艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ビスマルクに抱かれたまま眠ってしまった榛名は目を覚ます。
優しく微笑むビスマルクだが、そんなときに鳴り響く警報音。
そして緊急の呼びだしに、榛名は一緒に作戦会議室に向かうのだった。


※間違って5話を更新してしまいました。ご覧になられた方に深くお詫びいたします。


榛名の場合 ~榛名の目覚め~ その4

 それからどれくらいの時間が経ったのでしょうか。泣き疲れてしまった榛名は、ビスマルクさんに抱きしめられたまま眠ってしまったようでした。

 

「あっ……ご、ごめんなさいっ!」

 

 気がついた榛名は慌ててビスマルクさんに謝ります。

 

「いいえ、良いのよ榛名ちゃん。疲れも溜まっていたんでしょうし、これで元気になれるなら私も嬉しいわ」

 

 そう言って、ビスマルクさんは微笑みかけてくれました。

 

 この恩はいつか必ず返さなければ。そうーー榛名は心に誓ったときでした。

 

 ウゥゥゥゥゥゥーーーッ、ウゥゥゥゥゥゥーーーッ……

 

 再び鳴った警報を聞き、ビスマルクさんは緊張した面持ちで顔を上げました。

 

『緊急連絡。緊急連絡です。全艦娘は直ちに作戦会議室に集まるように』

 

 続けて流れた放送に、今までとは違う何かが起こったのだと気づきました。

 

「ごめんなさいね、榛名ちゃん」

 

 そう言って離れようとするビスマルクさんの手を、榛名はしっかりと握ります。

 

「榛名ちゃん?」

 

「榛名も……連れていってください」

 

 ビスマルクさんは榛名の言葉を聞いた瞬間、ビックリした表情を浮かべました。ですが、榛名の真剣な目を見て頷くと、手を引いてゆっくりと歩き出します。

 

 榛名が行っても、出来ることは無いかもしれない。邪魔になってしまうかもしれない。でも、榛名が居ることで比叡お姉様や霧島が少しでも元気になってくれるのならば、どこにでも出向きましょう。

 

 それが、今の榛名に出来ることなのですから。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 作戦会議室の端っこの方で、榛名はビスマルクさんと一緒に立っていました。部屋には佐世保鎮守府を代表する艦娘のみなさんが揃い踏みで、その中に比叡お姉様と霧島の姿もあります。榛名が部屋に入ってきたときに2人は気づいたようでしたが、何も言わずにニッコリと微笑んでくれたので、ホッと胸を撫で下ろします。

 

 それから暫くすると、提督が部屋に入ってこられ、その後ろに小さな艦娘が続きます。狩衣のような服に黒いスカート、サンバイザーのような帽子を被った姿をしていました。

 

 ただ、気になったのは、子どもである榛名と同じくらいの……その、シルエットだったので、もしかするとお仲間かもしれないと思ってしまったのですが、どうやらそれは榛名の思い違いだったようです。

 

 そ、その……頑張ってくださいねーーと、榛名は元気つけるように心の中で応援しました。

 

「それでは、緊急の作戦会議を行います。みなさんの準備は宜しいですね?」

 

「「「はい!」」」

 

 提督の呼びかけに、部屋の中にいたみなさんは緊張した様子で姿勢を正し、大きな声で返事をします。榛名も同じように姿勢を正して、提督の顔を見つめました。

 

「今回、龍驤の偵察機が深海棲艦の一団を発見しました。いつもより遠い場所に現れましたが、その場所が問題です」

 

 提督はそう言って、ホワイトボードの横にある近海地図に、赤色の丸いマグネットを貼付けました。その瞬間、部屋に居るみなさんがざわめき始めます。

 

「みなさんもお気づきのようですが、この場所は補給タンカーの海路にです。つまり、深海棲艦はそれを狙って現れたのではないかと予想できるのですが……続きは龍驤、お願いします」

 

「よっしゃ、ウチに任せといてっ」

 

 そう言って、龍驤さんはゴホンと咳を吐いてから近くにあった指示棒を持って地図に向けました。

 

「まず、1つ目の問題は深海棲艦が現れた位置やね。ここからすぐに到着出来る距離でもあらへんし、タンカーがそこを通る時間は約4時間後。つまり余裕が無いってことやね。今すぐ出撃しないと間に合わへんと言う訳なんやけど、もう1つの問題は敵艦の数やねん」

 

「そんなに多いのですか?」

 

 霧島が手を上げて質問します。すると龍驤さんは少し不満げな表情を浮かべました。

 

「おおよそ12艦。明らかに今までとは違う数に、ウチも一瞬驚いてしもうたわ」

 

「そ、そんなに……っ!?」

 

 更にざわめきが大きくなり、みなさんの顔色が困惑しているように見えました。

 

「発見した時点で直ぐに偵察機を戻したおかげで落とされずにはすんだけどな。そやさかい、正確な数字は分からんけど……」

 

「どちらにしろ、放っておく訳にはいきませんからねぇ」

 

 提督はそう言ってから大きなため息を吐きました。ざわついていたみなさんも、その様子を見て静まり返ります。

 

 補給タンカーがどれくらいの規模で、どのくらい重要なのか榛名にハッキリとは分かりません。ですが、補給が断たれてしまっては、基地の運営に支障を来すのは分かります。

 

「ただ、数は多いですが、敵艦のメインはどうやら駆逐艦が主体のようです。従って、遠距離攻撃で叩けばそれほど被害は出ないでしょう」

 

 言って、提督は背筋を伸ばし直しながらみなさんを見渡します。

 

「空母及び航戦を主体とした第一艦隊と、護衛の為に重巡及び軽巡で編成した第二艦隊の出撃を命じます。第一艦隊の旗艦は龍驤。第二艦隊の旗艦は摩耶とします」

 

「ウチに任せといて。さぁ、お仕事お仕事ー」

 

「よっしゃ! 摩耶様に任せとけっ!」

 

 気合いを入れるように、旗艦の二人は大きな声を上げました。ですが、提督の命令に不満があるような表情で、比叡お姉様が手を上げました。

 

「提督っ、私たちに出撃命令は……」

 

「君達に出撃の予定はありません」

 

「で、ですが、時間に余裕が無いこの状況なら、高速戦艦の私や霧島が役に立って……」

 

「もう一度言います。君達に出撃の予定はありません」

 

「……っ!」

 

 冷たく言い放たれた提督の言葉に、比叡お姉様はこれ以上何も言うことが出来ませんでした。

 

 霧島は黙ったまま、床を見つめているようです。

 

 榛名はそんな比叡お姉様と霧島を見て、もの凄く心配になると同時に、安堵の気持ちでいっぱいになりました。疲労が溜まりきった2人には休養の時間が必要です。それを、提督は分かってくれたのでしょう。

 

 もしかすると、明石さんが提督に陳情してくれたのでしょうか。そうであれば、明石さんにお礼を言いに行かなければなりません。さっきの一件があるので、ちょっと恐いですけど……

 

 榛名は何も言わず、感謝の気持ちを込めて提督に向かって頭を下げました。

 

 比叡お姉様と霧島を気遣かってくれてありがとうございます。この恩は、必ず榛名がお返ししますーーと。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それから直ぐに、第一艦隊及び第二艦隊のみなさんは出撃されました。比叡お姉様と霧島は落ち込んだ表情を浮かべながら自室に戻られようとしたので、ビスマルクさんにお礼を言ってから一緒について行きました。

 

「あーあ、せっかく気合い入れてたのにー」

 

 言って、比叡お姉様は両手を頭の後ろで組みながら、ため息を吐いておられました。でも榛名はそうなって良かったと思っています。

 

「ですが、提督の命令は絶対ですからね。少し疲れもありましたし、休息というのも悪くはないでしょう」

 

 眼鏡の縁を持ちながら、霧島は少し笑みを浮かべました。

 

 その笑みを見て、霧島には提督の思いが伝わっているのではないかと思います。

 

「そうねー。しょうがないから、部屋でゴロゴロするしかないかなぁー」

 

「そうですよ、比叡お姉様。たまには休息も必要なのですから」

 

「それじゃあ、ベットで榛名を抱きしめながら、ゴロゴロ転がっちゃおうかなー」

 

「えぇっ!?」

 

 な、なななっ、何をいきなり言うんですか比叡お姉様っ!?

 

 そ、そんな破廉恥なことをされては……は、榛名は……榛名は……っ!

 

「榛名、比叡姉様にからかわれていると自覚してますか?」

 

「え、から……かわ……れ?」

 

「もうー、霧島ったらネタバレ早すぎっ」

 

「しかし、そうでもしないと霧島が榛名を抱いてゴロゴロ出来ませんから」

 

「き、きき、霧島っ!?」

 

「それじゃあ、交代で榛名を抱きしめるで良いんじゃない?」

 

「そうですね。それなら霧島も……ふふ……」

 

 え、笑みがっ! 2人の笑みが恐いですっ!

 

「なーんてねっ、冗談よ榛名っ」

 

「霧島は本気でしたけど?」

 

「も、もうっ! 2人とも知りませんっ!」

 

 そう言いながら、2人から遠ざかるように先に部屋に戻ります。

 

 少しは元気が出てくれた。それだけで、榛名は嬉しくなりました。

 

 ただ……その……抱かれてゴロゴロは……ちょ、ちょっと気になりますけど……

 

 ーーって、榛名は一体何を考えてるのでしょうかっ!?

 

 あうぅぅぅっ! この記憶だけ消去したいですっ!

 

 鏡で見なくても分かるくらい耳まで真っ赤にした榛名は、あまりの恥ずかしさに通路を走ってしまい、自室に急行してしまいました。

 

 うぅぅ……暫く比叡お姉様と霧島の顔を見ることが出来ないかもです……

 

 

 

「ただいまー……って榛名ったら、何してるの……?」

 

 部屋に戻った榛名は、帰ってきた2人に顔を見られないようにと、お布団を被ってベットの上で丸くなっていました。

 

「どうしたのですか、比叡姉様。入口で立ってられては霧島が入ることが……ぷっ……くくくっ……」

 

 霧島の笑い声が聞こえますが、気にしないように更に布団に包まります。

 

「ほらー、霧島が笑うから榛名が拗ねちゃってるじゃないー」

 

「で、でも……くくっ……あははははっ!」

 

 うーっ、霧島ったら、後で覚えておくといいですっ!

 

 榛名はちょっと怒りましたからねっ!

 

「もう……霧島ったら……」

 

 比叡お姉様の呆れた声の後、こちらに近づいて来る足音が聞こえてきました。

 

「榛名も拗ねないで、顔を見せてちょうだい」

 

「いくら比叡お姉様のお願いでも、それは聞けません……」

 

「どうして? もしかして比叡のことが嫌いになったの?」

 

「そ、そういうのじゃ……ないんですけど……」

 

 顔が真っ赤になっていますからーーとは言えず、榛名は困ってしまいます。

 

 それに、比叡お姉様のことを嫌いになるなんて、榛名にはありえないことですから……

 

「それじゃあ、こんなことをしちゃっても良いのかしらー?」

 

「……え?」

 

 比叡お姉様が急に楽しそうな声を上げた途端、ベットと布団の隙間に素早い動きで2本の手が入ってきました。

 

「ふっふっふー♪」

 

「ひ、比叡……お姉様……ま、まさかっ!?」

 

「かーくーごーしなさいっ、榛名っ!」

 

「え、えええええっ!?」

 

 ひ、比叡お姉様の手がっ、榛名の身体に、ち、近づいて……っ

 

「気合い! 入れて! くすぐりますっ! こちょこちょこちょっ!」

 

「きゃあっ! だ、ダメですっ! 比叡お姉っ、ひゃあっ!」

 

「うりうりうりっ! これでも布団から出てこないのかしらっ!?」

 

「ひゃあうっ! こそっ、こそばゆくてっ! あはっ、あははははっ!」

 

 榛名の脇にピンポイントに襲いかかってくる比叡お姉様の指が縦横無尽に動き回って、榛名を無理矢理笑わせました。あまりのこそばゆさに限界を感じ、お布団から逃げるように脱出します。

 

「はぁ……はぁ……っ、ダメっ! ダメですよ比叡お姉様っ!」

 

 肩で息をしながら榛名は比叡お姉様から離れるようにベットから下り、後ずさったのですが……

 

「ふふ……捕まえました。霧島の頭脳を持ってすれば、榛名の逃げるルートを予想することなどお茶の子さいさいです」

 

「ひっ!?」

 

 両肩をがっしりと掴まれ、榛名は冷や汗をかきながら振り返ります。そこには、声の主である霧島がニヤァ……と、不適な笑みを浮かべていました。

 

「ふっふっふ……今度は逃がさないわよ……榛名ぁ……」

 

 比叡お姉様はゾンビのようなゆっくりした動きで、榛名に近づいてきました。ですが、霧島に捕まっている榛名は逃げることが出来ず、ガクガクと身体を震わせることしか出来ません。

 

「覚悟することね、榛名」

 

「きゃあああああっ!」

 

 にぱー……と笑いながら見下ろす霧島と、徐々に近づいてくる比叡お姉様を前に、榛名は大きな悲鳴を上げたのでした。

 

 

続く

 




次回予告

 二人のゴロゴロに放心しかけた榛名。
しかし、無情にも再び鳴り響く警報音。
はたして深海棲艦の狙いは何なのか。そして、榛名と二人きりになった提督は……


 榛名の場合 ~榛名の目覚め~ その5

 乞うご期待!


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