そして目覚めた主人公にとんでもない惨事が襲いかかる!?
更に追加されるル級に対し、主人公が取った行動は……
「にいちゃん……一緒に寝てもいいかな……?」
「なんだ、また怖い夢でも見たのか?」
「う、うん……そんなとこ……」
「ん? なんだかハッキリしないなぁ……」
「あ、あのね……」
「どうしたんだ? 一緒に寝るんだろ?」
「うん……そうなんだけど……」
「じゃあさっさと入れよ。じゃないと、寒いんだから風邪ひいちまうぞ?」
「う、うん、ありがと」
「………………」
「………………」
「……で、いったいどんな夢を見たんだ?」
「え、えっとね……そ、その……」
「あ、すまん。思い出したら怖くなっちゃうか」
「ううん、そうじゃないの。ただ……」
「ただ……?」
「にいちゃんと、初夜を共にできるって思うと……」
◆ ◆
「ぶふぅわあっ!?」
とんでもない夢で目覚めた俺は、上半身を起こして頭を抱えた。
なんつー夢を見るんだよ……封印したと思っていたのに……
脂汗でビショビショになった上着を脱いで、ふと、自分のすぐ側に人影のようなモノが寝転がっていることに気づき、嫌な予感がしつつも視線を向けてみた。
まさかとは思うが、ル級じゃ……ないよな……?
全裸で寝っ転がっていたル級が「昨晩ノ貴様ハ凄カッタゾ……(はあと)」とか言いながら、頬を染めていたりした日には、今すぐ崖からダイブするしかないんじゃないかと思い詰めたのだけれど、
「ヲッ」
深海棲艦違いの、ヲ級の姿がそこにあった。
「な、なんでここで一緒に寝てるんだ……」
「ヲッ、ヲヲ」
「うん。全く分からん」
「ヲヲヲ……」
がっくりと肩を落とすヲ級。だって、本当分かんないし。
「ヲッヲ、ヲヲ……」
身体を横たわらせて、手の甲を頬に当てながら、頬を赤く染めるヲ級が何かを言っている。
………………
いや、ル級じゃないんだから、マジでそういうのやめてくんないかな……
ただでさえ幼い容姿なんだし、こんなところを誰かに見られたら――ってまぁ、ここは海底だから、知り合いも多くないし問題もないか。
――と、思っていたのだが、
「ソロソロ起床ノ時間ダゾ……」
重なるときは重なるのがお約束である。
バッチリ目と目が重なる俺とル級。
「マ、マママッ、マサカ……ッ!」
「いやいやいやっ、ちょっと待て! さすがに少し考えれば分かることだから冷静になってくれっ!」
いきなり撃たれてもおかしくない程のル級のうろたえぶりに、俺は両手の平を突き出して大きな声を上げたのだが、
「先ヲ越サレルトハナンタル不覚ッ! 各ナル上ハ、三人プレイデ果テヨウゾッ!」
「だから落ち着けって言ってるだろうがあァァァッ!」
ルパ●ダイブをかまそうとするル級に、対空技の寝っ転がりハイキックをカウンターでぶち当てた俺は、すぐに立ち上がって追撃に備える。
だが、ル級はそのまま倒れ込み、先ほどのヲ級と同じようなポーズを取りながら、
「キズモノニサレルトハ……」
「意味合いが全然違うっ!」
更なる突っ込みをすることになってしまったのだった。
朝から突っ込み連打は本当に疲れるから、マジで止めていただきたいです。
◆ ◆
「むぅ……」
子どもたちの面倒を見始めてから数時間経ったくらいで、ふとあることに気づき、声を漏らした。
「ヲッ?」
ヲ級は何事かと俺の顔を見上げている。
「腹が減った……」
よくよく考えてみれば、捕われの身になってから一度も食事を取った記憶が無い。昨日は――と言うか今日もだけれど、バタバタしていたこともあり、完全に忘れきっていた。
ぐぅぅぅ……
しかし思い出してしまえば、今度は気になって仕方がない。腹の虫はとめどなく流れるが如く、低い鳴き声を上げ続けていた。
「レレ……」
そんな俺を見て、レ級が他の2人に呼び掛ける。
「レッ、レレーレ」
「イー……」
「ヲッヲ、ヲー」
何やら相談をしているようなのだが、内容はさっぱり分からなかった。時折こちらの方をチラチラ見てはコクコクと頷いていたので、俺が関係しているとは思うのだけれど……
「あー、その……いったい何を相談しているんだ?」
「ヲッ!」
俺の呼び掛けに反応したヲ級が右手を元気良く上げた。その動きを見て、イ級とレ級が別々の方向へと動き出す。
「お、おいおいっ! いったいどこに行くんだっ!?」
「ヲッヲ、ヲヲ」
触手を俺の肩にぽんっと置いて、ヲ級はニッコリと微笑んだ。何故だか分からないけれど、私たちに任せておけ――と言っている気がして、俺は少し不安になりつつも成り行きを見つめることにするため頷いた。
そんな俺を見て、ヲ級も行動を開始する。
「ヲッヲ~♪」
広場の隅っこへと駆けて行ったヲ級は、座り込んで何かを拾い上げているように見える。そうしているうちに俺の近くに戻ってきたレ級は、ヲ級に向かって声を上げ、手で抱えてきたモノを地面へと置いた。
「これは……木の板か?」
「レッ!」
コクコクと頷くレ級。
なんでこんなモノを持ってきたんだろう?
たぶん、昔に沈んだ木製の船の廃材か何かなんだろうけれど、何に使うのか分からないし、役に立ちそうにも思えない。
そうこうしているうちに、ヲ級も何かを持って俺の元へと戻ってきた。どうやら手に持っているのは2つの石ころのようだけれど、やっぱりこれも何に使うのか分からなかった。
「レレッ!」
「ヲッ!」
2人はお互いの顔を見つめ合いながら頷くと、ヲ級が廃材を両手で持ち、レ級が両手を腰にあてて重心を落とした。
なんだか、見たことがあるような光景なんだけど、これって空手とか武術の演技でよくあるパターンのやつじゃ……
「レッ!」
パキャッ!
割れたよオイ……
それはもう、モノの見事に真っ二つ。いくら深海棲艦と言えども子どもだからという認識は、拭い去った方が良いかもしれない。
「ヲーヲッ!」
ナイス! と言わんばかりのヲ級が、割れた廃材同士を重ね合わせて同じように手で持った。
そして構えたレ級は、素早い動きで回転し、
「レレーッ!」
パッキャーンッ!
見事な回転蹴りで、またもや真っ二つに廃材を叩き割った。
「………………」
その芸術的なキックに見とれてしまいそうになったのだが、それ以上に思えたのは、
「……可愛いなぁ」
そう。
身長が低い子ども体型なレ級の回転蹴りは、上段とは程遠い高さにしか放つことが出来ず、ヲ級もそれが分かっているのか、ちょうど大人で言う中段辺りの位置で構えていた。
その結果、何とも言えない可愛らしさをまとった回転蹴りになり、それを見つめる俺の顔も、思わず崩して笑みを浮かべてしまうことになったのである。
威力は十分、可愛いさも十分。
まさに俺得。いや、役得である。
「ヲッヲー」
レ級の打撃によって細かく解体された廃材は、ヲ級の手によって回収されると、ひとまとめに地面に置かれることになった。小さな円になるように配置されていくのを見て、ヲ級たちが何をしようとしているのかが分かりかけてきた。
「そうか……火を起こそうとしているんだな?」
「レッ、レ」
うん――と言う風に頷いたレ級は、先ほどヲ級が持ってきた石ころを両手に持って、カチカチと擦り当てる。しかし、上手く火花が飛び散らず、薪である廃材に火は着きそうになかった。
「よし、それじゃあ俺がやってみよう」
俺はそう言って、レ級から石ころを受け取ってしゃがみ込んだ。出来るだけ薪の近くで火花を起こす方が火も着きやすいだろう。
カチカチッ……カチッ、カチカチッ……
「ヲヲ……」
「レレ……」
しかし、どれだけ石ころを擦り当てても、薪に火が着きそうな気配はなかった。よく考えてみれば、直接木に火花を当てたとしても、簡単には燃えなかった気がする。こういうときは、火種になる燃えやすい物が必要なのだ。
「ヲ級、レ級。悪いんだけど、紙とかそういった燃えやすい物って無いかな?」
「ヲヲ?」
「レッ、レー……」
2人はお互いに顔を向けあいながら相談をしているようだったが、すぐに俺へと向き直ると、頭を左右に振って残念だと言わんばかりの表情を浮かべた。
「そうか……無さそうか……」
考えてみれば海底であるこの場所に、船の廃材である木の板ならまだしも、紙が都合よくあるとは思えない。俺は他に火種になるような物が無いかと、ズボンのポケットに手を突っ込んでみた。
しかし、手に触れたのはズボンの生地だけで、他には何も入っていなかった。
ん、いや――待てよ。
パッと閃いた俺は、ポケットの隅から隅まで指の腹で擦るように動かした後、人差し指と親指で中にあるものを摘んで外に出した。
「ヲッ?」
何かを持っているのかとヲ級は俺の手を見つめてきたが、ソレに気づくことなくがっかりした表情を浮かべて肩を落とした。
「おいおい、どこを見てるんだ?」
「ヲーヲ?」
「これだよ、これ」
俺はそう言って、指で摘んでいた物を落とさないようにヲ級とレ級に見せる。
「レレ?」
「これは、ポケットの中に入っていたゴミクズだよ。埃とか糸屑とか、そういうのがまとまった物なんだ」
「ヲー」
「小さくはあるけど、火種になる可能性は十分にあるんだぞ?」
「レレッ!」
目を大きく見開いて、レ級はマジマジとゴミクズを眺めていた。俺はニッコリと笑みを浮かべた後、薪の近くにそれを置いて、石ころを擦り当てて火花を散らす。
「ヲッヲ!」
「レッ!」
暫くすると、ゴミクズから小さな白い煙がプスプスと上がり、真っ赤な炎が着き始め、2人が歓喜の声を上げた。
しかし、上手く行くのはここまでだったようで、薪に火が着くよりも早く、小さなゴミクズが燃え尽きてしまった。俺たち3人は愕然とした表情を浮かべながら、ガックリと肩を落とす。
「ヲー……」
「レ……」
「くそっ! もう少しだったのに……」
地面に向かって拳を叩きつける。痛みよりも悔しさが勝り、何度も繰り返し地面を叩いた。
すると、落ち込んでいる俺たちのすぐ近くに、すっかり忘れてしまっていたイ級が帰ってきた。更にその後ろから、別の影が近づいてくる。
「イッタイ何ヲシテイルノダ?」
「ル級か……見ての通り、火を起こそうとしてたんだけど……火種がなくなっちまったんだよ……」
「火種ダト? ナゼソンナ面倒ナコトヲ……」
「面倒って……ライターとかそんな気が利いた物があるわけでも……あっ!」
思い出したように声を上げた俺は、余りの自分のふがいなさに頭を抱える。
ル級がいるということは、もちろん艦装もある訳で、
「弾薬ヲバラシテ使エバ、火ナドスグニ着クダロウニ……」
その突っ込みに対する返答は、誰一人として返すことが出来なかった。
◆ ◆
「トコロデ、ナゼ火ヲ着ケヨウトシテイルノダ?」
「それは……俺にも分からないんだけど……」
俺はそう言ってル級に見えるように、始めだしたのはヲ級とレ級なんですよ――と、指差した。
「フム。ト言ウコトハ、イ級ノ頼ミゴトモ関係シテイルヨウダナ」
「頼みごと?」
「イーッ」
イ級はコクリと頭を下げ、ル級に向き直る。
「コレヲココニ持ッテキテ欲シイト言ワレテナ」
そう言って、ル級はどこに隠し持っていたのか大きな網を前に出し、縛っている口を解いて中身を地面へと放りだした。ドサドサと落ちていくのはどうやら魚のようなのだが、今まだに見たことが無いような姿に俺は驚きを隠せない。
何と言うか……その、凄く……グロテスクなんですが……
目玉がとんでもなく大きい魚から、触手のようなモノがたくさんついている魚。たぶん、これらは全て深海魚なのだろうが……
「ヲッヲ~♪」
大量の魚を見て、ヲ級は大喜びといった風に両手を叩きながら踊っていた。それに釣られて、レ級もイ級も同じように喜んでいる。
いったい何が始まると言うのだろう。たき火に魚と言えば、アレしか思い浮かばないけれど、グロテスクな姿の魚をまさか食べるなんてことは……
「ソレデハ、串ニ刺シテ塩ヲカケナイトナ」
食う気満々だった。
とは言え、空腹である俺にとってこの出来事は渡りに船。多少……いや、かなりのグロテスクではあるものの、こういうものほど味は旨いと言うし、御相伴に預かれるのはありがたい。
ル級に続いて俺もレ級もヲ級も、魚を串に刺して塩を振る。イ級は……さすがに出来そうに無いので、応援がてらに踊りつづけていた。もしかすると、ヲ級たちがこうやって薪を用意したり、魚を採ってきたりしてくれたのは、俺がお腹を空かせていたのを見たからではないだろうか。そうなのであれば、感謝してもしきれないくらい嬉しいのだけれど、それじゃあなんで昨日の時点で食料がもらえなかったんだろうと、気になってしまった。
「ル級、ちょっと聞いていいか?」
俺は魚に串を刺しながら、ル級に問う。
「ナンダ?」
「これって、俺の飯ってことで良いのかな?」
「ソノ為ニ、ヲ級タチガ用意シテクレタノダロウ?」
「そうか……そうだよな。ありがとうな、みんな」
「ヲッヲヲー」
両手は魚と串で塞がっているので、ヲ級は頭部の触手を上げながら答えた。
器用に使えるんだなぁ……それって。
「それともう一つなんだけど」
「マダ何カアルノカ?」
「なんで昨日、俺の食事無かったの? やっぱり、捕虜って1日1食とかだったりするのかな?」
「………………」
ル級はハッとした表情を浮かべながら、俺から目をそらし、ヲ級やレ級の方へと視線を向けた。そんなル級に気づいてか、2人は視線を合わさないように明後日の方へと顔をそらす。
「……もしかして、忘れてたとか?」
「イ、イヤ……ソンナコトハ無イ……ゾ」
ル級の額から、タラリと一筋の汗が流れ落ちるのを俺は見逃さない。
「そうだよな……俺って強制労働させられる、使い捨ての捕虜だもんなー」
「ム、ムググ……」
わざとらしく落ち込む俺を見て、ル級は更に汗を垂らした。表情は困惑し、どうすれば良いかと考えているように見える。
しかしまぁ、この手はやり過ぎると逆効果になってしまうので気をつけなければならない。地上の幼稚園でも、天龍にこの手を使った後、龍田から脅されちゃったしね。
――今思い出しても寒気がする。さすがは幼稚園の裏番長、龍田なだけはある。
えっ、そんなこと初めて聞いたって? そりゃそうだ。今考えたんだから。
「シ、仕方ナイ……」
ブルブルと身体を震わせていたル級は、急に俺の顔をしっかりと見つめながら口を開く。
「オ詫ビニ、今晩私ヲ食ベテイイゾ」
「結局お前がしたいだけじゃねえかっ!」
「チッ……バレタカ……」
「子どもたちの教育にもよくねえから、あんまりそういうことを口にするんじゃねぇ!」
「深海棲艦ニトッテ、コウイウコトハオープンナノダ」
「そうなのっ!? すっげぇアメリカンッ!」
いや、それにしたってやり過ぎだと思うけどね。
本当に自重しろって話である。
まぁ、そんなこんなでたわいのない会話をしながら、全ての魚を串に刺して塩を振り、焼く準備が整った。
「ヲッヲ」
「ウム。ソレデハ弾薬ヲ解体シタ火薬ヲ、薪ニ降リカケテダナ……」
サラサラサラ……と、美味しそうには見えない粉を降りかけていく。
これがアツアツの白ご飯にごま塩だけでも、今の俺なら十分なんだけどなぁ。
「ヨシ、後ハ着火サセルダケダ」
「レッ!」
嬉々としたレ級が石ころを擦り当てて火花を散らす。だが、なかなか火が着かず、表情が徐々に不機嫌になっていた。
「私ガヤッテミヨウ」
「レレ……」
しょんぼりとしたレ級から石ころを受け取ったル級は、強く石ころを擦り当てる。しかしそれでも火薬に火が着かず、もしかすると湿気ているんじゃないかと思い、声をかけようとしたのだが、
「マドロッコシイノハ苦手ダ……」
ル級はそう言って立ち上がり、石ころを後方へと投げ捨てると同時に砲口を薪に向け、
ズドーーーンッ!
あろうことか、実弾を発射した。
「「「「………………」」」」
目が点になったまま、俺と子どもたち3人は立ち尽くしていた。
それもそのはずで、薪はおろか魚の姿すら残ってはおらず、見事なまでに四散してしまっている。
「馬鹿かてめぇはっ!」
「ム、ムゥゥ……」
「こんな至近距離で大砲をぶちかますか普通っ!? もうちょっとズレてたら、俺や子どもたちにまで被害が及ぶじゃねぇかっ! 何なのっ、馬鹿なの、死ぬのっ!?」
「ヲヲ……」
「レー……」
「イィー……」
ガックリと肩を落とす子どもたちがル級を見つめる。
「ウッ……ソ、ソノ……スマナイ……」
さすがにいたたまれなくなったのか、ル級は子どもたちに頭を下げて謝る。
そして今度は俺に向かって、
「コノオ詫ビハ、今夜シッポリト……」
「だからそれはいらねぇって言ってるだろうがぁぁぁっ!」
レ級に負けず劣らずの回転蹴りが、ル級の頭にクリーンヒットした。
結局、食事はまだ先になりそうである。
しくしくしく……
つづく
次回予告
深海棲艦の子どもたちとも分かりあえてきた主人公。
しかし、たった一つの命令が、全てを変えてしまう事になる。
別れを迎えた主人公に、ル級がとんでもない事を言い出した。
艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その9「別れ」
乞うご期待!
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