仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十二話 「契約者発見?」

突如、ゲートボールのスティックを上段に振り下ろした少女の奇襲攻撃によってモモタロスは地面に突っ伏した。

一瞬の出来事といってもよかった。

「モモタロスゥゥゥゥゥゥ!!」

隣にいた青年---野上良太郎は突っ伏したイマジンの名を叫びながら、助け起こそうとする。

「オマエ!ソイツから離れろ!今、あたしがやっつけてやるからな!」

赤とオレンジが混ざったかのような髪をおさげにした少女はスティックを構えている。

「ちょ、ちょっと待って!」

良太郎は少女の前に立ちふさがる。

「ん?何だよ。そこどけよ!危ないぞ!」

少女は自分がモモタロスに襲われていると勘違いしているのだろう。

「ああ、いや大丈夫だから。僕はモモタロスの仲間だし……」

「赤鬼の仲間?あー、もしかしてオマエ、仮面ライダー電王か?」

おさげの少女は事態を理解してから、良太郎に確認するように訊ねる。

「確かに電王だけど、仮面ライダーって何?確かシグナムさんも似たような事を言ってたけど、君はシグナムさんの仲間?」

良太郎は一度戦った女騎士がそのように自分を呼んだことを思い出して、訊ね返した。

「えーっと……」

少女は口をつぐむ。

「テメェ……」

モモタロスは頭を擦りながら起き上がる。

「モモタロス、大丈夫?」

良太郎がモモタロスに労わりの言葉を送る。

「ああ、何とかな。まだちょっと痛ぇがよ」

そう言いながら、モモタロスは少女を睨む。

「赤チビぃ。テメェ、奇襲とはいい度胸じゃねぇか?」

指をパキポキと鳴らすモモタロス。

「あ、えーっと……」

少女は自分が勘違いして攻撃した事に気付く。

モモタロスは一発殴らないと気が済まないというような雰囲気を出している。

「モモタロス……、相手は女の子なんだし……」

モモタロスに非がないのは確かだが、何とか振り上げた拳を収めようと諫言する良太郎。

「……ごめんなさい」

少女が頭を下げて謝った。

良太郎はそれでホッとした。

自分の非を素直に認めて謝罪する。

出来そうで出来ない事を彼女はやってのけるのだから、彼女の保護者の教育はよいのだろうと良太郎は勝手に推測した。

「……わーったよ。たく、そんなツラすんな。文句も言えねぇだろうが」

モモタロスも少女の誠意を持った謝罪に免じて許す事にした。

「侑斗は君達のところにいるんでしょ?あとデネブも」

良太郎は少女がシグナムと繋がりがあり、ひいては桜井侑斗やデネブとも繋がっていると推測した上で少女に確認するかのように訊ねる。

「オメェ、ダンマリ決め込めば決め込むほど、それが本当だって言ってるようなもんだぜ?」

モモタロスが付け加える。

「うっ、ううう。わかったよ!確かに、あたしは侑斗とおデブからオマエ等に関する事は教えてもらってる!これでいいだろ!?」

少々キレ気味に答える少女。

そして、彼女はスティックを構える。

「ハンマー使わねぇのかよ?」

モモタロスが言うハンマーとはグラーフアイゼンのことだ。

「使ってほしいのかよ?」

少女は戦闘態勢をとり、モモタロスも応じるかのような姿勢をとる。

「モモタロス。それに君も、いい加減にしなよ」

いつまでも先が進展しないので良太郎が二人に割って入った。

「良太郎……」

「オマエ……」

良太郎が怒っていると感じ取るとモモタロスは後頭部に手を当て、少女は構えを解いた。

「僕達は、君と戦いに来たわけじゃない。今、この辺りの事件を調べるために来たんだ」

良太郎が少女に自分達の目的を話す。

「事件?もしかして、あの斬殺事件か?」

少女が確認するように聞き返し、良太郎は首を縦に振る。

「イマジンが絡んでるかどうか調べるんだとよ」

モモタロスはそう言いながら、事件現場の臭いを嗅ぎ始める。

「イマジンが絡んでるかどうかなんて、わかんのかよ?」

「モモタロスがいれば何とかなるよ。あ、そういえば自己紹介まだだったね。僕は野上良太郎」

「……ヴィータだ。ちゃんと憶えとけよな」

少女---ヴィータも素直に名乗った。

「モモタロス、どう?」

「弱ぇけど、イマジンの臭いがするぜ」

モモタロスはそう告げた。

「?、赤鬼。臭い嗅いだだけでわかるのかよ?」

ヴィータがモモタロスに疑惑の眼差しを持ちながら訊ねる。

「俺の鼻を舐めんなよ?イマジンの臭いを間違えるわけねぇだろ」

モモタロスの嗅覚は特別であり、イマジンが持つ臭いを嗅ぐことが出来る。

ただし、臭いだけでイマジンの区別ができるという域ではないが。

つまり敵イマジンとウラタロス達---身内イマジンが近い距離にいた場合は、総合して『イマジンがいる』と言う事は出来ても、『カメ達がイマジンと戦っている』と言う事は出来ないのだ。

「ヴィータちゃんは殺された二人と面識なんて……」

「言っとくがねぇぞ」

良太郎が訊ねようとした事をヴィータが先に答えた。

「そっか……」

「まぁ、この事件にイマジンが絡んでるってわかっただけでも十分じゃねぇか。そうだろ?良太郎」

「うん。後は契約者だね」

むしろ本題はここからといってもいい。

イマジンが契約者を持たずに実体化して行動する『はぐれイマジン』でない限り、イマジンと契約者はワンセットと考えられている。

今回の契約者の真の動機はわからない。

しかしイマジンが殺人を犯している以上、契約者の精神状態が正常を保っていられるとは思えなかった。

「なぁ」

「ん?」

「なんだよ?赤チビ」

ヴィータが良太郎とモモタロスに声をかけた。

「オマエ等、この手のプロなんだよな?だったら聞くけど、こんな事件を引き起こしているイマジンの契約者ってヤツは何をイマジンに望んだんだよ?」

ヴィータの問いに良太郎とモモタロスは顔を見合わせる。

「さぁな。そういうのは良太郎かカメの仕事だからなぁ」

モモタロスは良太郎に丸投げをした。

「今、思いつく限りでは復讐かな……」

良太郎は今自分が考え付く中で、もっとも信憑性の高い動機を口に出した。

「復讐?」

ヴィータは首を傾げる。

「うん。人間が復讐目的で殺人を犯したら犯罪だけど、イマジンがやっても罪にはならないしね」

イマジンは人間ではないので、法律が適用されないだろう。

それに目撃者が『得体の知れない怪人に殺された』と証言しても警察は取り合ってはくれないだろう。

常識外の現実を認めないことで成立する完全犯罪といってもいいだろう。

「何だよ?それ。それじゃやったもん勝ちになっちゃうじゃん!?」

ヴィータが憤りを感じる。

「そうだね」

良太郎はヴィータの言葉を否定しなかった。

「で、これからどうする?良太郎」

モモタロスとしては自身のやるべき事を終えたので、高町家に戻りたいというのが本音だ。

「被害者二人が殺される原因がわかればいいんだけどね……」

「原因って動機の事かよ?だったら……」

ヴィータが割り込んだ。

「心当たりあるの?」

「本当かよ?それなら教えろよ赤チビ」

良太郎とモモタロスが詰め寄る。

「前にじーちゃんやばーちゃんが言ってたんだけどよ。殺された教師の学校って何か問題があったらしいぜ」

「「問題?」」

一人と一体は声を揃える。

「どういう問題かは知んねーけどな」

ヴィータの口ぶりからして彼女はこれ以上の情報を持っているようには思えなかった。

「帰ろうぜ。良太郎」

「そうだね」

モモタロスはそう言うと、同時に自身をエネルギー化して良太郎に入り込む。

髪が逆立ち、体つきがよくなり、瞳の色が赤い。

髪の一本には赤いメッシュが入っている。

「じゃーな赤チビ。借りができたな」

モモタロスが憑依した良太郎(以後:M良太郎)がデンバードⅡに跨ってから、ヴィータに言う。

「借り?チャラにしてやるよ」

「何でだよ?」

「オマエ、あたしと戦って勝っただろ?あたしはオマエに借りがある状態だったんだよ。だけど、今のでチャラだ。文句ないよな?」

「じゃあ、次遭ったらまた遠慮なくいくぜ?」

M良太郎が挑戦的な瞳でヴィータに告げる。

「上等じゃん!赤鬼、あと白いヤツにもそう言っとけよな」

白いヤツというのは高町なのはの事だとM良太郎は判断する。

「わーったよ。じゃあな!」

そう言ってM良太郎はデンバードⅡのアクセルを噴かした。

 

モモタロスが高町家に入ると、夕飯とも思える良い匂いが鼻をくすぐる。

「今日はビーフシチューだな」

そう言いながら、リビングに向かうモモタロス。

「帰ったぜー」

モモタロスがリビングに入ると、全員が視線を向けた。

全員がそれぞれの言い方で「おかえり」と言ってくれた。

「で、モモ。何かわかったの?」

コハナが胡坐で座っているモモタロスに結果を訊ねるために横に座る。

「良太郎の勘が当たってな。今回の事件、イマジンが絡んでるぜ。事件現場にイマジンの臭いが残ってたからな」

モモタロスは得た情報をコハナに包み隠さず話した。

「契約者はどうなの?センパイ」

ウラタロスがイマジンとワンセットとなっている対象の事を訊ねる。

「それはまだわかんねぇんだよ。赤チビが言うには殺された二人の学校に何かあるんじゃねぇかとか言ってたなぁ」

モモタロスは自身の許容量で憶えていた事を口に出す。

『赤チビ』という単語が出た時、誰もが驚いた。

なのはを襲ったあの少女と遭遇したのだから。

「モモの字、アイツと遭って何かあったんか?」

「……奇襲で頭を殴られた」

キンタロスが皆が思っていることを代表してモモタロスに訊ねる。

ヴィータに殴られた部分を擦りながら、モモタロスは被害箇所を告げた。

「だ、大丈夫ですか!?モモタロスさん」

「キュキューキュキュキュー(手当てをしたほうがいいんじゃ……)」

なのはとユーノ・スクライア(フェレット)が心配する。

「二人とも、そんなに気にする事ないよ。センパイにとってはいつものことだしね」

ウラタロスは心配する一人と一匹とは逆に明るかった。

「「?」」

「モモタロスはね、あの顔だからよく襲われるんだよ。ぷぷ」

リュウタロスが怪訝な表情を浮かべている少女とフェレットに笑いながら話した。

「テメェに顔の事で言われる筋合いはねぇぞ。小僧」

モモタロスはリュウタロスの後頭部を叩く。

「何すんのさぁ!僕モモタロスみたいに顔だけで悪者になったことないしー」

リュウタロスもモモタロス並に凶悪な顔つきをしてはいるが、それで理不尽に襲われた事はなかったりする。

「あ、あのモモタロスさんもリュウタ君も落ち着いて」

なのはが喧嘩になりそうなモモタロスとリュウタロスを止めに入る。

「「………」」

なのはにそう言われてしまえば二体ともやめるしかない。

ちなみにコハナは拳を振り上げようとしたが、先手を取られたので慌てて引っ込めていた。

そのことを知るのは一匹のフェレットだけだったりする。

 

モモタロスと高町家で別れてから良太郎は速度を上げる事もなく、法定速度より+五キロの速度でデンバードⅡを操っていた。

その中で見知った少女が一人歩いているのを見かけた。

金色の髪をツインテールにした少女---フェイト・テスタロッサだ。

恐らく高町家からハラオウン家へと帰る途中なのだろう。

「フェイトちゃん」

良太郎が徐行運転からデンバードⅡを停車させてから少女に声をかける。

「良太郎」

呼び止められたフェイトは呼び止めた人物に顔を向けると、見知った相手なので表情が緩んだ。

「なのはちゃん家からの帰り?」

「うん。良太郎は?」

「僕は第二の事件現場に行っての帰り、かな」

「何か収穫はあった?」

「イマジンが絡んでる事は間違いないと思うよ。ただ契約者はサッパリ、かな」

「そうなんだ……」

フェイトはデンバードⅡの後部に腰掛ける。

良太郎は自分のヘルメットをフェイトに被せる。

これで準備は整った。後はアクセルを噴かして走らせればいいだけだ。

「それじゃ行くよ」

「うん。いいよ」

フェイトは良太郎の腰に両手を巻きつけるようにして持つ。

二人を乗せたデンバードⅡが走り出した。

走り出してから五百メートル程になっての事だ。

「良太郎」

フェイトが声をかけてきた。

「どうしたの?」

良太郎は前を向いたままだが対話しようとする。

「さっきの人、体から砂みたいなものが噴き出ていたよ」

「え、誰?どの人?」

良太郎はデンバードⅡを停車してからフェイトに捜してもらう。

「あ、あの人だよ」

フェイトは気を遣ってくれたのか小声で教えてくれた。

フェイトが指した人物は長身痩躯で身なりはどこか汚らしく、清潔感というものが全くない。

顔を見てみるが、髭は剃っておらず目の下に隈が出来ていたりとろくな生活を送っていないと思われる。

右手にはビニール袋が握られており、その中には色々入っていることは確かだろう。

「フェイトちゃん。時間ある?」

「尾行するんだね。うん、大丈夫だよ」

「ありがとう」

ターゲットを見失わないように、デンバードⅡを操りながら尾行する事にした。

良太郎とフェイトはターゲットとなる男に気取られないように、適度な距離を保ちながら尾行していた。

途中見落としそうになったが、男から噴き出ている砂が目印となって助かった。

「ここが終点、か」

二人はデンバードⅡから降りる。

ターゲットが入っていった家は高町家程ではないが、それなりに大きい家だった。

だが、とても人が住んでいるようには感じられなかった。

中庭も雑草で茂っており、手入れに行き届いていない事がよくわかる。

「人、住んでるんだよね?」

フェイトが確認するかのように良太郎に訊ねる。

「家の中に入ったんだから住んでる事になるね」

玄関前の壁にかかっている表札を見る。

表札には『楠』と記されていた。

「何て読むの?」

フェイトは日本語は堪能に話せるが、書いたり読んだりする力はまだ乏しい。

「くすのきって読むんだよ」

良太郎が難なく読み上げた。

冷たい風が二人にかかる。

「帰ろっか」

良太郎の言葉にフェイトは驚く。

「いいの?中に入ったら色々聞けるかもしれないよ?」

「そうだけどね……」

フェイトの言う事も尤もだ。

今から中に入ればイマジンの契約者に事件の真相を聞きだすことは可能だし、ベストとするならイマジンと戦う事も可能だ。

だが、良太郎は突入しようとは思わなかった。

今から突入したとして「貴方、イマジンと契約してるでしょ?」と訊ねる前に「住居不法侵入で訴えてやる」と言われてしまえばそれでお終いだからだ。

再度来るには契約者に弁解の余地を与えないほどの材料がもうひとつ必要になる。

それはイマジンと契約するための動機だろう。

すでに楠なる人物がイマジンと契約を交わしていることはこの玄関前に撒かれている砂が証拠になっている。

「今度ここに来る時は終わらせる時だよ」

良太郎はフェイトにそして、契約者に向けてそのように告げた。

一瞬だが、その場の温度が下がったように感じた。

フェイトは腕を組んで身を縮こませていた。

 

 

鈴木武は友人数名とともに空手道場の帰りだった。

その友人の中にはフェイトやなのはが通っている聖祥学園の者も含まれている。

明日の事や流行もののテレビ番組のことや今ハマっているテレビゲームの事など話すネタは尽きなかった。

「鈴木武だな?」

異形の者が鈴木の前にいきなり現れた。

影からにゅるると出てきたわけでもないし、上空から急降下してきたわけでもない。

本当にいきなり現れたのだ。

「そうだけど?」

空手の有段者である鈴木は怪人のコスプレ程度では怯まない。

「その命貰い受ける!」

そう言った直後に異形の者は手にしていた武器を振り下ろした。

「ぎゃあああああ!!」

振り下ろし終えると同時に鈴木の体から血が噴き出て、前のめりに崩れ落ちていく。

「「「ひ、人殺し!!」」」

鈴木の友人三人は恐怖のあまりにその場から逃げ出した。

異形の者は逃げた三人を追うことはしなかった。

「あと一人だな」

異形の者は武器に付着している鈴木の血を掃うとその場から去った。

 




次回予告

 第十三話 「濁りの末路」

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