艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 さぁ、バトルの始まりだ!
だけど、まずはやる事がある……そう、入場シーンが必要だよねっ!
誰がやるかだって? そんなの決まっているじゃないか!
誰もが認めるトラブルメイカー……あの艦娘が登場だっ!

 そして、戦いの火蓋が切って落とされる……


その5「口は災いの元」

 

「「「ざわ……ざわざわ……」」」

 

 広場の周りには参加者ではない子供達が、バトル開始を今か今かと待ち望むようにそわそわしながら立っていた。

 

 参加者である俺達は建物から広場へと向かう通路で待機し、広場の状況を覗き込んでいたのだが……なんか目茶苦茶凝りすぎてる気がするんですけど……

 

 まず、今いる通路から広場までの道に、レッドカーペットが敷かれている。

 

 次に、完璧に統率が取れたように、子供達が広場を囲んでいる。

 

 そして、愛宕がいる場所……運動会などで使う設営テントが、いつのまにか立っていた。

 

 しかも、音響関連の機材がフル設置で。用意したのも凄いけれど、よくそんな時間があったよね!?

 

 そんな突っ込みを心の中でしていると、テントの下にいた愛宕がマイクを持って立ち上がった。

 

「はーい、みなさーん。それでは今からバトルを開始したいと思います~」

 

「「「わあぁぁぁっ!」」」

 

「まずは雰囲気を盛り上げるために、いつものアナウンスからお願いしますね~。青葉さん、宜しくです~」

 

「了解しましたっ! 青葉、頑張ります!」

 

 リングアナウンサーまで用意してるのかよ……

 

 あ、でも、リングじゃなくてフィールドで戦うから、この場合はフィールドアナウンサーって言うんだろうか?

 

 まぁ、どっちにしても、懲り過ぎだとは思うんだけどね。

 

「ごほん……それでは……」

 

 言って、青葉はマイクを握りしめながら目を閉じて大きく息を吸い込んだ。

 

 ……ごくり。

 

 まさかとは思うが、変なことを言い出さないのかなぁと少し心配だったりもするのだが、

 

「Ladies and gentlemen, boys and girls. Let's get ready to rumble!」

 

「「「Yeah!」」」

 

 いや、なんで英語なんだよ。わかんない人が出てくるだろっ!

 

 そして子供達もノリノリじゃねぇかっ! マジで今のを理解してるのかっ!?

 

 ちなみに日本語訳にすると『紳士淑女も男の子も女の子も。さあ戦いの準備は出来たか!』だったと思う。あんまり英語は得意じゃないので、間違ってるかもしれないけど。

 

 ちなみにこの場合、boysはいらない気もするが、まさかヲ級を指しているんじゃないだろうな?

 

 一応現在はgirlで良いと思うんだけど、中身は……合ってなくもない。いや、考えるだけ疲れるレベルでややこしいので、気にしたら負けだろう。

 

「それでは、選手入場ですっ!」

 

 あ、ここからは日本語なのね。

 

 ふぅ……良かった。まさか全部訳さないといけないと思ってたよ。

 

「エントリーナンバー1番!

 ドSな妹を持つ姉が、遂に己の恋をかけて全力で戦うっ!

 ちっちゃい子なのに厨二病! 泣き虫だった過去は捨てたっ!

 天龍型1番艦――天龍ちゃんのお通りだーっ!」

 

「先生は俺がいただくぜっ!」

 

 拳を振り上げ広場の中心へと向かう天龍。以前とは比べられないほど成長したんだなあと改めて思ってしまうけれど、感心している場合ではない。

 

 天龍は……いや、参加者全員が俺をゲットすると公言しているのだ。若干嬉しさはあるものの、色んな意味でヤバすぎる。

 

 後、遠目で見える龍田の顔がマジ怖いです。青葉が後でどうなっても知らないぞ……

 

「続いてエントリーナンバー2番!

 幼稚園で断トツの知識を持つ名探偵!

 周りからの信頼も厚い、僕っ子ちゃんが名乗りを挙げたっ!

 白露型2番艦――時雨ちゃん見参っ! 」

 

「僕の知識をフル活用して、必ず先生を……ふふ……」

 

 あ、あの……含み笑いが怖いんですけど……

 

「そして次はエントリーナンバー3番!

 出会ったときから一目惚れ! 私のタックルは『I Love You!』

 前評判では大本命! トトカルチョでも人気集中!

 金剛型1番艦――金剛ちゃんが登場ですっ!」

 

「バーニングラブで先生をイチコロネー!」

 

 ………………

 

 ちょっと待て。

 

 今トトカルチョって言わなかったかっ!?

 

 何! 何なの!? もしかしてこれ、賭けてんのかっ!?

 

「更に続いてエントリーナンバー4番!

 ちょっぴり気弱な姉妹の末っ子! 勇気を出して頑張ります!

 牛乳パワーをナメないで! 邪魔する相手はごっつんこっ!

 暁型4番艦――電ちゃんが突撃だっ!」

 

「はわわわっ、が、頑張るのですっ!」

 

 対して電は代わり映えしない。

 

 まぁ、自分からこの場に出てきただけでも成長してるとは言えるんだけど。

 

 どっちにしても素直に喜べないんだよね……

 

「そして次はエントリーナンバー5番!

 忘れられない間接キス! 今度は直接頂くわ!

 本人素知らぬ特大スキル! ダメ男製造機が今日も行く!

 暁型3番艦――雷ちゃん出陣っ!」

 

「はーい! 先生ゲットで、行っきますよー!」

 

 元気よく走っていく雷だけど、青葉が言った言葉に反論する気は無いんだろうか……?

 

 からかわれているとしか思えないんだけどなぁ。

 

 ――って、よく見ると、青葉を見つめる愛宕の顔色が徐々に黒くなっている気がするんだけど。

 

 これは終わった後に一悶着……というよりかは、悲鳴が上がるんだろう。自業自得だけど。

 

「更に続いてエントリーナンバー6番!

 死んでまでも思いを込めて、姿を変えて帰ってきました!

 お兄ちゃんは誰にも渡さない! 法律は全てクリアした!

 前世は弟、今は深海棲艦――ヲ級ちゃんが抜錨だっ!」

 

「全員倒シテ僕ガ勝ツ……ソレマデ待ッテテネ、オ兄チャンッ!」

 

 ハッキリと言わせてくれ。

 

 性別や血縁に関しては確かに問題が無くなったのかもしれない。

 

 だがそれ以前に年齢があるでしょうがっ!

 

 いったいどうしてそこに注目しないっ! 全員揃って俺を陥れようとしてるのかっ!?

 

「そして今回はゲストが登場!

 まさかの賞品がバトルに参加! 参加者全員の目当てである、園児キラーが初出陣!

 最近人気が急上昇! 第二の元帥――先生がお出ましだーっ!」

 

 ………………

 

 第二の元帥って何だよっ!?

 

 俺はあんな変態じゃねぇぇぇっ!

 

「これで参加者は全員揃いましたっ! それでは愛宕さんにルール説明をお願いしますっ!」

 

 言って、マイクを愛宕に渡した青葉は肩で息をしながら椅子に座った。

 

 ……いや、気合い入れてマイクパフォーマンスしすぎだと思うんだが、後で色々と大変そうなので放っておこう。

 

 もう少し考えてから喋れば良いのになぁ……本当に。

 

「はーい、青葉ちゃんお疲れ様でした~。マイクパフォーマンスはなかなかでしたけど、ちょーーーーーーーーーっとばかり問題があったので、後で反省会をしますから逃げないでくださいね~」

 

 愛宕はニッコリと笑みを浮かべて青葉の顔を見る。その瞬間、青葉がビクリと身体を震わせたのを俺は見逃さなかった。

 

 何と言うか……生きろ。でも自業自得だからね。

 

「それでは改めにルール説明です~。

 各自、専用のペイントボールやペイント弾を使用して、制限時間の1時間以内にできる限り他の参加者を倒してください。

 自分以外のペイント液が付着した時点で、その参加者はリタイアとなりますので、こちらの方に戻ってきてくださいね。もちろん、持ち点はそのままになりますから、逃げてばっかりでは勝利することは出来ません。いかに多くの参加者を倒すことが出来るかが、勝利への道となってま~す」

 

 愛宕が説明している内容は、前日に聞いていたものと殆ど変わりは無い。

 

「ここまではいつものバトルと同じですね。

 ですが、今回は子供達だけではなく先生が参加していますので、特別ルールが追加されます。

 子供同士での戦いで倒した場合はいつも通り1点ですが、先生を倒した場合のみ2点が入りま~す。しっかり忘れないようにメモしておきましょうね~」

 

 いや、勉学の時間だからメモしなくても大丈夫だろ……と思ったけれど、天龍だけはポケットから取り出したメモ帳を使って書き込んでいた。

 

 真面目なのか忘れっぽいのか……どちらにしても抜けてる感じが否めない。

 

 となると、天龍を倒すには正面からぶつかるよりも、ゲリラ戦あたりが有効だと思うのだが……さすがにこの場所では難しいな。

 

 ちなみになんでこんな考えが出来るかと言うと、ゲーム思考があるからである。ウォーゲーム……特にFPSが好きな俺は、こういったバトルに参加するのは初めてではあるものの、実のところ楽しみだったりするのだ。

 

 しかし、賞品として俺自信が関わっている為、気楽な感じで挑めないのが残念である。どうせなら伸び伸びとやりたいんだけどなぁ……

 

「また、反則行為についてですが、ペイントボールやペイント弾以外の攻撃をすることは禁じられています。間違っても実弾を使用したりせず、物理攻撃もしないようにしてください。

 もし、反則を犯した場合は即リタイアとなり、キツーイ罰が待っていますから絶対にしないでくださいね~」

 

 笑みを浮かべてそう言った愛宕だけれど、目は完全に笑っていなかった。ついでに天龍が身体を震わせていたんだけれど、もしかして以前に何かやってしまったんだろうか?

 

「これでルール説明は以上です。

 それでは、精一杯頑張って、悔いの残らないバトルをしてくださいね~」

 

 愛宕が言い終えた瞬間、広場の中心にいた俺以外の子供達が素早く構えを取った。

 

 俺も慌てて構えを取る――が、子供達の視線は完全にこちらを向いている。

 

 ――まずい。この状況は予想していたけれど、非常にヤバイと言えるだろう。

 

 開始直後はほぼ乱戦になることが予想できていたのだが、俺を倒したときの点数だけ倍になるということを聞かされてから、こうなることになるのではと危惧していた。下手をすれば開始数秒で俺はリタイアとなり、勝利もご褒美も無散する。そしてそのまま勝利した子供に俺の所有権が渡ってしまい……

 

 いや、これ以上考えるのは止そう。始まる前から負けることを考えたら、勝てる勝負も勝てなくなる。

 

 まぁ、実際には非常に厳しいのだけれど、丸っきりダメという状況でもない。あくまで開始と同時に攻撃されるだけなのだから、攻撃には転じず、逃げの一手を取れば良いのだ。

 

 いわゆる戦略的撤退というやつである。勝利のためなら取れるべき手段を用いるのが当たり前であり、提督になるために勉強してきたことも無駄ではなかったと実感する。

 

 ――そう、これはバトルロワイヤル。首に爆弾がついている状態で戦うのではないので、そういった心配はしなくて良いんだけれど、一斉に狙われることが分かっているのなら、俺はまず逃げることが先決だ。そして、それを分かっているのは俺以外にもいるはずだ。

 

 俺を狙うのが全員ならば、何も考える必要はない。しかし、それを前もって決めていた訳ではない――と思う。俺を狙う振りだけしておいて、開始と同時に他の参加者を攻撃する。俺に向かって集中している時ならば、これほど簡単に相手を倒せる機会はないだろう。

 

 考えれば考えるほど手段はいくつも湧き出てくるし、それが大丈夫かなんて分からなくなってくる。だが、俺の取れる手段は限りなく少ないし、子供達の方はかなり多くどれを選ぶかが難しいだろう。

 

 まぁ、何も考えないで俺を真っ先に狙ってくるやつもいるだろうけれど、それは置いといたとしてだ。

 

 特に、この中に時雨の存在がいるだけで、他の子供達に対して脅威になっているはずだ。単純な思考の行動では、裏を取られる可能性がある。そんな風に考え出せば、俺にとって非常に好都合な訳である。

 

 とは言え、最終的には出たとこ勝負なのに変わりは無いんだけどね。何せ、初めてのバトル参加なんだし。

 

 色んなことを考えているうちに、愛宕が空砲用のピストルを空に向かって構えているのが横目で見えた。

 

「では、バトルを開始いたしますっ。よ~い……」

 

 心臓の鼓動が大きく聞こえ、両手のひらに汗がにじむ。

 

 大きく息を吸い込んで力を溜めようとした瞬間、乾いた音が鳴り響いた。

 

 

 

 パアァァァンッ!

 

 

 

「……シッ!」

 

 肺の中にあった酸素を吐き出しながら、バックステップで子供達から距離を取る。

 

「……っ!?」

 

 だが、予想に反して俺の方に砲口を向けていた子供は2人だけだった。

 

「ちっ、読まれてたかっ!」

 

 その1人は、まず間違いなく俺を狙ってくるだろうと思っていた天龍で、残念そうな表情を浮かべて叫んでいた。

 

 そしてもう1人は、まさかの金剛だったのだけれど……

 

「撃ちます! Fire!」

 

 俺の方だけではなく、辺り一面に殆ど照準を合わせず、無差別に弾丸を発射したのだ。

 

「ちょっ、マジかっ!?」

 

 誰も弾幕薄いぞとか言ってねえぞっ!?

 

 鳴り響く砲撃音に俺は一瞬慌ててしまったが、やることには変わりは無いと反転し、一目散に後方へと走った。無差別に砲撃しているのなら、金剛を見ながら避けようとするのは難しいし、できる限り安全な場所に早く逃げる方が先決である。

 

 俺は後方に見える建物の裏手に向かうべく、無我夢中で地面を蹴りながら、砲弾に当たりませんようにと、心の中で祈っていた。




次回予告

 開始早々の金剛無双に慌てながらも、何とか窮地を抜け出した主人公。
しかし、魔の手は背後から忍び寄っていた……

艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その6「言葉と言葉」


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