自作自演売りの少女   作:甲板ニーソ

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独自設定ありの割りとシリアスでグロいかもしれない。
ブラック・ブレットの二次創作です以上。


第1話

 

赤いランドセルに備え付けの留め金に掛かった巾着袋から、学校指定の体操服と紅白帽子を取り出し指差し確認。眼前に鎮座するそれらすべては遥か昔の在りし日々の記憶を懐古させる品々でありながら、身に纏えばこれ以上ないほど似合う有様。

 

名札にはひらがな5つでこくらとも……漢字で記せばたった三文字 小倉 智なのに態々ひらがな。だが……おかしなところは何らなく、むしろ違和感を覚えている自分こそが異端そのもの。まぁ……何の因果か女子小学生やってます。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

ブラック・ブレット『自作自演売りの少女』 第一話 井の中の蠱毒

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「朝食もう出来ちゃってるから、座って食べちゃいなさい。冷めると不味いんだから……ほらお父さんも新聞読んでないで」

 

母親の催促に首を縦に振ることで答え、朝の空きっ腹を解消すべく食卓に着けば、食欲をそそる香ばしい匂いがお出迎え。洋食の朝定番メニュー外食、喫茶店やファミレスでもお目にかかるソーセージ・目玉焼き・野菜の付け合せを口に運ぶ。

 

未だに違和感は拭えないが、些細なことと飲み込んだ。違和感を覚えた原因は単純、現物から想定される味と実際の味にズレが生じているからである。例えると牛肉を食べた筈なのに舌が感じたのは鶏肉とかそんなズレ。見た目似せただけの合成食料だからさもありなん。

 

じゃあ代替物の合成食料を食べ慣れているのは何故かって?一般的には今の人間様はかつての隆盛を鑑みれば見る影もないぐらいに生存域を失ってしまっているからであった。俺が住んでる東京を中心とした関東の一部からなる東京エリアを含めて、文化的な生活を送るのを可能とする区域が日本でたった五箇所な辺り笑えない。よって天然物は中々に高級食材、少なくとも庶民の食卓に毎日上るのが困難な程度には……さて、連々と述べたがうちの家、庶民にしては裕福な立ち位置で、実は天然物を週に数回以上は余裕で食べれる稼ぎ。でもお祝い事を除いて基本紛い物な理由は自身の生まれにあった。

 

生まれが生まれなため、万が一に備えてお金が入り用なのである。ただでさえ変な子供なのに厄介な特性持ちとか肩身が狭くてしょうがない。これが親とも思えぬ人でなしなら、容赦なくたかれるが……昨今では大変珍しい私的世界遺産との呼声も高い善人なので始末におえない。罪悪感でのたうち回りそう……過去に罪の意識で眠れぬ夜を過ごしたこともあったり。

 

「ん?どうした智。眉間に皺寄せて可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「給食のご飯はその……ちょっと微妙なのに、家のご飯は美味しいなぁって……どっちも同じ様な食材使ってるのにどうしてかなって思ったの」

 

「その疑問の答えは簡単さ。母さんの料理は調理に一手間掛けてるから同じ紛いもんでも違いを感じるのは当然なんだよ!」

 

デレデレとしながら自慢げな表情で語る。特定個人を想って作った思いやりの結晶なんだからと。

賛同の意を示すと、母さんは今の時代お腹一杯食べれることだけでもありがたいことと俺を窘めるものの、日頃よりも早口で、エプロンを揺らして去っていく後ろ姿からも照れてるのがまるわかりであった。葛藤を見抜かれ誤魔化しに掛かったけど、嘘は言ってないので許して欲しい。

 

「そうそう、コンタクトはきちっと付けていきなさい。集団生活にはもう十二分に慣れた頃合いでしょうけど……下手に慣れきった時が一番足元掬われ易いって相場が決まっているしね」

 

「忠告ありがと。何事も石橋を叩いて渡れだね」

 

返答に満足したのか、洗い物に専念して後に続く言葉はない。速やかに洗面所に向かい歯磨き諸々済ませよう。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

イチゴ味の幼児用歯磨き粉が妙に甘ったるく、口を必要以上にゆすいでしまった。目は悪いどころかアフリカ原住民に並ぶ2.0にも及ぶが、度なしのコンタクト……それもカラコンを手慣れた手付きで目元へ。失明の危険すら孕む、生物学上必要もない異物で瞳を覆わせるのを念押しするのには無論わけがある。じゃなかったら誰が好き好んで……愛を以って接してくれてるのが、ありありと感じられる我が身を危険に晒すものか。すべては現代の魔女狩りから逃れるため……生まれながら奇病に罹患していたが故の災難から身を守るためだった。

 

「―――攫われて、実験されて頭のなか弄くりまされたって……バックストーリーもなしに、感情が高ぶると目が爛々と赤くなる……まるで漫画みたい」

 

黒から血を連想させる赤へと瞬く間に切り替わる。巫山戯た世界の在り方に文句を吐く前に、此処に自分が存在してる方が、よっぽど摩訶不思議かと囁くように独り言ち。スイッチを落として改めて鏡を見つめる……見つめ返すは人形の如く整った腰にまで至る長髪の童女。髪も目も吸い込まれそうな漆黒で、歳は初等部の一二年であろうと推察される出で立ち。

 

俺が鏡に触れれば彼女も触れる。溜息を発せば彼女も溜息……俺と彼女は=で同一人物、行動が一致して当たり前だった。二度目の人生、二度目の小学生。しかも前世とは近くて遠い異世界に輪廻転生。徳を積んだ覚えもない宗教ごった煮の信心さが皆無の典型的日本人がだ……笑うしかないだろう。誰が予想説明できる?予測不能回避不能の奇跡の体現。前世最高の頭脳集団だろうと匙を投げる。分野が違う……科学の範疇を逸脱して魔法の領域、況や量産型文系大学生だった非才が理論付けしようなぞ烏滸がましい。早々に見切りをつけて今世について頭を悩ますことにしたのである。

 

女の癖して内心の一人称が俺だなんて乱暴なそれなのは十年も遡れば男であった名残で最後の牙城。お赤飯を炊く節目を迎えてないおかげで、未だ性差の戸惑いは薄いが……いずれ必ず来る第二次性徴に際して取り乱さずにいられる自信は毛ほどもない。

 

―――無事10の誕生日まで辿り着けるかも怪しい奴が気にするだけ無駄かもしれないが……

 

「行ってきまーす」

 

両親から額に交互に接吻を受ける恒例の儀式を終えて、通学路を往く。俺を介して間接キスするのはいかがなものかと考えつつも結局は、仲良き事は美しき哉と思い直して、春風を頬に受け、熱くなった体を落ち着ける。

 

「また、赤目の化け物が事件を引き起こしたらしいわよ。しかも被害者は大怪我で病院に搬送されたらしくて、意識不明の重体ですって……本当物騒よね」

 

「私最近不安で不安でしょうがないわ。お偉いさんたちも重い腰を上げて駆除に動いて欲しいのに保護に注力だなんて、見当違いも甚だしくてやになっちゃうわ」

 

無駄に耳聡い聴覚が雑踏に混じった雑音を拾い上げるのが辟易の種だ。聞きたくもない井戸端会議の内容すら鮮明に届く、過ぎたるは及ばざるが如し。人間の嗅覚が犬並みなら、些細な悪臭でも嗅ぎ分け、日常生活が困難になるだろう。

 

しかし―――駆除だなんて、野犬を保健所が殺処分するみたいな気軽さには眉を顰めざるを得ない。あの調子なら近くに居る少女が、彼女たちが揶揄する化け物だと知った途端、金切声を発して罵詈雑言を浴びせるのは想像に難くない。

 

例えそれがなにもしてない状態だろうとだ……可能性があるだけで断罪するに躊躇はないらしい。世代から察するに赤目に対してPTSD、心的外傷後ストレス障害あるとはいえ些か以上にいき過ぎである。さながら潜在犯扱いで、世間様からは白い目で見られるだけには飽きたらず、危害さえ加えられこともしばしば。必死に隠す理由もお分かりいただけたと思う。

 

救いのないことにこれでも東京は聖天子、✟で名前を囲みそうなネーミングのエリアトップを張ってるお方が、奇病の罹患者に対して優しくあらせられるおかげで他の地区より差別が温いのだが、それでもこのご覧のあり様……思わず目からしょっぱい汗が流れ落ちそう。

 

行きつけのスクールバスが停車してるのを確認してスカートを翻さない程度の早歩きでタラップを登り、指定席めいた場所へと座る。同級生含む在学生に注目を浴びぬのを心がけて、曇った表情をなるたけ楽しいことを意識して和らげに務めた。次の停車駅では懇意にしてるクラスメートとも会うので話題作りにも余念がない。

 

「麗華ちゃん、お久しぶり。連休どうだった?」

 

手を軽く振り、顔を覗き込むように体を乗り出して幼稚園時代からの馴染み、草津麗華に興味津々といった体を装い話しかける。お喋りなこの娘ことだ。話の取っ掛かりさえ作ってあげれば、後は聞き役に徹するだけで話が進むだろう。比較的会話の組み立て楽で助かる。

 

「うん!最近改装した水族館でイルカさんのショー見てきたけど楽しかった。金曜からお休みで……え~と、金土日月で今日は……ん~とん~と」

 

「一週間は7日で月火水木金土日、昨日は月曜で明日は水曜、さて今日は何曜日?」

 

「火曜日!指を曲げると5回だから5日ぶり。こんなに長く合わないの珍しいからちょっと寂しかった……」

 

前世の主観、大人というにはまだ未熟だった、二十歳前後の物差しからすると、たった5日なのに大袈裟なとも思うが、子供の頃に経験したことは誰もがある例のあれ……小さい時の体感時間は異様に長かったりするもの。ご多分に漏れず麗華も、友達と離れ離れになっていた寂しさを埋めにかかったと見て間違いない。

 

「そうそう!智は先週の天誅ちゃんとみた?もちろんテレビの前で釘付けだったわよね」

 

「麗華ちゃんの言う通り、片時も目が話せなかったよ……特にイエローの決め台詞の件辺りはね」

 

あのシーンは色んな意味で凄かった……驚きの余り、口を半開きにして固まるという間抜けな絵面を晒してしまったぐらいだからな。

 

「わざわざ、進めた甲斐があったじゃない。あそこに目を付けるなんて見込みあるわ!」

 

「あはは……そうかなぁ?」

 

「絶対そうよ。悪漢共に対して舌っ足らずに、おにーちゃんのハートをズキューーーンと射抜いちゃいます♡ってのは可愛くて撫でたり抱きしめたりしたくなるわぁ」

 

確かに作画も気合入ってたし、声優の演技もキャラにあって愛らしかったが、流石にその感想にはお兄さん同意できそうにないわ。だってさ?決め台詞と供に物理的に敵の心臓射抜いて血反吐吐かせて絶命させた上で満面の笑みとかーーーどこのサイコパスだよ!

 

おジャ魔女や東京ミュウミュウ系統の路線かと思ってたら、萌え絵のスプラッター番組だったのである……度肝抜かれたね。

 

「クラスのみんなも天誅にはまってるし、誰それが好きってので今回も盛り上がるのは必死ね。あぁ、言うまでもなくあたしはイエロー推しよ!!!」

 

ヒートアップが留まるところを知らぬ麗華が熱く語っているのは通称天誅、正式名称天誅ガールズといい。現在民放で放送中のアニメで、題材は忠臣蔵で有名なかの赤穂浪士を元にした魔法少女ものなのだが……何をどうトチ狂ったか、ゴールデンにホラー映画も真っ青なレベルの臓物飛び交う闘いを展開するクレイジーアニメである。

 

内容だけ聞くと一部の大きな子供たち以外には敬遠されそうなもんであるのに、大きな子供どころか小さな子どもに至るまで、まだたった数話の放送で心を掴んで離さぬ人気を博しているそうだから、事実は小説よりも奇なりとしか言えない。昔の日本の首相じゃないが、彼の語録を借りたいと思う……流行情勢は複雑怪奇なり。

 

 

―――話し込んでたら、学校はもうすぐそこ。今日もまた苦行が始まる。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

小学校というのは基本、放課後しかも平日18時以降にでもならなきゃ静寂とは最も縁遠い場所の1つで、ある種動物園と読んでも差し支えない。

 

「とも~今日の私なにか違ってみえない?ひと味ちがうしょっ?」

 

「ともちゃん、連休明けの宿題の絵日記終わらないよぉ~手伝って」

 

「とも~天誅ガールズごっこしましょ。あなたバイオレットね」

 

てんでバラバラに話しかけてきて、且つまったく異なる役割を求めてくる。幼稚園という集団生活もどき経験した程度じゃ、我慢のがの字もありはしないのであった。

 

「まーちゃんは髪留め変えたね……フリルがお洒落でよく似合ってるよ。みぃちゃんは、連休中にやったことを口頭で羅列して、それらしい台本を書き上げるから、台本を元に自分で書くこと。けーちゃんはごっこをするのはいいけど、バイオレットはあんまりだと思うの!考えなおして」

 

知識のみならず思いやり、社会性を身につける場ではあるものの。低学年に期待するのは無理無茶無謀、俺が私がの自分本位さを建前にも包まずに無責任に放り出すのが常。

 

「だよねぇ~鈍い子たちばっかで、呆れ果てちゃうところだったしょっ!」

 

「わっ……わかった。遊園地に行って、観覧車に乗ってメリーゴーランドに乗って、ジェットコースターは身長が足りなくて断念してーーー」

 

「やっぱ、だめか~不人気は持ち回りにしないと無理ゲーかな?」

 

周りに目を配れば、狭い教師の中を走り回った挙句転んで、痛みに耐えかねて転がりまわる奴。スカート捲りを狙って獲物を物色してる悪戯っ子、些細な行き違いで口論する者と面白がってそれを煽る野次馬……視界に入れるだけで、授業が始まってもいないのに気力が尽きそうである。

 

「おらぁっ!てめぇらチャイムはもう鳴ってんだぞ。廊下に立たされたくなかったら、速やかに席につけ!」

 

調教師もとい壮年の担任が現れると蜘蛛の子を散らす如く、机へと着席。一瞬得難き、静寂が教室を包むが、数分もしないうちにお叱りも忘却の彼方……囁きあふれる辺り、喉元を過ぎ去れば熱さを忘れてしまうのだろうな。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

―――習ったことも復習レベルなら、やることに否はない……でも短期間に同じこと延々とやらされるのは誰であろうと嫌気が差すのではなかろうか?

 

「2021年に何の前触れもなく世界各地に出現し、人類を絶望の淵に叩き込んだ寄生生物、ガストレアは猛威を振るい―――」

 

分かりきったことだからと舐めてかかって上の空だと例え、正しい答えを返せたとしても担任からの悪印象は避けられず。周囲から悪目立ちで浮いてしまう。波風立てずに暮らすには真面目に授業を受けるしかないのであった。これが中々にキツい、精神が摩耗する。

 

「敗北に次ぐ敗北を重ね。当時の人口が極端に落ち込む大絶滅が引き起こされたところまでは前回の授業でやったな?お浚いだ!出席番号十だとあ~小倉、それによって人間の変異種が生まれ始めたわけだが、そいつらなんて呼ばれてるか分かるか?」

 

「……呪われた子供たち……でしたよね?」

 

「正解、忌むべきガストレアの病原菌の宿主で最近の治安悪化の大本と目される。危険人物たちだろ、奴らの棲家になってる外周区には怖いもの見たさで迂闊に近寄るんじゃねぇぞ。危険で一杯だからな。後町中で、てめぇらと同年代の小汚い女が居たら、まずそれも呪われた子供だからな覚えとくように」

 

は~いという聞き分けのいい返事の合唱が、罪がなくとも忌々しい。担任の説明も間違っちゃいないが、悪戯に差別を助長するもので非常に歯痒のだ。

蔑称で蔑まれる呪われた子供たちだって、九分九厘はそうせざるを得ない崖っぷちに追い込まれたが故の行動なのに……ガストレアと同じ赤目だったというだけで人間性は鑑みられずに親に捨てられてゆく。酷いと生を受けたその日にあの世へと送り返される。

 

普通の暮らしを心がければ、おかしくならずに天寿を全うできるのに管理もせず、臭いものには蓋。こんな環境で自棄っぱちにならないほうがおかしい。明日への希望が持てない歪んだ世界なのだ……大半の奇病に罹患者にとっては……

 

―――だから改めて想う。俺こと小倉 智は恵まれていると。人々に望まれないモノでありながら両親からは、人並み以上に愛を与えられ、温かい食事とふかふかのベットでの眠りを心配せずに迎え続けられる。優しい世界の住人であれるのだから。

 




『あとがき』
ブラブレの撮り貯めてたアニメを一気見する機会があって、設定等にドハマりしてしまったので、リハビリがてら久々に小説書きました。もう1つの小説の方は8~9月を目処に更新再開の予定ですので、お待ちいただければ幸いです。

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