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朝の6時45分に埠頭に立った主人公。
目の前にあったのは、提督なら誰もが知っている? あの船だった。
喜ぶ主人公だったのだが、思い違いと知るのはすぐのことだった。
「ふあぁぁぁ……」
朝の6時45分。
高雄から聞いた第一埠頭へ向かうべく、俺はあくびをしながら歩いていた。
あれからすぐに風呂に入って眠ろうとはしたのだが、佐世保鎮守府はいったいどんな感じなのか、どんな質問をされるんだろうかと色々考えていたせいで、睡魔が襲ってきたのは日付が変わってから大分後になってしまい、眠たい目を擦りながらの出動になってしまった。
ちなみに一番頭の中を占めていたのは、安西せんせ……じゃなくて提督のことなんだけど。
うーん、久々にバスケがしたいなぁ……
とまぁ、現在の気持ちは期待半分、不安半分といったところで、旅行気分では行けないけれど、知らない土地に行くのは少しばかりワクワクしているといった感じだ。
まぁ、気構えずに気楽に行くのが一番なんだけれどね。
そんなこんなで第一埠頭にたどり着いたのは約束の時刻の10分前。時間前行動はいつもの通り、身に染みてはいるのだが、
「でっ……けえ……」
ぽかーんと大きな口を開けて、立ち尽くしている俺が、ここにいた。
通称『ぷかぷか丸』。
司令官クラスの人物の移動に使われる戦艦で、基本的に俺みたいな下っ端が利用できるとは夢にも思っていなかった。もちろん提督になるために勉強してきた俺にとっては、いつかは乗ってやろうと心に秘めていたりはしたものの、幼稚園の先生になってからそんな思いは封印していた。まぁ、実際のところはそんなことを考える余裕も無かったと言うのが本音なんだけれど。
いやはや、元帥と高雄さんに感謝をしないといけないなぁ。
出張なんてイベントがなければ、ぷかぷか丸に乗れる機会なんて無いのだろうし。
「先生、おはようございます。昨晩はしっかり眠れましたか?」
そんなことを考えながら見上げていた俺の背中に、聞き覚えのある声がかけられた。
「あっ、おはようございます、高雄さん」
俺は振り向いて頭を下げた。もちろん、挨拶的な意味合いもあるが、今回のはお礼の意味の方が大きい。
「あら、目の下に少しクマがありませんか?」
「緊張して寝付きが悪くって……少し寝不足気味だったりします。いやはや、お恥ずかしい……」
「大丈夫ですか? もしあれでしたら、今から愛宕に代わらせても……」
「いえ、大丈夫です! 体調管理は自分の責任ですし、それほどきついって訳でもありませんので!」
「そうですか……でも、無理はしないでくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
俺はなぜか、条件反射で高雄に向かって敬礼をした。ぷかぷか丸に乗れるという気持ちが身体を動かしてしまったようだ。そんな気持ちを分かっていたのか、高雄はくすりと笑いながら敬礼を返してくれた。
「そろそろ出発の時刻なのですが、忘れ物とかは大丈夫ですか?」
ポケットから懐中時計を取り出した高雄は、俺に向かって言う。
「はい、大丈夫です」
昨日の夜の時点で荷物の確認を三回行ったので、忘れ物はまずありえない。それに、高雄から預かった書類以外は忘れたところで、一泊二日の短期間だからそこまで困るようなことは無いだろう。
それじゃあ――と、ぷかぷか丸に乗り込もうと思った俺は、ふと、おかしな点に気がついた。
あれ……どうやって乗船すれば良いんだ?
埠頭から戦艦に乗り込もうにも、かなりの高さの差があって、ジャンプなんかでは到底届くとは思えない。たとえ俺がオリンピックの走り高跳びの選手であっても、如何せん無理だろう。
棒高跳びの選手ならあるいは――って、どう考えても無理に決まっている。
俺は腕組をして考え込んでいると、いつの間にかぷかぷか丸の先端より更に先の埠頭に立っていた高雄が、手招きをしていた。
「先生ー、あまり時間が無いですから、早くしてくださーい」
「えっ、なんでそんなところに……?」
俺は呟きつつ高雄のいる方へと駆け足で向かうと、ぷかぷか丸の船影に隠れるように泊まっていた小型の船が目に入ってきた。
……これってもしかすると、とんでもない思い違いをしていたんじゃないだろうか。
違うなら違うと今すぐ言って欲しいんだけど、多分、間違いなくそうなんだろうなぁ……
「お、お待たせしましてすみません……」
ぷかぷか丸とはあまりにも貧相に思えた船体に、俺はがっくりと肩を落としながら高雄に言う。
「どうしたんでしょうか?」
「いえ、勝手に思い込んでいた哀れな男の成れの果てですので、気にしないでください……」
「は、はぁ……そうですか……」
高雄は俺の落ち込んだ姿を見て、なんだか申し訳なさそうに返事をした。
「それでは、先生に乗っていただく輸送船はこちらになります。少々旧型ですが、小さい分速度は結構速いんですよ」
「はぁ……そうですか……」
「……やっぱり、愛宕に代わらせた方がよろしいのでは?」
「あ、いえ……本当に大丈夫ですから……」
ただ単に、テンションが下がりまくっているだけなんで。
思い出しても恥ずかしい、黒歴史の日記帳に書いちゃうレベルの思い違いだったんで。
つーか、そんな日記帳持ってないしっ。
自分自身にノリツッコミ。イエーイ、関西人デース(ヤケクソ
「そうですか……でも、本当にダメそうなら、気にせず言ってくださいね。そうでないと……私……」
高雄はそう言いながら目を伏せた。思い悩むような姿と言葉に、俺は一瞬ドキッとしてしまう。
「先生が……先生が居なくなると……」
えっ、何この展開?
これから告白タイムが始まりそうなんだけど、そんなことが起こってしまったら――
完全に死亡フラグになっちゃうじゃんっ!
それに、俺には愛宕という素晴らしい人がいるんだから、浮気なんかできないもんねっ!
あ、でも、高雄のおっぱいも素敵だよね。愛宕とどっちが大きいのかな?
いや、いっそのこと、愛宕と高雄の二人に囲まれて……
やべぇ……それってもう天国じゃん!
――と、これくらい考えとけば、そんなフラグも消し飛んででしまうんじゃ――と思っていたんだけど、
「また新しい先生を探さないといけなくなっちゃいますから……」
ですよねー。
吹っ飛んだのは死亡フラグじゃなくて、告白フラグだったですよ。
そう言う展開なんです。いっつもそんな感じなんです。
昨日の夜も思わせぶりってやつなんですよねー(本日二度目のヤケクソ
「とまぁ、冗談なのですけど」
と、高雄はニッコリと俺に笑いかける。
とりあえず期待はしないでおきます。もう色々と限界なんで。
「あぁ、それとですね、先生に紹介したい艦娘がいるんですよ」
「はぁ……艦娘ですか」
「漣、こちらに来なさい」
高雄は目を閉じて艦娘の名を呼んだ。
漣といえば、幼稚園にいる潮の姉妹艦だったはずだ。もちろんこの場に呼ぶのだから、幼稚園児ではなく鎮守府所属の艦娘なんだろう。
「………………」
「………………」
――が、漣の姿は一向に現れなかった。
「はぁ……」
高雄が呆れた顔でため息を吐く。
「先生、少々お耳を塞いでおいていただけないでしょうか?」
「は、はい……」
先程と変わらないような笑顔を向けた高雄だが、その目は完全に笑っていない。
むしろ今から、殴り込みに行ってきますと言わんばかりに見える。
ヤー×3。気持ち良く歌いましょう。
「それでは失礼して……」
そう言って、高雄は大きく息を吸い込んだ。
それを見た俺は、言われたからではなく、人間の誰もが持っていると思われる防衛本能で咄嗟に両耳を手で塞いだ瞬間、
「さ ざ な み っ!」
「~~~っ!?」
高雄を中心に衝撃波のような円が発せられ、耳を塞いでいたにも関わらず、俺の頭が揺さぶられるように軽い脳震盪を起こす。まるでそれは、荒廃した世界で戦う戦車に装着するSーEのようだった。
爆心地、舞鶴鎮守府、第一埠頭先端。地震に換算すると、おおよそ震度3。ところにより、高波にご注意ください。
そんな緊急速報が流れてもおかしくないくらい、ものすごい破壊力であり、少々離れていても耳を塞がなかった相手にはてきめんだったようで、
「ほ、ほい……さっさぁ……漣を……呼びましたか……?」
目をぐるぐるの渦巻き状にした艦娘が、千鳥足ですぐ近くの倉庫の中から歩いてきた。
「漣、呼んだらすぐに来るようにと伝えてあったはずですよね?」
「あ、あの……えっと、高雄さんが何を言っているか……わ、分かりません」
漣の返答を聞いた瞬間、ビキィッ……という音が聞こえた気がした。恐る恐る覗いてみると、高雄の顔が少年誌で連載されそうなヤンキー漫画の登場人物のような表情になっている。
怖ぇ……高雄さんマジ怖ぇ……
ってか、これ以上やっちゃうと、色んなところから怒られちゃいそうだから止めた方が良さそうだ。
「た、高雄さん。漣は喧嘩を売っているんじゃなくて、耳が聞こえてないからそう言ったのでは……」
「そうでしょうね。でも、約束していたにもかかわらず、大声で呼ばないと来ないというのは……私の教育が間違っていたのでしょうか?」
「そ、それは……その……」
教育現場を見ていない以上、変なことは言えない。下手を打てば、怒りの矛先がこちらに向いてしまう可能性だってある。
「あーうー……まだ耳鳴りがすごいです……」
自分の危機的状況をまだ理解していないのか、漣は頭をぽんぽんと叩きながら、高雄の前に立った。
「漣、出頭いたしました……って、高雄さん、なんだか怒ってませんか?」
あー、やばい。それは確実に死亡フラグにしか聞こえない。
「うふふ……あはははは……」
高雄が壊れたっ!?
――と、俺は驚いた表情を浮かべた瞬間、
「顔洗って出直してきなさいっ!」
どこぞのサイボーグの加速装置を使ったんじゃないかと思ってしまうような高速移動を見せた高雄は、見事な動作で漣の背後に回り込み、投げっぱなしジャーマンスープレックスで、勢いよく海面へと放った。
「はにゃあああああああああああっ!?」
漣の身体が放物線を描いて空を飛ぶ。
バッシャーンッ! と、水面に大きな波紋が出来上がる。
えー、ただ今の記録ー、推定、30メートルの飛距離です。
艦娘投げっぱなし競技。高雄さんの記録でしたー。パチパチパチ――
って、ぼけっと突っ立ている場合じゃないって!
「た、たたっ、高雄さんっ! いくらなんでもやり過ぎじゃ……」
「あら、先生。これくらいのこと、いつもの訓練と変わらないですわ」
「……えっ!?」
驚く俺に向かって、高雄はすぐ近くの水面を指差した。
……あれ、なんだか泡がたくさん浮いてきている?
「ぷっはーっ。漣、バッチリ目が覚めましたー」
「はい。それじゃあさっさとこちらに上がってきなさい」
「ほいさっさー」
何事も無かったかのように埠頭へと戻ってきた漣は、「ちょっと濡れちゃいましたねー。これぞ水も滴る良い艦娘――って、キタコレ!」と騒いでいた。
全然懲りてねぇよ……
多分、元帥の秘書艦や艦隊に所属する艦娘は、これくらいのことが出来ないとやってけないんだろうなぁと思った、午前7時ぴったしの朝だった。
というか、艦娘って一旦沈んでも浮き上がってこれるもんなの……?
つづく
次回予告
高雄と漣の即興コント(違)を見終えた主人公は出発する事になった。
しかしその途中、主人公に危機が訪れる。
行方不明になった理由が明らかになります。
艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~ その3「初海戦」
乞うご期待!
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