仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十話 「海鳴の夜を乱すもの」

太陽は出ていないが時刻でいえば午前の時間帯。

辺りは薄暗く、正直肌に突き刺さるように寒さが襲い掛かってくる。

リビングのソファをベッド代わりにしている野上良太郎は卓に置き、目覚まし代わりとして使っているケータロスを手探りで掴む。

アラームを止めると、良太郎は起き上がって軽く伸びをしてから服を着替える。

「さぶ……」

自分のいた世界では夏ぐらいなのだが、こちらは冬。

オーナーに予め冬着を貰っていないと、風邪を引いて倒れていただろう。

「さて、朝ごはんの準備始めるか」

米をといでから、味噌汁の具を考える。

「ここはわかめと豆腐かな」

鍋の中にわかめとさいの目切りにした豆腐を放り込み、味噌を放り込んで強く煮立たせる。

小皿に少々入れてから、良太郎は味見をする。

「うん。これならいけるね」

良太郎は満足すると、点火していた火を止める。

「おかずは玉子焼きかな」

これは出来たての方がいいといえばいいので、皆が起きてからの方がいいだろう。

ミッドチルダの人間が和食を好むかどうかは半信半疑だ。

「リンディさんは多分大丈夫だろうし、フェイトちゃんとアルフさんも大丈夫。クロノとエイミィさんはどうかなってところだけど……」

ここまで作ったものは変えることはできない。

とりあえず今日はこれで通して、不満があるなら要望を聞こうと考えた。

既に届いた新聞を手にして、広げてみる。

「どれどれ……」

良太郎は大まかに新聞を通す。

『小学校教師。斬殺される』

と、地方欄に大きくなっていた。

「ええと昨日、海鳴市の市立小学校教師内山守氏が何者かによって斬殺された、か」

海鳴市の治安がどの程度のものかはわからない。

前の時は新聞を読んでいたわけではないが、少なくとも自分の身の回りには魔導師とイマジン絡み以外は特になかった。

「財布等を盗まれた形跡はなく犯行動機は怨恨の線が濃厚と思われる、か」

新聞を畳んでから、テレビをつける。

ニュース番組が始まっていた。

メインキャスターが寒いギャグをかましていた。

女子アナがどこか馬鹿そうなことを言っていた。

そんなどうでもいいやり取りが何分か続くと、メインキャスターが真剣な表情で新聞と同じ内容のことを語り始めた。

『海鳴市は比較的平和な街だというイメージがあるのに、こんな物騒な事件が起こると住民は不安になるでしょうねぇ』

『ほんとですねぇ』

メインキャスターと女子アナのそんなことを言っていた。

スリッパの音が複数しだしたので、良太郎はソファから立ち上がる。

炊飯器を見ると既に炊けており、味噌汁を温めなおして、人数分の玉子焼きの調理に取り掛かることにした。

全員がリビングに足を踏み入れてから、良太郎は言う。

「おはようございます。もうすぐ朝ごはん出来ますから」

と。

 

全員が卓に着き、朝食を食べていた。

席は良太郎、フェイト・テスタロッサ、アルフ(人型)となり、向かいにはリンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタとなっていた。

「良太郎が作ったごはん、食べるの久しぶりだよね」

「うん!」

フェイトとアルフは嬉しそうに食べていた。

「ミッドチルダでは中々食べれないから、和食が食べれるとわかると嬉しくなっちゃうわね♪」

リンディは満足そうに味噌汁をすすっていた。

「これ、全部良太郎君が作ったの?」

エイミィが玉子焼きを食べてから、良太郎に訊ねる。

「ええ。まあ」

良太郎は正直に答えた。

「すごいね。私の周りって家事の出来る男の人って中々いないから、ちょっと尊敬しちゃうなぁ」

エイミィの素直な評価に良太郎は誤魔化すようにして味噌汁をすする。

「良太郎、貴方は長いのか?その家事等をするようになって……」

「そうでもないよ。姉さんが入院した時にやるしかなかったから、やるようになっただけだからね」

良太郎はクロノの質問に正直に打ち明けた。

ハッキリ言って一年も満たないだろう。

どうやら、全員満足して食してくれているのがわかると良太郎は成功だと喜んだ。

朝食を終えると良太郎は皿を洗い、フェイトは皿を拭いて、アルフは皿を片付けていた。

三人の無駄ない動きにリンディ、クロノ、エイミィは目を丸くして驚いていた。

「ありがとう。二人ともこれで終わりだからテレビでも見てていいよ」

「うん」

「はーい」

フェイトとアルフはリンディ達とともに良太郎が見ていたニュース番組と違うニュース番組を見ることにした。

内容は新聞や良太郎が見ていたニュース番組と同じものだった。

海鳴市で起きた斬殺事件である。

「物騒な事件ねぇ」

リンディはエイミィが淹れてくれたお茶に独自のブレンドをしてすすりながら言った。

「斬殺って、剣でも使ったのかな?」

エイミィは斬殺と聞いて凶器が刀剣類ではないかと勘繰る。

「どうしたの?良太郎」

良太郎が真剣な表情でニュース番組を見ていると、フェイトが横に立って訊ねた。

「うん?いや何でもないよ」

フェイトに何もないと良太郎は答えるが、この事件が何故かはわからないが妙に気になっていたのは確かだった。

 

 

高町なのはとユーノ・スクライア(フェレット)、そしてモモタロスは海鳴市桜台にいた。

ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナは高町家で新聞読んだり、談話したりしていたりする。

「まだリンリンコア、回復してねぇのか?」

モモタロスはベンチに座って、両掌を見て浮かない表情をしているなのはを見て訊ねた。

「はい。魔法を使おうにも上手く発動してくれないんです……」

なのはは、そのことにもどかしさを感じている。

一日も早く、魔法を使えるようになって『闇の書』や『時間の崩壊』などを解決するための助けになりたいと考えているため、焦っているのだ。

「なのは。焦っても仕方ないよ。薬で回復が促進できるわけじゃないんだし、ゆっくり行こう」

ユーノは焦っても仕方がないと、なのはに諭す。

「うん。でも……」

なのははやっぱり、浮かない顔をしている。

「俺達の事で焦ってんじゃねぇだろうな?」

モモタロスの言葉に、なのはがびくっとしたのは言うまでもない。

「焦るじゃないですか!?今月のうちに、わたし達の住んでいる世界の時間が崩壊するなんて言われたら!」

これが、なのはの本音だろう。

「だがよ、何の手がかりもないんだぜ。どうすんだよ?」

モモタロスは対照的に落ち着いていた。

「それはその……」

なのはは答えるのに戸惑う。

「俺達も今までと違って、どうしようか戸惑ってんだよ。何せ、今までこの手のデカイ事しようとしているヤツ等は、オッサンが名前くらいは教えてくれたからな。今回はそれすらねぇからな」

モモタロスとしても、今後の成り行きを見守るという自身のスタイルに反する事をしなければならないことにもどかしさを感じている。

「とにかくだ。アカチビ達とやりあうにしたって、今のオメェじゃ足手まといになるのはわかりきってんだ。変な事考えてねぇでよ。リンリンコアを戻す事考えてろ」

モモタロスはそう言うと、両太ももを叩いてベンチから立ち上がる。

「帰ろうぜ。そろそろ朝メシだしな」

「「はい」」

モモタロスの一声に、なのはとユーノは返事をした。

モモタロス達はパトカーがやたらと走っている姿を見る。

「何だぁ?」

「パトカーが走ってますね」

「何か事件でもあったんでしょうか?」

そんなことを言いながら、一体と一人と一匹は高町家へと戻っていった。

 

 

「やけに騒がしいな」

桜井侑斗は首を鳴らしながら、八神家のリビングにゆっくりと歩いてきた。

「侑斗さん、おはよう。早いやん」

キッチンには家主の八神はやてが車椅子を器用に操りながら、朝食の準備に取り掛かっていた。

「外がやけに騒がしいな。どうしたんだ?」

「何か、この辺りで事件が起こったらしいで」

はやてはホットミルクを侑斗に渡した。

「事件?」

侑斗はホットミルクを受け取り、聞き返す。

「うん。ところで、シグナム達はまた夜更かしさんか?」

はやてはシグナム達がまだ、眠っている理由を侑斗に訊ねる。

「ああ、夜遅くまで色々やっていたんだろ……」

実情をはやてに話すわけにはいかない。

侑斗は新聞を取りに、玄関に向かっていった。

廊下で、バタバタとしているシャマルと出くわした。

「八神なら起きてるぞ」

そう言うと、「ええぇー、どうしましょう!?完全に寝坊しちゃったぁ!」と嘆きながらリビングへと向かっていく。

新聞ウケに入っている新聞を取り出して庭に向かうと、デネブが草むしりをしていた。

「侑斗おはよう。早いね」

デネブにしても侑斗がこの時間に起床して、行動しているのは珍しいようだ。

「そろそろ朝メシの時間だ。入るぞ」

「うん、わかった」

デネブは両手に着いた草をパンパンと払いながら、侑斗の後をついていった。

侑斗がデネブを連れて、リビングに入ると先程まで眠っていたはずのシグナムとザフィーラ、そして寝ぼけ眼のヴィータが起きていた。

シグナムは、ホットミルクをじっと見ており、ヴィータはテーブルで寝ぼけ状態でありながらも、ホットミルクを飲んでいた。

シャマルははやてに代わって、キッチンにいた。

「デネブ」

「了解!」

侑斗はキッチンにシャマル一人がいることを危険だと判断し、デネブに指示した。

その判断にシャマルを除く全員が「グッジョブ!」と心の中で思っていたのはいうまでもないことだろう。

 

 

私立聖祥学園。

フェイトは本日、転校初日だ。

正直、メチャクチャ緊張している。

なのは、アリサ・バニングス、月村すずかという友人がいなければ柱の陰にでも隠れるか、穴を掘ってどこかに入って事の成り行きを見守りたいと思っていたに違いない。

ちなみに現在、フェイトは廊下にいる。

もちろん、服装は私服ではなく聖祥学園の制服だ。

「さて皆さん。実は先週、急に決まったんですが今日から新しいお友達がやってきます。海外からの留学生さんです」

担任教師が自分のことを大まかに説明してくれてはいる。

(どどどどどど、どうしよう。昨日は練習しようと思ったけど全然出来なかったし、良太郎は変に緊張する事ないって言ってくれたけど、クロノやエイミィは転校初日の成功如何で今後の学生生活に影響するって言ってたし……、どどどどど、どうしよう)

だが、それがフェイトの緊張を和らげる効果を与えてくれているわけではないようだ。

(そ、そうだ。まずは深呼吸!)

すーはーすーはーとフェイトは深呼吸をする。

「フェイトさん、どうぞ」

担任教師が声をかけた。

(よし!行こう!)

フェイトは両手を拳にし、覚悟を決めてドアに手をかけた。

「し、失礼します」

フェイトが入ると、教室内で色んな声が出ていた。

正直、それらを全て聞き取れるほど彼女は豊聡耳ではない。

教師の近くまで歩み寄る。

「あの、フェイト・テスタロッサといいます。よろしくお願いします」

自己紹介を終えてから、頭を下げた。

教室内から拍手が送られた。

(よかった。上手くいったんだ!)

フェイトは自分の自己紹介が上手くいったことで心内では安堵の息を漏らした。

 

 

フェイトが初の学園生活を送っている頃。

良太郎は翠屋で店内のモップがけしていた。

壁時計にして午後十二時になりつつあった。

書き入れ時である。

良太郎はミルクディッパーでの経験を活かして、難なく接客をこなしていた。

イマジン四体は着ぐるみを着て、入口で客寄せをしていた。

ちなみに着ぐるみの種類はオオカミ、ペンギン、ゾウ、ドラゴンである。

コハナは厨房で食器洗いをしている。

OLや女子大生等が入ってきた。

ペンギンは大喜びだったりする。

良太郎としても接客で大忙しだった。

しかも、良太郎がなまじ顔立ちがよいため、接客のたびに男日照りの女性達の目がギラリと光っていたりする。

そういう視線などを良太郎は感じているのか、女性が相手となると少々尻込みしてしまう。

書き入れ時が過ぎると、翠屋店内はガラガラとまでは言わないが客の数は激減していた。

「良太郎君、少し遅いが昼休みにしようか」

高町士郎がカウンター席から良太郎に勧める。

「そうですね」

良太郎はカウンター席に着く。

外で客寄せをしていた着ぐるみ四体(以後:着ぐるみ4)もカウンター席に着く。

厨房にいたコハナと高町桃子が人数分の昼食を用意してくれた。

着ぐるみの頭部を外して食事するイマジン達。

コハナもカウンター席に座って食事をしている。

良太郎は昼食をとりながらも、気分転換がてらにニュース番組が映っているテレビを見ていた。

「小学校の教師が殺された事件だね。聖祥ではないにしても、他人事とは思えないね」

士郎が深刻な表情で感想をもらす。

「でも、こんな事件が起こると子供達の登下校なんかが心配になってくるわよね」

桃子が娘や友達が襲われたりしないか不安になる。

「士郎さん。事件が起こった場所ってここから近いんですか?」

「良太郎君、気になるのかい?」

「ええ、まあ……」

士郎は良太郎のいつもと違う雰囲気に何かを感じ、下手な追求はせずに住所を教えてくれた。

 

 

『小学校教師殺害事件』の現場から距離にして二、三キロ離れた場所にある一軒の家。

高町家ほどではないが、それなりに大きな家である。

しかし庭には雑草が茂っており、空き家っぽく見えなくもない。

時間にして夜になろうとしている段階なので、照明をつけないと暗くて何が何だかわからないのだが、家主は照明のスイッチを入れようとはしない。

むしろ、この状況を満足しているようにも思える。

家主---楠一朗太は壁に貼り付けてある写真の一枚に赤く×印を記していく。

その写真は殺害された内山守の写真だった。

楠は嬉しそうに笑っていた。

そして、仏壇に祭ってある遺影を手にする。

「これから始まるからな……」

遺影として写っているのは小学生くらいの男の子だった。

「今夜も行うんだろ?」

「ああ」

背後からする声に楠は振り返らずに答える。

「……あと三人だ」

「ああ、そうだな。任せておけ」

背後の声はその直後、なくなった。

 

 

良太郎はデンバードⅡを駆って殺害現場に来ていた。

デンバードⅡを停車させて、降りる。

現場周辺には『立ち入り禁止』という黄色いテープが張られていた。

夕方だが、今日一日は制服警官が門番のように立っていた。

覗き込むようにして見る。

地面に血が付着しており、チョークか何かで被害者の倒れた位置が描かれていた。

「ああ、君。ここは立ち入り禁止だ」

制服警官の一人が良太郎に注意する。

(現場に来たからといって、何かがわかるわけじゃないか……)

良太郎はこれ以上は何も収穫できないと判断すると、制服警官に頭を下げてデンバードⅡに乗り、アクセルを噴かせて、その場から去った。

 

 

 




次回予告

第十一話 「犯人捜しと遭遇」

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