艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※ヤンデル大鯨ちゃんの最新作も更新してます。宜しくです。

 ヲ級たちを主人公に任せ(おしつけ)て、去って行ったル級。
どうすりゃいいのかと迷っていると、子どもたちは急に走り出す。
鬼ごっとと理解した主人公は、幼稚園と同じようにやってみようとしたのだが……


 え、まさかの展開? 今回最終話?


その6「嘘」

「えっと……とりあえず、どうするかな……」

 

 呟いてはみたものの、全く良い案が浮かばない。

 

 相手をするのは子どもだけれど、全員が深海棲艦である。家族の仇であり、人類の敵なのだ。

 

「ヲ?」

 

 しかしどうしてだろう。俺を見上げるヲ級の瞳は、純粋無垢な子どもそのものにしか見えない。こんな子が大きくなると、人間に対して脅威になるとは、どう考えても信じられなかった。

 

「イッイー」

 

 イ級に至ってもそうだ。俺が乗っていた船や漣を襲ったイ級とは、姿形は似ていても、全く悪意が感じられない。

 

「レレレッノレー」

 

 ……いや、お前もお笑い担当なのか?

 

 とりあえず言う。古過ぎる。

 

 最近の若い読者には全然通じないんだからねっ!

 

 自分の子どもですら箒で転がしちゃうような大人になっちゃいけませんっ!

 

 ……ふぅ、とりあえず突っ込みきった。

 

 満足満足。

 

「ヲッヲー」

 

「イーッ」

 

「レッレレー」

 

 三人が円になってくるくると回る。その光景は、幼稚園で見ていた園児たちとなんら変わらない。

 

「はぁ……まさか、海の底でも先生になるとはなぁ……」

 

 とりあえず、出来ることから始めよう。

 

 前向きに生きると、決めたのだから。

 

 あと、出来れば突っ込みはほどほどにしたいけど。

 

「よし、それじゃあ何がしたい?」

 

 俺は深海棲艦の子どもたちに問う。

 

「ヲヲーッ」

 

 ヲ級が右手を上げて、俺を呼ぶ。その瞬間、イ級もレ級も俺から離れるように駆け出した。

 

「なるほど、鬼ごっこだなっ!」

 

 ニッコリと笑顔で大きな声を上げる。すると、ヲ級もイ級もレ級も、笑みを浮かべて俺を見た。

 

 ……実際にはイ級の顔の判断がつき難かったけど。

 

 まぁ、言葉が通じない訳じゃないようだ。

 

 それなら何とかやって行けるだろうと、俺は両頬をパチンと叩いて気合いを入れる。

 

「よしっ、俺から逃げられるかなっ?」

 

「ヲッヲー♪」

 

 加減をしつつもしっかりと、俺は海底の地面を蹴った。

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」

 

「……ヲ」

 

「イーイ……」

 

「レレ……レ」

 

 俺は3人に囲まれるような状態で、両手を膝について肩で呼吸を整えていた。

 

「な、なんつー……体力だよ……」

 

 鬼ごっこをし始めてから約30分。初めの方は、加減をしながら追いかけていたんだけれど、全く追いつく気配がなかった俺は、さすがにやばくないかと考えて、真面目に走ったのだが、

 

「ちょっ……ちょっとだけ……休憩させて……くれ……」

 

 追いつくどころか全く距離が縮まらず、次第に本気になった俺は全速力で追いかけ回した。しかし、3人は笑った顔のままぐるぐると広い空間を走りつづけ、俺から逃げおおせたのだった。

 

 あと、イ級に至っては空中に浮いてます。どういう仕組みかは分かんないんだけど。

 

 よくよく考えてみれば、天龍や龍田の時も俺の足と変わらない速度で走ってたし、艦娘の身体能力は人間の遥か上をいくんだろう。そして、それは深海棲艦も同じのようだ。

 

「ヲッ」

 

 近くにいたヲ級が左手を上げた。頭の上についている大きな楕円の口部分にある触手のようなモノも、合わせて上へと伸びていく。

 

 ブイイイイーンッ

 

「うおっ!?」

 

 すると、急にヲ級の上部から小さな飛行物体が現れて、思わず俺は声を上げてしまった。しかし、ヲ級は気にすることなく何かを指示するように手と触手を振って、ル級が消えて行った方へと飛ばしていく。

 

「ヲッヲ!」

 

 そして、俺に向かってガッツポーズをしたヲ級。

 

 うん、全然分かんない。

 

「ヲヲヲ……」

 

 伝わらなかったことを理解したのか、ヲ級は肩を落としてしょげこんだ。そんなヲ級を慰めるように、レ級がぽんぽんと頭を撫でる。

 

 やだ……可愛い……

 

 ――と、不覚にも思ってしまう俺。

 

 可愛いとは、全ての生き物に共通する感情なのだっ。仕方がないっ。

 

 ゴツンッ

 

「痛っ!?」

 

 痛みに驚いて後ろへ振り返ると、宙に浮いたイ級が俺の頭を突いていた。

 

「な、なんだよいったい……」

 

「イッ、イイー!」

 

「……何が言いたいんだ?」

 

 分からないとジェスチャーで示すと、イ級はため息を吐くように頭を少し下げた後、ヲ級の方へ向き、すぐに俺の頭を何度も突いた。

 

「……もしかして、慰めてこいって言ってるのか?」

 

「イッイー!」

 

「合ってる……って感じだな」

 

 少々腑に落ちないながらも、先生として落ち込んでいる子どもを見過ごすわけにはいかない。ましてや原因が俺にあるらしいので、尚更のことではあるのだが……

 

「問題は、さっきヲ級が何を伝えようとしていたか――だよな」

 

 飛行物体を飛ばした後、俺に向かって何かを伝えようとした。それについては間違いないだろう。

 

 問題はその内容であり、非常に難解な問題である。こちらの言葉は理解しているようなのだが、肝心の、あちらの言葉を俺が理解出来ないのだ。言葉の発音やニュアンスが違うのは何となく分かるのだが、余りの短さに、内容を理解するのは困難を極める。

 

 だが、とりあえず今俺が出来ることをするならば、これしかないだろう。

 

「ヲ級、その……だな」

 

「……ヲ?」

 

「言葉を理解できないのは、本当にすまないと思っている。少しずつ分かるようになるから、それまでは辛抱してくれないか?」

 

 俺はそう言って、レ級と同じように、けれども優しく、ヲ級の頭を撫でてあげた。

 

「ヲヲ……」

 

 俺を見上げるヲ級の瞳が、やんわりとほぐれるように閉じていく。悲しげな表情はすでに無くなり、純粋無垢な子どもの笑顔が俺に向けられていた。

 

 ふと……思ったんだが、俺の撫でているところは頭なんだろうか? 目のような大きいモノがついているし、口みたいに歯が並んでいるし、そこから触手みたいなのが生えてるし……って、近くで見ると、ちょっと怖いんだけど。

 

 でもまぁ、こんなに喜んでくれているのなら、別に良いかなとは思う。

 

「レレッ!」

 

「ん、どうした?」

 

「レッ、レレレッ!」

 

「もしかして、撫でてほしいのか?」

 

「レッ!」

 

 コクコクと頷くレ級。どうやらヲ級の気持ち良さそうにしている姿に、自分も撫でられたくなったらしい。

 

「よし分かった。それじゃあ、こっちの手で……」

 

 俺はそう言って、レ級の頭を優しく撫でる。

 

「レレ……」

 

 なでなで……なでなで……

 

 俺の両手に撫でられて、ヲ級とレ級は気持ち良さそうに立っている。

 

 この光景は、幼稚園でもよくあった。

 

 龍田にからかわれて泣いている天龍を慰めていた。

 

 何もない所で転び、痛がる潮を慰めていた。

 

 おかたづけをした夕立を褒めていた。

 

 バーニングミキサーを回避したら壁にぶつかって泣いた金剛を慰めていた。

 

 天龍をからかうためにと、龍田に脅されて撫でていた。

 

 ――最後辺りはちょっと違う気もするけれど、それでもこの光景は、

 

「ヲッ……」

 

「レッ……」

 

 地上にある幼稚園と変わらない。

 

 もし、この子どもたちを俺がしっかり育てたらどうなるのだろう?

 

 人間を襲わないように。危害を加えないように。

 

 人間と共同生活を送れるように。

 

 そう、育てることが出来たなら、家族も報われるのではないだろうか。

 

 いや、それだけじゃない。

 

 人間と深海棲艦が一緒に暮らせる世界。それこそが、未来のあるべき姿なのかもしれないのでは、ないだろうか。

 

 なら、俺がここに来たことは、

 

 ル級が言っていた、伝説の通りではないのだろうか。

 

 まさかそんなことはと、思う。

 

 でも、実際に俺は海の底でこうしている。

 

 これがもし、奇跡と言うのならば、

 

 俺のやるべきことは、一つだろう。

 

 

 

 この決断は、地上にある幼稚園へ戻ることは出来なくなるかもしれない。

 

 もう二度と、子どもたちに会うことが出来なくなるのかもしれない。

 

 しかしこれが、俺の運命ならば、

 

 喜んで、身を捧げようと思う。

 

 皆の姿を思い浮かべながら、俺は海面がある上へと視線を向ける。

 

 

 

 さようなら……と、俺は目を閉じた。

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 ――と、言うとでも思った?

 

 それじゃあダメだって! 艦娘幼稚園が終わっちゃうよねっ!

 

 それに、俺はまだまだやりたいことが一杯あるんだから、こんなところでは終われない!

 

 そう、愛宕のおっぱいを揉むまではっ!

 

 あー、うん。そんな冷たい目で見ないでください。

 

 ちょっとだけ反省してます。いや、本当にっ!

 

 見捨てないで! お願いしますっ!

 

 ……ごほん。

 

 いや、何と言うかごめんなさい。

 

 ちょっと調子に乗ってました。もうしません。

 

 とりあえず、撫でつづけていた話の続きに戻るんですが……

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 ブイイイインッ

 

「うおっ!?」

 

 ヲ級とレ級の頭を撫でつづけていた俺の背後に、ヲ級が飛ばした飛行物体が近づいて来ていた。

 

「び、びっくりした……って、なんだこりゃ?」

 

 よく見てみると、飛行物体の近くに水玉のようなフワフワとした物が一緒に浮いていた。

 

「ヲッ、ヲヲッ!」

 

 ヲ級もそれに気づき、右手を上げて俺に差し出すような位置へと移動させる。

 

「ヲヲッ!」

 

「えっと……」

 

 目の前にフワフワと浮かぶ水玉。どこかで見たことがあるような物体に、俺は頭をひねって考える。

 

 ――あ、これって宇宙船に乗ってる人が水で遊んでいるときのやつじゃないか?

 

 テレビか何かで見たことがある光景に、ヲ級の言いたいことが分かってきた気がする。肩で息をする位へとへとになった俺に、水分補給をする為に持ってきてくれたんじゃないだろうか。

 

 ヲ級の優しさを感じた俺は、ニッコリと笑みを浮かべて、もう一度撫でる。

 

「貰って良いのか?」

 

「ヲッヲー」

 

「ありがとなっ」

 

 俺はそう言って、ヲ級に感謝しながらパクリと水玉を飲み込んだ。

 

 口の中に広がる水分が喉を通っていき、カラカラになった口内を潤していく――はずだった。

 

「ぶはあっ!」

 

 なんじゃいこりゃああああああああっ!?

 

「ヲ?」

 

「し、しおっ! 塩辛ぇっ! こ、これって海水じゃねぇか!?」

 

「ヲヲッ!」

 

 コクコクと頷くヲ級に、俺はもう一度がっくりと肩を落とす。

 

「ヲッ?」

 

「いや、あの……だな……」

 

 俺は塩っ辛さで舌がヒリヒリするのに耐えながら、人間が海水をそのまま飲むことが出来ないことを説明することになった。

 

 うぅむ……初っ端から前途多難だ……

 

 

 

つづく




 はい。色々とすみません。勘違いしてたらマジごめんなさい。
でもサブタイトルがアレです。ちゃんと先に言ってますよっ(酷)
終わるタイミングを逃したみたいな某漫画みたいにはならないように頑張りますっ。



次回予告

 あえて言おう! ずっとル級のターン!
と言う事で、次回はル級&主人公の過去話。
エロスと化したル級に対して主人公はどう逃げるのか!?
そして、過去に遡ったお話が少しあったりします。


 艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その7「深海棲艦」

 乞うご期待!

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