艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 愛宕無双はどこまで続くのかっ! もちろんまだまだ終わらない!

 まさかのお誘いや、今の状況と昔を思いだして苦悩する主人公など、まだまだ1日は終わらない。
 今章の主役、ビスマルクと良い雰囲気になっちゃうのか、それともまたまた悲劇が起きるのかっ。

 もう少しだけ続きますっ。



その5「夕食のお誘い」

 

 それから五月雨を起こした俺は、未だガクガクと震える身体を心配し、おぶって幼稚園の案内を再開した。

 

 他の部屋にいた子供達と五月雨の顔合わせをしながら幼稚園施設の説明もこなし、一通りの案内をし終えて玄関の前にやってきた時には終業時間を過ぎていた。下駄箱の中には子供達の上履きが入っていて、すでに寮へ帰っているみたいだった。

 

「以上で幼稚園の案内は終了しましたけれど、何か気になる事とかありましたか? もし俺で答えられる事なら、包み隠さず話しますけど……」

 

「いえ、大体は理解したわ。基本的には普通の幼稚園と一緒だけれど、艦娘の身体能力なども考慮に入れた施設もいくつかあったし、参考になるところも多かったわね」

 

 ビスマルクはそう言いながら笑みを浮かべる。

 

「私もお友達がいっぱい増えましたっ! こんな身体になっちゃって不安でしたけど、ここで上手くやっていけそうですっ!」

 

 元気良く声を上げた五月雨なんだけれど、未だに俺の背中におぶられて小刻みに身体を震わせているのは如何なモノだろう。

 

「それじゃあ、五月雨は艦娘寮の方へ案内するけど……ビスマルクはどうします?」

 

「そうね……このまま佐世保に帰っても良いのだけれど、少しお腹も空いたわね。良かったら案内のお礼に、夕食を一緒にどうかしら?」

 

「それは良いですね。オススメの店があるので、そちらでどうでしょう?」

 

「それじゃあ決まりね。先生が五月雨ちゃんを寮に案内する間に、私はここの元帥に報告をしておかなくてはいけないから、どこかで合流というのがベストだと思うんだけど……」

 

「それじゃあ、幼稚園の前で待ち合わせにしましょう。ここから店までそれほど遠くないですし、元帥が居る建物からも迷いにくいですから」

 

「ええ、分かったわ。それじゃあ、今から30分後くらいで良いかしら?」

 

「それで大丈夫です」

 

 俺はそう言って頷いてから、一旦ビスマルクと別れて五月雨を寮に連れていく事にした。

 

 

 

 

 

「ここが五月雨がこれから住む事になる寮の建物だ。部屋は207号室って聞いているから、まずはそこに向かってくれるかな」

 

 寮の前に着いた俺は五月雨を背中から下ろし、ポケットの中に入れていたメモに目を通しながらそう言った。

 

「あれ、先生は中まで案内してくれないんですか?」

 

「そうしたいのはやまやまなんだけど、残念ながら艦娘の寮内は男子禁制なんだよ」

 

「へぇ~、佐世保とは違うんですね」

 

「という事は、佐世保の方では入れたの?」

 

「ええ――とはいっても、入ったところを見た事がありませんけどね」

 

 五月雨はそう言って、少し苦笑を浮かべていた。

 

「そっか……舞鶴でもそうだったら嬉しいんだけどなぁ……」

 

「えっ、それじゃあやっぱり……?」

 

「あ、いやいや、全然疾しい事とかそんなんじゃなくてだな。子供達が寝坊した時とか、起こしに行けなくて大変だったりするんだよ」

 

「ああ、なるほどー」

 

 納得したように頷いた五月雨だけど、さっきの突っ込みはちょっと危なかった。

 

 もちろん本音は愛宕へアタックできるかも――である。そりゃあ、子供達に何かあった時に駆けつけられるのも大事だけれど、大概は他の艦娘が色々とやってくれるしね。

 

 ただ、この間の遠足以降から、どうも愛宕へのアタックがやり辛いんだよなぁ……

 

「それじゃあ先生、これからよろしくお願い致します」

 

「ああ、こちらこそよろしくな」

 

 頭をペコリと下げて挨拶をした五月雨に俺も頭を下げ返し、手を振って寮の中へ入って行くのを見送ってから腕時計に目を落とした。

 

「まだ時間は少し早いけど、遅れる訳にはいかないしな……」

 

 俺はそう呟いて、幼稚園の方へと足を向ける。

 

 赤く染まった空が徐々に黒味を帯び、外灯に明かりがついていく。

 

 お腹の減り具合もそこそこに、今日の食堂は混んでないとありがたいのだけどなぁ……と祈りを込めながら、俺はゆっくりと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 約束の時間より10分ほど早めに着いた俺は、携帯電話をいじりながら時間を潰してビスマルクを待った。ニュースサイトを適当に見ていると、世界経済と深海棲艦を絡ませた文章があり、俺はなんとなく目を通す。

 

『現在、世界各国間における海路は未だ不安定で、資源の輸送が課題となっている。自国に資源がある国はそれほど影響は出ないけれど、そうではない国で、かつ、貿易を盛んに行っていた国では経済の破綻の足音に脅える毎日であるが、現状を打開する策はまだ無い』

 

「………………」

 

 俺が先生として子供達を育てているのも、元をたどればこれに当てはまる。しかし、子供達が大きくなり、艦娘として戦場に向かう時の事を想像すると、胸が締めつけられる思いになる。

 

 海で怪我をするかもしれない。もしかすると沈んでしまうかもしれない。仲が良くなればなるほど、もしもを考える度に苦しみが増加してしまうのだ。

 

「分かっちゃいるんだけどな……」

 

 以前は深海棲艦を倒す為だけを考えて生きてきた。それができるのならばなんでもすると言わんばかりに、勉強も運動も精いっぱいやってきた。

 

 海軍関係の試験にことごとく滑りまくったのは運が悪かったのだろうけれど、それがあったからこそここに居られるという思いもある。

 

 ――もし、自分が昔のままならこんな思いはしなかっただろう。

 ――もし、自分が昔のままなら艦娘達の事を道具としか思わなかっただろう。

 

 それは、俺が先生になり始めの時に出会った中将と同じ。あんな考えだけは絶対にしたくない。

 

 それは、愛宕との会話で教えられた事であり、子供たちと触れ合う事で覚えた事である。

 

 どちらが良いかなんて事は分からない。それは客観的に見なければ理解できないだろうけれど、今更そこには戻れない。

 

 ――いや、戻れないのではなく、戻りたくないのである。

 

 泣いて、笑って、悲しんで、楽しんで。

 

 子供達も、艦娘達も、兵器ではなく人間と何ら変わりないのだ。

 

 それに、愛宕に初めて会った時から俺は恋をしているし、いつかは一緒になれれば良いなぁと、ずっと前から思っている。

 

 この間の遠足で愕然とする返事を聞いたけれど、考えようによっては道が閉ざされた訳ではなく、むしろ前向きに進んでいるかもしれないからね。

 

 その辺りは後々語る事があるかもしれないし、本当に良くなってくれるように願いたいのだけれど。

 

 どちらにしても、今の俺の考えはこのままで良い。

 

 願わくば、戦いが無い世界になって欲しい。これは、大多数の人々の願いだけれど、人の歴史を考えれば難しいのかもしれない。

 

 だけど、始まりがあれば終わりもある。ましてや俺は、海底に沈んだ時に一つの思いにたどり着いたのだ。

 

 人と、艦娘と、深海棲艦が暮らす世界。今のままでは難しいけれど、何かしらの方法があるに違いないと思っている。

 

 その一歩として、ヲ級がこの鎮守府に居るのは非常に意味のある事だ。

 

 この前の争奪戦バトルで鎮守府内にヲ級の存在は広がったけれど、高雄や愛宕が手を回してくれたおかげで、今では何の問題も無く過ごす事ができている。

 

 これから徐々にみんなの考え方が変わっていけば、俺の思いは現実となるかもしれない。

 

 その為にも、俺はたくさんの人と、艦娘と、そして深海棲艦とも触れあう事ができればと思う。

 

 ――そんな事を考えながら、ため息を一つ吐いた時だった。

 

「物思いに耽る先生の顔……非常に魅力的ね……」

 

「おわっ!?」

 

 気づけばビスマルクは真横に立っていて、俺の耳に息を吹きかけながら喋っていた。

 

「び、ビックリさせないでくださいよっ!」

 

「ふふ……ごめんなさいね」

 

 ビスマルクは口元に人差し指を当て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 むぅぅ……なんだか可愛いというか、いやらしいというか……

 

 ――って、俺には愛宕という存在があるんだぞっ!

 

「さぁ、それじゃあ食事に行きましょう。結構お腹も減っているから、できるだけ早くお願いするわ」

 

「わ、分かりました。それじゃあ、食堂まで案内しますね」

 

 俺はそう言って向かう方向へと指差して、足を動かし始める。

 

 いつしか、俺の思いが現実になる日が来ますようにと、心の中で祈りながら……

 




次回予告

 ビスマルクと一緒に鳳翔さんの食堂に向かう事になった主人公。
今日には佐世保に帰る為に出発しなければいけないのに、何故かガッツリとビールを飲むビスマルクを見て呆れていると、どんどんおかしな事になってきて……?


艦娘幼稚園 ~佐世保から到着しました!~ その6「酒は飲んでも飲まれるな」


 乞うご期待!

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