艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 第一回リクエストで選ばれました、榛名(子供)のスピンオフを開始ですっ!

 気がついたとき、私はベットの上だった。
見知らぬ場所、見知らぬ人。そして見知らぬ己の身体。
戦艦だったはずが、艦娘として再びこの世に生まれた榛名の身体は、子どもの大きさだった。

※榛名以外にもリクエストを頂きました、
比叡、ビスマルク、龍驤、五月雨などが登場する榛名編……いざ、参ります!

※今作品は独自解釈並びにオリジナル設定を含みつつ、一部のキャラクターが暴走気味になっている場合があります。暖かい目でご覧いただけると幸いです。

※ご指摘により、明石の詳細部分の勘違いを修正しました。
(艦名の初代と二代目を勘違いしてました……申し訳ありません)


榛名の場合 ~榛名の目覚め~ その1

 海。

 

 虚ろな意識が波に漂う。

 

 それは少し気持ちが良く、ほんの少し恐れもある。

 

 ユラユラと揺れる感覚はとても好き。

 

 でも、そればっかりじゃない。

 

 陸からすぐ近くの海に浮かんでいると、空を覆うおびただしい数の飛行機が見える。

 

 私の上空を飛び回り、そしてたくさんの何かを落としていく。

 

 そんな、怖い、恐い記憶。

 

 目を覚ませば、また見てしまうかもしれない。

 

 起きてしまえば、現実を知るかもしれない。

 

 大切な人が消えていく。

 

 最後まで残った私は何度も泣きながら、それでも戦い、そして海の底にたどり着いた。

 

 でも、触れただけ。

 

 最後は私を使って、みんなを幸せにすることが出来たらしい。

 

 そんな、悲しくも嬉しくもあった、私の記憶。

 

 それからずっと波に漂い、海の中でユラユラと揺れているだけだと思っていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 気づいた場所は、陸の上だった。

 

 実際には、真っ白なシーツに包まれたベットの上。

 

 見たことが無い天井。見たことが無い壁。

 

 青い空も、雨が降る黒い空も、ここでは見れない。

 

 ドックにいるような屋根でもなく、まるでどこか全く知らない世界に迷い込んだ気分に、私は恐れしか抱かなかった。

 

「失礼するよ」

 

 声が聞こえて、私は身構える。砲身をそちらに向けようと、手を伸ばして振り向いた。

 

 ――手?

 

 なぜ私に手があるの?

 

 驚いた私は伸ばした手を見る。そこには小さな五本の指が綺麗に並び、肘より少し長い白い袖がふわりと舞った。

 

 私はなぜ、どうしてこんな格好を……?

 

「おや、そんなに恐がらなくてもいいですよ。別に危害を加える気は無いのだから」

 

 目の前にいる男性はそう言って、柔らかな笑みを浮かべた。とても優しそうな表情に、私の緊張は無意識に解かれていく。

 

「私は……私はいったい……?」

 

 身体の隅々を見渡して、そう呟いた。

 

「君は海に漂っているところを、私の艦隊が発見したんだよ」

 

「艦……隊……」

 

 聞き覚えのある言葉に、私の身体がピクリと動く。

 

「そう。君が目覚めるずっと前から、私たち人間は突如海に現れた深海棲艦と戦っている」

 

「深海……棲艦……?」

 

 今度は聞き覚えの無い言葉。だけど、なぜか身体が大きく震えてしまう。

 

「君は……いや、君たちは、深海棲艦に唯一対抗できる存在なのだが……」

 

 そう言って、男性は眼鏡を縁を持ち上げて位置を直す。

 

「まさか、私のところにも君のような小さな子が来るとは思っていなかったよ……」

 

「小さな……?」

 

「うむ。普通はすぐに戦える身体として出会うのだが、君の場合は明らかに子どもにしか見えない」

 

「こ、子ども……?」

 

「だが、それも今までに例が無い訳ではない。舞鶴に居る彼なら良くしてくれるだろうが……」

 

 目の前の男性は少しだけ目を逸らすように顔を傾けた後、小さくため息を吐いた。

 

「今この鎮守府は少々厄介な時案を抱えていてね。申し訳ないが、しばらくの間ここで過ごすことになると思うが構わんかね?」

 

 その問いに、私はどう答えていいか分からなかったのだけれど、男性の口調と雰囲気に納得するように頷いた。

 

「うむ。それでは少しの間かもしれんが、よろしくな。榛名くん」

 

 そう。それが私の名前。

 

 金剛型戦艦3番艦、榛名。2度目の目覚めでした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それから榛名は、男性に連れられて検査を受けることになりました。この基地では初めてである子どもということで、勝手が分からなくては困るというのも納得は出来ます。

 

 検査をする方も私と同じ艦娘でした。そうは言っても私のような子どもではなく、ずっと大きな方だったのですけど……

 

「うっはー、めちゃくちゃ可愛いんだけどっ! 提督っ、この子貰っちゃって良いのっ!?」

 

「いやいや、さすがにそれはいけません」

 

「ありゃー、それは残念です。明石の部屋にお持ち帰りしたかったんですけどねぇ……」

 

「お、お持ち帰りって……いったい榛名は何をされてしまうのでしょうか……」

 

「そりゃあ、メンテナンスやってから、服装を取っ替え引っ替えして……」

 

「そ、それはその……受け入れられません……」

 

「うーん、そっかー。残念……」

 

 全然残念そうに聞こえない口ぶりで、榛名の身体をチェックし始める明石お姉さんに少し不安を感じつつも、じっと我慢をしてました。

 

「んっと……それじゃあ、服を脱いでくれるかなー」

 

「え、えっと……それは……」

 

 男性の方がおられる前では……と思った榛名でしたが、振り向いてみるとそこには誰もいなくなってました。

 

「あっ、提督なら外で待ってるよ。さすがに服をひんむいちゃうところに同行させる訳にもいかないしねぇー」

 

「そ、それなら……榛名は大丈夫です」

 

「おっけー。じゃあ、ちゃちゃっと脱いじゃってねー」

 

 明石さんに急かされるように、榛名は服を脱ぎました。少し恥ずかしいですけど、部屋の中にいるのは明石さんと榛名の2人だけですし、あまり過剰に反応しても失礼でしょう。

 

「ふむふむー。子どもの大きさってだけで、私たちとほとんど変わらないねぇー」

 

 そう言って、明石さんは榛名のお腹辺りを指で軽く押していきます。それはお医者さんが腹部の触診をするように――なのですが、どうして榛名はこんなことが分かるのでしょうか……?

 

 まだ記憶がハッキリしていないかもしれませんが、それでも榛名が昔の榛名である以上、このような身体になったということは未だに信じられないのです。

 

 でも、目の前にいる明石さんを見て、この方は榛名が戦艦として海に浮かんでいた頃にいた工作艦の明石さんであると、なぜか納得してしまいます。姿形はまるで違うのに、それでも信用できる何かがあるのです。

 

 それが何故なのか、何が理由なのかは榛名には分かりません。でも、そんなことは些細なことであるという気がします。

 

「んーっと、それじゃあ今度はそのまんまベットの方に俯せになってくれるかな?」

 

「あっ、はい。分かりました」

 

 明石さんに指示された通り、榛名はすぐ横にあったベットに上ろうとするのですが……

 

「え、えっと……」

 

 思った以上に高さがあって、榛名の身長では上ろうとするのが難しくって……

 

「あぁ、ごめんごめん。これでイケるかな?」

 

 そう言って、明石さんは小さな土台を置いてくれました。

 

「うん……しょっと……」

 

 土台に足をかけてからベットになんとか登り切ることができ、榛名はちょっと一安心……なのですが、

 

「うはー……やっぱり可愛いなぁー」

 

 目をキラキラとさせた明石さんが、榛名を見守っていました。

 

 それなら手伝ってくれれば良いのに……と思いましたけど、甘えてばかりもいられません。小さくてもお姉様たちに負けないように、榛名は立派な戦艦にならなければならないのです。

 

 ………………

 

 ……お姉様?

 

 今榛名は、お姉様と言いました。

 

 記憶の奥深くにある2人のお姉様と妹の姿が目に浮かび……

 

 そして、榛名が目覚めたのであれば、他の3人も同じように目覚めているかもしれない……と考えたのです。

 

「それじゃあ、背中から調べていくねー」

 

 明石さんはそう言いながら、榛名の背中をゆっくりと押していきました。首の近くから徐々に下がって腰の辺りまで。2本の親指で優しく押されていく感覚に、榛名は心地好さから少し眠たくなりそうでした。

 

「ふむふむ、基本的に問題なさそうだねー。それじゃあこのまま下がっていくよー」

 

 座骨神経部からお尻の付け根、太股から膝裏へと進み、ふくらはぎからアキレス腱を押していきます。今まで感じたことの無い指圧という感覚と、以前は戦艦であった榛名に人と同じような身体があるという奇妙な感覚が合わさります。けれど、それはとても悪くなく、むしろもの凄く気持ち良いと感じられたのです。

 

「それじゃあ最後は内蔵のチェックねー。痛かったら言ってよー?」

 

 明石さんはそう言って、榛名の足の裏をグリグリと押し始めたのですが……

 

「ひゃわっ!?」

 

 とんでもない痛みが榛名を襲い、思わず声を上げてしまったのです。

 

「んー。ちょっと胃の辺りがダメっぽいねぇ。榛名ちゃんって結構神経使ったりする方?」

 

「え、えっと……その……きゃうんっ!」

 

「ありゃー、結構固いねぇー。これは相当ストレス溜まってたのかなー?」

 

 

 

 グリグリグリグリグリ……

 

 

 

「い、いたたたたたたたたっ! あ、明石さんっ、痛いっ、痛いですっ!」

 

「うんうん。こんなに固かったら痛いよねー。でも、もうちょっとだから我慢しようねー」

 

 歯医者さんでよくある「痛かったら言ってね」と同じように、どれだけ痛がっても止めてくれません。

 

 むしろ、痛がっているのを見て楽しんでいるようにも思えましたが、俯せになった榛名にはどうすることも出来ず、されるがまま足裏を攻め続けられてしまいました。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「うーん。今日も良い仕事したよー」

 

「ひ、酷すぎです……」

 

「いやいや、ちゃんとした治療なんだからねー。変な噂を流しちゃダメだよー?」

 

 そう言った明石さんの顔の周りには、キラキラと星が輝いているように高揚していました。

 

 これから明石さんのメンテナンスを受けるときは、最新の注意を払った方が良いと思います……と、榛名は思いました。

 

 

 

 

 

 

「これでメンテナンスと一通りのチェックは終了かなー」

 

 明石さんはカルテにボールペンで記入をしながらニッコリと笑いました。榛名はとりあえず一難去ったと思ってホッと胸を撫で下ろしたのですが……

 

「ちなみに榛名ちゃんは胃が少し弱いみたいだけど、思い当たることってあるかな?」

 

 その問いに対して榛名は記憶を思い返します。比叡お姉様に続き、数日後には霧島が沈んだ。それから暫く経って、金剛お姉様が沈んでしまった。

 

 榛名は最後まで戦いました。けれど、お姉様たちや霧島を守れずに、最後の時まで一緒にいることは出来なかった。

 

 その悲しみが、榛名の心を蝕んでいたのは分かっています。明石さんが榛名の胃が悪いと言ったのもそれが理由なのでしょう。

 

「いえ、榛名は大丈夫です」

 

 言って、明石さんに向かって首を左右に振りました。

 

「んー、そっか。まぁ、榛名ちゃんがそう言うなら問題は無いのかもねー」

 

 ボールペンで頭をポリポリと掻きながら、明石さんはニヘヘ……と笑います。たぶん、榛名の考えが分かっていたのでしょう。

 

 榛名は、なぜ明石さんがメンテナンスを担当しているのか分かった気がしました。明石さんは身体だけでなく心までも治療をしてくれるのかもしれませんね。

 

 でも、指圧は気をつけた方が良さそうです。榛名の勘がそう囁いてます。

 

「これで私の仕事は終わりかなー。榛名ちゃんは部屋の外にいる提督に、これからのことを聞いてねー」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 榛名は深くお辞儀をして明石さんにお礼を言い、部屋から出ることにしました。

 

 

 

つづく




次回予告

 身体をチェックしてくれた明石さんにお礼を言い、部屋の外に出た榛名。
提督に連れられた部屋に入った榛名に、感動の再会が訪れる。

 榛名の場合 ~榛名の目覚め~ その2

 乞うご期待!


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