艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 金剛が怒り、後を追う妹たち。
しかし、しばらくは様子見の方が良いという事で、ビスマルクと五月雨を連れて幼稚園を案内する。

 Q.ところで、これほどまでに情報が行き届いてなかったら、どうなるか分かるよね?
 A.――もちろん。アイツが登場です。


その4「↑X↓BLYRA」

 俺はビスマルクと五月雨を連れて、幼稚園の中を案内していた。

 

「ここは遊戯室です。子供達が室内で遊ぶ大きな部屋になっていて、積木やボールなどの遊び道具や絵本などの書籍が置かれています」

 

「ふうん……至って普通の幼稚園のようね……」

 

 全くもってその通りなのだが、ビスマルクはこの幼稚園をどんな感じで想像していたのだろう。

 

「基本的に、子供達を元気な艦娘に育てるのが目的ですから、人間が通う幼稚園と同じですよ。よく遊び、よく食べ、よく学んで、成長を見守るのが俺の役目です。もちろんある程度慣れてきてからは、艦娘としての経験を積むカリキュラムも入ってきますけどね」

 

「あら……ちょっとだけカッコイイ事を言うじゃない」

 

「そうですねっ! さっきのロリコン先生とは一味違うように見えます!」

 

「いや、だからロリコンじゃないってば……」

 

 肩を落としながらそう反論すると、ビスマルクと五月雨はドッと笑い声を上げた。

 

「あれ、もしかして俺、からかわれてました?」

 

「さぁ、どうかしらね」

 

「どうだったんでしょうねー」

 

 言って、2人はクスクスと笑いながら俺の顔を見つめていた。このままだと、どんどん悪化するんじゃないかと思った俺は、次の場所を案内しようと歩き出す。

 

「あら、もしかして拗ねちゃったのかしら?」

 

「ビスマルクさんが、からかい過ぎるからじゃないですか?」

 

「それは困ったわね……。でも、あの表情がもの凄く……可愛いのよね……」

 

 俺の後ろから、じゅるりと舌なめずりをするような音が聞こえたんですけどっ!?

 

「さ、さぁっ! 次の部屋はこちらですっ!」

 

 俺は焦りながら早歩きで隣の部屋の前に行って引き戸を開けようとしたのだが、取っ手に触れる寸前にガラガラと開いて、一人の子供が廊下に飛び出してきた。

 

「ヲ?」

 

「びっくりした……ってなんだ、ヲ級か」

 

 俺は素早く横へと避け、ヲ級とぶつかるのを回避する。

 

「「……なっ!?」」

 

「え……?」

 

「ヲヲ……?」

 

 大きな声に驚いて振り返ると、ビスマルクと五月雨が険しい顔で両手を振り上げ、俺達に向かって構えを取る。

 

「な、なななっ、なんでこんなところに深海棲艦が居るんですかっ!?」

 

「う、動くなっ! 動くと命は無いわよっ!」

 

 慌てふためきながら構える五月雨に、鋭い目つきをヲ級に向けるビスマルク。もちろん幼稚園内なのでビスマルクに艤装は無いのだが、もしかして高雄さんはこの事を説明してなかったのっ!?

 

 よく考えてみれば俺に今回の件を詳しく伝えてくれてなかったし、こんな事になる可能性も考えられたはずだ。それなのに俺は何という凡ミスを……っ!

 

「ちょっ、ちょっと待ってください! こいつは決して危ないヤツじゃあ……」

 

「ヲッス。オラヲ級」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 なんでこんな状況でネタ振りするかなあぁぁぁっ!

 

 ヲ級以外の全員の目が点になっちゃってるじゃねぇかよぉぉぉっ!

 

「冗談ハサテ置イテ、何ヤラ見ナイ顔ダケド……新人サン?」

 

「なんで店とかで常連が新規バイトを見た感じの喋りになるんだよ……」

 

「ボケニボケヲ重ネルノヲ、天丼ト言ウ」

 

「いや、天丼は基本的に同じネタを使うことを言うんだぞ?」

 

「ヲッス。オラヲ級」

 

「ただ単に言いたいだけじゃねぇかお前はっ!」

 

 全力で突っ込みを入れる俺の姿を見たビスマルクは、冷や汗を額に浮かべながら口を開く。

 

「せ、先生……そのヲ級は……大丈夫なの?」

 

「ええ。話せば長くなりますけど、ヲ級をこの幼稚園に編集させたのは俺なんです」

 

「そ、そんな事ができるんですかっ!?」

 

 驚愕した表情を浮かべた五月雨はその場で飛び上がったのだが、

 

 なんで、イヤミっぽいシェーのポーズなんだろう……

 

「まさか鹵獲艦を手なずけて自らの元に……MではなくSなのね……」

 

 だからなんでビスマルクはそっちの方に考えちゃうのかなっ!?

 

「オ兄チャンハMダヨ?」

 

「余計な突っ込みはしなくて良いからっ!」

 

「しかも自分の事を『お兄ちゃん』と呼ばせてるなんて……」

 

「やっぱり先生はロリコンなんですねっ!?」

 

「だから違うって言ってるでしょうがっ!」

 

 なんでこう、収拾がつかない状況ばっかり続くんだよ!

 

 それになんだかビスマルクは親指の爪をかじりながらゾクゾクするような目で見てくるし――って、これって完全にM的思考になってんじゃん!

 

「ソウデス。オ兄チャンハ紛レモナク変態デス」

 

「お前はいい加減にしろっ!」

 

 俺の絶叫にも似た叫び声は、幼稚園の外まで響き渡ってしまっていた。

 

 

 

 

 

「――という事で、ヲ級は俺の弟が生まれ変わって深海棲艦になり、ちゃっかり海底から着いてきたんです」

 

 俺はヲ級に出会ってから幼稚園に連れてきたまでの経緯を説明すると、2人は構えを解いて聞いてくれた。

 

「そう……それで先生が佐世保に来られなかったという訳ね……」

 

「ええ、輸送船が襲われて海底に沈んでしまってはたどり着くことができませんからね」

 

「せ、先生の悪運の強さは凄いんですねっ!」

 

 先程から尊敬するような眼差しを俺に向けている五月雨なんだけれど、いったい何が原因でこんな風になってしまったのだろうか。そりゃあ、比叡や榛名、霧島のように嫌われるよりかは断然良いのだけれど、理由が分からなければ、それはそれで気になってしまう。

 

「なので、こいつは他の子供達と一緒に幼稚園で暮らしています。もちろん、誰かを攻撃したりすることは無いのですけど……」

 

 2人にそう言ったけれど、俺を狙って襲いかかってくる事に関する説明は省いておいた。もしその事を話せば、またもやロリコン先生と名指しで呼ばれてしまうだろうし、これ以上の脱線とからかいは避けて通りたいからね。

 

「そう……色々と驚く事はあったけれど、ここは先生を信じてみる事にするわ」

 

「ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります」

 

 俺は深々とビスマルクに向かって頭を下げた。ニッコリと笑みを浮かべたビスマルクは「本当に礼儀正しいのね……」と呆れにも似た声を上げ、俺は後頭部を掻きながら苦笑を浮かべる。

 

「私も今日からここの幼稚園に通う事になるから、よろしくねっ!」

 

「ヲッ。今後トモ、ヨロシク」

 

 そんな俺とビスマルクのすぐ隣で、五月雨は握手をしようと手を伸ばし、ヲ級はコクリと頷いてそれに応じた。

 

 どうやらこれで一段落ってところだな……

 

 俺はふぅ……とため息を吐いて緊張を解いたのだが、握手をし終えたヲ級が俺とビスマルクの顔を交互に見て、なぜか急に不満そうな表情へと変えた。

 

「あら、私の顔に何かついてるかしら?」

 

「五月雨ハ良イケド、オ前ハ断ル」

 

「なっ、何をいきなり言ってるんだよお前はっ!」

 

 俺は慌ててビスマルクに謝らせようと手を伸ばしたのだが、ヲ級触手を器用に使って払いのけた。

 

「コイツ嫌イッ!」

 

「ヲ級っ!」

 

 せっかく収拾をつけたのに、また混乱させる気かっ!?

 

 何がそんなに気にいらないんだよっ!

 

「……私は貴方に何もしていないと思うけど?」

 

 澄ました表情でそう言ったビスマルクだが、その声は先程とは全く違う不機嫌なモノへと変わっていた。

 

「本能ガ、オ前ヲ野放シニスルト非常ニ危険ダト告ゲテイルッ!」

 

「あら、私も今同じ事を考えているわ」

 

 ゴゴゴゴゴ……と2人の背中に虎と龍が浮かび上がるようなオーラを感じ、俺は思わず後ずさってしまいそうになる。

 

「あ、あわわわ……」

 

 五月雨はその雰囲気に飲まれ、その場で座り込んでガタガタと震えていた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!」

 

 俺は何とか勇気を振り絞って2人を止めようと叫び声を上げる。しかし、全く聞き耳を持たずのヲ級とビスマルクは、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めようとするくらいに、メンチビームの応酬を繰り返していた。

 

 やばいっ、これは完全にやば過ぎるっ!

 

 同じ鎮守府内ならまだしも、佐世保から来た客であるビスマルクに喧嘩を売ったとあっては、かなりの問題になってしまう。ましてや、子供とはいえ深海棲艦であるヲ級となれば、更に別の問題が発生するのは明白だ。俺にはもちろん監督責任が問われるだろうし、それだけで終わるとは思えない。最悪、軍法会議で俺とヲ級共々極刑にされてしまうかもしれないのだ。

 

 俺は何とか2人を止める為、間に入ろうと手を伸ばそうとしたのだが……

 

「あら~、そこでいったい何をしているのですか~?」

 

 通路の角からこの光景を発見した愛宕は、ニッコリ笑ってそう言って、

 

「とりあえず、少し落ち着きましょうね~」

 

 いつの間にか、ビスマルクの背後に立っていた。

 

「……えっ!?」

 

 つ、通路の角からここまで、10m弱はあるんですけど……

 

「……っ!?」

 

 背後に気配を感じたビスマルクは、咄嗟に振り向こうとしたのだが、

 

「………………」

 

 身体半分を回転させたところで愛宕がその動きを片手で押さえ、ビスマルクの耳元で何かを呟いた。

 

「……くっ、そ、それは……っ!」

 

「……だけど、…………かしら~?」

 

 ニコニコと笑みを浮かべる愛宕に、どんどんと青ざめていくビスマルク。その対照的な顔色に、俺は固唾を飲んで見守っていた――というより、そうする事しかできなかった。

 

「わ、分かったわ……」

 

 心が折れたような表情を浮かべてビスマルクがそう呟くと、争う気が無いという風に両手を広げてヲ級に向けた。そんな姿を見て意気消沈したのか、興味が無くなったかのようにため息を吐いたヲ級は、きびすを返してこの場から離れようとしたのだが……

 

「ヲ級ちゃん、ちょっとお話があるのだけれど~」

 

「ヲ……」

 

 やばい……という風に俺の顔を見上げたヲ級が触手を伸ばしたのだが、自分が撒いた種は自分で拾えと、さっきとは逆の立場で払いのけた。

 

「さぁ、こっちに行きましょうね~」

 

「オ、オ兄チャンノ、ヒトデナシッ! ヲヲヲヲヲーッ!」

 

 ずるずると引きずられていくヲ級は涙目で悲鳴を上げながら、愛宕にどこかへ連れていかれてしまった。

 

「「………………」」

 

 額から頬へと伝う汗を拭きながら、俺とビスマルクは互いの顔を見て頷き合う。

 

 今起こった事は全て忘れよう。何も見なかったし、何も聞こえなかった。テレパシーのように意思疎通をして、苦笑を浮かべてため息を吐く。

 

 そして五月雨の方へと振り向くと――

 

 口の周りを泡だらけにして、その場で倒れ込んでいた。

 

 

 

 愛宕の前で、喧嘩ダメ、絶対。

 




次回予告

 愛宕無双はどこまで続くのかっ! もちろんまだまだ終わらない!

 まさかのお誘いや、今の状況と昔を思いだして苦悩する主人公など、まだまだ1日は終わらない。
 今章の主役、ビスマルクと良い雰囲気になっちゃうのか、それともまたまた悲劇が起きるのかっ。

 もう少しだけ続きますっ。

艦娘幼稚園 ~佐世保から到着しました!~ その5「夕食のお誘い」


 乞うご期待!

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