艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ヤバくなってしまった時雨から逃げ去った主人公。
辿り着いた先は幼稚園の入り口だった。
しかし、相変わらずの運のなさ。ここにも待ち伏せしている参加者が居たのだが……


その7「直線上のアリア」

 

「ぜーはー……ぜーはー……」

 

 校舎裏から逃げだした俺は、時雨から充分離れたことを確認して、息を整えるためにその場で休むことにした。

 

 開始直後の金剛から逃げるときよりも、息が上がっちゃってるよ……

 

 額についた汗を袖で拭い、ふぅ……と大きく息を吐いた。それから辺りを見回して、他に誰かいないか確かめながらゆっくりと歩き出す。

 

 さっきは屋根の上での待ち伏せだったから、次はどんな手でくるかと予想してみる。そもそも待ち伏せがあるかどうかすら分からないのだけれど、二度あることは三度あるのが定石だし、今までの経験上何かが起こるのは間違いない――と思う。

 

 こういうのは重なることが普通だしね。

 

 周りを見渡しながら俺が今いる場所を確認すると、どうやらここは広場とは正反対の位置である、幼稚園の入口から程近い場所だった。ルール上建物の中には入れないし、幼稚園の外に行くことも禁じられているので、塀と建物の間のにある通路を移動する以外道は無いのだが……

 

 待ち伏せするとしたら間違いなくこの狭い通路なんだけど、はたして誰が出てくるのだろうか。

 

 ぶっちゃけた話、突発的に襲われるよりかは気が楽だ。まぁ、実際にこんな見え見えの場所で待ち伏せするとは考え難いんだけれど……と思ってたら、通路の脇にある茂みから1人の子供が現れた。

 

「ふっふっふっ……待っていたわよ、先生っ!」

 

 通路のど真ん中に立ちながら、両手を組んで踏ん反り返るようなポーズを取っていたのは雷だった。

 

 うーん、ベタベタ過ぎる台詞と展開に、何の驚きも湧いてこないんだけど。

 

 とは言え、ここで驚かないのもなんだか可哀相なので、それとなくリアクションを取ってみる。

 

「くっ! まさかそんなところに隠れてるとはっ!」

 

 ちょっとわざとらしい気もするが、ここはオーバーアクションの方が色々と楽しみやすいだろう。

 

「雷様の頭脳にかかれば、先生を騙すことなんてなんてことはないのよっ!」

 

 勝ち誇ったようにそう叫んだ雷なんだけど、言ってることは特撮番組で1話完結のラストに出てくるボスキャラだ。もちろん、この話の最後にヒーローにやられて爆発してしまう、非常に可哀相なやられキャラである。

 

 うん、予想済みだったけどね――と言ってみるのも面白いかもしれないが、さすがにそれでは呆気なく終わってしまう可能性もあるので、もう少し引っ張ってみようと、乗っかりながら突っ込んでみることにする。

 

「そうか……でも、そのまま隠れておいて俺が脇を通りかかったところを攻撃すればリスクは限りなく少なかっただろうし、余計に驚かせられたと思うんだけどね。さすがにそれだと俺が可哀相だと思って雷は止めてくれたんだよな。ありがとね」

 

 言って、俺はニッコリと雷に笑顔を向けた。

 

「………………」

 

 ぽかーんと口を開けたまま固まる雷。

 

「あれ? もしかして……図星突いちゃった?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる俺。

 

 うーん、やっぱり俺って嫌な大人になってるかもしれない。

 

「な、ななっ、なんでそれをもっと早く言ってくれないのっ!?」

 

 ボンッ! と頭の上から蒸気を発しながら、顔を真っ赤にさせた雷は両手を振り上げて抗議してきた。

 

「い、いや……戦略くらいは自分で考えようよ……」

 

「こ、こうなったら……と見せかけてっ、今よ!」

 

 言って、雷は砲撃しようと砲口を俺に向けるが、それも予想済みである。

 

「甘いっ!」

 

 近くにある茂みを盾にしてやり過ごし、砲撃後の隙を突くため身体を回転させつつ避けようとしたのだが、

 

「甘いのは先生の方なのですっ!」

 

「何ぃっ!?」

 

 急に聞こえてきた後方からの声に驚き、大きく目を見開きながら振り向く。そこには砲口を俺に向けて構えを取っていた電の姿があった。

 

 今度は俺の言葉がヤラレキャラっぽい――って言ってる場合じゃなく、まさかバトルロワイヤル形式の戦いで同盟を組んだのかっ!?

 

「かかったわね先生っ! 慌てた振りをしてたのは演技だったんだからっ!」

 

 雷が囮になって、隠れていた電に気づかないようにするとは、何たる不覚っ!

 

 まさかの戦略に一本取られてしまった俺は、焦りながらも上半身を思いっきり反らし、なんとか砲撃を避けようとする。

 

「電、今よっ! 前後同時発射で仕留めるわっ!」

 

「先生、覚悟するのですっ!」

 

 俺に向かってペイント弾を打ち出す2人。砲撃音が同時に鳴り、絶体絶命の状況に身体中からブワッと汗が吹き出した。

 

 しかし、雷と電が立っている場所は俺を挟んで直線上にあり、

 

「うわっ!?」

 

 無理に状態を反らそうとしたことで、少しぬかるんでいた地面に足を取られ、尻餅をつくように俺の身体が地面へと倒れ込んでしまう。

 

「「えっ!?」」

 

 標的が消えたことで発射されたペイント弾は真っ直ぐ進み、

 

「嘘ぉっ!?」

 

「あ、危ないのですっ!」

 

 2人の目前へと迫ったペイント弾は、

 

「きゃあっ!?」

 

「ふにゃっ!?」

 

 見事に2人の顔面に当たって破裂し、ペイント液まみれになってしまった。

 

「「「………………」」」

 

 無言で佇む2人と、濡れた尻を叩きながら立ち上がる俺。

 

 これって、2人ともリタイアってことになるんだろうけれど、なんて声をかけたら良いのだろうか……

 

 雷なんて身体を大きく震わせてるし、もの凄く気まずいなぁと思っていたんだけど、

 

「な、ななな……何をするのよ電っ!」

 

「雷ちゃんこそ、電に当てるなんて酷いのですっ!」

 

 急に怒り出した2人は売り言葉に買い言葉といった風に言い合い始めた。

 

「まさか先生を独占するためにわざとしたんじゃないでしょうねっ!」

 

「い、雷ちゃんこそ、そういうつもりじゃないのですかっ!?」

 

 いきなり発展した姉妹喧嘩に焦った俺は、先生として止めようとするよりも、巻き込まれないように茂みの方へと身を隠した。

 

「一緒に組んで、頑張ろうねって言ったのに!」

 

「雷ちゃんこそ酷いのですっ!」

 

 2人は既にペイント液にまみれているのにも関わらず、頭に血が上りきってしまっているためか、問答無用で両手を振り上げて構えを取った。

 

「こうなったら、どっちが正しいかハッキリ分からせてやるんだからっ!」

 

「い、電が負けるはずないのですっ!」

 

 言い終えた瞬間発砲が始まり、両者の周りに大量の弾とペイント液が散らばっていく。俺はなんとか茂みの中を進みながら2人から距離を取り、安全な場所へと逃げようとする。

 

「今当たったじゃない! 電の負けなんだからねっ!」

 

「雷ちゃんが先に電の弾に当たったのですっ!」

 

 後ろの方で2人が叫び合う声と、引き続き鳴り響く砲撃音が早く聞こえなくなりますようにと、俺はため息を吐きつつ、この場所を後にした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それからなんとか安全と思われる場所を見つけた俺は、一息つくために地面に座り込んだ。

 

「ふぅ……ここで少しは休めることが出来そうだな……」

 

 そう呟いた俺は、荷物をチェックするためにウエストポーチのチャックを開けた。

 

「ペイントボールは……割れてないな。数もまだ8個あるし、補充の必要もないだろう」

 

 時雨との戦いで使用したペイントボールは2個だけだし、動き回った割には破損もしていなかった。ポーチの内部にクッション剤が使われていたので、衝撃を和らげてくれたのだろう。

 

「さて……と。現在のリタイアは……」

 

 バトルが開始してから今までに出会った参加者は、時雨と雷と電の3人だ。他の場所でリタイアが出ていなかったとすると、残る参加者は金剛、天龍、ヲ級の3人だが……はたして何人が残っているのだろう?

 

 開始直後に俺を狙おうとしたのは天龍ただ1人。金剛の方は、無差別に砲撃したのでノーカウントとしたが、あの状況ならば天龍がそのままリタイアになっていたとしてもおかしくはないだろう。

 

 何せ、質より量の全弾発射である。弾幕薄いぞ何やってんの!? ――とか言われるような落ち度も感じられないほど、辺り一面に発射しまくっていた。

 

 いくら大きなバックを持ってたとしても、持ち弾が尽きるのはそれ程先にはならないだろうが、あの場所に留まったまま撃ちつづけてるとも思えない。まさか、金剛以外の参加者があの弾幕の中を未だにリタイアせずに対当しているのなら話は別だろうけれど。

 

 まぁ、その考えはまずありえないだろう。実際に、時雨と雷と電は俺と同じように広場から逃げて、建物の裏や入口付近で俺を待伏せていたんだからな。

 

 しかし、そう考えると俺ってことごとく待伏せにあってるんだけど、これはやっぱり点数が倍ってことも影響しているのだろうか? それにしたって、立て続けなのが気にかかるのだけれど……

 

「悪い方に考えるのは良くないんだけどなぁ……」

 

 もう一度ため息を吐いた俺は、地面から立ち上がってズボンを叩く。

 

 休憩は終了。残る参加者を見つけて倒さなければならない。

 

 時雨は倒したけれど、雷と電は自滅だったから俺の点数には追加されないだろう。ということは、現時点での持ち点は1点しかないのだ。

 

 つまり、このまま行けば、俺が最後まで残らない限り勝利は奪えない。逆に言えば、俺が他の誰かに倒された時点でその相手に2点が追加されてしまうから、1点の持ち点では抜かれてしまうことになる。

 

「つまり、俺から仕掛けないと勝利は無いってことなんだよな」

 

 独り言を呟きながら身体をストレッチし、パンッと両頬を叩いて気合いを入れた。

 

 まずは状況を確かめるべく、広場を見渡せる位置に行くべきだと俺は考えて足を動かしていく。

 

 いざ、狙うは勝利のみ。我が身の安全と、愛宕のご褒美を得るために。

 

 後者に胸を膨らませながら、俺は再び広場の近くへと向かったのであった。

 




次回予告

 喧嘩になった雷電を避け、再び戻った広場で驚愕の事実を知る。
だが、ここはチャンスだと気合いを入れた主人公。
しかし、そんな後ろから、またもや魔の手が近づいてきた……


艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その8「二番煎じの大悪化」


 乞うご期待!

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