艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 あえて言おう! ずっとル級のターン!

 ヲ級たちの面倒を見終えた主人公は大の字で地面に転がっていた。
そんなところに、声をかけてくるのは……そう、ル級だった。


その7「深海棲艦」

「ぷはー、疲れたー」

 

 子どもたちの面倒を見終えた俺は、広場の真ん中で大の字になって寝転がっていた。時間にするとたいしたことはないのだが、向こうの言葉が分からない為、理解しようとする労力が非常に大変で、もはや疲労困憊のぶっ倒れ状態である。体力の回復をする為にも、暫くここから動けそうになかった。

 

「ヨッ、オ疲レッ」

 

 そんな俺の隣に、ル級がいつの間にか立っていた。

 

 なんで、仕事上がりのサラリーマンみたいな声の掛け方なんだよ……

 

「冗談ダガナ」

 

「心の中を読んだ挙げ句に、否定するんじゃねぇっ!」

 

「チョットシタ、オ茶目ナ会話ジャナイカ」

 

「ほんの少しの間でどんなけフレンドリーになってるんだよっ!?」

 

「ドンナケー」

 

「伸ばすなっ! そしてお前の性別はどっちになるんだっ!?」

 

 見た目は女性。中身はオッサン。人呼んで戦艦ル級とは、こいつのことだ。

 

「冗談ダ。チナミニ、フレンドリーニ関シテハ別ニ構ウコトハナイダロウ。ムシロソノ方ガ貴様ニトッテ都合ガ良イト思ウガ?」

 

「そりゃあ……そうだけどさ……」

 

 どうにもル級と話すと調子が狂う。まぁ、ギスギスとした感じでないだけマシだとは思うのだが。

 

「マァ、下心ガアルカラナンダガナ」

 

「何のっ!?」

 

「ククク……聞キタイカ?」

 

 言って、舌なめずりをしながら見つめるル級の目が、妖艶な感じにしか思えない。

 

 やっぱり犯されちゃうのかっ、俺!?

 

「冗談……デハ無イケドナ」

 

「そこは冗談だって言おうよっ!」

 

「ソレデハ面白ク無イノデハ?」

 

「お笑いやる気満々じゃねぇかっ!」

 

 頼むから休ませて欲しいのだが、ル級の機嫌を損ねてしまうと本当に危うい気がするので言うに言いきれない。俺は仕方なく、ため息という手段で抵抗することにした。

 

「ドウシタ? モウ泣キ言カ?」

 

「誰のせいなんでしょうねぇっ!」

 

「フム、私デナイコトハ確カダナ」

 

 お前だよっ!

 

 ――と、ボンテージで身を包んだ芸人のように心の中で突っ込みながら、なんとか話を反らそうと、問いかけることにした。

 

「フレンドリーついでに、一つ聞いていいか?」

 

「一回ニツキ一発デ許シテヤロウ」

 

「立場が逆っ!? そしてなんで都市狩人!?」

 

 いや、立場的には俺の方が弱いんだけど、そういうことじゃない訳で。

 

 つーか、説明したくないから想像にお任せします……

 

「マァイイ。気分ガ良イノデ無料デ構ワンゾ」

 

 金取るのかよ……と、もはや突っ込む気力もなく、許しも得たので聞いてみることに。

 

「なんで、お前たち深海棲艦は人間を襲うんだ?」

 

「………………」

 

 その問いを聞いて、ル級はじっと俺の目を見つめてきた。

 

 先ほどのおちゃらけた雰囲気は全くなく、真面目な顔で、今から戦おうとしている風にも取れた。

 

 怖い。けれども、今更撤回することも出来ない。

 

 暫く見つめ合う時間が流れた後、ル級は「フゥ……」とため息を吐いてから口を開いた。

 

「ソノ問イニ答エル前ニ、一ツ聞キタイコトガアル。貴様ハ、ワレワレ深海棲艦ガドノヨウニシテ生マレテクルノカ知ッテイルカ?」

 

「ハッキリとは分かっていないが、過去に沈んだ船の怨念などが実体化したのではないか……と、俺たちは考えているが……」

 

「ソウダナ、アナガチ間違ッテハイナイ。ダガ、全テガソウデハナイシ、ワレワレニモ分ッテイナイコトモアル」

 

「分かっていない……?」

 

「アァ。正確ニハ覚エテイナイト言ノガ正シイノカモシレナイ」

 

「そ、そうか……」

 

 当の本人からそう言われてしまっては、何も言うことが出来ない。今から思い出せというのは酷かもしれないし、多分、今までにも思い出そうとした深海棲艦はいたのだろう。しかし、そのことについて触れないで欲しいと、ル級の口調からハッキリと感じ取れた。

 

「チナミニ私ノ記憶ハ、途切レ途切レデ残ッテイルガ……」

 

 そう言って、ル級は目を閉じた。

 

「空ニモノ凄ク明ルイ光ヲ見タ記憶ダケガ残ッテイル。シカモソレハ一度ダケデハナク、私ガ沈ムマデ繰リ返エサレタ。ソレガ人間ニ対スル憎シミトナリ、フツフツト沸キ上ッテクルヨウナノダ……」

 

 目を見開いたル級。その目は今にも泣きそうな位に悲しげで、儚く見えた。

 

 空に浮かんだ明るい光。一度ではない経験。そして人間対する憎しみ。それらの言葉から、俺は一つの戦艦の名が頭に浮かんできた。しかしそれをル級に話しても良いのだろうか? 記憶が甦ることにより、更に憎しみが増大するのではないだろうか?

 

 そして俺は、もう一つの考えに至ることになる。

 

 深海棲艦が生み出される理由が、人間に対する罰なのではないのかと。

 

 地球という舞台の中で、人はある兵器を産み出した。その兵器はたくさんの人を殺し、形を変えて人の暮らしを支えていった。

 

 しかしその一方で、地球には多大な被害をもたらし続けている。

 それが、人の過ちであると定められ、

 

 その過ちが深海棲艦を生み出すのなら、

 

 地球が人を排除しようとしているのではないだろうか?

 

 そんなことはあってほしくない。だけど、それが一番、簡単に説明が出来てしまう。

 

 ならば人は、滅ぶ定めしか残っていないのか?

 

「ドウシタノダ? 急ニ黙リ込ンダリスルトハ……」

 

「あっ、いや……すまない。少し考え事をしていたんだが……」

 

「モシ不安ナラバ、相談ニノルゾ?」

 

「本当にフレンドリーだよな……」

 

 最初に出会ったときとは凄い違いだよな――と、俺は呆れにも似た、ため息を吐く。

 

 そして、ふと――こんな考えが俺の頭に過ぎった。

 

 人が地球の膿であり、深海棲艦がワクチンとするなら、

 

 膿とワクチンは相容れないのだろうか?

 

 実際に今の俺は、深海棲艦であるル級と会話をしている。ヲ級やイ級、レ級の子どもたちとも触れ合った。捕われの身ではあるものの敵対している訳ではなく、むしろフレンドリーに会話を楽しめてさえいるのだ。

 

 さっきの俺の考えが正しいのなら、今のようなことは起きるとは思えない。人間は反省することが出来る生き物で、それを促すために俺がここに呼ばれたと言うのならば――

 

 やはりル級の言う伝説は、間違いないのかもしれない。

 

 ――って、このままだとまた同じようなエンディング画面に行きそうなので、自重しないと大変だ。

 

 いやいや、エンディング画面ってなんだよ。まだ死なないよ、俺。

 

「貴様ハドウナノダ?」

 

「……えっ?」

 

 ル級の言ったこと場の意図が掴みきれなくて、俺は疑問の声を上げる。フレンドリーに対することなのか、それとも別のことを聞いているのか、ハッキリと分からない。

 

「人間ハワレワレ深海棲艦ヲ襲ウ。ソレハ報復ノ為ダロウト言ウコトモ分カッテイル。シカシ、貴様カラハソレ以外の理由ガアル雰囲気ガ感ジラレル気ガスルノダガ……」

 

「………………」

 

 ル級の言葉に目を見開いた。今までの会話で、心の奥底に秘めていた本心――すなわち、家族の仇と言うことを表に出したつもりはない。それが知られれば、間違いなく俺は海の藻屑になると思っていたのだから。

 

 しかし、ル級は俺の心までも読み取っていた。確かに、考えていることをちょくちょく当てた挙げ句にボケ振りまでしてたんだから、そういう能力があってもおかしくはないんだろうけれども。

 

「マァ、言イ難イコトナラ無理ニデモ言ワナクテモイイゾ?」

 

 気遣いまで出来るル級。もはやどちらが人間でどちらが深海棲艦だか分からないぞ……

 

「いや、それは別にいいんだが……一つ聞いても良いか?」

 

「フム……」

 

 俺の目を見たル級は、何かを言いかけて、すぐに言葉を飲み込んだ。

 

 多分またボケようと思ったのだろうなぁ。

 

 ボケ――だよね? ボケとか突っ込みとかの、お笑い的なやつだったんだよねっ!?

 

「――デ、何ヲ聞キタイ?」

 

 ル級のその言葉を聞いて俺は息を飲んでから、しっかりと目を見つめて口を開く。

 

「今から10年前くらいのことなんだが……客船を襲ったことがあるか?」

 

 俺と、家族が乗っていた、大型の客船を。

 

 ル級はあの時、俺たちを襲ったのか?

 

「イヤ、記憶ニハ無イ」

 

「記憶には……だとっ!?」

 

「正確ニハ、私ガ深海棲艦ト気ヅイテカラ、三年ホドシカ経ッテイナイ」

 

「そっ、そうか……すまない、取り乱しかけた」

 

「イイヤ、貴様ニモ何カ訳ガアルノダロウ。ダガソレハ、聞カナイ方ガ良イノダロウナ」

 

「そう言ってくれると助かるよ……」

 

「ソレハオ互イ様ダ。アノ三人ヲ見テクレテイルダケデ、私トシテモ非常ニ助カッテイル」

 

「……そうなのか?」

 

「アァ。ナンセ、底無シノ体力ダカラナ……」

 

 あー、そうなのね……

 

 やっぱりル級も、子どもたちの面倒を見るのはキツかったのね……

 

 最後の最後にオチがつき、2人揃ってため息を吐いた深海での会話だった。

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 それから明日まではやることが無いと聞かされた俺は、たわいのない会話をル級と暫く楽しんだ後、幾度となく襲ってきた欠伸に負けて眠ることにした。その際、ル級が厭らしい目で俺の身体を嘗めまわしているような気がして身の危険を感じまくった俺は、広場の片隅でガタガタ震えながら命ごいをすることで情けなさを全面に出して呆れさせることに成功し、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「興ガ冷メテハシカタガナイ。ダガ明日コソハ……ククク……」

 

 そう言ってル級は去って行ったけど、それもボケってことで良いんだよねっ!?

 

 そうじゃないと、数日のうちに襲われちゃうからっ! 助けて愛宕さんっ!

 

 とまぁ、そういう展開は薄い本にでもお願いするとして、俺は地面に寝転がりながら地上にある幼稚園のことを思い浮かべていた。

 

 元気いっぱいに幼稚園の中をはしゃぎ回る子どもたち。俺はいっつも振り回されてばかりだけれど、とても楽しい毎日を過ごしてきた。

 

 もちろん、今この場所が楽しくないという訳ではない。ただ、捕われの身であることと、ガラリと変わった環境では身体を休めることさえ難しい。

 

 ――と言うか、寝てる間にル級に何かされるかもしれないってのが、一番心配なんだけどね。

 

 この際開き直って、身を委ねてみる方がいいのかもしれない。ただ、二度と引き返せなくなる気がしてならないんだけど。

 

 人間諦めが肝心と言うが、まだ諦めたくないんだよなぁ……

 

 そんな、人としてどうよ……と言われてしまいそうなことを考えているうちに、疲れから瞼が少しずつ重くなり、夢の世界へと誘われていった。

 

 

 

つづく




次回予告

 次回サブタイトルマジやばい?
大丈夫。クエスチョンがついてるからねっ!

 またもや出てきた弟の夢。
そして目覚めた主人公。目のあたりにする大惨事!?
更なる悲劇が主人公を襲うっ!?


 艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その8「初夜?」

 乞うご期待!

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