活動報告にて詳細を書いてありますので、是非宜しくお願い致します。
千代田から秋雲の情報を聞いた主人公。
その情報から恐ろしい考えを浮かんだ時、主人公に声が掛けられる。
目の前に現れた艦娘から、更に嫌な予感を感じる主人公なのだが……
食堂の扉を閉めた俺は、大きなため息を吐いて空を見上げていた。
「私が本を手に入れることが出来たのは、仕入れで町に出ていた時に、たまたま印刷所から帰る秋雲に偶然出会ったからなんです。いきなり含み笑いを浮かべてから、新刊が出来たから是非読んでねって渡してくれたんですよ」
千代田から聞いた話により、秋雲の居場所が全く分からなくなってしまった。とはいえ、一番初めに食堂に来たのは正解だったと言える。もし、ここ以外の場所で秋雲を探していたのならば、印刷所に行っている秋雲が鎮守府内にいるはずもなく、ただひたすら居ない場所を探し続けていたのかもしれない。それに、なによりの成果は、
「フライングに近い状態で手に入れられた新刊だったのに……本当に残念です……」
あれほどやばい内容の本を、中身を見られたとはいえ廃棄することが出来たのは不幸中の幸いである。
……本当に、マジで危機一髪って感じだった。
ちなみに何度も残念がっていた千代田に、軽いジャブと言う名の説得をして納得させた俺は、ホッと胸をなでおろしていたと言う訳である。
とは言え、肝心の秋雲の居場所は分からずじまい。本の回収も済んでいない俺にとって、安息が出来る状態では全くなく、次はどこを探すべきかと頭を痛めてしまう状況であった。
青葉から聞いた情報だと、残っているのは鎮守府内にある宿舎の秋雲の自室か、間宮の甘味所なのだが……
会ったことがない秋雲の考えが俺に分かるはずもなく、行動を先読みすることはかなり難しいだろう。食堂に至っても、ただ単に近い場所から当たってみようと思っただけであり、それが最善の結果だったとしても、偶然以外のナニモノでもないのだ。
となると、次に向かうべき場所はどこにするかだよなぁ……
って、ちょっと待てよ?
今思いついたけど、千代田が言っていた内容に不審な点がなかったか?
「私が本を手に入れることが出来たのは、仕入れで町に出ていた時に、たまたま印刷所から帰る秋雲に偶然出会ったからなんです。いきなり含み笑いを浮かべてから、新刊が出来たから是非読んでねって渡してくれたんですよ」
食堂で使う材料などを仕入れに出かけたのは問題ないだろう。たまたま秋雲に出会ったというのも、偶然ならば納得できなくはない。
「フライングに近い状態で手に入れられた新刊だったのに……本当に残念です……」
『フライング』に『新刊』と言う2つの言葉。
つまり、これは――
前々から新刊が完成することを知っていて、近々配布される予定だったということではないだろうか。
だとすれば、偶然出会ったとは言え、千代田は秋雲から本を買う、もしくは貰う予定だったと考えられる。
――ん?
いや、ちょっと待て。
この会話よりもっと前にも、おかしな点があるよな?
確か、破かれた本を見て、千代田が地面に伏せて礼拝をしている際に、
「だってぇ……折角の本がぁ……」
「でもぉ……手に入れるの、大変だったんですよぉ……」
『手に入れるの、大変だったんですよ』
そう。
偶然なんかじゃ――無い。
千代田は自ら秋雲と出会い、本をゲットしたという事だ。
それが、たまたま思わぬところで出会ったというのならば、偶然という言葉は間違っていない。
――って、それだとまたおかしな点が出てこないか?
秋雲の新刊がまだ出回っていないと仮定すれば、
何故、俺の写真の注文が急に増えたのだろう。
すでに新刊は出回っているという事か?
それなら、手に入れる事が大変という言葉が矛盾する。
うーむ、何やらこんがらがってきたぞ……
謎は深まるばかりで一向に出口は見えてこず、俺は何度目か分からない深いため息を空に向かって吐いた。
本を破り捨てたのは失敗だったのかもしれない。もしかすると、何かしらの情報が得られたかもしれないのだから。
だけど、あのような内容の本を最後まで読む気力と勇気は俺には持ち合わせていないし、仮に読み終えたとしたら、完全に燃え尽きたボクサーのように真っ白になって、壁の隅っこでガタガタ震えているのが関の山ではないだろうかと思う。
「あ……あの……」
「……ん?」
「あなたは……幼稚園の先生ですよね?」
「え、あ、はい。そうですけど……」
そう呼びかけられた俺は、声のする方へと振り返りながら返事をする。
「あ、あのあのっ! お、お願いがっ、あるんですっ!」
「お願い?」
「せ、先生の……サインを下さいっ!」
そう言って深々とお辞儀をしたのは、大きな楕円の眼鏡をかけて、だぼついた上着の袖をぶらつかせた小さな艦娘の姿だった。
「……さ、サインっ!?」
「はいっ、先生のサインが是非欲しいのですっ!」
「いや、なんで俺のサインなんか欲しがるの? 俺って全然有名人でも何でもないよね?」
「そんなことないですっ! 先生は今や、艦娘の中で上位にランキングされる有名人なんですよっ!」
「えっ、それってどういうこと……?」
思いもよらない言葉に普段ならにやけてしまいそうになるのだろうが、俺が今置かれている状況を考えると、嫌な予感がしてならない。
「今まで、鎮守府内の男性人気ランキングは元帥がずーっと1位を独占してたんですけどっ、ここ最近、先生の人気が鰻登りに急上昇っ! 1位の元帥を追い抜かんとする勢いに、巻雲も目が離せませんっ!」
「は……はぁ……」
巻雲と自らを呼んだ艦娘は、瞳をキラキラとさせながら続けて言う。
「もちろん、巻雲は夕雲姉さん一筋――だったのですけど、あの本を読んでからは雷に打たれたような衝撃が走っちゃったのですっ! あっ、もちろん雷っていっても、幼稚園にいる雷ちゃんじゃなくて、空から落ちてくる雷のことですよっ!」
聞いているだけで非常に分かりにくい気がするんだけれど、漢字が同じだけに仕方がない。
って、何で俺が説明しているんだろう……
「こうなったら、是非にでも先生のサインが欲しいって思った巻雲なんですけど、たまたまここを通りかかったら先生を偶然見かけたんですっ! まさにこれは天恵――って感じで、勇気を振り絞って話しかけたんですよっ!」
元気ハツラツ――といった感じで喋る巻雲に少々圧倒される俺。
「と言うことで、先生のサインをお願いしますっ!」
「ま、まぁ……別に良いけど……」
サインと言われても、練習なんかしたことないから普通に名前を書くしか出来ないが、それでも良いのだろうか。
しかし、それよりも巻雲が言った、本という言葉が気にかかる。
つまりそれは、例の秋雲の新刊なのではないだろうか。
そう思った俺はサインを了承し、隙あらば見せてもらおうと思ったのだ。
「それじゃあ、何か書くものと……色紙とかある?」
「………………」
俺の言葉に、巻雲は目を点にして立ち尽くしている。
「……えっと、俺なんか変なこと言った?」
ぶかぶかの両袖が、風に揺られてたなびいていた。
「へあぁぁぁっ! 巻雲、色紙のこと忘れてましたっ!」
「……あー、そう言うことね」
「ど、どどどっ、どうしましょう! これじゃあ、先生のサインが貰えませんっ!」
涙を潤ませながら大きな声を上げる巻雲は、あたふたと身体中を探るように両手をばたつかせた。
「なっ、何か色紙の代わりになる物は……あっ、そう言えばこれがありましたっ!」
そう言いながら、懐から長方形の物体を取り出す。
「そうですっ! これにサインを貰えれば、まさに一石二鳥じゃないですかっ! 先生っ、是非この本に直筆のサインをお願いしますっ!」
「え、あっ……うん、良いけどさ……」
テンションが上がりまくってるなぁ。
有名人に出会ったファンってこんな心境なんだろうけど、俺は別に有名人って自覚しているわけじゃないから、どうにも背中がこそばゆい気がするんだけど……
しかし、本と聞いてもしやとは思ったけれど、どうやら秋雲の新刊ではなかったようだ。
まぁ、そんなに簡単に事が進む訳は無いだろうし、サインを終えてから聞いてみる事にしよう。
「それじゃあ、このペンでお願いしますっ!」
併せてポケットから取り出したマジックペンと一緒に差し出され、俺は少し肩をすくめながらそれを受け取る。
そこで、ふと渡された物体に目を落とした。
ハードカバーのしっかりとした作りの本で、サイズは新書サイズの小説のようだ。表紙に書かれているタイトルは『白と黒』と、明朝体で書かれていた。
「えっと、サインはどこに書けばいいかな?」
「それじゃあ、表紙をめくったところにお願いできますかっ!」
「ん、了解。それじゃ――まぁ、普通に名前を書くだけだけど」
俺はマジックペンのキャップを外し、表紙をめくる。何も書かれていない大きなスペースに、キュッキュ……とリズムよく自分の名前を書いてキャップを閉めた。
ん……?
次のページに書かれている文章が、透けてうっすらと俺の眼に入った。横文字でタイトルの『黒と白』、そしてその下には……
「青葉……?」
「あっ、はい。その本を書いたのは青葉さんで、挿し絵は秋雲が描いてるんですよー」
そう言って、にっこりと笑う巻雲。
だが俺は、完全に笑えない何かを感じ取っている。
この本は……マジヤバい気がする……
いや、マジパナイ気がする。
「………………」
ごくりと飲み込んだ唾の音で更に緊張したが、俺は恐る恐るページをめくっていった。
※出して欲しい艦娘のリクエスト募集を引き続きやってます。
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次回予告
巻雲から受け取った本の中身はとんでもないものだった!
予想通りの展開!? いや、相手が悪すぎる!
しかも最後の文章にマジ切れ状態!
艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その9
まだまだ続きます!
乞うご期待っ!
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