艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※活動報告にて、今後の予定をお知らせいたします。
 非常に申し訳なく思っておりますが、何卒よろしくお願い致します。

 トラブルにまみれながらもヲ級を撃破した主人公。
残る相手は天龍と金剛。未だ開始直後から続く戦いに、主人公が攻撃しようとするのだが……


その9「横槍から牡丹餅」

 

 ヲ級に襲われる前と殆ど変わらないように、金剛と天龍は睨み合いながら牽制しあっていた。

 

「ハーイ、天龍。そろそろ息が上がってきたんじゃありまセンカー?」

 

 そう言って笑みを浮かべた金剛だが、額には汗か浮かび、あまり余裕がなさそうに見える。

 

「フフフ……俺の方はまだまだ大丈夫だけどよ、金剛の方はそろそろ弾切れになってるんじゃねえか?」

 

 かく言う天龍も、身体にペイント液はついていないものの、手に持った棒はボロボロになり、あと数回弾丸を叩き落とせば折れてしまうのではないかと思えた。

 

「さぁて、どうでショウネー。ナンなら、真正面から突っ込んでキマスカー?」

 

「どうすっかなぁ……それも面白いとは思うけどよ……」

 

 2人とも疲れた表情を浮かべながら肩で息をしているので、どうやら睨み合って牽制しているというよりかは、一時休戦による休憩みたいなものなのだろう。だが、あれだけの砲撃戦を行っていたにも関わらず、身体にペイントボールが命中した形跡は無いのは正直ありえないと、感心を通り越して呆れってしまった俺だったのだが、これでまだ子供だというのだから更に驚きも一塩だ。もちろん、砲撃の腕が悪いと言う訳でも無く、天龍の持っているボロボロの棒にはペイント液が大量に付着しているし、当たりそうだった弾丸を何度も払いのけたことが分かる。金剛の方は肉体的な辛さは余り無いのだろうけれど、たった1人の天龍をこれだけの弾数を使っても倒しきれない歯痒さと、手持ちの弾が切れかかってきている為なのか、精神的に追い詰められているように見えた。

 

 とは言え、バトルを開始してから30分近く経っているのにも関わらず未だ決着が付いていないのは称賛を送るべきなのだろうけれど、今の俺にはそれ以上に大切なことがある。

 

 ――そう。勝利しなければ、金剛か天龍のどちらかに俺の所有権が渡ってしまう可能性が高いのだ。

 

 現状の俺の点数は時雨とヲ級を倒した2点だけ。このままどちらかが負けるまで見守っていれば、勝った方に1点が加えられることになるから、最後の戦いで負けてしまえば逆転を許してしまう。だが、ここで俺がどちらかを倒せば、仮に最後まで残れなかったとしても、持ち点は3点だから勝利は確定するのだ。

 

「ここしか……ないっ!」

 

 2人をパチンコで狙撃するなら、肩で息を整えながら睨み合っている今しかない。さっきの砲撃戦よりはバレ易いだろうけれど、ジッとその場で立ち止まってくれている今なら狙いやすさは格段に上がる。もちろん、再び2人が砲撃戦を開始しても、その中に乱入するつもりは全くないし、もし入り込んだとしても瞬く間にヒットされてしまうだろうから、俺が取れる手段はこれしかないのだ。

 

 縁日の屋台にある射的の要領で段差に身体を乗り上げて、全力でパチンコのゴムを引っ張り、ペイントボールを発射するタイミングを探る。さすがに2人を同時に狙うことは出来ないので、どちらを先に攻撃するかが問題なのだが……

 

「もし、気づかれた場合……この場所に砲撃できるのは金剛しかいないよな……」

 

 高所への砲撃は同じ高さへ撃つよりも難しい。だがしかし、金剛の戦艦の大口径艦装ならこの距離であっても届いてしまうかもしれない。反撃されたとしても、段差に身を隠せばやり過ごすことは出来るかもしれないが、次に狙撃できるチャンスは限りなく零に近くなる。

 

 しかし、天龍の方は軽巡の艦装であるからして、小口径の砲撃ではここまで届くとは思えない。砲撃せずにこちらに向かってくるかもしれないが、その間に逃げることは出来るだろうし、広場のような開けた場所でなく細い通路に呼び込めさえすれば、待伏せという形で迎え撃てるので、勝機は十分にあるだろう。

 

 ならば先に狙う相手は金剛しかないっ!

 

「頼む……当たってくれ……っ!」

 

 ゴムが切れそうになるギリギリまで目一杯引っ張った俺は、金剛に向かって照準を合わせて発射した。

 

 

 

 パシュッ!

 

 

 

 勢いよく手から離れたペイントボールが、緩やかな放物線を描いて金剛に向かって飛んでいく。出来るだけ命中するようにと、視覚的に見え難い右半身の艦装部分を狙ったのだが……

 

「……っ!?」

 

 風を切り裂く音に気づいた金剛は、咄嗟に振り向いてペイントボールの存在を察知し、慌てて避けようと身体を捻った。

 

「くそっ!」

 

 まさかあの状況で察知されるとは思っていなかっただけに、悔しさが込み上げる。更に言えば、狙いも完璧だったのだから精神的ダメージも大きい。

 

「誰デスカッ!?」

 

 ペイントボールを避け、こちらの存在に気づいた金剛はすぐに顔を向けた。俺は慌てて位置がばれないように、段差の下に隠れようとした瞬間だった。

 

「俺を相手にしてよそ見をするなんて、甘すぎるぜっ!」

 

 ここがチャンスと踏んだ天龍が、金剛に向かって駆け出した。

 

「……クッ!」

 

 慌てた金剛は捻った身体を無理矢理動かして、天龍に向けて砲撃を放つ。

 

「うりゃあっ!」

 

 持っていた棒で飛んできた砲弾を払いのけ、金剛に肉薄した天龍がここ1番の距離まで間を詰める。

 

「Shit!」

 

 無理な体勢で砲撃を放った金剛は大きくよろめいてしまい、迎撃のために発射しようとした機銃では間に合わないとみるや、片膝をついて天龍を睨む。

 

「ならば、こっちの方で……Why!?」

 

 それならばと先ほど放った大砲を使って迎撃しようとした金剛だったのだが、どうやら最後の弾を使いきってしまったらしく、重い金属がぶつかる音だけが鳴り響き、苦悶の表情を浮かべながらギリッ……と、歯を食いしばった。

 

「どうやらさっきのが最後の弾だったようだなっ! 誰が金剛を狙って撃ってくれたのか知らないけど、ナイスサポートだぜっ!」

 

 そう叫びながら金剛に向かって走ってきた天龍は、棒を地面に突き刺すようにして棒高跳びのように高くジャンプすると、空中で一回転しながら砲弾を発射した。2発、3発と撃ち込まれたペイント弾は、金剛の右足と腹部、それに艦装にまで全弾命中する。金剛は身体がペイント液まみれになったのを確認しながら、うなだれるようにガックリと肩を落とした。

 

「うぅ……私の負けデース……」

 

 金剛は緊張から解き放たれたようにその場で膝をつき、地面に座り込んだ。そんな金剛を見ながら着地した天龍は、勝ち誇ったように拳を振り上げる。

 

「よっしゃっ! これで俺の勝ちだぜっ――へぶっ!?」

 

 勝ち名乗りを挙げようとした天龍なのだが、着地の隙を見逃すほど俺も甘くはない。ましてや金剛が狙撃された直後だというのに、勝ち名乗りを挙げるなんて以ての外だ。

 

「あっ、当たった」

 

「ヲヲ……見事顔面ニクリーンヒットダネ……」

 

「いやぁ……まさかあんなに綺麗に当たるとはなぁ……」

 

 嬉しさでちょっとばかり顔が赤くなっているかもしれないが、まぁ、こんな時もあるだろう。

 

「く、くそぉっ! 誰だこのやろうっ!」

 

 ペイント液まみれの顔をブンブンと振りながら、狙撃した俺の姿を探そうと辺りを見渡す天龍だが、咄嗟にしゃがみ込んで段差に隠れたおかげで、見つかることは無かった。

 

 まぁ、天龍もリタイアしたんだし、別にばれたところで問題は無いんだけどね。

 

「出てこいっ! 卑怯だぞっ!」

 

 叫びつづける天龍を尻目にホッと胸を撫で下ろした俺は、屋根に座り込んで空を見上げた。すると、幼稚園内に空砲音が数発鳴り響き、続いて愛宕の声が聞こえてきた。

 

『はいはーい。生き残った参加者が1人になりましたので、バトル終了です~。皆さんは広場まで集まってきてくださいね~』

 

 その声を聞いた天龍はガックリと肩を落とし、とぼとぼと愛宕がいる方へと歩いて行った。

 

 これでバトルは終了したのだが、ふと、内容を思い返し、げんなりとした顔を浮かべてしまった。

 

「……ドウシタノカナ、オ兄チャン?」

 

「いや……今、思い出したんだけどさ……」

 

「ウン」

 

「結局俺って、参加者全員と戦ってなかったかなってさ……」

 

「………………」

 

 俺を倒した参加者は倍の点数をゲットできるという特別ルールから考えて、開幕時に全員から狙われるであろうという予想をしていたのにも関わらず見事なまでに覆されたのだが、結局のところは、別々に狙われたり巻き込まれてしまったりで同じ結果になったと言えなくもない。

 

 つーか、ほぼ全員を相手にして生き残った俺って地味に凄くね?

 

 まぁ、自画自賛はしない方が良いんだけど。

 

「マァ、ソレダケオ兄チャンガ好カレテルッテ事デ良インジャナイカナ?」

 

 ヲ級が他人の肩を持つなんて珍しいなと思ったのだが、良く考えてみるとそうではない。

 

「その理論だと、参加者全員が俺が好きだから攻撃しようとするヤンデレっ子になってしまう気がするんだけど?」

 

「ソウトモ言ウネ」

 

「否定しろよっ!」

 

「フッフッフッ……オ兄チャンニ安息ノ日々ハマダコナインダヨ。僕ト一緒ニナラナイ限リ……ネ」

 

「断固断るっ!」

 

 結局こういうオチかよ……と苦笑を浮かべつつ、屋根から下りて広場に向かう。

 

 残るイベントは結果発表のみ。

 

 そして、俺の身体は晴れて自由となり、愛宕のご褒美が貰えるのだ。

 

「何ヲニヤニヤシテルノカナ?」

 

「別になんでもないよ。ただ、バトルが終わってホッとしているだけさ」

 

「フウン……」

 

 危ない危ない。

 

 ヲ級にばれたらご褒美がおじゃんになる可能性が高いしね。

 

 顔に出さないように気をつけようと頷きながら、集合場所へと歩いて行く。

 

 隣を歩いていたヲ級が、何度も「顔ニ……」とか呟いていたが、俺は聞こえない振りをしておいた。

 

 マジで止めろよこんちくしょうっ!

 




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次回予告

 バトルは終わった。
最後はあっけない幕切れにより天龍を倒した主人公。
後は、結果とご褒美をもらうだけ。
だけど、何やら不穏な空気? もしかして、もしかしちゃったりするんでしょうか?


艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その10「ご褒美の理由」完


 乞うご期待!

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