過去の思い出にうなされて、目覚めた所は海の底だった。
なんで生きてるの? それともここが死んだ先?
焦った主人公は一人でノリ突っ込みをしていたら、とんでもないのが現れたっ!
俺は昔、とある町に住んでいた。
市内の中では田舎の方だけど、それなりに人もいて、商店もある。
まぁ、コンビニは夜に閉まるというおまけが付いてたけど。
それでも、俺は楽しく元気な子どもとして、有意義な生活を送っていた――はずだった。
あの――忌まわしい出来事。
深海棲艦が初めて人類に被害をもたらした、あの事件さえ無ければ、
それによって救われたこともあったけれど、それ以上に苦しみの方が大きかった。
いや、大きかったからこそ、俺の人生は狂いかけたかもしれない。
「お兄ちゃん、今度の旅行楽しみだねっ」
「あぁ、そうだな。船で列島を一周するなんて、俺もビックリしたぜ!」
満面の笑みを浮かべた弟は、俺に向かって何度も同じことを言う。しかし、待ちに待った一大イベントを数日後に控え、同じように期待を膨らませていた俺は、弟の言葉自体が嬉しくて仕方がなかった。
「だよねっ! 色んなところに行けるんだよっ。綺麗な景色とか、お兄ちゃんと一緒に見れるんだよねっ!」
「あ、あぁ……そうだな……」
とは言え、さすがに弟のテンションMAXの会話に疲れてきた俺は、言葉に力がなくなっていた。
「楽しみだなぁ~。まるで僕たちの予行……ふふ……」
「い、今……何か言ったか?」
「ううん。まだお兄ちゃんは知らなくて良いんだよ?」
「そ、そうなのか……?」
「だから、楽しみにしていようね、お兄ちゃん♪」
◆ ◆
「はっ!?」
夢にうなされた人間が、どういう目覚め方をして、何がしたくなるのだろうと言う問いがあれば、俺ならハッキリとこう答える。
寝汗びっしょりなんで、今すぐシャワーを浴びたいと。
そして次に思うのは、何故こんな夢を見たのか――だが、これは俺の経験上仕方がない。
家族の仇である深海棲艦にパックリとやられてしまったのだ。それなら昔のことを思い出しても――って、あれ?
どうして俺は生きているんだ?
いや、と言うか、ここはどこなんだ?
辺りをキョロキョロと見回してみる。すると、ありえない光景が目に入り、俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
「な……なんだこれ……」
思わず呟く俺。
多分、俺以外の誰が見ても、同じことを言ってしまうのではないだろうか。
目の前に広がる光景は、
完全に、
海の底だった。
「いやいやいや、これはさすがに夢だろう……」
よし、もう一度寝ようと目を閉じる。
グッバイお休みマイサン。残念ながら、この世にはもういないけど。
あ、でも、俺も死んじゃってるんだから会えるのかもしれないね。
こんなに呆気なく死んでしまったのは残念だけど、今更どう足掻いても仕方がない。なるようになるさが今の俺の心境だ。
よし、それじゃあ羊を42.195回数えれば――って、それマラソンだからっ!
と言うか、小数点ってどう数えるんだよっ!
いきなり起き上がりながら、裏拳ならぬ漫才平手で空中にノリツッコミ。よし、今日も関西人だ。
あ、でも、すべての関西人がノリツッコミを出来るなんて思わないで欲しい。
あくまで、出来る人が多いってだけである。推測だけど。
とりあえずもう一度横になって、色々と考えよう。
まずは、悪夢――と言うか、昔の記憶のことからだ。
正直、思い出したくはない場面だったが、それでも今は亡き弟の姿を見ることが出来たのは、嬉しい気がする。
いや、ぶっちゃけると思い出したくはなかったんだけど。
あの場面だけは……トラウマになってるんだ……
どれくらいかって言うと、戦地で友人になったやつと話しているときに、
「俺、この戦いが終わったらさ、幼なじみと結婚するんだ……」
と言う台詞を聞いたときくらいかな。戦地に行ったこと無いから映画の話だけど。
でもまぁ、船に乗っているときに攻撃されたんだから、あれが初戦地だと言っていいかもしれない。
イエーイ。初戦地ゲットー。
死んじゃったけどね。
しかしなんだ。死んだと言えばあれだけど、以外に落ち着いてられるもんだよね。
しかも深海に沈んじゃってるんだよ? まず間違いなく行方不明者リストに載っちゃうよ。
あー、最後に子どもたちに会いたかったなぁ……
あと、愛宕のおっぱいもみもみしたかった。うん、これ切実に。
そう考えると、まだまだ生きていたかったなぁ……ちょっぴりどころか、非常に残念だ。
深海棲艦にパックリ食われちゃうんだもんなー。そりゃあ、生きている訳……
あれ?
さっき見えたの海の底だよね?
でも俺、パックリ食われたよね?
それって――
おかしくないか?
「………………」
俺は恐る恐る目を開ける。
やはり、目の前に広がる光景は海の底。
ならばと次に、俺の身体を見渡してみる。
うん。五体満足っぽい。食われたのに。
もぐもぐされずにそのまま後から出ちゃったとか? なら、身体を存分に洗わないと――って、そういう場合ではないだろう。
もしかして俺――生きてたりする?
「気ガツイタヨウダナ」
「……っ!?」
頭の上の方から聞こえた声に反応した俺は、すぐさま上半身を起こして振り返る。するとそこには、女性のような姿が立っていた。
この姿は、資料で見たことがある。
そう。深海棲艦のル級だ――って、冷静に分析している状況かっ!?
「な、なな……なんですとーっ!?」
イ級ならともかく――って言うか食われちゃったけど、更にその上どころかすっ飛ばした、戦艦ル級が目の前にいるですとっ!?
もうなんの罰ゲームだよっ! どこでカメラ撮っちゃってんの!?
早く出てこいよプラカード! 持ってる奴の延髄蹴るからさぁ!
「フム、コノ状況デ落チツイテラレルトハ、人間ニシテハ根性ガアルナ……」
いやいやいやっ! めちゃくちゃパニくってるんですけどねっ!
つーか、どこをどう見ればそう考えられるんだよっ!?
「シカシ、偵察ニ行カセテイタ駆逐イ級ガ、マサカ人間ヲツレテ帰ッテクルトハ思ワナカッタゾ」
「……え?」
「シカモ、口ノ中ニ入レタ状態デダ。普通ナラバ、クッチャックッチャッ……ゴクン、ウマカッタ。ナノニダゾ?」
え、何これ?
ちょっと後半可愛かったんですけど。
ウマカッタ……については保留するけどね。
「ト言ウコトデダ人間。ナゼ貴様ハ生キテイル?」
「いや、俺に聞かれても分かる訳が無いだろう。どうせ聞くなら、俺をお魚のようにしてくわえてきた駆逐艦を追っかけて聞いてくれ」
イ級=ドラ猫ではありません。
ここは強気に出なければナメられると思い、震える足を抑えながら言い返す。
まぁ、それで機嫌を損ねちゃったら、元の木阿弥なんだけど。
「フム、確カニ貴様ノ言ウ通リデハアルガ、ソレハトックノ昔ニ済マセテアル」
じゃあなんで俺に聞くんだよ――と、小1時間問い詰めたい。
怖いからやんないけど。
「……じゃあ、その駆逐艦は何て言ってたんだ?」
「ソレガ分カレバ貴様ニ聞カヌ。ダカラコウシテ生カシタママデオイタノダ」
そう言って、ル級は砲身を俺に向けてニヤリと笑う。
だが、これはブラフだ。
聞くために生かしておいたと、ル級は俺に今さっき言った。ならこれは、国語の文章問題によくある、簡単な引っ掛け問題に過ぎない。
「そ、そそそそそっ、そんな脅しに、ななな、なんちぇ……って噛んじゃったっ!」
だが、怖いのはやっぱり怖い。見事なまでに、俺はテンパリまくっていた。
「………………」
うわー。ル級の目がすんごい哀れんでるように見えるんですけどー。
もしかして俺、可哀相な子どもみたいになっちゃってる?
「貴様ノ本心ガ良ク分カラヌ。根性ガ有ルヨウデ無サソウダシ、カト言ッテ、タダノ人間ニモ見エン……」
ただの人間には興味が無いのだったら、S●S団にでも言ってくれって感じだ。
とにかく、俺をここから解放してくれ。お願いプリーズ!
「マァイイ。ドウヤラ貴様ニモ、イ級ガ生カシテイタ訳ヲ知ラナソウダカラナ」
ル級はそう言って、砲身をゆっくりと下ろしてため息を吐いた。
深海棲艦もため息を吐くとは……ちょっとビックリしちゃったよ?
「ソレデハ貴様ニ問ウ」
「な、なんだ……?」
「今スグココデ食ワレルカ、ソレトモココデ……働クカ。好キナ方ヲ選ベ」
「……はい?」
えっと、今ル級は、働くって言った?
もしかしてここ、強制労働施設なの?
借金まみれになった人が地下で働く場所って、もしかしてここだったりするのっ!?
マスクをつけても肺がやられるような環境で、1日の楽しみが仕事終わりの焼鳥とビールで、外出券を買うのに貯めようとしていたにもかかわらず、勢いで豪遊しちゃって反省しまくる顎の尖った青年みたいになりたくはないっ!
挙げ句の果てにサイコロでル級と戦うことになるのかっ!? もし勝ったら、お金なんかいらないから、そのおっぱい揉ましてもらっていいかな?
「……ナンダカ、嫌ナ予感ガシタノダガ」
うん、気のせいではないです。
「サァ、ドチラニスルカ、早ク答エロ」
「……そ、それじゃあ……働く……方で」
命は大事に。これ、俺のモットーなんで。
いくら家族の仇でも、無駄に命は捨てたくない。生きていれば、いつかチャンスはやってくる。
「ソウカ。貴様ナラ、ソウ言ウト思ッテイタゾ」
ニヤリ……と笑みを浮かべるル級。
その顔を見て、俺はゴクリと唾を飲み込んでから、こう言った。
「コ、コンゴトモ……ヨロシク……」
こうして俺は人間を辞め、悪魔になってしまった。
……冗談だよ?
つづく
次回予告
会話で説得され、悪魔として契約してしまった主人公(違
それじゃあル級はデビルサマナー?(だから違
そんな冗談は置いといて、やっと出てきたちっちゃい奴らっ!
あと、出始めのル級とえらい違いなんですけどっ!?
艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その5「沈んだ先にも幼稚園!?」
乞うご期待!
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