しかしそんな3人に対して無情にも再び鳴り響く警報音。
はたして深海棲艦の狙いは何なのか。そして、榛名と二人きりになった提督は……
※昨日の更新では非常にご迷惑をおかけいたしました。
若干修正し、順序通りに更新いたします。
「も、もうダメです……榛名は……汚されちゃいました……」
「「いやいや、そんなことしてないしてない」」
片手を前にして、2人はブンブンと大きく振っていました。
確かにひたすらくすぐられ、抱かれてゴロゴロされたただけなのですが……こそばゆかったり恥ずかしかったりで、ついこういう言い方をしてしまいました……
ですが、比叡お姉様と霧島の顔は、見違えるほど元気に満ちあふれているようです。
榛名がくすぐられたことによって2人が元気になったのならば、やられがいがあったというものです。
――そう、安心したときでした。
ウゥゥゥゥゥゥーーーッ、ウゥゥゥゥゥゥーーーッ……
「「「……っ!?」」」
いきなり部屋中……いえ、鎮守府内に大きな警報が鳴り響きました。
時計を見ましたが、第一艦隊と第二艦隊が出撃してから1時間も経っていません。
なら、この警報は――新たな深海棲艦が現れたということなのでしょうか!?
「比叡姉様っ!」
「ええ、霧島っ!」
「は、榛名も参りますっ!」
榛名はいてもたってもいられなくなって、大きな声で2人に叫びます。すると、2人は大きく頷いて榛名の手を取ってくれました。
暖かい手の温もりを感じながら榛名は走りだします。部屋から出て、再び作戦会議室へ。待機していた他の方々も、急いで向かいます。
なぜ立て続けにことが起こるのかと、皆一様に不安な表情を浮かべながら、悪い予感を感じるように……
◆ ◆ ◆
「緊急事態です」
提督の開口一番はこの言葉だった。
一気にざわつき始めた作戦会議室の中で、霧島が手を上げて喋りました。
「いったい何が起こったのでしょうか?」
こんな時にこそ冷静さが必要である――と、艦隊の頭脳の立場を分かっている霧島は淡々と提督に問い掛けました。
「さきほど第一、第二艦隊が向かった深海棲艦の一団は、おそらく陽動。本隊はこの鎮守府に向かって海中を進んでいるのを設置してある九三式水中聴音機が探知し、すぐ近くまで迫っていることが分かりました」
「そ、それでは直ぐに出撃をしなければ……」
「その通りですが……問題はそれだけではありません。探知の反応から、敵艦隊にはレ級やヲ級が含まれている可能性が高い……」
「「「……っ!?」」」
提督の言葉にざわついていた室内が静まり返りました。
「そ、そうすると、おそらく敵は……」
「ええ、ほぼ間違いなく、戦闘機による鎮守府への直接爆撃を狙っているでしょう」
「た、対空に定評のある艦は……」
霧島はそう言って辺りを見回します。ですが、どの方も俯くように床を見つめ、顔を上げませんでした。
「空母は第一艦隊で、摩耶は第二艦隊の旗艦として出撃しています。従って、現在この鎮守府は戦闘機に対する防御力が著しく低いと言えます」
そう言った提督は、眉間を指で押さえながら悩むような仕種をした後、しっかりとみんなを見ながら口を開きました。
「タンカーを守らなければならないため、出撃した2つの艦隊をこちらに戻す訳にもいきません。その為、現在の戦力で戦闘機から鎮守府を守りつつ、進行してくる深海棲艦をなんとかしなければなりません」
あまりにも辛く厳しい戦いになることは誰もが予想でき、その説明は、死刑宣告のように聞こえました。
「ですが……諦めたらここで終了ですよ」
なのに、最後の言葉を聞いた瞬間、部屋の中にいる誰もがやる気に満ちあふれているような表情に変わります。
「気合い! 入れて! 行きます!」
比叡お姉様が自らの頬を力強く叩き、大きな叫び声を上げました。
「駆逐艦及び軽巡洋艦はすぐに全装備を高角砲に変更し、戦闘機に備えて鎮守府近辺に待機! 重巡洋艦及び戦艦は三式弾を装備しつつ、戦闘機と進行してくる敵艦を同時に叩くわよっ!」
霧島はみんなに向かって指示を飛ばし、提督に向かって大きく頷きます。
「佐世保は絶対に落ちません。なぜなら、私が信頼する君たちが居るからです」
提督はハッキリと、みんなに向かって声をかけ、
「最後まで希望は捨てちゃあいけない。それが、私が今まで経験してきたことの答えです……」
大きく、しっかりと頷きました。
「「「はい! 佐世保は私たちが守ります!」」」
まるで練習していたかのように、みなさんは同じタイミングで声を上げました。
「君達が居て良かった……全艦出撃!」
提督の手が前に振り出された瞬間、部屋にいたみなさんが外へと駆け足で向かいました。
気合いが入った顔を。
燃えるような瞳を。
覇気を纏った姿を。
榛名に見せるように、出撃して行きました。
そして、作戦会議室に残された榛名は、提督の姿を見て思い出したのです。
明るく、元気で、どんなときでも諦めない――私たちのお姉様を。
ふぅ……と大きなため息を吐いた提督は、天井を見上げました。その表情がなぜか気になった榛名は、提督に話しかけることにしました。
「提督……」
「いやはや、榛名くんには無様な姿を見せてしまいましたね」
微笑みながら榛名の顔を見る提督。ですが、その言葉には先程の元気はまったく感じられませんでした。
「……私は、提督としてこの佐世保を任されています。ですが、実際には彼女たち艦娘に頼る以外に手段を持ち得ていません」
「で、ですがそれは……」
榛名の言葉を遮るように、提督は顔を左右に振って続けて口を開けます。
「私はね、臆病な存在なのですよ。昔は戦果をあげるために色々な無茶をしました。その結果、何人もの艦娘たちを潰してしまうことになってしまった……」
まるでそれは、提督の懺悔のようでした。榛名は口を挟むことも出来ず、ただじっと話を聞き続けます。
「それから私は無茶も、無理もしなくなった。ですが、それはただの臆病でしかない。それが分かっていながら、提督の立場に居つづけている……」
提督の肩は震え、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていました。それはまるで、小さな子どもが親とはぐれたかのような悲しい目を榛名に向けています。
「それなのに、彼女たちは私を支え続けてくれます。何の取り柄も無い私なんかを、頼りにしてくれているのです」
提督の拳がギュッと強く握られました。
「ならば私の出来ることは何か……それを毎日考えてきました。彼女たちを強く、どんな戦局に立たされても帰ってこれるよう考えました。なのに、私の指示によって、今この佐世保は窮地に立たされている」
自らの罪を自白し、自らを責めんとするように。提督は大きく口を開きます。
「それでもなお、彼女たちは私の言葉で戦場に向かおうとしている。それは許されて良いものなのか……私には分からなくなってきました……」
肩の力を抜くように大きくため息を吐いた提督は、もう一度天井を見上げました。
「提督……」
「………………」
榛名の言葉に、提督は全く反応を見せることはありませんでした。ですが、榛名は続けて口を開きます。
「提督は、何のためにここにいるのですか?」
「………………」
「提督は、みんなを守るためにここにいるのではないのですか?」
「………………」
「提督は、みんなとここにいたいから頑張っているのではないのですか?」
「私は……」
「みんながどんな状況にあっても帰ってこれるように。そう言ったのは提督、貴方なのですよ?」
「………………」
「みんなは、提督のためなら命すら投げ出すでしょう。それが出来るのは、みんなが提督を信じているからなんです。信頼しているからこそ、提督の言葉を信じて戦場に向かうことが出来るのです。それなのに、提督はみんなの……彼女たちのことを信じられないのですか!?」
榛名は提督に向かって叫びました。なぜこんなことを言えるのか、榛名自信にも分かりません。ですが、ここで言わなければ、誰もが後悔してしまう――と思いました。
「『佐世保は絶対に落ちません。なぜなら、私が信頼する君達が居るからです』これは提督が言った言葉です。榛名はこれを聞いた瞬間、何があっても大丈夫だと思いました。それは榛名だけじゃなく、みなさんも同じだった筈なのです」
どうにもならないような状況の説明を受けた後にも関わらず、決して諦めたりせずに、後ろを振り返ろうとはしなかった。
それが出来たのは、貴方という存在がいたからこそなんですよ……提督。
「榛名……くん……」
気づけば、提督は榛名の目をしっかりと見つめていました。その目に恐れも悲しみもなく、メラメラと燃えているように感じました。
「ふふ……ふふふ……」
「提督……」
「はははっ! 私は今まで、何を迷っていたのでしょう。失敗するのは当たり前なのだと、なぜ気づかなかったのでしょう。失敗したなら取り返せば良い。2点取られたなら、3点返せば良いことなのです!」
希望に満ちあふれた表情で、提督は笑い、声を上げました。
「それを気づかせてくれたのは、榛名くん、君なのです。君がここに来た理由は私なんかではない。ですが、君がいてくれたからこそ、私はもう一度提督としてこの場に立つことが出来る!」
提督は、声どころか見た目さえ若返るように覇気を纏い、大きく身体を動かします。
「ならばやることは1つ。彼女たちにできる限りの指示を、情報を伝えること。それが私のすべきことだ!」
「はい。提督はそれでこそ提督です」
榛名はコクリと頷いて、提督に笑みを向けました。
これでもう大丈夫。榛名も胸いっぱいの勇気を膨らませながら提督に問います。
「榛名も、何かお手伝いをさせてください。みんなの力になりたいのです」
榛名も役に立てることがあるのなら……この気持ちはみんなと同じだと思います。
戦場に出ることは出来ないかもしれませんが、少しでも提督の……そしてみんなの力にならせて欲しい。
「そうですね。それでは……」
そう言って、提督は金剛お姉様のように手を振りかざしました。
「ドックは戦場と化すでしょうから、明石の手伝いをお願いできますか?」
その問い掛けに、榛名は「はい!」と頷きました。
つづく
次回予告
明石のお手伝いをする榛名。
だが、ドックは少なく、明石の居場所は戦場と化す予想だったのだが……出だしから飛ばしてます。
リクエスト頂きました五月雨の登場ですが……あれ、ちょっと違う? と思った貴方は大正解。
でも、ちゃんと出番はありますのでお待ちくださいねっ。
榛名の場合 ~榛名の目覚め~ その6
最終話までもう少し!
乞うご期待!
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