しかし、原因は己にあり。すでに手遅れの状況に、母親までもが暴走するっ!?
感想板からちょっとした小ネタ、頂いちゃいましたっ。
「どういうことだよ母さんっ!」
とは言えさすがにこの歳で死ぬ訳にもいかず、なんとか湯舟からはい上がった俺は、驚く女の子? を風呂場に残したまま、台所に居た母親の元に駆け込んで大声を上げた。
「一体何をそんなに驚いているの? あと、前くらい隠しなさい。粗末なものを見せても母さん嬉しくないわよ?」
いや、息子のを見て喜ぶような母親なんていらねえぞっ!
とは思いつつも、近くにあった手ぬぐいを腰に巻付ける俺。
言葉にされると恥ずかしいものですね。はい。
「――って、そうじゃなくてっ! あ、あの子って男だったのかよっ!」
「いまさら何を言ってるの? ちゃんと最初に話したでしょ?」
「はあっ!? そんなことまったく聞いてないぞっ!?」
「ちゃんと連れて来たときに話したわよ。生まれたときからもの凄く可愛かったから、あの子の母親が悪ノリして女の子用の服を着せたら似合い過ぎたから、両親ともにテンション上がりきって『よし、この際男の娘に育てようっ!』みたいな感じになったから現在こんな感じになってるけど、戸籍ではちゃんと男の子だから変な間違いは起こしちゃダメよダメよダメなのよ? って、言ったじゃない」
なんでそこでギャグを入れてたんだよ母さんっ!
初めて出会ったとき、余りの可愛さに夢中になって、両親の話なんて殆ど聞いてなかったし……って、それじゃあ俺が悪いんじゃないかっ!
――ってかそんな大事なことなら、俺達の様子を見て勘違いしてるとか分かるようなもんだから、言ってくれれば良かったじゃんかよっ!
「いやー、端から見てたら面白くなっちゃたわー。母さん失敗失敗っ♪」
ぺろっ……と、舌を出した母親に本気で延髄決めたくなった、子どもの頃の夏の思い出だった――のだが、事はそれだけでは終わらなかった。
「お、お兄ちゃん……大丈夫?」
「うえっ!?」
声がする方に振り向くと、バスタオル1枚で身を隠した女の子……ではなく、男の娘の姿がそこにあった。恥ずかしそうに頬を赤く染めつつ、濡れた長髪の黒髪を指でねじりながら、柱の影に半身を隠しておずおずと口を開く様は、どこからどう見ても女の子にしか見えないんだけれど……
「し、心配になってあがってきたんだけど……ど、どうしたの……?」
「な、ななっ、なんでもないよっ!」
今更お前が男だと知らなかったとは言えないし、一体どうすればいいんだよっ! と、心の中で叫ぶ俺。
「あらあら、そんな格好じゃ風邪ひくわよ? もう一回お風呂に入って温まってきなさい」
「あ、はい……」
そう言って、じっと俺を見つめる男の娘。
「な……なんだよ……?」
「お兄ちゃんも……一緒に入ろ?」
「い、嫌だっ!」
そうと分かったら入れる訳が無いっ! ただでさえパニクってるのに、これ以上はマジ勘弁してくれっ!
「ふ、ふえっ!?」
全力拒否したら、急に涙目になった男の娘がプルプルと震え出した。
「ど、どうして……お兄ちゃんは僕のこと……嫌いになっちゃったの……?」
「そ、そういうんじゃないけど、嫌なものは嫌なんだっ!」
「そ、そんな……そんなぁ……」
しくしくと泣き出した男の娘。いやもう、女の子にしか見えないんだけど――って、そういう考えが危険過ぎるんだと思った瞬間だった。
「さっさとあんたも、もう一回入るっ!」
ゴスッ!
「痛ぇっ!」
後頭部に強烈な痛みが走り、頭を抱えながら振り向くと、
包丁を手に持った母親が、悪鬼羅刹の表情で立っていた。
「……っ!」
こ、この表情と包丁は……ヤバ過ぎるだろっ!
ヤンデレなんかじゃなく、ただのヤン。言葉を間違えたら、確実に殺されるっ!
つーか、さっきの後頭部の痛みは包丁の峰で叩いたのかっ!?
峰打ちだけどマジ怖いからやめてっ!
「弟を泣かすなんて兄のすることじゃないでしょっ! お願いされてるんだから、聞いてあげるのが良いお兄ちゃんでしょうがっ!」
「ちょっ、普通に弟って呼んでるじゃんかっ!」
「……前々から呼んでたわよ?」
「えっ、マジ?」
大きく目を見開いた俺は、母親と男の娘の両方の顔を交互に見る。
コクコクと、間違いなく縦に首を振っていた。
「………………」
えっと、これって完全に俺が勘違いしまくってた挙げ句の間違いってやつでファイナルアンサー……?
「お、お兄ちゃん……も、もしかして僕のこと……」
「えっ、あ、ち、違うんだっ! こ、これはその……」
慌てた俺はなんとか言い訳をしようとしたんだけれど、頭の中は真っ白になりかけて、また泣かしてしまうんじゃないかという気持ちが大きくなりかけていたのだが、
「う……嬉しい……」
「……は?」
「僕のこと……弟じゃなくて……女の子だと思ってくれてたってことだよね……?」
そ、その通りなんですけど、その発言は非常に怖いものがあるんですが……
「それじゃあ……僕のこと……お嫁さんに貰ってくれるってことで……良いんだよね?」
なんでそうなるんだああ嗚呼ぁぁぁぁっ!
「あらあらあら、まぁまぁまぁ……」
そして包丁片手に頬染めるってどういう了見だよ母親ぁっ!
「うふふ……嬉しいなぁ……」
「ち、違うっ! それはお前の勘違いだっ!」
「お兄ちゃんがお嫁さんっ♪」
立場逆転してるっ!?
「よしっ、私が許すっ!」
許してしまうんじゃねぇっ!
もうやだっ! こんな家さっさと出てやるっ! 荷物持ってアイキャンフライだゴルァッ!
谷底だろうと何処だろうと、ここよりは絶対安全なんだあぁぁぁぁっ!
ガシッ
「……え?」
「に・が・さ・な・い・よ、お兄ちゃんっ♪」
ヤンデレ化してるぅぅぅぅっ!?
怖いっ! マジで表情が怖いっ!
誰か助けてお願いぷりぃぃぃぃずっ!
「えっと、民法的には血縁関係が無いから結婚は出来るわよね……」
分厚い本をどこから持ち出して、何を調べてるんだ母親ぁっ!
そもそも性別を気にしやがれってんだぁぁぁぁっ!
もうやだこんな家族ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
「――とまぁ、そんな感じだったんです」
昔話をし終えた俺は、ふぅ……とため息を吐きつつ頭を掻いた。もちろん、風呂の場面とかは掻い摘んで話をし、今後の俺に影響が無い程度に説明しておいたのだが。
「それからしばらくドタバタ騒ぎの日々が続いたんですが、家族旅行の際に深海棲艦に襲われて……後はご存知の通りです」
そう言うと、愛宕と高雄は少し俯くように頭を下げた。
ちょっとだけ嬉しいような恥ずかしいような気もしたが、済んだことは仕方がないのだと言って、二人に笑顔を見せる。
「そっか……なるほどねぇ……」
元帥はもの凄く考えている素振りで両手を組み、俺の顔とヲ級の顔を交互に見つめていた。
「――で、結局のところヤッちゃったの?」
「ぶっふうぅぅぅぅっ!」
何言ってんだ元帥はっ!
人の話をちゃんと聞いてたのかっ!?
「だって、僕っ子じゃなくて男の娘でしょ? マジレアモノじゃん! 俺ならきっとヤッてる! 絶対絶対ヤッちゃってるもん……」
ゴスッ!
「げふっ!」
立ち上がって叫んでいた元帥の後頭部を演舞のような回し蹴りで一閃した高雄は、目を閉じながら大きなため息を吐いていた。
うん。今回は本気で自業自得だからねっ!
そして高雄さんありがとう!
深々と頭を下げると、高雄は右手の平を俺に見せるようして会釈をしていた。
暴走した元帥を止める役も大変なんだなぁ……と、思いつつため息を吐く。
そして元帥に呆れた愛宕、翔鶴、瑞鶴もため息を吐き、
「残念ナガラ昔カラガードガ固インダヨネ……オ兄チャンハ」
――と、同じようにため息を吐くヲ級。
内心それぞれ思いは違うけれど、室内には思い空気が漂っていた。
「うん。事情は分かったよ」
数分後、ケロッとした表情で起き上がった元帥は何事も無かったかのようにそう話した。
気絶し慣れてるんじゃないのかなぁ……元帥って……
「ちなみになんだけど、ヲ級ちゃんに質問していい?」
「何カナ?」
「以前は男の娘だったんだよね?」
「ソウダヨ」
否定しないところが恐ろしい。
「じゃあ、ヲ級に転生した今の性別ってどうなってるの?」
「……ヲ?」
……言われれば確かに気になるが、何を考えているんだと思われるその発言に、高雄がまたもや元帥の後頭部に照準を合わし始めていたが、
「ソウ言エバ、記憶ガ戻ッタノモ最近ダカラ、アマリ気ニシテイナカッタケド……」
つんつん……ぷにぷに……
自らの胸を突くヲ級。
つんつん……スカスカ……
自らの下腹部に触れ……る手前で空を切るヲ級。
「ナン……ダッテッ!?」
「ど、どうしたのかな……?」
「自慢ノアレガ無イッ」
男の娘なら気にするんじゃねぇっ! ただでさえトラウマなんだからよぉっ!
「じ、自慢だったんだね……」
さすがの元帥も冷や汗たらり……と、呆れ気味だったのだけれど、
「ドウヤラ性別ハ女ニナッタヨウダネ……」
言って、ヲ級は俺の顔を見上げる。
「コレデ、オ兄チャンガ気ニスル障害ハ完璧ニ消エ去ッタッテコトダネ……フフフ……」
超弩級の爆弾発言に、俺の意識は完全に飛びそうになっていた。
助けて天国のお父さんっ! お母さんっ!
そう、心の中で叫びつつ、
「YOU、ヤッちゃいなYO!」と、聞こえた気がしたのは空耳だったということにしておいた。
マジで誰か助けてください……
つづく
次回予告
なんだかんだでヲ級の入園が決まった。
暴走する元帥を抑え込む高雄。しかしそんな高雄を愛宕がからかって……
艦娘幼稚園 ~ヲ級とみんなの許嫁騒動!?~ その3「とある策士のドッキリ準備」
乞うご期待!
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