まず1作目は告知通り、ちっちゃい暁が一人前のレディになるために、鎮守府にいるお姉さんたちに話を聞いていく……というストーリーです。
はたして、暁は一人前のレディの階段を上がっていけるのか……
はたまた、相変わらずの艦娘たちが暴走してしまうのか……
ゆっくりまったりでお楽しみくださいっ。
※リクエストにより、扶桑と山城を暁編で登場ですっ!
今回は山城。そして次回はもちろん扶桑が登場します!
暁の場合 ~一人前のレディ道~ 前編
みなさん、ごきげんようです。本日はお日柄も良く……ってなんだか変な顔をしている気がするんだけど。
あっ、なるほど。そう言えば説明がまだだったかしら。
まずは私の自己紹介からさせて頂くわね。
暁型駆逐艦の1番艦、暁よ。舞鶴鎮守府にある艦娘幼稚園で一番のレディなんだからっ!
妹の響や雷、電も一緒に通ってるけど、あの子たちはまだまだね。だって、密かに狙っているって言う先生を未だに落とせてないんだからっ。
もちろん暁はレディを磨くべく、毎日訓練を欠かしてないのよ。
……え?
いったいどんな訓練をしているのかって?
しょうがないわね……ちょっとだけ教えてあげるわ。
朝起きたらまずは鏡に向かって「ごきげんよう」と挨拶の練習をするわ。これは熊野のお姉さんから教えてもらった訓練よ。
ちなみに上級者になると「タイが曲がっていてよ」って言ってから、正面に向かい合って直してあげられるのが完璧なレディなんだって。
ちなみにタイって何のことなのかしら? やっぱりお魚の鯛……なのかな?
塩焼きで頂くと美味しいわよねっ。白身でホクホク、プリップリなんだからっ。
あ、でも、暁は鯛焼きも大好きよ。小倉にカスタードにチョコクリーム……どれも甘くて美味しいのよっ!
一人前のレディとしては……あんまりいっぱい食べると良くないって聞いたから、少し我慢してるけど……
ちなみにこれを聞いたのは夕張のお姉さんね。体重が重くなるのをいっつも気にしてるわ。
暁としては、荷物をいっぱい持ち過ぎなんだと思うんだけどね。
他にも色々あるんだけど、今日は暁の一人前のレディ道について、いーっぱい説明してあげるんだからねっ。
えっ……?
べ、別に褒めてほしいからやってるんじゃないんだし。
わ、わわっ!
頭をなでなでしようとこっちに来ないでっ!
もう子供じゃないって言ってるでしょ!
と、とにかく今は戦略的撤退よっ!
後で覚えてなさーーーいっ!
◆ ◆ ◆
幼稚園から帰ってきた暁は、荷物を部屋に置いてからすぐに山城と扶桑お姉さんの部屋にやってきたの。
「レディ……ですか?」
「そうなの。山城お姉さんみたいに、綺麗で大人の女性になるのはどうしたらいいのかしら?」
「き、綺麗だなんてそんな……」
部屋にいたのは山城のお姉さんだけだったわ。聞いたところによると扶桑お姉さんは午前中の出撃で被弾したみたいで、今はドックで入渠しているらしいわ。
ちなみに、艦隊の中で唯一ダメージを負ったのが扶桑お姉さんだったらしいの。さすがってところだけど、もちろん暁はそういうのを見習いに来た訳じゃないのよ。
でもそのせいで、山城お姉さんはすっごく悲しんでたみたい。「やっぱり姉様と一緒に、山城も出撃しなければいけなかったのよ……何度も元帥にお願いしたのに……この恨み、不幸の手紙として大量に送り付けるわ……」と、こんな風にブツブツ呟く山城お姉さんの机の上には、たくさんの便箋があったんだけど……暁は何も見ていなかったことにするわね。
聞いたりしたら、暁の部屋にも手紙が届くかもしれないし……
………………
べ、別に怖くなんてないんだからっ!
た、ただちょっと、響とか雷とか電が怖くなって、夜にトイレについてきてって言うかもしれないじゃない!
そ、そそ、そんなことになったら、夜にはオバケ……じゃなくてっ、レディに夜更かしは厳禁なのよっ!
「暁ちゃんの質問に当てはまるとすれば、それはやはり扶桑お姉様よ。ゆっくりと優雅に舞うような足運び……丁寧な言葉遣い……不運にもめげずに立ち向かおうとする生き様は、まさに淑女そのもの。あぁ、扶桑お姉様は素敵で素晴らしい存在。今すぐ山城を抱きしめて欲しい。でも姉様はドックでお休み中なの……いったいどうすれば……私って不幸だわ……」
キラキラと輝くような笑顔を見せたと思ったら、すぐにどん底の表情へと変えた山城お姉さんを見て、暁はヤバイと思ったわ。
「そ、そ……その、だ、大丈夫よっ! べ、別に暫くしたら治って帰ってくるんだから……」
「ええ……それまでたくさんの手紙を元帥宛てに書かないとね」
「そ、そそそっ、そうねっ! それじゃあ、暁はこの辺で……」
これ以上聞くと、色々と……その、危ない気がしてきたし、早々に退散することにしたの。
あんまり参考になる話は聞けなかったけど、宿舎にはいっぱいお姉さんたちが居るんだから、まだまだ大丈夫よねっ。
◆ ◆ ◆
部屋から出た暁は、次はどのお姉さんに話を聞こうかな――と、考えながら廊下を歩いていたの。すると、たまたま部屋から出てこようとする羽黒お姉さんを見つけたので、早速声をかけることにしたわ。
「羽黒お姉さん。こんばんわ、なのです」
「あっ……暁ちゃん。こんばんわ」
暁はちゃんとお辞儀をして挨拶をしたわ。一人前のレディにとって、これくらいは朝飯前よね。
そういえば、朝飯前の時刻ではないと思うんだけど、こういうときも朝飯前って言っちゃっていいのかしら?
正直よく分かんないんだけど……まぁ、たいした問題じゃないわよね。
でも、それより気になるのは、羽黒お姉さんが出てきた部屋についてだったわ。ここって……摩耶お姉さんの部屋だけど、何かあったのかしら?
「ところで、羽黒お姉さんはどうして摩耶お姉さんの部屋から出てきたのかしら?」
気になったら善は急げ。早速聞いてみたんだけれど……
「えっ、あ……その……ごめんなさい……」
あわてふためいた羽黒お姉さんは、キョロキョロと周りを見渡してから暁に謝ったの。別に怒っている訳でもないし、そんなに謝らなくてもいいと思うんだけど……
「そ、その……さっきの出撃で危ないところを助けてもらったから……お礼を言いに来てたの……」
「なるほどね。お礼をちゃんと言うのも、一人前のレディよね」
「……え? い、一人前の……レディ?」
「そうよ。暁は早く一人前のレディとしてみんなに認められるように、日々精進してるの。今もこうやって、お姉さんたちにレディについて教えてもらってるのよっ!」
「へぇ……暁ちゃんって、偉いんだね」
「そ、それほどでもないわっ! で、でも……ありがと。お礼はちゃんと言えるし」
「偉い偉い」
羽黒お姉さんはそう言って、暁の頭を撫でようとしたの。
「あ、頭を撫でるのはダメっ!」
「あれ……そうなの?」
「そ、そうなのっ。そんなのレディじゃないしっ」
「うーん……そうなのかな……?」
羽黒お姉さんは、人差し指を口元に当てながら考え込むように天井を見上げていたわ。折角の機会なんだし、羽黒お姉さんにレディについて聞こうと思ったんだけど、
「私に聞くよりかは、姉さんたちに聞いた方がいいんじゃないかな? 暁ちゃんにアドバイスだと……足柄姉さんが適任かな……」
「分かったわ。それじゃあ、足柄お姉さんを探してみるわね」
「うん、それじゃあ頑張ってね、暁ちゃん」
そう言って、お互いに手を振って別れたんだけど……羽黒お姉さんの顔が心なしか赤くなってたのは気のせいかしら?
いつも恥ずかしそうにしてるけど、暁の前で緊張しなくてもいいのに……って思うんだけどね。
それよりも暁は早く一人前のレディになるべく、足柄お姉さんを探すことにしたわっ。
◆ ◆ ◆
そうは言っても、広い宿舎をくまなく探して足柄のお姉さんを見つけだすのは大変よね。
効率よく探すには、情報を得るのが一番なの。索敵を大事にしなきゃ大変なことになるって、赤城お姉さんにも教えられたし。
一人前のレディたるもの、一通りのことはこなさないといけないわ。それが暁のレディ道なの。
そうと決まれば善は急げよ。暁は出来る子ってところを見せてあげるんだからっ!
………………
……あっ。
こ、ここっ、子どもじゃないしっ! 出来るレディって言おうと思ってたんだからねっ!
◆ ◆ ◆
――と、いう訳で暁がやってきたのは、鎮守府にある大きな建物の中でも一番高いところにある部屋よ。
「ここが、元帥の指令室ね……」
初めて来る場所にちょっとだけドキドキしてたけど、暁はもう子供じゃないの。一人でお買い物だって出来るんだから。
それに、元帥じゃなくて秘書艦の高雄お姉さんに会いに来たんだから、別に気にすることなんてないはずよね。
………………
…………
……
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……
と、とりあえず深呼吸をしてるだけよっ。別に深い意味なんてないし、ノックをしようとしている手がプルプル震えてるのも、気のせいなんだからっ!
ガチャッ……
「外から物音がする気が……あら、暁ちゃんじゃない」
「ひゃいっ!?」
「こんなところに来て、いったいどうしたの?」
「あ、あああっ、あのっ、えっと……」
「もしかして、元帥に用事かしら?」
「そ、そうじゃなくて……その……」
「それじゃあいったい、誰に?」
「た、高雄お姉さんに……っ!」
「あら……私?」
「は、はは、はいっ! ちょっと、聞きたいことがあるのっ!」
「そうだったの。それじゃあ、ここで立ち話もなんだから、中に入って下さいね」
「あ、ありがとう……ちゃ、ちゃんとおれゃいっ……」
「あらあら、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?」
「ひゃ、ひゃい……」
うぅぅ……噛んじゃった……
こんなのレディにあるまじき失態よ……なんとか、挽回しなくちゃいけないわっ!
で、でもとりあえずは、高雄お姉さんと言う通りに部屋の中に入ることにしたの。
「ふわぁ……」
「あら、どうしたの?」
「あっ、えっと……カッコイイ部屋だなぁって……」
「ふふ……ありがと。この部屋の模様替えは私がしたのよ」
「高雄お姉さんが!?」
「元帥って、こういうところは無頓着でね……もう少し気を使って頂ければ嬉しいんだけど……」
高雄お姉さんはそう言ってから、はぁ……と大きなため息を吐いてたわ。
「ところで、暁ちゃんは私に用事があるって言ってたけど、いったい何なのかしら?」
「あっ、そうだったわ。えっと、足柄お姉さんがどこに居るのか分からないから、秘書艦の高雄お姉さんなら知ってるかなって思って聞きに来たの」
「そうだったのね。えっと……今の時間の足柄の予定は……んー……」
そう言って、高雄お姉さんは手に持っていた分厚い本をペラペラとめくっていたわ。たぶん、あの本には凄いことが書かれているんじゃないかしら?
えっ、どんなことかって?
う、うーん……
た、例えば、亡くなったお母さんを錬成する方法とか、書かれてる呪文読むと魔物の子どもが雷撃を放てるとか、関西弁を喋る封印の獣が守っているカードが入っているとか……かしら。
どれも面白い漫画よね……って、そういうのじゃなくてっ!
暁はもう子どもじゃないんだから、ま、漫画なんてそんなに読まないのよ!
ほ、本当よっ! 部屋の中にある漫画は、ぜーんぶ響のなんだからっ!
「あぁ、あったわ……これね。足柄は午前の演習を終えた後、艦装整備に向かったはずだから……たぶん整備室に居るんじゃないかしら」
高雄お姉さんはニッコリ笑って暁にそう言ってくれてから、ふと、不思議そうな顔になったの。
「ところで、暁ちゃんはどうして足柄に用事があるのかしら?」
「それは、暁のレディ道について聞きたいからなの。初めに山城お姉さんに聞いて、その後羽黒お姉さんとお話したときに、足柄お姉さんが適任だって聞いたのよ」
「て、適任……? あの、飢えた狼で行き遅れの……っ!?」
もの凄くビックリした顔で驚いていた高雄お姉さんを見て、暁は心配になっちゃったわ。
「た、高雄お姉さん……?」
「あっ、ご、ごめんなさいっ。ちょっと言い過ぎちゃったかしら……」
「え、えっと……よく聞こえなかった……かな?」
「それならいいのよ。もし聞こえたとしても、聞こえなかったことにしてくれればいいから」
そう言ってニッコリと笑いかけてくる高雄お姉さんだったんだけど、目が完全に笑っていなかった気がするわ……
これ以上、このことを話したら危ない……って、レディの勘が囁いてたの。
「そ、それじゃあ、整備室の方に行ってみるわ。高雄お姉さん、ありがとっ」
「はい。それじゃあ、気をつけてね。あと、さっきのことはくれぐれも内緒よ?」
「は、ははっ、はい!」
大きくお辞儀をして、指令室から逃げるように走ったの。
レディになるためには、様々な困難があるって思い知らされた時間だったわ……
つづく
次回予告
羽黒お姉さんから聞いて、暁は足柄お姉さんを探すために鎮守府内を歩き回る。
次に向かう先は整備室。その中に居たのは、足柄お姉さんではなく別のお姉さんだった!?
暁の場合 ~一人前のレディ道~ 中編
どこかで見たメンツだと思った貴方!
そ・の・と・お・り・ですっ(ぇ
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