艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 高雄と漣の即興コント(違)を見終えた主人公は佐世保に向かって出発する。
漣との会話コントをしていた時、大きな轟音が鳴り響く。

 過去と同じような状況に、ある事を思い出す。
そして、最大の危機が主人公を襲った……


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その3「初海戦」

 

 怒りがおさまった高雄は漣に任務の通達をし終えると、溜まっている仕事があると言うことで指令室へと戻っていった。ちなみに漣から今回の移動に関する内容を聞かされたのだが、陸に近い海路で佐世保まで行くので、護衛の必要性も無いだろうと思われていたらしいが、稀に見かけるはぐれ深海棲艦と偶然出会うことも無いとは言えないし、それなら最近艦隊に所属することになった漣に、遠征の練習も兼ねて任せようということになったらしい。

 

「つまり、俺って結構いい加減に扱われているってことでファイナルアンサー?」

 

「まぁ、新人同士でってことじゃないですかねー」

 

 そう、漣は俺の問いに答えた。

 

 ちなみに、俺は輸送船の内部にある小さな部屋でくつろいでいる。

 

 なぜ漣と会話が出来るのかと言うと、乗船前に渡された通信機のおかげである。ヘッドマイクセットのような形で、非常に軽く、取り回しが容易である。

 

 一家に一台、便利な通信機。

 

 まぁ、普通の家庭では使うようなことは無いだろうけど。

 

「それよりも先生、船の乗り心地はどうですか?」

 

 小さな窓から見える漣が、ふと、俺に聞いてきた。

 

 海面に水しぶきを上げ、フィギュアスケート選手のような優雅な滑りを披露しながら手を振っている。

 

 そしてそのままトリプルアクセル。いったい漣は何がしたいんだか。

 

「えっと……なんら問題は無いし、ちょっと狭いってこと以外は気にならないけど……」

 

 しかしなんでまた、そんなことを聞くのだろうか。

 

 もしかして、俺がぷかぷか丸に乗れなくて悔やんでいるのを知っていて……?

 

「そうですかー。いやー、漣も一度、船に乗ってみたいなぁって思ってたりするんですよねー」

 

「別に船に乗らなくても、海上の上をスイスイ動けるんだし、必要が無いんじゃ……」

 

「それはそうなんですけど、船旅って憧れちゃうじゃないですかー」

 

 そう言って、漣は辺りを警戒するように、輸送船の前方へと進路を変えた。

 

 船旅ねぇ……

 

 やっぱり、自ら海上を移動するのと、船に乗るのとでは違うのだろうか。

 

 艦娘が船に憧れる……なんだか禅問答のような、難しい領域の思考なのかもしれない。

 

 でもまぁ、漣も年頃の女の子。そう言うのに憧れるのも無理はないのだろう。

 

 艦娘たちが戦わなくてすむ世界になれば、その願いも簡単に叶うのかもしれない。

 

 その為にも、俺は先生として精一杯の努力で、子どもたちを元気にすくすくと育つように頑張らなくてはならないのだ。

 

 もちろん、仕事というだけでなく、自らそうしたいと思っているので、今の俺は非常に幸せだと言える。

 

 まぁ、時には怖いこととか色々あるけどさ。

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 それから船に揺られること3時間。

 

 差し当たって問題もなく、平和な時間が過ぎていった。

 

 時折漣と、暇つぶし的な会話を楽しんでいたんだけれど、

 

「それで、提督とか司令官って呼び方も良いですけど、やっぱりご主人様ってのが漣にはピッタリなんですよ」

 

「なるほど。確かにインパクトは抜群だよね――って、それじゃあメイドさんになっちゃうじゃん!」

 

「いやいや、まだまだ時代は萌えが必要なんですよっ。偉い人にはそれが分からんのですっ」

 

「いやでも君の場合、メイドさんじゃなくて艦娘だよね!?」

 

 そこまで力説されても困るんだけど。でも、個人的にそう呼ばれるのなら、それはそれでアリなんだけど。

 

 通信機よりも一家に一人って感じで、メイドさんは導入したら良いと思います。この際、法律とかで強制的に。

 

 えっ、やっぱり無理? そうだよねー。

 

「だから漣は冥土型駆逐艦、艦娘の第一号としてやっていこうかと」

 

「もう何がなんだかわからないよっ!?」

 

 しかも漢字が間違ってるしっ!

 

 それだと癒しじゃなくて恐怖になっちゃうよっ!?

 

「ちなみに第二号は絶賛募集中です」

 

「誰が絶賛してるのっ!? 自画自賛なのっ!?」

 

「いえ、主に元帥なんですけど」

 

「やっぱりあいつかーーっ!」

 

 元帥なら仕方ない――と言うか、あの人以外思いつかないよねっ!

 

 そんなことばっか言ったりしてるから、高雄さんがキレちゃうんだよっ!

 

 ……もしかして、昨日の俺といい、朝の漣といい、プロレス技が多いのってその辺りが関係してたりするんだろうか?

 

 キレて無いですよ……って。

 

 うん。考え過ぎにも程がある。

 

 とまぁ、ノリツッコミ的会話を楽しみつつ、窓の外の景色を見るのも飽きてきたので、外の空気でも吸おうかなと思って、部屋の扉を開いた時だった。

 

 

 

 ドゴーンッ!

 

 

 

「おわっ!?」

 

 急に大きな音が鳴り響くと同時に、船が大きく揺れ動いた。俺はなんとかこ倒れないように扉のノブをグッと握ってバランスを取ってから、通信機に向かって声をかける。

 

「漣っ! いったいどうしたんだっ!?」

 

「は、はわわわっ! ど、どこから撃ってきたのですかっ!?」

 

 通信機からは漣の慌てた声が返ってきた。どうやら、船の揺れの原因が漣にもわかっていないらしい――って、そんな悠長なことを言ってる場合じゃない!

 

「とりあえず損傷場所の確認から、攻撃位置を割り出せないかっ!?」

 

「あっ! 確かにその通りですっ!」

 

 漣の声が通信機から聞こえると、すぐに大きな波飛沫の上がる音が聞こえた。船の周りを旋回するようにして、損傷場所の確認に向かったのだと信じた俺は、掴んでいたノブを回して扉を開け、急いで甲板へと向かった。

 

「先生! 敵影発見ですっ、キタコレ!」

 

「敵の数は!」

 

「1艦だけです! 敵、深海棲艦イ級! はぐれ駆逐艦だと思われますっ!」

 

「やれるか!? それとも逃げた方が良いかっ!?」

 

「一対一なら、負ける気がしねぇ――って、はうっ!」

 

 バゴンッ! と耳が痛くなるほどの爆音が通信機聞こえ、続けてノイズ音が鳴り響いた。

 

「さ、漣っ! 大丈夫なのかっ!?」

 

「うっくぅー、被弾しちまったぁ……何も言えねぇ……」

 

 かすれながらも聞こえてきた漣の声は、ノリツッコミをしていた会話のときの元気さはまったく無く、今にも泣き出しそうな、悲壮な感じに聞こえた。

 

「くっ……こんなときはどうすれば……っ!?」

 

 通路を駆け足で駆けずり回りながら、俺は必死で打開策を考える。提督になる為に勉強してきた中に、緊急時に取るいくつかの手段があったはずだ。

 

 攻撃をするか、被害を抑えるために退避をするか。基本的なものはすぐに出てくるが、それをする為の取れるべき手段が限られている。

 

「敵は1艦だけで、こっちは被弾した漣と輸送船のみ。攻撃は漣にしか出来ないから、こっちは逃げ回るしか無いが――いや待てよっ!」

 

 咄嗟に閃いた俺は最初の考えと同じ通り、そのまま甲板へと向かう。しかし、慌てていたときの俺と違うのは、ただ外を確認する為ではなく、漣をサポートする為という目的があった。

 

「漣っ! 敵艦の動きはどうだっ!?」

 

「バンバン撃ってきてるから、避けるので必死ですよぉっ!」

 

「それだけ叫べればまだ大丈夫だなっ! もう少し我慢していてくれっ!」

 

「が、我慢してろって、先生1人で何をするつもりですかっ!?」

 

「こっちに注意を引き付ければ、攻撃に転じられるだろっ! 確かこの船には小さいが使える機銃があったはずだ!」

 

「なっ!? そ、そんな危ないことさせれませんっ!」

 

「そんなことを言ってる場合じゃないだろっ! このままだとジリ貧だし、もし漣がやられたら、こっちも成す統べ無しなんだぞ!」

 

 もちろん、俺が今向かおうとしている機銃なんかでは深海棲艦ダメージを与えることは出来るとは思えない。だが、その攻撃によって深海棲艦の意識がこちらに向けば、漣が体制を立て直して反撃することが出来るはずだ。

 

 危険は承知だが、今とれる手段はこれしかない。

 

 そう思い、扉を開けて、甲板へと飛び出した瞬間だった。

 

 

 

 ドゴオォォォンッ!

 

 

 

「……っ!?」

 

 船が、ここ一番の揺れを起こし、

 

 俺の身体が宙に舞った。

 

「しまった……っ!」

 

 まるで風に煽られたビニール袋のように、ふわりと浮き上がった俺の身体が船から離れていく。

 

 目の前には海面が。

 

 そして、急に浮かび上がってくる過去の記憶。

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 炎上する船から緊急用ボートに乗り込んで脱出した俺と弟。

 

 ボートが揺れ、海面に投げだされた俺を助けようとして手を伸ばす弟。

 

 その手を掴もうとした瞬間、水柱が上がり、目の前から消えたあの光景。

 

 最後に聞いた、弟の――声。

 

『にいちゃんっ! 早く、早くこっちに……』

 

 

 

◆   ◆

 

 

 

 その声が、俺の耳に聞こえた気がした瞬間、

 

 現実世界の海面に、顔面から叩きつけられた。

 

「がばぐぼっ!」

 

 口から肺にまで入り込んだ海水で呼吸が出来なくなり、俺はバタバタと手足を動かして海面へと浮かぼうとした。それほど深くは沈んでいなかったので、パニックさえ起こさなければ大丈夫だと冷静になった俺は、平泳ぎの要領で上へと泳ぎ、少しずつ光の強い方へと進むうちに漣らしきシルエットが目に入った。

 

 漣は俺が落ちたことに気づいていない……だけど、それを知らせたら、敵への集中力が落ちてしまう。

 

 それに、漣の近くに浮かび上がれば敵の攻撃が集中しているだろうし、このまま海面に行くのは危険極まりないだろう。ここから少し離れつつ、船に出来るだけ近いところで浮かび上がらなければ――と、思った瞬間だった。

 

 

 

 ゴボォ……ッ

 

 

 

「……っ!」

 

 敵影が、俺の目に入った。

 

 緑色に光る2つの目。人を丸のみに出来るであろう大きな口。

 

 何の知識も無ければ、多分、鮫の新種かと思ってしまう風貌に、俺は無意識に身体を大きく震わせた。

 

 おそらく、それは恐怖。

 

 人が持つ本能が、こいつは危険だと知らせている。

 

 なのに、なぜだろう。

 

 俺の身体が、ピクリとも動かない。

 

 こんなやつに、見とれてしまうなんてことはありえない。こいつらは家族の仇。憎き深海棲艦なのだ。

 

 ――あれ?

 

 ちょっと待て。なぜこいつがここにいる?

 

 漣が発見した深海棲艦は1体だったはずだ。そして、そいつと漣は今現在も戦っている。

 

 なら、ここにいるのは――新手なのかっ!?

 

 今すぐ海面に上がり、漣に情報を伝えなければいけない。無理矢理身体を動かした俺は、急いで手足をばたつかせながら、上へと向かおうとした。

 

 

 

 ギロォ……ッ!

 

 

 

 ――だが、そうは問屋が卸さない。深海棲艦が海中にいる人間に気づいて簡単に見逃してくれる訳が無く、

 

 俺の身体に照準を合わせて身体を翻した。

 

「ぐ……っ!」

 

 何とかして逃げようと、俺は身体をフル稼働させて海面へと急ぐ。しかし、どれだけ人間が頑張ったとしても、水中で出せる速度はせいぜい5km程度だ。

 

 だが、深海棲艦はその速度のはるか上を行く。仮に駆逐艦の速度でも下ほどの30ノットで移動できるとすれば、10倍以上の速度になる。

 

 これはあくまで海面を走る駆逐艦の速度である。だが、それほどの能力があるのならば、海中であっても人間より速く動けるのは明白だろう。

 

 ならば、俺はいったいどうなるのか?

 

 答えは簡単だ。

 

 

 

 ガボォッ!

 

 

 

 やつは、ぐるりと海面側へと回り込み、

 

 逃げ道を完全に塞いでから、

 

 緑の目を鈍く光らせて、

 

 大きな口を限界まで広げ、

 

 

 

 俺を一飲みにした。

 

 

 

つづく




次回予告

 イ級に一飲みされてしまった主人公。
このまま艦娘幼稚園は終わってしまうのか。それとも主人公が交代するのか。
次のタイトル読んだら分かっちゃうね。うん、生きてますよ。

 艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その4「海底での出会い」

 乞うご期待!

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