだから何度も言うように、人間じゃないんだよ!」

「そんなことあるわけないだろ」

「警察にもそう言ったの?」

「言ったさ!でも第一の事件の目撃者も第二の事件の目撃者も同じ様なこと言ったから、すぐ否定されたけどね」

「でもさ、それってコスプレじゃないの?」

「違うよ!あれはコスプレじゃないよ!あれは本当に人間じゃない!あれは……」

 

「あれは怪人だよ!」

 

「本当に怪人なんているのかしら?」

そんな男子生徒達の会話を半信半疑で聞いているアリサは自分の弁当のウインナー(タコさん)を口に放り込む。

「仮面ライダーのことが記されていた本には怪人の事も書いてあったよ。たしか執筆者のご両親も怪人に殺害されたらしいし……」

「すずか。アンタ、随分と生々しいフィクション本読んでるわね」

アリサは若干引き気味にすずかに言う。

「違うよアリサちゃん。わたしが読んでいるのはフィクションじゃないよ」

「じゃあ、何よ?」

「ノンフィクションだよ」

すずかはさらりと告げた。

「目撃者いたんだ……」

「でもニュースでは報道されてないね。何でだろ?」

なのはは目撃者がいたことに驚き、フェイトは何故目撃者の証言をニュースで報道しないのか疑問に感じる。

「フェイトその答えは簡単よ。警察は常識範囲外のことは見てみぬ振りするのよ」

すずかと談話していたアリサが割り込んできた。

「アリサ……」

「というより認めたくないのかもしれないわね」

アリサはそう言うと、昼食を取る事に集中した。

「なのは、フェイト。アンタ達も早く食べちゃいなさいよ」

そして、箸が進んでいない二人の友人を促した。

 

 

良太郎は本日、翠屋でのバイトを休んだ。

言い訳はウラタロスが上手い事やってくれるので大丈夫だろう。

そして、彼は現在図書館にいる。

彼の机の前には過去の新聞を綴じてあるファイルが五冊以上ある。

どこから手を着けたらいいのかわからないので半年分持ってきている。

隅から隅まで目を通しているため、とにかく疲れる。

「はあ」

気分転換として天井を見上げる。

(ヴィータちゃんにもう少し詳しく聞いておけばよかったかな)

ヴィータは殺害された二人(今回の事件で三人)の学校には何がしかの問題があったと言っていた。

小学校が取り上げられている問題も半年になるとそれなりに色々ある。

契約者がイマジンと契約した動機はこの辺りにあると良太郎は確信している。

イマジンの契約執行方法が『殺人』になるにはどのような契約内容になるだろうともう一度考える。

そもそもイマジンの契約執行方法に平和的だったものはほとんどない。

プレシア・テスタロッサのようにイマジンの性格を読んで契約をしたのかもしれない。

そうだとしたら、今回の契約者は相当の切れ者だろう。

(学校に問題があって、イマジンの契約執行方法が殺人……)

良太郎は何かが閃いた。

(学校に問題があって契約者がイマジンに殺人をさせるとなると、経済面の問題じゃない。人間同士の問題だ)

もう一度ファイルを開いて、学校関連で人間同士の問題が取り上げられている記事を調べ始める。

(あった!)

「小学生飛び降り自殺……」

良太郎は小声で読み始める。

「市立小学校で小学五年生の男子が校舎から飛び降りて死亡。現場に遺書がなかった事から衝動的な自殺ではないかと考えられる、か」

良太郎は小声で続きを読む。

「死亡したのは海鳴市在住の楠始君十一歳。くすのき?」

契約者の名字はたしか『楠』だ。

良太郎は口を閉じて、もう一度考える。

(自殺した子供はクスノキハジメ。そしてイマジンの契約者もクスノキ……)

偶然と考えるつもりはない。

(もし、遺書があったとしたら……)

新聞には遺書はなかったと記されている。

しかし、警察や救急隊員が来る前に隠匿して処分する時間は十分にある。

その間に処分されていたとしたら。

その事を契約者であり、遺族である楠が何らかの方法で知る事になったとしたら。

そして、その遺書を処分したのが殺害された教師、内山守だったら。

(楠さんは間違いなく復讐する!)

良太郎はファイルを片付けて図書館を出た。

 

 

時間帯にして昼。

太陽が燦燦と照っており、空を見上げるとその眩しさに思わず目を細めてしまうだろう。

しかし、楠宅には無縁のものだった。

何故なら家主の楠一朗太は家の中に篭りっきりであり、窓は全てカーテンが敷かれて太陽の光はすべて遮られていた。

「あと一人、今夜だな」

「ああ。これで始の……いや俺の憂さ晴らしも終わる……」

楠は『息子の無念』とは言わず、自身の『憂さ晴らし』と言った。

彼は今、仏壇の前に立っており、仏壇の遺影には十一歳くらいの少年の写真---楠始が飾られていた。

楠の背後にいる異形の者---エイ型のイマジンであるレイイマジンは黙って聞いていた。

「コイツを殺した後、どうする?」

レイイマジンは楠に訊ねる。

イマジンを知る者にしてはその行動は奇妙なものだが、ここにはそんな人物はいない。

「お前と契約した代償を払うさ」

楠は感情を込めることなく淡々と告げた。

「そうか……」

レイイマジンはそれ以上は何も聞かなかった。

楠は仏壇の側に貼られている四枚の顔写真を見る。

その内、三枚は赤色で×印が記されていた。

×印がされている写真はすべてここ数日で殺害された三人だった。

インターホンが鳴った。

また、新聞の集金か水道光熱費の支払のどちらかだろうと思った。

まだ先月分払ってないから催促に来たのかもしれない。

どちらにしろ追い返そうと思った。

ドアを開けると、そこには見知らぬ青年が立っていた。

顔立ちは悪い方ではないし、身長は自分と同等くらいで年齢にして二十歳前だろうと推測した。

「楠さん、ですよね?初めまして、僕は野上良太郎です」

青年は軽く会釈してから自己紹介した。

 

良太郎は図書館から出た直後に、楠家へと来訪した。

意外だったのは門前払いを食らわずに家に入ることを許された事だ。

「お邪魔します」

良太郎は社交辞令でお決まりの台詞を述べる。

「散らかっていて申し訳ないね。客が来るなんて随分と久方ぶりの事だからね」

楠の言うように家の中はかなり散らかっていた。

ハッキリ言って客を呼べば確実にドン引きするだろう。

空になったビール缶や酒瓶などの残り香が良太郎の鼻をくすぐる。

リビングに連れられた良太郎は楠と向き合うかたちで座る。

「それで君は俺に何か用かい?」

楠は平静に良太郎がここに来た目的を訊ねる。

 

「貴方を止めに来ました。正確には貴方と契約を交わしたイマジンを、ですけど」

 

良太郎は下手なごまかしはせずに目的を告げた。

「君はレイを知っているのか?」

楠は特に否定することなく訊ね返した。

「レイ?それが貴方が契約をしたイマジンの名前ですね」

楠は首を縦に振る。

「それで何故、君はここに来た?レイの事を訊ねに来たわけではないだろう?」

良太郎は首を縦に振ってから、真っ直ぐ顔を楠に向ける。

「僕も今まで色んなイマジンの契約者を見てきました……。そう願いたくなるのも仕方ないと思えるものや、身から出たサビだろ、と言いたくなるようなものも含めてです。でもイマジンが積極的に殺人を犯し、その事で契約者が全く動揺もしなかったのは今回が初めてです」

楠は口を開く様子はない。

良太郎は続ける。上着の内ポケットからA4の紙を取り出して、楠に見せる。

「貴方がイマジンの行動に動揺しなかったのは、最初からイマジンに殺人をさせる事が目的だったからです。そして、これが動機です。違いますか?」

「………」

楠は良太郎が呈示した紙を一瞥してからテーブルの上に置く。

「ご名答だよ。よくわかったね」

楠は小さく笑みを浮かべた。

それは狂笑でも嘲笑でもない、純粋な笑みのように良太郎には思えた。

「ここからは僕の推測なんですが、多分遺書はあったんじゃないかと思います。それを教師である内山さんは隠匿し、処分したんじゃないかと思います。そして貴方は息子さんの遺書を何らかのかたちで知る事となり、今回の犯行に及んだんじゃないかと僕は思っています」

「まるで見てきたかのような推理だね」

楠は感心しているようだ。

良太郎は肯定と受け止める事にした。

「君の言うとおりだ。俺は遺書の下書きを始の部屋から見つけたんだ。それで全てを知ったのさ。始が同じクラスのある三人にいじめられていた事をね……」

「三人ということは、あと一人なんですね……」

良太郎の確認に楠は首肯する。

楠の体が震えている。

「楠さん?」

「君は俺にどうしてほしいと思う?」

楠は震えながらも良太郎に訊ねる。

「貴方自身が手を下したのならば警察へ自首する事を薦めます。でも、実行犯がイマジンである以上、僕達がイマジンを倒すしか、この事件を終わらせる方法はないと思っています」

良太郎は自分達---チームデンライナーに出来る最善の策を楠に告げる。

対して楠はというと、

 

「レイを倒したとしても変わりはしないよ」

 

身体を震わせながら言った。

良太郎は楠の震えが何なのかわからない。

『恐怖』ではないことはわかる。イマジンとの契約の際に殺人を要求する人物だ。

では何なのだろうかと良太郎は考えるが、今優先しなければならない事に頭を切り替えた。

「あと一人は誰ですか?」

自分の罪状をあっさりと認める楠に良太郎は賭けてみる事にした。

何せ自分は楠始の遺書の中身を見たことはないので、イマジンが誰を狙うかはわからないのだ。

「あの部屋に行けばわかるよ」

楠は指差す。

良太郎はその部屋に入る。

そこだけは廊下やリビングと違い、清潔感が漂っていた。

仏壇があり、側の柱には四枚の写真が貼られており、その内の三枚は赤色で×印がされていた。

それが何を意味するのかは良太郎にはすぐに理解できた。

「彼で最後なんですね……」

柱に貼られている×印がされていない写真を剥がす。

「ああ。そいつの名前は中谷友紀

なかたにとものり

。ピアノ教室の帰りに襲うようにレイと打ち合わせは済ませてある」

楠の言葉が全て本当ならばこれは『予告』だ。

「止めれるものなら止めてみろ」という挑発として受け止める事も出来る。

良太郎は仏壇に手を合わせて黙祷をしてから、楠と目が合う。

「止めてみせますよ。絶対に」

良太郎は静かにしかし強い意思を込めて告げた。

楠に会釈してから、良太郎は楠家を出た。

 

 

ハラオウン家ではエイミィが、夕飯の準備をしていた。

クロノは午前のように手伝い?をしていた。

リンディはそんな二人を微笑ましく見ていた。

フェイトは自室で学校の宿題をしており、アルフはテレビを観ていた。

良太郎は海鳴市の地図を見ていた。

ピアノ教室の数が少なかったというよりは、一つしかなかったのは幸いだろう。

楠の予告通りなら、中谷は稽古中は襲われる心配はないだろう。

これまでの三件のうち、いじめをした二人が殺害されている二件は両方とも稽古事が終わっての帰り道で襲われている。

ケータロスを開き、時間を見る。

地図を畳んで、良太郎はソファから立ち上がる。

「エイミィさん。僕は後で食べるから先に食べてて」

「うん、わかった。良太郎君気をつけてね」

良太郎はそうエイミィに告げる。

ここにいる誰もが良太郎が今からしようとしている事を知っている。

クロノもリンディも口には出さないが、思いとしてはエイミィの言葉と同じである。

「良太郎、負けんじゃないよ!」

アルフの激励に首を縦に振る。

「行ってきます」

そう言ってリビングを後にした。

 

リビングに通ずるドアを閉めて廊下に足を踏み込むと、そこには私服姿のフェイトがいた。

「良太郎、行くの?」

「うん。あと一人は守らないとね」

「あの……、わたしも行っていい……かな?」

フェイトの予想外の申し出に良太郎は目を丸くする。

「えと……、何で?」

良太郎はフェイトの真意を探る事にした。

好奇心で言っているのなら、即座に断りの言葉を送るつもりだ。

「良太郎がこれから戦おうとしているのに、わたし……夕飯を呑気に食べられないよ」

フェイトは申し出の時とは逆に決意を秘めた眼差しを良太郎に向ける。

「良太郎の無事をその場で見たいんだ。だからお願い。連れていって」

フェイトはもう一度良太郎に申し出る。

「……今から言う事を守れる?」

フェイトは見かけによらず頑固な部分がある。

一度言い出したら、余程の事がない限り考えを変えないだろう。

「うん。それで何なの?」

「僕がイマジンと戦っている間、どんなに僕が不利な状態に追いやられていたとしても絶対に手を出さないこと。守れる?」

「わかった。守るよ」

フェイトは良太郎が突きつけたあっさりと条件を呑んだ。

二人は舞台を海鳴の夜へと移した。

ちなみにこの廊下のやり取りを他の面々が聞いていた事を良太郎とフェイトが知る由もなかったりする。

 

 

満月は出ているが、それにも増してビルの電灯や街灯が輝いている海鳴市の夜。

良太郎とフェイトは中谷を尾行するかのようにして見張っていた。

「あの子が次の標的になるの?」

「うん。契約者はイマジンに彼を襲うように指示してるからね」

「でも、どうしてその契約者は良太郎にわざわざ襲撃予告なんてしたのかな?確実に実行したいなら隠しておくべきだと思うけど……」

フェイトの言っている事は良太郎にもよくわかる。

事を確実に成功させたいのならば敵対する側にわざわざ塩を送るような事はしなくていいはずだ。

「僕もそれは考えたんだよ。止めてほしいから僕に告げたのかなって。でも、それだと説明がつかないこともあるんだ」

中谷の前にはまだイマジンは現れない。

「説明がつかないこと?」

フェイトは訊ねながらも中谷の背中を視界に入れている。

「契約者は震えていたんだ。これだけの事をしてまるで動揺もしなかった人が、ね」

良太郎は答えながらも中谷を視界から離さない。

「怖くなったってことはないの?」

「どうなんだろう……」

人の心は移ろいやすいが、イマジンに三人も殺害させた復讐者がそう簡単に変わるものだろうかと考えてしまう。

それに楠が言ったあの一言が気になって仕方がない。

「良太郎、アレ見て」

フェイトが指差す方向にフリーエネルギー状の光球が中谷の近くに降りて、光りだす。

電柱の陰からレイイマジンがゆっくりと出現した。

「じゃあ、行ってくるよ!」

「うん!待ってるからね!」

フェイトの強い信頼の言葉を受け止めて、良太郎はデンオウベルトを出現させて右手にはパスが握られていた。

 

「中谷友紀だな?」

レイイマジンは確認するかのようにして目の前にいる中谷に訊ねる。

「そ、そうですけど……」

中谷は身体が震えながらも応答する。

「その命もらい……」

レイイマジンが中谷に命を奪うことを宣言しようとした時だ。

「誰だ?俺の邪魔をしようとしているヤツは?」

右手に握られていた剣をレイイマジンは振り下ろそうとはせず、自分の邪魔をこれからしようとしている者がいる方向に指す。

彼は自身に向けられた敵意を感じたのだ。

レイイマジンが剣で指した方向に現れたのは良太郎だった。

 

「悪いけど、君の思い通りにはさせない。モモタロス、行くよ!」

良太郎はレイイマジンにそう宣告してから、これから共に戦うイマジンの名を呼ぶ。

(おう!いつでもいいぜ!)

良太郎は魔導師でいう念話の状態で、高町家にいると思われるモモタロスと交信する。

デンオウベルトのフォームスイッチの赤色のボタンを押す。

 

「変身!!」

 

ミュージックフォーンが流れ出す。

パスをデンオウベルトのターミナルバックルにセタッチする。

良太郎からプラット電王へと姿が変わり、囲むようにして宙に赤色をメインカラーとしたオーラアーマーが出現し、その場で時計回りしてからそれぞれの部位に装着されていく。

頭部には桃がモチーフとなっている電仮面が走り出し、パカッと開いて仮面となっていく。

赤色のエネルギーが全身から噴出す。

右親指を立てて、自分を指して左手を前にして歌舞伎役者がやりそうな大仰なポーズを取る。

 

「俺、別世界でも参上!」

 

仮面ライダー電王ソードフォーム(以後:ソード電王)の完成である。

レイイマジンは中谷から離れて、ソード電王の前まで歩き出す。

ソード電王を倒さない限り、自分の仕事をさせてもらえないと判断したのだろう。

中谷はそのドサクサに紛れてその場から逃げ出した。

「貴様、もしかして電王か?」

レイイマジンはソード電王に確認する。

(半年前の時間の時は僕達のことを知らなかったはずなのに……)

深層意識の中にいる良太郎がレイイマジンの言葉に疑問を感じた。

「俺達が別世界で倒したイマジンの誰かから聞いたんじゃねぇのか?」

良太郎の疑問にソード電王は考えられる可能性を述べた。

(かもしれないね……)

デンガッシャーの左側パーツを二つ手にして、横連結させてから宙に放り投げる。

そして、素早く右側のデンガッシャーに手を付けて横連結させたパーツの上下に挟むように連結させる。

フリーエネルギーがデンガッシャーを纏い、武器としての大きさとなって先端から赤色のオーラソード

が出現する。

デンガッシャーをソードモード(以後:Dソード)にしてから、刃をレイイマジンに向ける。

「電王?違うぜ。いいか?耳の穴かっぽじってよーく憶えとけよ。俺は……」

ソード電王はレイイマジンから視線を離さずに言う。

 

「俺は仮面ライダー電王だ!!」

 

(モモタロス、どうして?)

「いいじゃねぇかよ。赤チビが考えたのかどうかはわかんねぇけどよ。センスは悪くねぇと思うぜ」

ソード電王(この場合、モモタロス)は今後もこの名前で通す気マンマンのようだ。

(しょうがないなぁ。もう……)

良太郎も承諾する事にした。

「テメェを倒してこの事件に幕閉じさせてもらうぜ!」

言うと同時にレイイマジンとの間合いを詰めてから、右手に握られているDソードを振り下ろす。

レイイマジンは避けようとはせず、自前の剣で受け止める。

互いの刃がぶつかり、パチパチと火花が散る。

空いている左腕で拳を作って、レイイマジンの顔面を狙う。

「!」

視界に入ったわけではないが、右側から何かが来ると直感したのか左足を膝蹴りの状態にして腹部を狙う。

「があっ」

「ぐうっ」

ソード電王の左拳がレイイマジンの右頬に、レイイマジンの左膝がソード電王の腹部に同じタイミングで入った。

互いに同タイミングで距離を開けるために後方へと退がる。

左手で食らった腹部を押さえるソード電王。

右手で殴られた右頬を押さえるレイイマジン。

「「………」」

両者共に刃を相手に向けている。

同時に駆け出す。

「うらああああああああ!!」

「はあああああああああ!!」

互いの刃がぶつかり、またも鍔迫り合い状態になる。

ソード電王がぶつかり合う、Dソードを強引に前に押し出す。

「なろぉ!」

鍔迫り合い状態が解き放たれ、レイイマジンは無防備状態になる。

Dソードを両手持ちから片手持ちにして、素早く胸部に袈裟、逆袈裟、左薙と素早く斬りつける。

斬られる度にレイイマジンの身体から火花が飛ぶ。

「ぐわああ!」

流石に今回のは顔面に殴られたのは比較にならないくらいのダメージがある。

「ぐっ……、うううううう」

胸部を左手で押さえながらもレイイマジンは剣を上段に構えて駆け出す。

振り下ろすギリギリでソード電王は後方へとバックステップして、上段振りの攻撃を避ける事には成功した。

だが、振り下ろした剣を構えなおして、更に間合いを詰めて右薙へと狙いを付けて斬りつけた。

「なに!?ぐわああああ!!」

下腹部を斬りつけられたソード電王からは火花が飛び散り、両脚で踏ん張る事も出来ずに仰向けになって倒れる。

背中に強烈な衝撃が走る。

「やるじゃねぇか。このエイ野郎!」

そう言いながら、ソード電王は器用に起き上がる。

「流石に幾多のイマジンを倒してきただけのことはあるな。電……いや、仮面ライダー電王」

レイイマジンは素直に評価の言葉を述べる。

 

ソード電王とレイイマジンの戦いをフェイトはじっと見ていた。

両者共に一進一退と分析している。

ソード電王が不利な状況に陥った時、声を出そうと思ったが勝つと信じるからこそ、声は出さなかった。

バルディッシュがない今の自分では無力といってもいい。

感情が先走って加勢と称して足を引っ張ってしまったらそれこそ、今戦っている良太郎やモモタロスに申し訳が立たない。

自分は良太郎の無事を見届けるためにここにいるのだ。

(受けたダメージは五分五分……、次にどちらかが致命的な攻撃を当てた方が勝つ!)

フェイトはそのように今後の戦闘の予想をする。

ソード電王とレイイマジンが同時に動き出した。

 

先に攻撃を繰り出したのはレイイマジンだった。

『斬る』という戦法から『突き』へと切り替えてきた。

「ヤロォ。戦い方変えやがって!」

(受けずに弾こう!その方が僕達が攻撃に移すチャンスが生まれやすいかもしれない!)

ソード電王はDソードで弾く事で突きの軌道を変えていく。

それでもレイイマジンの突きの猛攻はやまない。

「そろそろ決着をつけさせてもらうぞ!」

「ん?」

突きを辞めて距離を置く。

レイイマジンからフリーエネルギーが溢れ、それが刀身に充填されていく。

無形の構えから正眼へと構え直す。

「へっ。構えまで変えるからして大技ってか……」

ソード電王は正眼から無形へと構える。

「行くぞぉぉぉぉぉ!!」

上段へと構えなおして、そのままソード電王へと向かっていく。

道路が抉れているのが、先程までと比べ物にならない事を物語っていた。

「速えぇ!?」

上段から振り下ろすと思われる軌道を先読みして、Dソードで防御できる位置に構える。

ガキィンと音を立てて、受け止めるがレイイマジンの突進は終わらない。

「テメェ!このヤロ!離れやがれ!」

ソード電王は自分の後ろにあるものを見てみる。

突起物でないだけマシだった。何せ民家のコンクリート製の壁なのだから。

それでも食らいたくないので、両脚で踏ん張る。

足の裏と地面の摩擦によるものなのか足の裏から煙が出始める。

ドガシャアアアアンと音を立てて、コンクリート製の壁が破壊された。

瓦礫が飛び散って煙が立ち、先に出てきたのはレイイマジンだった。

「さて、仕事に戻るか」

中谷を追おうとするレイイマジン。

レイイマジンはフェイトと目が合う。

「電王なら倒したぞ」

淡々と告げる。

「まだ……良太郎達は倒れていません」

フェイトは荒げる事はないが、ハッキリとそう告げた。

「まだ、俺はくたばっちゃいねぇぞエイ野郎!」

ソード電王が煙から出てきた。

相応のダメージを負っているため、息を乱している。

その証拠に肩が上下していた。

「……アレを食らって生きていたのか」

レイイマジンの声には驚きが混じっていた。

「生憎だったなぁ。あのくらいの技

モン

なら何度か体験してんだよ!」

Dソードを右肩にもたれさせながらソード電王はゆっくりとだが、レイイマジンに恐れを抱かせるには十分なようにして歩く。

「今度こそ確実に葬ってやる!」

正眼に構えて、剣にフリーエネルギーを充填させる。

「言っておくが、俺に二度目はないぜ?」

挑発的に言い放つソード電王。

その証拠に左手でクイクイッと手招きする。

「言ったな!貴様!」

レイイマジンが走り出す。

同時にソード電王も走り出した。

しかも、確実にレイイマジンとぶつかる直線上に。

レイイマジンとの距離がほぼゼロになり出した時だ。

「今だ!」

そう言うと同時に、ソード電王の姿はレイイマジンの視界から消えた。

瞬間移動をしたわけではない。

素早くしゃがんでいたのだ。

「おらあああああ!!」

左足を軸にして右足を出して、そのままその場で脚払いを繰り出す。

レイイマジンの左足を捉えると、そのまま勢いを殺さずに振り切った。

「な、何!?しまった!」

ズシャっとそのままレイイマジンが倒れる。

「言ったろ?二度目はねぇってよ」

ソード電王は立ち上がる。

「立てよ。寝転がってるヤツに止めをさす趣味はねぇ」

レイイマジンは起き上がり、剣を正眼に構える。

「今度は俺の番だぜ」

ソード電王はパスを取り出して、ターミナルバックルにセタッチする。

『フルチャージ』

パスを右側に適当に放り投げる。

デンオウベルトからDソードの柄に向かってフリーエネルギーが伝導されていく。

オーラソードの刀身がバチバチバチと充填されていく。

「さあ、行くぜ!」

Dソードを片手から両手に持ち替える。

 

「俺の必殺技!パート1!!」

 

ソード電王は駆け出し、レイイマジンの懐手前に入り込んでDソードを下腹部へと狙いをつける。

レイイマジンは剣で防ごうとするが、フリーエネルギーが充填されているオーラソードの前ではチーズのようにあっさりと切断されて、右薙から左薙へと横一直線に斬られる事を許してしまう。

レイイマジンの切断された剣先が地面に刺さる。

「ここまで……か。だが忘れるな。俺を倒してもこの事件は終わらない!結果は何も変わらないんだよおおおおおおお!!」

まるで遺言か戦いに負けても勝負に勝ったと宣言するかのような台詞をはいてレイイマジンは爆発した。

爆煙が立ち込めると、その中からフェイトに向かって歩いている影が二つあった。

煙が晴れ、その正体が判明するとフェイトは笑顔になっていた。

良太郎とモモタロスだからだ。

「これでもう、殺人事件が起こることはないんだよね?」

フェイトが確認するかのように良太郎とモモタロスに訊ねる。

「当たり前ぇだろ!イマジン倒したんだからよ」

モモタロスは自信満々に言う。

「……うん」

対して良太郎はどこか浮かない表情をしていた。

楠と死ぬ間際のレイイマジンの言葉が妙に引っかかっていたのだ。

 

 

翌朝。

中谷友紀はいつも通り、小学校へと向かっていた。

彼は昨日、何故自分があのような異形の者に狙われるのかを考えていた。

ひとつだけ心当たりがあった。

(アレだ。アレしかない)

アレとは楠始のいじめ自殺だ。

あの二人が殺され、自分が狙われたとしたらそれ以外ないのだから。

「中谷友紀君だね?」

ボロボロのコートを着ていた長身の男がいた。

手には竹刀でも入っているかのような袋が握られていた。

「は、はい。そうですけど……」

中谷がそう答えると、男は手にしている袋の紐を解く。

袋の中には竹刀でも木刀でもない日本刀が入っていた。

それをみた瞬間、中谷の全身が強張る。

男は日本刀を抜き身にする。

 

「死ねぇ!!」

 

男はそう言うと同時に、日本刀を振り下ろした。

中谷は抵抗する間もなく斬られ、血を噴出して前のめりに倒れた。

「人殺し!」

「警察!警察だぁ!」

目撃者達は逃げたり、警察に通報したり救急車の手配などをする。

「やった……やったぞ。始、レイ。俺はやったぞ……。やったぞおおおおお!!」

長身の男---楠一朗太は逃げようともせず、高笑いをしていた。

 

ハラオウン家にいる良太郎がこの事を知るのに時間はかからなかった。

「そんな……、イマジンは良太郎が倒したはずなのに……、どうして……」

生中継で流れているニュースを見てフェイトは驚愕の表情を浮かべていた。

リビングにいるアルフ、リンディ、クロノ、エイミィも動揺の色を隠せないようだ。

「完全に読み違えてた……」

良太郎は拳を震わせていた。

そしてようやく理解した。

楠とレイイマジンの関係は従来の契約者と被契約者の関係ではないのだという事を。

例えるなら自分とイマジン四体の関係であり、桜井侑斗とデネブの関係に似ているのだ。

レイイマジンは楠一朗太の復讐心か何かに惹かれたのだろうと。

それは同時にレイイマジンが『別世界の時間の破壊』とは何の関係もない存在だという事もだ。

 

「俺を倒しても何も変わりはしない」

 

レイイマジンの言葉通りの現実が今そこにあった。

「………」

良太郎はやり切れない表情をしながらも一人の契約者とイマジンが全てを賭けて起こした結果を見ていた。

二度と忘れないために。




次回予告

第十四話 「命を救う手段 前編」

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