艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 喧嘩になった雷電を避け、再び戻った広場で驚愕の事実を知る。
だが、ここはチャンスだと気合いを入れた主人公。
しかし、そんな後ろから、またもや魔の手が近づいてきた……

※活動報告にて今後の予定をご連絡いたしました。


その8「二番煎じの大悪化」

 建物の影から広場を覗き込んだ俺は、唖然としたままその場で固まっていた。

 

 広場に近づくにつれ、耳に聞こえてくる砲撃音が徐々に大きくなってくることに嫌な予感はしていたのだけれど、まさか開始直後から今までの間、金剛が砲撃しつづけていたとは思わなかった。

 

 いや、実際には見ていなかったのだから俺の想像ではあるのだが、広場一面に散りばめられたペイント液の量を見る限り、その想像はあながち間違いでは無いと思う。

 

 いったいどこにそれだけのペイント弾を持ち込んでいたのか分からないが、金剛は未だに正面を切って立ち向ってくる相手に向かって砲撃を繰り返していた。

 

「Shit! こんなに撃っても、まだ倒れないのデスカッ!」

 

「へっ……弾数が多いだけじゃあ、天龍様を倒すことなんか出来やしないぜっ!」

 

 言って、天龍は金剛に向かって地面を蹴った。艦装による砲撃ではなく、右手に持った長めの棒を振り回しながら、飛んでくる砲弾を叩き落として駆け抜ける。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 子供用の艦装だとはいえ、それなりに速度が出る砲弾に向かって近づいて行く天龍の行動は、端から見ても正気の沙汰とは思えない。ましてや棒で叩き落とす際に割れてしまうペイント弾の液体が、今だ身体に一滴たりとも付着していないなんてことは、奇跡じゃないかと思ってしまった。

 

 しかし、砲弾を避けつづけていた天龍の顔色はあまり良い風に見えなかった。遠距離から襲いかかってくる砲弾は避けることが出来ていたのだが、いざ金剛の近くまで肉薄しようとしても、次の壁が立ち塞がっていたのである。

 

「これ以上は近づかせないヨ! Fire!」

 

 天龍に向かって金剛が叫びながら回転すると、側面に取り付けられた艦装機銃から、小さなペイント弾が連続して発射された。

 

「いやいや、機銃の方までペイント弾って、そんなのアリかよっ!?」

 

 そう叫んでみたものの、実際に発射しているのだから問題は無いのだろう。もし反則ならば愛宕が停止させるだろうし、天龍から抗議の声が上がってもおかしくはない。

 

「ちくしょう……っ! 本当に厄介な装備だぜ……まったくよぉっ!」

 

 天龍はサイドステップとバックステップで機銃の攻撃を上手く避けながら、金剛に向かって1発、2発と砲撃をする。

 

「そんな攻撃、当たるわけないネー!」

 

 金剛は飛んでくる砲弾を避けようともせず、機銃を発射して空中で打ち落とした。

 

 いや、マジでこれ凄くないか……?

 

 やってることは大人の艦娘と殆ど変わらないと思うんだけど。

 

「しかし……この中に乱入して戦うってのはどう考えても無理だよなぁ……」

 

 やってることは既に立派な砲撃戦。海の上ではないので雷撃は行えないけれど、それでも充分に脅威と思える砲弾の嵐の中に身を投じる気は全く無い。

 

 いや、近づいた時点でジ・エンドである。

 

「ならば、俺が取れる方法はこれしかないよなぁ……」

 

 俺は準備の部屋で手に入れていた唯一の武器である大きめのパチンコをポケットの中にあるのを確かめて、建物の屋根の上へと行くために、壁に取り付けてあるパイプを握って登り始めた。

 

 この状況で俺が2人に勝てるとすれば、これしか浮かばない。

 

 高所からパチンコによる遠距離狙撃の一点撃破。相手は2人だが、争い合っている状態で俺に気づいていない今なら、勝てる見込は十分にあるだろう。

 

 しかし問題は、使い慣れていないパチンコを使用して、遠距離狙撃を成功させられるかどうかなのだが、これはもう、ぶっつけ本番でしか無い。仮に失敗したとしても、遠く離れていれば逃げるチャンスは多いだろうし、大きく外れた場合は気づかれない可能性だってある。そうなれば、2度目のチャンスだって訪れてくれるかもしれない。

 

 屋根の上に登りきった俺は陸屋根の特徴である端の段差を利用して、広場見えない位置に隠れながら2人の様子を伺った。金剛と天龍はお互いを睨み合うように距離を取って対峙し、次の手を模索するように牽制しあっている。

 

「完全に相手に注意が向いている今がチャンスだっ!」

 

 ポーチからパチンコを取りだそうとチャックに手をかけた瞬間、時雨の時と同じような予感を察知した俺は、後ろを振り向くことなく左に向かって受け身を取った。

 

 

 

 パシャッ!

 

 

 

 俺がさっきいた場所に小さなペイント液が付着し、冷や汗をかきながらパチンコを構えて振り返った。ちょうど屋根の反対側に立っていた人影は、もはや見間違えるはずがない。今回のバトルにおける俺の最大の敵にして、勝利させてはいけない最も危険な相手、ヲ級の姿だった。

 

「ヘェ……ソンナモノデ僕ニ敵ウト思ッテイルノカナ?」

 

 遠目でも分かるくらいにニヤリと笑みを浮かべたヲ級は、2つの触手を空へと立たせた。空気が振動する音と共に、小さな戦闘機が空中に出現する。

 

「くっ、やっぱりその手で来たかっ!」

 

「フッ……予想デキテイタトシテモ、コレカラ逃ゲラレルトハ思ッテナイヨネ、オ兄チャンッ!」

 

 ヲ級が俺に向けて触手を振りかざした瞬間、戦闘機が一斉にこちらに向かって飛んできた。半数は直接俺に向かってきたが、その機体にペイントボールの様なモノは見えない。

 

「騙されるかっ!」

 

 突っ込んでくる戦闘機はブラフであり、本命は空高く舞い上がった方だと、俺は空中を睨む。

 

「この軌道は……爆撃かっ!?」

 

 斜め45度の角度で飛来してくる戦闘機の底面にペイントボールが設置されているのを視認した俺は、なんとか避けようと前方受け身でその場から離れた。ペイント液が撒かれる屋根の上を転がりつづけながら、着弾音を頭の中で数えてヲ級の方へと近づいていく。

 

 ブラフとして俺に向かわせた戦闘機はそのまま後方へと飛び去って行った。若干気にはなったものの、今は爆撃から身を躱すことが先決であり、集中力を切らす訳にはいかなかった。

 

「危ねぇっ!」

 

 波状攻撃のように戦闘機がペイント弾を落とし、逃げれるポイントを潰してくる。しかし、なんとか乗りきった俺はヲ級のすぐ近くまで迫っていた。そして、数えていた着弾音は9回であったと思い返しながらヲ級を睨む。

 

「クッ……」

 

 その顔からは先ほどの笑みは完全に消え、焦りの表情が浮かんでいる。

 

 戦闘機による攻撃の利点は、距離と威力、そして命中の高さである。自分から遠く離れた位置へ攻撃することができ、操縦者にもよるが高い命中性能を持つ。しかし、全てが良いことだけではなく、1番のネックとしてあげられるのは、弾の補充の問題だろう。

 

 弾切れを起こした戦闘機は、一旦母艦に帰らなければ補充できない。更に言えば、補充を行うには時間がかかってしまうのだ。

 

 もちろん、その間指を銜えて待っているほど俺は聖者ではないし、そこをチャンスと見て反撃するのが定石である。

 

「顔色が悪いみたいだけど、どうしたんだ? もしかして、弾切れでも起こしたのかな?」

 

「マサカ、全弾避ケルナンテコトガ出来ルトハ思ッテイナカッタヨ……」

 

 言って、肩を落とすヲ級。だが、俺は緊張を解かずに周りを見渡す。

 

 弟の性格をよく知っている俺は、最後まで絶対に気を抜かない。何故なら、あいつの性格からして、素直に弾切れしたことを素直に言うなんて事はありえないからだ。

 

 注意深くヲ級の動きを見つめながらじわりじわりと近づいていく。そんな俺の耳に小さな空気の振動音が聞こえ、ハッと空を見上げた。太陽の光に身を隠すようにして現れた一機の戦闘機に気づき、俺はその場で叫ぶように口を開く。

 

「これは……急降下爆撃かっ!?」

 

 その瞬間、ヲ級の笑みが再び浮かび上がる。だが、俺の方も無策でヲ級に近づいたわけではない。幼稚園にいるときはいつも着ているエプロンの紐を外していた俺は、急いで脱ぐと同時に戦闘機に向かって投げつけた。

 

「……ナニッ!?」

 

 これがペイントボールを投げたのであれば、戦闘機の軌道を少し変えれば何も問題は無かっただろうけれど、投げつけたのはエプロンなのだ。空中に舞い広がったエプロンは戦闘機の視点から俺を隠し、盾となって爆撃を防いでくれる。しかし咄嗟の事で避けることが出来なかった戦闘機はエプロンに包まれ、ペイント弾を切り離すことなく屋根の上に落下した。

 

「マ、マサカ……ッ!?」

 

「ふぅ……何かあるとは思ってたけど、こんな手で来るとは思わなかったぞ……」

 

 受け身によって身体中についた埃を叩いて落としながら、俺はヲ級へと近づいていく。ヲ級の顔には既に余裕は無く、今にも泣きだしそうな表情になっていた。

 

 うーん、端から見ると子供をいじめる大人の図にしか見えないよなぁ……

 

 でもまぁ、これもバトルのルール。ヲ級には悪いが、ここはベッタリとペイント液を塗らさせていただこう。

 

 

 

 ベチョッ

 

 

 

 ペイントボールをポーチから取り出して、半分に割ってから中の液体をヲ級の身体に飛ばしたのだが、

 

「ウゥ……オ兄チャンノ液体ガ……」

 

「紛らわしい言い方をするんじゃねぇっ!」

 

「デモドウセナラ顔ニカケテクレレバ良イノニ」

 

「更に酷くなるわっ!」

 

「ソウ、コレゾ顔シ……ムガムゴ……」

 

「言わせねえよっ!」

 

 無理矢理ヲ級の口を両手で塞いで言葉を止める。いやはや、危うくRー18指定になるところだった。

 

 ともあれ、これでヲ級を倒すことが出来たのだし、残った参加者は金剛と天龍だけである。ヲ級は既にリタイアが決まったので、危険は無いだろうと思っていたのだが、

 

「フフフ……バトルデハソウカモシレナイケレド、直接的ニ襲ウノナラ別ニ問題ハ……」

 

「ありまくりだ、この馬鹿がっ!」

 

 抱き着いてきたヲ級をなんとか引き剥がし、広場で睨み合っている金剛と天龍の様子を伺うことにする。

 

 ちなみに放っておいたら何をするか分からないので、ヲ級に急降下爆撃という名のゲンコツを落としておいた。他の園児達なら問題だが、転生体とは言え弟である身内相手ならば、多少のことは許される……と思いたいのだが、

 

「アァ……オ兄チャンニブタレルノモ悪クハナイ……」

 

 頬を赤く染めてウットリするヲ級。

 

 何だか別の意味で危なくなっていた。

 

 なんでいきなりM化するんだよっ!? どんどん悪い方向に走っていってるんですけどっ!?

 

 心の中で大きく叫びつつ、俺は今度こそ広場の方に視線を向けた。

 




次回予告

 トラブルにまみれながらもヲ級を撃破した主人公。
残る相手は天龍と金剛。未だ開始直後から続く戦いに、主人公が攻撃しようとするのだが……


艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その9「横槍から牡丹餅」


 乞うご期待!

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