佐世保大きな被害を受けたものの、第一、第二艦隊の帰還による挟み撃ちで深海棲艦を撃破する。
しかし、比叡と霧島の情報はまだ榛名に伝えられず、埠頭の先で佇んでいた……
今回で最終話。
そして予想通りの展開に? 本編への足取りは整った……のかな?
それから3日の時が過ぎました。
佐世保鎮守府は大きな被害を受けたものの、タンカーの海路上に現れた陽動艦隊を撃破した第一、第二艦隊が急いで帰還し、挟み撃ちにすることで深海棲艦の本隊を撃破することが出来ました。
現在は大本営からの救援もあり、辺りの警戒を任せることで、怪我をした方々の修復や鎮守府の施設の修復も順調に進んでいます。
全てが前向きに進んでいる。そうであれば、どれだけ榛名は安心出来るのでしょうか。
轟沈寸前だった比叡お姉様と霧島は未だ面会謝絶の状態で、明石さんが詰める特別治療室に入ったままでした。
「比叡お姉様……霧島……」
埠頭の先端に腰をかけた榛名は、海の先に見える水平線を眺めながらため息を吐きました。
回復しているのか、未だ危険な状態なのか。なんの情報も得れないまま3日の時が過ぎ、榛名の心配する気持ちも限界に近づいていました。
何度も特別治療室の前に立ち、ノックをしようとして思い止まりました。
明石さんの邪魔になっては、2人が助からない可能性がある。
そんな考えが頭を過ぎると、榛名は扉の前で立ち尽くすしかなかったのです。
「ふぅ……」
今日何度目のため息でしょうか。もう数えるのも辛くなっていました。
そんな榛名の後ろから、足音が聞こえてきます。
「榛名ちゃん」
聞き覚えのある声に榛名はゆっくりと振り向きます。そこには、思っていた通りの方が立っていました。
「ビスマルクさん……こんなところに来るなんて、どうしたんですか?」
「あら、つれない言葉は吐かない方が良いわよ?」
そう言って、ビスマルクさんは微笑みます。
「2人が目を覚ましたから、直ぐに榛名ちゃんを呼んできなさいって提督が言ってるわ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「ええ、本当よ」
そう言って、ビスマルクさんは榛名に向かって手を平げてくれました。
「さぁ、一緒に行きましょう」
「は……はいっ! よろしくお願いします!」
ビスマルクさんの手をギュッと握り、榛名の足は駆け出したいくらいに速くなります。
比叡お姉様と霧島に会える。その気持ちでいっぱいになり、笑顔が溢れます。
ですが、2人の姿は、榛名が想像していたものとは大きく掛け離れていたのでした。
「「「………………」」」
部屋に漂う無言の沈黙。
大きく目と口を開いて立っているのは、提督とビスマルクさんと榛名でした。
そして、気まずい表情を浮かべながら後頭部を手で掻く明石さんに、
小さくなった、比叡お姉様と霧島がニッコリと笑っていました。
「あー、うん。何て言ったらいいのかなー……」
沈黙に耐え切れず、明石さんが口を開きます。
「応急修理女神をねー、無理矢理使用することで轟沈を免れないかなーって思ったんだけどさぁ……
まさか子どもになっちゃうとは思わなかったんだよねぇー。あははははー」
笑いながらそう言った明石さんでしたが、額には大量の汗が吹き出し、明らかに焦っておられました。
そんな状況にも関わらず、比叡お姉様と霧島はニコニコと……にぱーと……えへへと……
やだ……可愛い……
2人が榛名をはじめに見たときの気持ちが分かった気がします。
今すぐ! 榛名は! 抱きしめたいです!
はぁ……はぁ……
しょ、少々興奮してしまいました。
この破壊力は……榛名には危険過ぎます……
そんなことを思っている間、再び部屋には沈黙が漂っていました。
提督の顔は未だ驚いた表情のまま。開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのでしょう。
ですが、さすがにこのままではいけないと思ったのでしょう。提督はごほんと咳込んでから、言葉に詰まりつつも喋り始めました。
「え、ええっと……明石、これは……その……以前と同じ比叡と霧島なのですか?」
「それは間違いないよー。ま、まぁ、かなりちっちゃくなっちゃったけど……」
「か、かなり……というか……まるっきり子どもよね……榛名ちゃんと同じ……」
ビスマルクさんのツッコミが的確に明石さんの胸にヒットしたようで、「うぐっ!」と声を上げています。
「そ、そうだねー。そうとも言うねー……」
「い、いやしかし……助かったのは素晴らしいことなのですが……」
「一応、小さくなったこと以外は問題は無いよー。その辺はちゃんとチェック済みなんで……」
「そ、そうですか……」
提督はそう言って、眉間の辺りを指で押さえておられました。
たぶん、目眩がしたんだと思われます。
でも、榛名は提督とは違い、嬉しさで胸がいっぱいです。
だって、2人が子どもになったのなら、あの時の約束が完全に守れるじゃないですか!
3人で、金剛お姉様がいる艦娘幼稚園に行くことが出来るはずなのです!
「榛名っ」
「はい、比叡お姉様っ」
「榛名」
「はい、霧島」
榛名たち3人は、大きく頷いて笑みを浮かべます。
佐世保鎮守府を襲っていた脅威は終結した。
比叡お姉様と霧島が、偶然にも子どもの姿になった。
ならば、もう榛名たちの心配する問題は全て消えたのです。
「ふぅむ……予定通りとはいきませんでしたが、君たちはすでに決めているみたいですね……」
提督が少し呆れたような声を出しながらも、笑みを浮かべています。
ビスマルクさんも、明石さんも、榛名たち3人を見ながら微笑んでくれています。
「それでは、以前に2人から聞いていましたが、確認を取りますね?」
提督が問う。
「君たちを舞鶴鎮守府に転属させようと思いますが、どうですか?」
榛名たちの答えは、ずっと前から決まっています。
「「「喜んで、お受けいたします」」」
いざ行かん、金剛お姉様の元に。
「あっ、ところで提督、もう一つ言わなきゃいけない事があるんだけど……」
気まずい表情を浮かべた明石さんは、提督に向かっておずおずと口を開けます。
「なんでしょうか?」
「驚かないで欲しいんだけど……」
「これ以上驚くようなことが、あるとは思えないのですが……」
「いやー、実はさ、もう1人……その、ドジっ子が馬鹿やっちゃったみたいでさー」
「……はい?」
目が点になった提督の額に、ブワッ……と汗が吹き上がります。
「戦闘が終わった後にね、気分が高揚しまくってた娘がいてさー。はしゃぎ過ぎて滑って転んで……最後に思いっきり頭ぶつけたらしくて、轟沈寸前だったのよ」
「ま、まさか……?」
「う、うん。この娘も、一緒に舞鶴に転属させた方が良いんじゃないかなーってさ……」
そう言って、明石さんは部屋から出て、1人の子どもを連れてきました。
青く長い髪をふわりと浮かせ、まあるい目をした可愛い子ども。
「て、提督……ホント、私ってば……ドジでごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げて謝ったのは、明石さんに整体をしてもらって気分が高揚し、
はしゃぎ過ぎた結果、子どもになってしまった五月雨さんの姿でした。
艦娘幼稚園 スピンオフ
榛名の場合 ~榛名の目覚め~ 完
ちょいと長かった榛名編、お楽しみいただけましたでしょうか?
これにて榛名が主人公のスピンオフは終了ですが、シリーズはまだまだ続きます。
次回は舞鶴に戻って、艦娘幼稚園でのお話。今度の主人公は時雨ですっ!
主人公である先生が、急に佐世保に出張することになる。
その間、幼稚園で繰り広げられる相変わらずの出来事と、時雨の思いが交差する……?
次回予告
艦娘幼稚園 スピンオフ
時雨の場合 ~時雨のなんでも相談~ 前編
乞うご期待!
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