艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※出して欲しい艦娘のリクエスト募集を引き続きやってます。
活動報告にて詳細を書いてありますので、是非宜しくお願い致します。


 爆撃しようとする飛龍から何とか逃げ切る事が出来た主人公は、スニーキングである場所へとたどり着く。
巻雲をおぶったまま、扉をノックする主人公。
よく考えてみると、コードEによって提督勢はダウンしていたのではと焦る主人公なのだが……


その11「最凶のふたり」

 それから俺はコソコソと不審者の様な動きで鎮守府内を移動し、なんとか他の艦娘に会う事もなく目的の場所である扉の前にたどり着いた。ちなみに、飛龍から逃げてここに来るまでの間、おぶっている巻雲がまったく気がつかないのはさすがにおかしいのでは――と思っていたのだが、どうやら爆撃の一部が頭部にヒットしていたようで、更なる気絶要素となり、今まで起きなかったという事らしい。

 

 ……いや、笑い事ではすまされないんだけれど。

 

 しかし、巻雲を救う為とか言ってた飛龍の爆撃でダメージを受けるとは、運が無いというかなんというか、可哀想だなと言っても良いだろう。

 

 実際の所、巻雲が起きていたのならば飛龍から逃げる際も大変だったろうし、結果的に気絶していてくれて良かったのかもしれない。

 

 盾としても役立って貰ったみたいだし――って、これじゃあ完全に悪人の思考だ。

 

「ふぅ……」

 

 今までの事を考えながら大きなため息を吐いた俺は、目の前の扉をノックして返事を待つ。

 

 5秒ほど経った。

 

 10秒ほど経った。

 

 返事が返ってこないので、もう一度ノックをしてみたが――やはり、なんの反応も無い。

 

「いない……のか?」

 

 そう呟いた俺は、何故この場所にあの人が居ないのかを考えながら頭を捻る。

 

 普段であれば、艦娘の指揮の為にこの場所に居ることは間違いないのだが――って、そもそもそれが間違いじゃないかっ!?

 

 コードEによって、提督のほとんどが心に多大なダメージを受けたというのは高雄との会話で聞いていたはずなのに、今まで完全に忘れていたっ!

 

 じゃあ結局の所、この鎮守府において俺を助けてくれそうな人はいないって事になるんじゃ――

 

「あれ、先生じゃないか。どうしたの、こんなところで?」

 

「……えっ!?」

 

 後ろから聞こえた声に振り向くと、少し顔色の悪い真っ白な軍服で身を固めた青年――元帥の姿があった。

 

「げ、元帥っ!」

 

「やっほー、先生。なんだかお疲れみたいだけど――って、なんで巻雲ちゃんをおんぶしてるの?」

 

「あっ、これには理由があるんですけど……」

 

「んー、まぁ立ち話もなんだから、とりあえず中に入ってよ」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 飛龍に追われていた立場である以上、通路の真ん中で立っているのは心臓に悪いし、元帥の提案は非常に助かる。

 

 扉を開けて先に中に入った元帥に続いて、俺は巻雲をおんぶしながら司令室に初めて入る事となった。

 

 

 

 

「まぁ、とりあえずそこに座ってよ」

 

 元帥は自分の定位置である椅子に座り、ソファーを指さした。俺は「ありがとうございます」と頭を下げ、3人掛けの革張りソファーの端に巻雲の身体を寝かせてから隣に座り、元帥の方を見る。

 

 表情はいつも通りだが、若干顔色が優れないのはコードEによる影響だろう。

 

「まずは、お疲れさんってところかな。先生が白い猫を見つけてくれたおかげでコードEは終息したし、被害は――まぁ、小さくはなかったけど、最悪の事態は避けられたよ」

 

「あ、いえ……今回のことはたまたまと言うか、龍田のおかげと言うか……」

 

「いやいや、先生のしてくれた事は高雄に全部聞いたけど本当に助かったよ。幼稚園の中を調べる優先順位はかなり低かったから、先生が動いてくれてなかったら、確実に被害はもっと大きくなっていたんだ。本当にありがとうね」

 

 そう言って頭を下げる元帥に、俺は「いえ……そんな……」と気の聞いた事も言えずに、頭を下げ返した。

 

 うーん、どうにもこの堅い雰囲気は苦手なんだよなぁ。

 

 提督を目指していた身とは言え、情けないったらありゃしない。

 

「……で、先生の用件はいったい何かな? やっぱり背負ってた巻雲ちゃんにも関係してるんだよね?」

 

「あっ、はい、そうなんです。実は巻雲からとんでもない事を聞かされたんで、元帥に相談しようと思ったんですけど……」

 

 そう言って、俺は巻雲を見た。すやすやと気持ちよさそうにソファーの上で眠っているのが、何故か憎たらしく思えてしまう。

 

 本は巻雲が持っているし、勝手に取り出すのも気が引けるのだが。

 

 ――というか、持っている場所が場所だけに、さすがに手を入れる=逮捕になりかねないし。

 

「ふむ……その巻雲ちゃんは、おねむ状態かー。無理矢理起こすのはなんだか可哀想だよね」

 

「ええ。ただ、ちょっと気になるのは、先ほど頭に衝撃を受けてしまったみたいで……」

 

「……え、それってさっきの大きな音?」

 

「は、はい。ちょっと色々あって、飛龍に爆撃されちゃいまして……」

 

「………………」

 

 マジかっ! ――って感じで大きく目を見開いた元帥が俺の顔を見ていた。

 

 べ、別に飛龍を口説いたとかそう言うのじゃないんだけど、もしかして今から俺怒られちゃったりするのかっ!?

 

「せ、先生……」

 

「は、はいっ! すみませんっ!」

 

 とりあえず先手を打とうと、俺はソファーから立ち上がって90度の直角お辞儀で頭を下げた。

 

「い、いやいや、別に謝らなくても良いんだけど……」

 

「……え、そうなのですか?」

 

「ま、まぁ、理由はともかく、鎮守府内で爆撃を行った飛龍が悪いんだけど、まさか爆撃されて無傷でいるって……すごいんだね、先生って」

 

「い、いえいえ! 偶然逃げ切れたようなものなんですよっ! それに巻雲を背負っていなかったら、どうなっていたか分からないですし……」

 

 巻雲の身体が盾になってくれたおかげだしね。

 

 もちろん、わざとやったわけではないんだけれど。

 

「しかしそうなると、巻雲ちゃんは大丈夫なのかな? 頭に爆撃を食らったって、少し心配になるんだけど……」

 

「い、息はしてたんですけど……頭ですもんね……」

 

 俺と元帥は冷や汗をかきながら、巻雲の前に移動し様子を見る。先ほどと同じように気持ちよさそうに寝息をたてて、ソファーで眠っている。

 

 心配になった俺と元帥は様子を窺う為に近づこうとしたのだが、急に巻雲がお札を額に貼って飛び跳ねる死体のように上半身を起き上がらせて、大きく口を開いた。

 

「へあっ!?」

 

「「うわっ!?」」

 

「巻雲のセンサーがビビビッ!って感じましたっ!」

 

「「お……おぅ……」」

 

「って、そこにいるのは元帥と先生っ!? 最高最強最大級のベストカップル揃い踏みですぅっ!」

 

「……は?」

 

 驚いた表情で固まる元帥の横で、俺は大きなため息を吐く。

 

「先生が言ってくれた通り、巻雲の本にサインを書いて貰えるんですねっ!」

 

「……はぁ?」

 

「是非、先生のサインの横に宜しくお願いしますっ!」

 

「……はぁ」

 

 巻雲に本とペンを渡された元帥は、もの凄く不安そうな表情を浮かべて俺の顔を見たので、こくりと頷いて返す。

 

「ま、まぁ……良いけどさ……」

 

 キュッキュッ……と元帥が本の表紙をめくってサインを書く。

 

「元帥、サインが書けたら本文を読んでみて下さい」

 

「……え?」

 

「ただし、それ相応の気構えはしておいて下さい」

 

「……な、なんだか嫌な予感がするんだけど?」

 

「はい。間違いなくその予感はあってます。ですが、ここで目を背けたら近い将来絶対後悔しますから」

 

「そ、そうなんだ……わ、分かったよ……」

 

 本に向き直った元帥はペンを再び動かしてサインを書き終えた。キャップを閉じてペンを巻雲に返し、不安な表情を浮かべたままパラパラとページをめくっていく。

 

 巻雲はそんな元帥の顔を見て、恍惚とした表情を浮かべている。

 

 ううむ……またさっきと同じような事にならないと良いんだけどなぁ。

 

「……小説なんだね。作者は……えっと、青葉……か」

 

 元帥の不安な表情が更に一層深まった気がする。

 

「なになに……この鎮守府内での出来事で……あれ、この主人公って先生っぽいよね」

 

「ええ……そうみたいです……」

 

「へぇー、そうなんだーって、青葉ならやりそうだよね。でも、せっかく僕という良い素材がいるんだから、一緒に出してくれれば良いのに」

 

 自分の事を良い素材って言う段階でダメだと思うのだけれど、突っ込む気力もないのでスルーしておこう。

 

「って、何これ。僕もちゃっかり出てくるじゃんー。さっすが青葉、見る目があるねー」

 

「……その余裕も、そこまでですよ」

 

「ん、何か言った、先生?」

 

「いえ、それよりも続きをどうぞ。もちろん、心構えをしっかりとした上でお願いします」

 

「うーん、心構えと言っても、別に青葉の作り……話なんだ……か……ら……?」

 

 言葉の詰まり具合と一緒にどんどんと青ざめていく元帥が、ワナワナと震えて本を持ち、額とページが触れそうなくらいに近づいて凝視していた。

 

「な……なっ、なんなんだこれはっ!?」

 

「青葉の書いた、『ノンフィクション』だそうです」

 

「はあぁぁぁぁっ!?」

 

「もちろん、こんな事実は一切ありません」

 

「あたりまえだよっ! こ、こ、こんなことっ、あったら大問題じゃないかっ!」

 

「はい、元帥の言う通りです。これは紛れもない『青葉のねつ造』です」

 

「へあぁぁっ!? おふたりが否定したら、巻雲はどうしたらいいんでしょうかっ!?」

 

 いや、別にどうもしなくて良い。

 

 ただ、この本は作り話であって、青葉の悪意によって書かれた本だったと理解してくれれば良い事なんだから。

 

「む、むううううぅっ! これは……これは許せないっ! 事実ではないことを書くなんて……っ!」

 

 よし、これで俺にとって最強の仲間が出来た――と思っていたのだが、

 

「俺はネコじゃなくてタチなんだぞっ!」

 

「おいこらちょっと待てっ!」

 

 攻めとか受けとかそっちの方面かよっ!

 

「いやまぁ、嘘なんだけどさ」

 

「心臓に悪いわっ!」

 

「ちょっとしたジョークじゃない。先生ったらユーモアセンスを持たなきゃダメだよ?」

 

「時と場合を考えてから言って下さいっ!」

 

 時間と場所も、わきまえようねっ! 全国の提督さん!

 

「うーん、しかしこれは……正直困るよね」

 

 全然困っているように見えないんですけどねっ!

 

「僕って可愛い女の子しか興味ないんだけどなぁ。けど最近、赤城や加賀、蒼龍や飛龍と、あんまりデートできてないんだよねー。やっぱり翔鶴と瑞鶴に手を出したのがダメだったのかなあ。この前も喧嘩させちゃったし、その後高雄に思いっきり怒られちゃったし……」

 

 その辺のことは、人の噂も七十五日を読めば分かると思う(宣伝)

 

 つーか、絶対元帥懲りてないよね。

 

「まぁ、とりあえず、青葉本人に聞いてみないと分かんないよね。なんでこんな本を書いたんだって」

 

「ええ。おおよその予想はついてますけど、問いつめない事には先に進めません」

 

「だね。それじゃあ、青葉のところに行きますか」

 

「はい」

 

 こくりと頷いた俺は、くるりと180度方向回転をして扉へ向かおうとすると、巻雲が泣きそうな表情を浮かべて立っていた。

 

「あ、あの……巻雲は……どうしたらいいですか……?」

 

 本に書かれていた内容を信じきっていた巻雲にとって、真実受け入れるには少々酷だったのだろう。眼に涙をいっぱい溜めて、俺と元帥の顔を交互に見つめている。

 

「巻雲ちゃん。この本に書かれてる内容は紛れもなく作り話だったんだけど」

 

「うぅ……」

 

「でもね、巻雲ちゃんは俺や先生のことが好きでしょうがなかったんだよね?」

 

「……え?」

 

「だから、この本を読んで心酔しちゃったんだ。そこで、俺からちょっとだけプレゼントをあげよう」

 

「え……えっ!?」

 

 そう言って、元帥は中腰になって巻雲の身体をギュッと抱きしめた。

 

 ……ロリコンの図にしか見えないんだけど。

 

「ひゃ、ひゃあぁぁぅ……」

 

「ごめんね、俺たちのせいで勘違いさせちゃって」

 

 いや、俺まで巻き込まないでくださいと言いたいけど、どっちにしても手遅れか。

 

「こんなんじゃお詫びにはならないかもしれないけど、僕の気持ちだから」

 

 そう言って、元帥は巻雲のおでこに口づけをした。

 

「へあぁぁ……ま、巻雲には……夕雲姉ぇ……さんが……」

 

「うん、それでもね。僕の気持ちは伝えなきゃ……さ」

 

「はぅぅぅぅ……」

 

 真っ赤に頬を染めた巻雲が恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

「それじゃあ、僕たちはちょっと青葉に用事があるから」

 

「は……はい……」

 

「もし、また僕に会いたくなったら、これに連絡して――ね」

 

 元帥はそう言って巻雲に紙切れを渡した。

 

 ……これで、巻雲は落ちちゃったんだろうなぁ。

 

 本当に、この鎮守府を元帥に任せて大丈夫なんだろうか。

 

 来年あたり、寿退社する艦娘が一斉に出てこないかと心配になってくるぞ……

 

 まぁ、そんなことになったら、この間のバトル以上の惨劇がはじまるんだろうけどさ。

 

「それじゃあ先生、そろそろ行こうか」

 

「あ……はい。それじゃあ、その……巻雲はドックに行った方が良いよ、頭の辺りに衝撃受けたみたいだから、大事になっちゃったら危ないし」

 

「えっ、あ、はい。ありがとう……ございます……」

 

 頬を染めたまま、驚いた表情を浮かべて返事をする巻雲。

 

 そして何故か、同じように驚きの表情を浮かべる元帥。

 

 なんで元帥まで一緒なんだろう。

 

 まぁ、いいけど。元帥だし。

 

「それじゃあね」と言って、司令室から出ようとする俺に続いて、元帥も外へと出る。

 

「ひゃあぁぁ……もしかして、巻雲……おふたりから惚れられちゃってますっ!?」

 

 そんな、勘違いをした巻雲の声がうっすらと聞こえたような気がした。

 

 ……これってまた、変な噂になったり……しないよね?




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次回予告

 巻雲を勘違いさせてしまったかもしれない主人公。
提督がちょっぴりねたみながら変な冗談を言ったせいで、更に事態は悪化して……


艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その12


 もう少し続きます!
 乞うご期待っ!


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