艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 気を取り直して青葉の元へと向かう元帥と主人公。
しかし、周りにいる艦娘たちが騒ぎ出し、二手に分かれて青葉の元に向かう事になる。

 はたして青葉を問い詰める事が出来るのか?
まさかの事態が主人公を襲うっ!?


その14「計算通りと想定外」

 

 青葉が居るであろうドックへと向かっていた俺と元帥は、鎮守府内の大きな通りを歩いていた。飛龍と蒼龍の勘違いによる噂の伝達は、色々とトラブルらしきものはあったけれど、何とか止めることが出来たのだが、よくよく考えてみると、青葉の小説や秋雲の薄い漫画はすでに至る所に出回っている可能性は無きにしも非ずと言った具合であり、

 

「きゃああああっ! 見てっ! 今噂の鎮守府カップルよっ!」

 

「ほ、本当だっ! やっぱりあの噂は本当だったのね!」

 

「だ、誰かカメラ持ってない!? 今すぐの2人のツーショット写真を撮らないとっ!」

 

 黄色い歓声が至る所から上がっていた。

 

 うぅ……今すぐ部屋に籠もりたい……

 

「うーん、これはちょっとまずいなぁ……。別に歓声の内容についてとやかく言うつもりはないんだけど、あんまり騒がれちゃうと青葉が逃げちゃうかもしれないし……」

 

 いや、まず内容が問題なんだって事を理解してくださいよっ!

 

「とりあえず最悪の事態だけは避けたいから、別行動を取った方が良さそうだよね。僕はぐるっと東側からまわってドックに向かうから、先生はこのまま直進してくれるかな?」

 

「ええ……分かりました。それじゃあ、俺はこのままダッシュで青葉を捕まえてきますので」

 

「うん。ちなみに秋雲を見つけた場合も確保って事で宜しくねー」

 

「はい、勿論分かってます。2人をふん縛って、裁きを受けさせないと気が済みませんから」

 

 十手を持って、四文銭を投げまくってやる所存でありますっ!

 

「なんだか言葉のチョイスが気になるんだけど、もしかして先生は時代劇とか好きなのかな?」

 

 呆気にとられたような表情を浮かべる元帥だが、俺の趣味ついて何か言いたいことがあるのだろうか?

 

「そうですね。主に鬼平とか仕事人とか見てましたけど……」

 

 あと、銭形とか。

 

「へー、それは意外だなぁ。いや、僕も結構時代劇が好きでさ」

 

「あっ、そうなんですか? あんまり俺の周りに時代劇が好きな人が居なかったですし……それはちょっと嬉しいですね。

 ちなみに、どんな作品が好きなんですか?」

 

「この作品ってのは無いんだけど、森蘭丸とか出てくる大河ドラマとか良いよねー」

 

 そっちの気ありまくりじゃねえかっ!

 

 しかもタチって言ってたのに、それだったらネコの方だよねっ!?

 

「もちろん変な意味でじゃないよ?」

 

「語尾がすでに怪しすぎるっ!」

 

 もうやだこの人っ!

 

「まぁ、とりあえずこれ以上の騒ぎは避けたいし、そういう事で宜しくね」

 

「わ、分かりました……それじゃあ、俺はこのまま真っすぐドックへ向かいますね」

 

「うん、それじゃあねー」

 

 手を上げる元帥に頷いて、一気にアスファルトを蹴って駆ける。向かう先は青葉のいるドックのある建物。本日2度目の往来に少々嫌気がさしたりするけれど、周りの歓声を消すためにも、ここは踏ん張らないといけないのだ。

 

「きゃっ! あ、あれって噂の先生じゃないっ!?」

 

「本当だっ! でも元帥の姿が一緒じゃ無いけど、どうしてなのっ!?」

 

「もしかして、元帥分が足りなくなって、ああやって走りながら探しているんじゃないのかな!?」

 

 元帥分ってなにっ!?

 

 シュークリーム分みたいなもんなのっ!?

 

 俺の走る姿を発見した艦娘たちが黄色い歓声を上げる。一斉に浴びせられる声に心が折れそうになりながらも、足は動かすのは決して止めない。

 

 いや、むしろ止めてしまったら、もう二度と動かない気がする。

 

 すでに心に重傷を負っているから――って、こんな風に語っても、別にカッコ良くもなんともないんだけど。

 

 とにかく、今は無心で走り続けるしかないっ!

 

 強く念じるように呟いた俺は、周りから聞こえてくる声が聞こえないふりをしながら、無我夢中で走り続けた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 本日2回目となるドックのある建物の前に立った俺は、肩で何度も息をしながら、間違いなく青葉はここに居ますようにと念じつつ、ゆっくりと取っ手に手をかけて全力で引き戸をこじ開けた。

 

「ふぅ……涼しい……な……」

 

 建物の内部には空調が効いていて、走ってきた俺にとっては非常に心地の良い空気を感じる事が出来た。息を整える為に大きく深呼吸をすると、肺の中に冷たい空気が入り込み、スーッと体温が下がっていくような気がする。

 

 よし、休憩終わり。

 

 すぐに青葉が居るであろうドックへと向かわなければ。

 

 疲労が溜まった足を無理矢理動かして、ドックへと続く通路を駆ける。今度は誰かにぶつからないようにという注意は考えず、ただひたすら、スピードを求めた走りで長い通路を駆け抜けた。

 

 T字路に差し掛かった俺は、勢いを殺さぬように体重移動をしながらカーブを描いて、90度の直角コーナーをドリフトをするレーシングカーのように曲がりきる。

 

 ダート以外でのレーシングカーは、基本的にドリフトしない方が速いんだけど、こういう時は雰囲気が大事なのだ。

 

 そもそも、人間であって車じゃないんだけどね。

 

 そんな自問自答のようにノリ突っ込みをかましつつ、今度は角を左に曲がる。俺の目の前には、目的地であるドックの入口が見えていた。

 

 入口の横には入渠している艦娘の名前が書かれたプレートが差し込んである。1回目に来た時と同じように、手前から『長門』『扶桑』『山城』の順に並んでいた。

 

 ……あれから結構時間は経っているはずだけど、やっぱり戦艦の修理には時間がかかるんだなぁ。

 

 バケツを使いたがる提督たちの気持ちが、何となく分かる気がする。

 

 しかし今は、そんな提督たちの気持ちに賛同する余裕もない。俺には青葉と秋雲を問い詰めるという、大事な使命があるのだ。

 

 『山城』が入渠しているドックの隣にある、青葉が掃除がしているはずのプレートの差し込み場所には、1回目に来た時と同じ、『空(掃除中)』と書かれたプレートが入っていた。

 

 よし、これであとは問い詰めるだけだっ!

 

 そう心に強く思った俺の前に、ドックの暖簾をくぐって出てきた青葉が現れた。

 

「あれ、先生じゃないですか。秋雲はもう見つけられたんですか?」

 

 まったく動じる気配もなくそう言った青葉は、微笑んだ顔を俺に向ける。

 

 どうやら青葉は、俺はまだ何も知らない状態で、秋雲を探していると思っているのだろう。

 

 ならばこの状況で俺が取る手は――

 

「それなんだけど……まだ見つけられなくてさ。ちょっと休憩がてらに、青葉の顔が見たくなっちゃってね」

 

「えっ……そ、それはその……青葉は、ちょっと嬉しいかもですっ!」

 

 ぽっ……と頬を赤らめる青葉の肩を両手で掴み、ドックの中へと戻るように優しく押す。

 

「他の艦娘とかに見られたら気まずいし……ドックの方に入ろうよ?」

 

「は、はい、そうですねっ! 青葉もそれが良いと思ってましたっ!」

 

「それじゃあ中で、ゆっくり話そっか」

 

 ニッコリと笑みを浮かべた俺は、青葉の身体を半回転させて、背中をずずいと押していく。

 

 計算通り。

 

 黒いノートを持ってマイクヘッドホンをした男性のように、俺は含み笑いを浮かべていた。

 

 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、この行動が失敗だったのしれないと思う事ができたのは、ずいぶん後になってからだった。

 

 

 

 

 

「そ、それでっ、何を話しましょうか!?」

 

 心ウキウキという感じで、青葉は俺にそう言った。

 

 まったく、騙されているとも知らず、青葉は暢気なものだ――って、これだと俺がもの凄い悪党みたいに感じちゃうけど、背に腹は代えられないからであって、こういう人間だと思われたくはない。

 

 言い訳がましいのは好きではないけれど、時と場合によっては仕方ない。と言うか、そもそも悪いのは青葉なのだから。

 

「そうだね……それじゃあ、この本について聞いて良いかな?」

 

 言って、俺は巻雲の本を懐から取りだした。

 

「……えっ!?」

 

 そう。

 

 元帥にサインを書かせて読ませた後、俺はもしもの時――というよりかは、こうなるんじゃないかと予想して、無断ではあるけれど、巻雲から借りておいたのである。

 

 もちろん、この件が終わったら巻雲に返さないといけないのだけれど、正直なところ、この本はこの世から消滅させたい気分ではある。

 

「そ、それ……その本って……」

 

「うん、青葉が書いた小説だよね。俺が主人公で、元帥が出てきて、ありもしないことをノンフィクションと謳ってある、悪意を沸々と感じてしまう本だよ」

 

「な、なんで……何で先生がそれをっ!?」

 

「そりゃあ、艦娘たちが持っているなら、俺の目に留まらないとも限らないよね。もちろん、元帥もしっかり読んでたから、俺と同じように怒っていると思うよ」

 

 そう言いながら、俺はニッコリと笑って青葉に近づいていく。

 

「ひっ!?」

 

 驚きと恐れを混ぜたような表情を浮かべた青葉は、俺から離れるように後ずさる。

 

 だが、そうは問屋が卸さない。

 

 前回もそうだけど、今回も、絶対に、逃がさない。

 

「ま、まままっ、待ってくださいっ! これには、これには深い事情があるんですっ!」

 

「言い訳は結構。もうそんな言葉を聞く余裕もないと言いたい所なんだけど――」

 

 しかし、元帥はまだ来ていない。

 

 いくら東側から遠回りしてこちらに向かっていたとしても、もう着いてもおかしくない位、時間は経っていると思うのだけれど……

 

「まぁ、問いつめるのは俺だけでも出来るからね。とりあえず話だけは聞いてあげようかな。最後の懺悔――って感じでさ」

 

 もはや悪人以外の何者でもないような台詞にしか聞こえないけれど、雰囲気は大事である。

 

 決してこれが、俺の本性だと思わないように。

 

「ざ、懺悔って……もしかして、青葉、これから……ど、どうなっちゃうんでしょうかっ!?」

 

「さぁ……? それは元帥が決める事じゃないかな? とは言っても、もう写真を盾にしての情状酌量は無理だと思うけどね」

 

 ちなみに情状酌量の使い方は間違っているんだけど、ここでも雰囲気って事で。

 

 同情の余地は皆無だし。

 

「そ、そんなっ! そ、そうですっ! 青葉の事を見逃してください! そうしてくれたら、あ、青葉の、青葉の秘蔵写真の一部……いえっ、すべてを先生と元帥にあげちゃいますっ!」

 

「だから、写真を盾にしても無駄だって」

 

「いえっ、そんな事無いですっ! だって、この写真は、完全に、完璧に、秘蔵中の秘蔵っ! なんと、高雄&愛宕の全裸写真5枚セットなんですよっ!?」

 

「何それ見たい――って言うと思った?」

 

「……え?」

 

「そんな写真、青葉をどうにかした後に頂いたら良いだけの話だよね?」

 

「はうっ!?」

 

「そもそも、写真や本の資料、その他関係する物を全部没収するつもりでここに来たんだよ? だから、写真を盾にしたって意味がないって言ったんだけど」

 

「はううううっ!」

 

「それに、そんな写真を盾にしたって高雄さんや愛宕さんが知ったら……余計に立場が悪くなると思わない?」

 

「は、はわわわわっ!」

 

 その口癖だと電になっちゃうんだけど。

 

 まぁ、電はこんな悪い事はしないけどね。

 

「おっ、お願いです先生っ! 青葉を、青葉を見逃してくださいっ! そうじゃないと、青葉、間違いなく解体されちゃいますっ!」

 

「自業自得だよね――って言いたいところだけど、それはさすがに夢見が悪いかな」

 

「で、ですよねっ! だから、ここは見てない振りをして、青葉をここから脱出……」

 

 最後まで言い終える前に、青葉は驚愕した表情で、餌を欲しがる魚のように、口をパクパクと何度も開けていた。

 

「何をそんなに驚いて……」

 

「それは、私がここにいるから――ではないでしょうか」

 

「……っ!?」

 

 その言葉に驚いて振り向こうとした瞬間、頭に強い衝撃が走り、視界が暗転して、その場に崩れさった。

 




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次回予告

 後ろから聞こえた声。そして気絶してしまった主人公。
まさかの人物が現れて、驚愕の事実を突き付けられる最終話。
だがしかし、それで終わる――訳が無い?


艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その15(完)


 長く続いた番外編も最終話!
 乞うご期待――は、しない方が良いかもです(ぇ


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