第一部より長くなっていますのでお付き合いください。
第一話 「思い渦巻くは時の空間」
時の列車デンライナー
次の停車駅は『過去』か『未来』かそれとも再び……
別世界の『過去』か?
*
モニュメントバレーを髣髴させる荒野。
そこは『時の空間』と呼ばれる空間であり、通常の方法では見ることはもちろんの事、行く事も出来ないという特殊な場所だ。
そんな空間を五輌編成の電車が一台、線路を敷設と撤去の工程を繰り返しながら走っていた。
この電車もただの電車ではない。
『時の列車』と呼ばれており現在、過去、未来を行くことが出来る電車の姿をしたタイムマシンだ。
『時の列車』は今、一直線にある場所に向かって走っていた。
それは別世界の『時の空間』に渡る事ができる『橋』に向かっていた。
「あれが『橋』か……」
『時の列車』の持ち主は先頭車輌に搭乗して、コントローラーであるバイクに跨っていた。
モニターごしにもハッキリとそれが『橋』だとわかっていた。
「ここを渡っていけば別世界に行ける、か」
彼は『橋』を見るのは今が初めてだ。
今まで自分が現在、操縦している『時の列車』を修復していたのだ。
この『時の列車』は実を言うと、以前に戦闘で大破している。
ほぼ修復不可能に近い状態にまで持ち込まれていたのを以前よりパワーアップさせたのだ。
「奴等がこの『橋』を渡っていったという話は聞いている……」
右手で右側の何かを触ろうとする仕種をするが、空気を掴むかたちになってしまう。
「………」
右手で拳を作り、ぷるぷると震わせている。
「今のままでは奴等に勝つ事は難しい……。だが!必ず必ず今度こそ葬ってやる!」
彼はバイクのグリップを回した。
『時の列車』が『橋』に向かって走っていった。
『時の列車』が走り抜けると、『橋』は最初からなかったかのように消え去った。
『時の列車』が向かった時間はというと、別世界の六月一日だった。
*
緑の牛の頭をした車輌を先頭にした二輌編成の『時の列車』が『時の空間』を線路を敷設しながら撤去するという工程を繰り返しながら走っていた。
ゼロライナーである。
「相変わらず変わらない景色だな」
ゼロライナー二輌目の『ナギナタ』の後部にあるデッキに二十歳前の青年がいた。
桜井侑斗。
それがこの青年の名前であり、仮面ライダーゼロノスに変身し、『時の運行』を守るために戦っている。
いわば野上良太郎の仲間、もしくは同業者である。ただ彼は良太郎とは違い、変身する際にはあるものを支払わなければならないため、良太郎のように頻繁には変身できないというデメリットを常に抱えていたりする。
「未来の俺とは別の時間を歩むことができる、か……」
彼と共に戦ってくれているイマジンが言ってくれた言葉だ。
そして、それに似たような事をとある人物にも言われた事がある。
その人物は自分の中ではできる限り言ってほしくなかった人物でもあったりする。
「……歩んでいるようには思えねぇよ」
一人でそう呟くと、侑斗は『時の空間』の空を見上げていた。
侑斗自身、消滅した未来の桜井侑斗(以後:桜井)とは違う時間を歩む事ができるといっても今ひとつピンと来ないものがあるのも確かだ。
自身が消滅した桜井と元が同一の存在だということは紛れもない事実だからだ。
自分と共に戦っているイマジンと似たような事を言ったのは桜井が愛し、自分も想いを寄せている女性---野上愛理だ。
正直な話、以前に会いに行った際に脈があるかもと侑斗も思ったが、桜井の後釜をちゃっかり乗るようなマネをしているような気がしたので侑斗としては納得できないものだった。
そして、現在に至るわけだ。
愛理への想いが自身のものなのか桜井の呪縛なのかはわからない。
自分の意思と公言しても自分が『桜井侑斗』である以上、説得力はないに等しい。
(考えても仕方ないか……。なるようにしかならないからな)
取り敢えず愛理のことや自身のこれからの身の振り方については保留する。
「侑斗ー。お菓子持ってきたよー」
全身を黒いローブのようなもので包んで、カラス顔のイマジン---デネブがお菓子が入っているバスケットを持って、客室からデッキに出てきた。
「おお」
侑斗はバスケットの中身を覗き見る。
デネブの顔がデフォルメされている絵柄の袋に包まれている飴---デネブキャンディだ。
「別世界、か……。野上達は一度行った事があるんだったよな……」
侑斗はバスケットからデネブキャンディを一つとって、袋を開いて口の中に放り込んだ。
空になった袋は丸めて客室にあるゴミ箱に向かって放り投げる。
見事に入った。
「うん。行く前に聞いておいたほうがよかったかも……」
デネブとしてはこれから向かう別世界に関しての唯一の情報源ともなる良太郎達に事前に聞いておいたほうがよかったと後悔していた。
「野上とは時間が逢わなかったんだから仕方ないだろ。それに俺達が顔を出せばそれだけで、あいつは事件だと勘付くからな」
二個目のデネブキャンディーを口に放り込む。
丸まった空袋はやっぱり、ゴミ箱の中に入った。
「……うん」
侑斗としても、できるなら良太郎達に今から向かう別世界の事は聞いておきたかったというのが本音だ。
全くの未知の世界---体験者の証言ほど有益なものはないだろう。
知識のあるなしで今後の行動に雲泥の差が出る事は間違いないことだ。
「オーナーさんは何も教えてくれなかったから……」
デネブも自作のキャンディーを口に放り込み、丸めた空袋をゴミ箱に向かって放り投げる。
角に当たって、ゴミ箱には入らなかった。
「肝心な事だけは教えてくれたけどな」
侑斗の表情が真剣なものになる。
「別世界の時間が破壊される……。まさか、カイみたいな奴が何かを企んでいるとか?」
デネブはゴミ箱に入らなかったゴミを入れるために、客室に戻っていく。
「さあな。オーナーも何が原因でそうなるかはわからないみたいだからな」
侑斗はそう言いながらも、オーナーの言葉を鵜呑みにしているわけではない。
現在の段階でも自分よりは何かを知っている事は確かだと睨んでいる。
知っているのならば聞きたいところだが、自分がオーナーと舌戦で勝てる確率はゼロに等しい。
つまり、体よくはぐらかされるのがオチというところだろう。
「……苦手なんだよな。何か見透かされている感じがしてよ」
それが侑斗のオーナーに対して抱く感情であり、デネブには聞こえないようにして呟いた。
「侑斗。もうすぐ、目的の時間に到着するよ」
「わかった」
客室からデネブがそう言うと、侑斗はデッキから客室へと移動した。
さらに客室から先頭車輌へと移動する。
先頭車輌は客室よりも殺風景で、中央にモニターとゼロライナーのコントローラーとなるバイク。マシンゼロホーンがあるだけだった。
ゼロライナーが『時の空間』を抜ける。
抜けた時間は別世界の十一月一日だった。
時間の破壊が行われるといわれる時間の一月以上前だった。
*
「やった!でも自動二輪って思ったより簡単に取れたような気がする……」
野上良太郎は本日取得した自動二輪の免許証を眺めて、笑みを浮かべていた。
ちなみに良太郎が取得したのは、大型の自動二輪免許である。
元来、大型自動二輪を取得するには小型自動二輪でのキャリアが前提となる場合が多い。
良太郎は小型でのキャリアはないに等しいが、マシンデンバードを操った経験がモノをいわせることができたのか、すんなりと取得できた。
(電王やみんなが憑いてる時もデンバードを操るけど、あれって、よく考えたら無免許運転だからね)
仮面ライダー電王(以後:電王)に変身している時はともかく、変身前の状態でイマジン達が憑いてデンバードに乗っている場合、いざという時に警察に出くわして免許の提示を言われた場合にはどう転んでも言い逃れができない。
道路交通法に触れ、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金を食らうことになるだろう。
警察の世話になったことは何度かある(ほとんどが濡れ衣か事情聴取)が、いくらなんでもこれでお世話になるのは世間的にも『時の運行を守る者』としてもどうだろうということで、免許取得を決意したのだ。
別世界での冒険から既に三ヶ月が経過していた。
本来ならもっと早くに取得する事ができたのだが、色々と事件が起きてここまで時間がかかってしまったのだ。
「本当、元に戻ってよかった」
良太郎は確認するかのように自身の掌や身体を見る。
青年であり、十九歳の野上良太郎の身体だ。
実を言うと彼は別世界から戻って、すぐに身体が少年の身体になるという異変が生じた。
それに輪をかけるように鬼ヶ島でオニと戦ったり、侑斗と姉の愛理の問題や、自分の未来の孫である野上幸太郎と相棒ともいえるイマジンの問題、遂にはお宝を狙う仮面ライダーや時間警察直属の電王等との戦いなど、まるで自分に免許の取得をさせないかのように立て続けに事件が起こったのだ。
それでも何とか乗り越えて、現在に至るというわけだ。
「今日は姉さんが免許の取得のお祝いをしてくれるって言ってたから、早く帰ろうっと」
良太郎は小躍りしたい気持ちを抑え、早足で帰ろうとする。
だが彼は不幸の女神もしくは疫病神に愛された男、野上良太郎である。
一日が幸運ばかりで終わるわけがない。
その証拠に彼の眼前には囲むようにして、三人の不良少年が待ち構えていた。
彼等の目的は勿論、良太郎が持っているお金である。
(あれ?何だろう……)
良太郎は絡まれているのに、特に恐怖心のようなものが全く出てこなかった。
「お兄さん。景気よさそうな顔してるじゃない?」
「だったらさぁ。恵まれない俺達にもお兄さんの幸せ、分けてくんないかなぁ?」
「俺達、懐寂しいんだ。頼むよぉ」
ニヤケ顔で三人が陳腐な台詞を吐く。
以前の、それこそ電王になる前の自分だったら、お金を支払っていただろう。
だが、今の良太郎は特に彼等が『怖い』とは思えなかった。
彼等以上に『怖い』相手と戦った事があるからだ。
そう、生きるか死ぬかの命がけの戦いを。
だからこそ、金銭目的だけで暴力を振るうというチャチな行動しか取れない彼等に恐怖心を抱かなくなっているのだ。
「あの、貴方達に渡すお金はありません。諦めてください」
良太郎はできる限り低姿勢で断った。
変に煽るような事を言えば、即取っ組み合いになることはわかっているからだ。
「俺、耳が悪くなったのかな。よく聞こえなかったなあ」
「俺もだよ」
「俺も俺も、お兄さん。もう一回言ってくれないかなぁ」
不良少年達は額に青筋立てながらも、温厚な口調で言う。
「悪いけど、渡すお金はないって言ったんだ」
今度は素に断った。
その直後に良太郎と不良少年を囲む空気が変わった。
常人ならそれだけで恐怖で身体全身が震えて動けなくなるだろう。
だが、良太郎にしてはたかが不良少年---小悪党中の小悪党だ。
イマジンや『時の運行』を乱そうとする人間達に比べれば本当に子猫のようにも見えた。
「それじゃ、僕は帰ります。こんなことばっかりしないで真面目に働いた方がいいと思いますよ」
良太郎はそう言いながら、何事もないようにその場から歩き出す。
だが、
「オイ?テメェ、調子に乗ってんじゃねぇよ」
「俺達が優しくしてりゃ、つけあがりやがって!」
「ぶっ殺してやる!」
三人がそれぞれの構えを取る。
(三人とも格闘技をかじってる……)
良太郎には三人の構えだけでそれを判断する事ができた。
三人とも、同じ構えを取っていた。
空手だろうと良太郎は判断した。
それでも良太郎は恐怖を感じない。
真ん中にいる男が右足を振りかぶっていた。
左足を踏み込んで、右足を頭部に狙いをつけているのがハッキリと見えた。
(あれ?)
良太郎はそれがハッキリ見えており、彼の攻撃が自分が思っている速度よりもはるかに遅い事に気づいた。
自分の『蹴り』においての特訓相手がウラタロスだから速度に差が出るのは当然といえば当然だ。
だがここまで差が生じるとは良太郎も思っていなかった。
(これって、当てていいんだよね?)
良太郎はそんなことを考えてから、右足を踏み込んで左足を中央の不良少年の頭部に狙いをつけて繰り出した。
相手が右ハイキックに対して、良太郎は左ハイキックだ。
相手の蹴りが自分の頭部に当たる事はなかった。
「ぐへぇ」
自分よりも速く蹴りのモーションを繰り出した不良少年が間抜けな声を上げて、倒れたからだ。
蹴りのモーションをすぐに解き、元の姿勢に戻る。
ただ立っているだけの姿勢だが。
「ヨッちゃん!」
「こいつ、相当やりやがる!」
不良少年達の目つきが変わった。
目的が『金銭』から『仲間をやられた報復』に切り替わったのだろう。
「あの、やっぱりやめません?」
良太郎は残った二人に辞めるように勧めてみる。
「ふざけんな!」
「絶対に潰す!」
逆鱗に触れる結果となった。
右側の男が右正拳を繰り出す。
コレもやっぱり、特訓相手であるモモタロスと比較すると雲泥の差が出てしまう。
良太郎は左フックを繰り出す。
相手の拳は自分の顔面スレスレで停まって、崩れ落ちていった。
繰り出した左フックはカウンターとなったのだ。
「ユウ君!」
最後に残った一人が動揺を隠さずにはいられなかった。
「やっぱりやめません?」
良太郎は最後に説得してみる。
「ふざけんな!俺達はこれでも黒帯の二段だぞ!そんな奴を二人も一撃でしとめて、もうやめません?だと!ふざけんな!」
説得は無駄に終わった。
三人目の空手は両脚をその場で軽くトントントンとリズムを取るように跳躍する。
そして、そのまま左右に翻弄するように動く。
だが、良太郎はそれをきちんと目で捉えていた。
リュウタロスの動きに比べればあまりにも稚拙なものだった。
(見えた!次で来る)
それだけハッキリわかると心構えができた。
「もらったぁ!!」
不良少年が左フックを繰り出す。
良太郎はそれを右手で弾いた後、左手を拳から開手にして、不良少年の右頬を張り飛ばした。
キンタロス程ではないが、それでも威力はあるだろう。
虚を突かれた一撃なので、恐らく脳はグラグラ揺れているはずだ。
「あ、あああ……」
不良少年の三人目も崩れ落ちた。
「すげぇ!」
「あの兄ちゃん!めちゃくちゃ強い!」
「カッコいい!!」
などという声がしたので後ろを振り向くと、
先程の喧嘩を見ていたのか、女子高生やサラリーマン、果ては現在気絶している不良少年達とは違う部類の不良少年達が拍手なり声援を送っていた。
良太郎は気を失わせた三人をガードレールにもたれさせてから、ギャラリーに適当な愛想笑いを浮かべてその場から離れた。
ミルクディッパーに戻ると、姉の愛理とその取り巻きである尾崎正義と三浦イッセーが笑顔で出迎えてくれた。
「良ちゃん、お帰りなさい」
「「お帰りぃ。良太郎君!!」」
「ただいま。やっと取れたよ」
良太郎はそう言いながら、三人に免許証を見せた。
「やったじゃない。良ちゃん!おめでとう!」
「「おめでとう!良太郎君!」」
「あ、ありがとう」
良太郎は笑みで応える。
「今日はご馳走作ったから、たくさん食べてね」
「ありがとう。姉さん」
和洋中色々とまざった夕飯だった。
夕飯を食べ終えると、良太郎は外に出て、夜空を見上げた。
満月となっていた。
「みんな、元気にしてるかな……」
良太郎がさす『みんな』とはデンライナーの面々だけでなく、別世界の仲間達も含まれていた。
三ヶ月も前のことなのに、昨日のように思い出せる。
といっても、電王になってからの自分の人生はまさに毎日が祭りのようなものだった。
休む暇もなければ、どうでもいい時間なんて一つもないくらいだ。
それでも、別世界で過ごした時間は新鮮であり、刺激的だったといってもいいだろう。
ズボンのポケットから着メロが鳴り出した。
ポケットから取り出すと、ケータロスだった。
通話ボタンを押す。
「もしもし」
「おう!良太郎!久しぶりだな!」
「モモタロス!久しぶり、どうしたの?」
「オッサン(オーナーの事)がオマエに話があるってよ。今からそっちに向かうぜ」
半ば一方的に伝え終えると、モモタロスの通話が切れた。
それから数秒後。空の空間の一部が歪み、線路が敷設されながら地上に向かっていく。
『時の列車』デンライナーがこちらに向かって走って、停車した。
デンライナーのドアが開く。
モモタロスがいた。そして、良太郎に向かって手を差し出す。
「乗れよ!良太郎、みんな待ってるぜ」
「わかった。今行くよ。モモタロス」
良太郎は迷うことなくモモタロスの手を握り、デンライナーへと乗り込んだ。
次回予告
第二話 「警告 別世界の時間が滅ぶ!?」