そこで千歳に秋雲の事を聞こうとする主人公。
息を切らすその姿に千歳はお茶を差し出した。
はたして秋雲はここにいるのか、いないのか?
もしくは新たな情報が?
いったいどうなる主人公!?
青葉と別れてドックから出た俺は、教えてもらった場所と頭の中の地図を比べ、まずはここから一番近い鳳翔さんの食道へと向う。その途中、建物から出るまでに何人かの艦娘とすれ違ったのだが、俺の顔を見た瞬間、眼をキラキラさせたり、頬を急に真っ赤に染めて視線をそらされた。
これって、本格的にまずいんじゃないだろうか。
完全に、勘違いされちゃってるよね……
焦った俺は駆け足で建物から逃げるように脱出し、全速力で目的地へと向かう。
約10分ほど走った俺は、食堂の前にやってきた。
「はぁ……はぁ……」
息を切らせた俺は、膝に手をつけ、大きく肩で何度も呼吸を繰り返す。焦りで自身のペースを乱してしまい、体力を無視した速度で走ってしまったので、自業自得と言えばその通りなのだが。
まぁ、そんな事を言っている暇もない。
事は一刻を争うのだ(――と思うのだけれど)
呼吸を整え終えた俺は、大きく深呼吸をしてから鳳翔さんの食道の引き戸をガラガラと開けて建物の中に入ったが、夕食の時間にはまだ早いのか食事を取っている人は誰1人としていなかった。
「あら、先生。いつもより大分早いですけど、今日は夜勤でもあるんですか?」
「あ、どうも千歳さん。夕食を食べにきたんじゃないんですけど……秋雲っていますか?」
「秋雲ですか? そう言えば今日は見てないですね」
「そう――ですか、ありがとうございます」
「いえいえ――って先生、なんだか神妙な顔つきですけど、一体何かあったんですか?」
千歳に言われた俺は、ハッと驚いて近くにあった壁掛け鏡を覗き込む。汗だくにまみれた額に、走って疲れているだけとは到底言えないような焦りと困惑する表情が一瞬でも分かるくらいに見て取れた。
「あ……いえ、ちょっと厄介な事があったんですよ。それで、とある艦娘から、秋雲に聞いてみれば分かるかもしれないと言われてものですから……その、ちょっと焦って走ってきちゃって……はは……ははは……」
「あら……大丈夫ですか? ちょっと待ってて下さいね。今、冷たい物を持ってきてあげますから」
「あ、どうも……すみません……」
にっこりと笑みを浮かべた千歳は厨房へと下がって行く。すぐに俺は鏡を見ながらポケットに入れていたハンカチで額を拭き、汗を落としながら強張った表情を崩した。
「お待たせしました、先生。まだ時間が早いので、泡の出る麦茶とはいきませんけどね」
「いえいえ、本当にありがとうございます」
俺はお礼を言って、千歳が持ってきてくれた麦茶を受け取り、勢いよくごくごくと飲みだした。キンキンに冷えた麦茶が喉を通っていく度に頭がキーンと痛むけれど、それ以上に美味し過ぎる喉越しで飲む事を止めることは出来ず一気に飲み干した。
「ぷっ――はぁっ! くうーーーーっ、美味過ぎるっ!」
「あらあら、本当に喉が渇いてたんですね。もし良かったら、もう一杯持ってきましょうか?」
「あっ、それじゃあ――お願いできますか?」
「はい、ちょっと待ってて下さいねー」
飲み終えたコップを千歳に渡すと、もう一度厨房へと下がっていった。
冷たく冷えた麦茶と、冷房の効いた室内のおかげで俺の身体は少し火照りから冷め、噴き出す汗が少しずつ引くように落ち着きを見せた。
「はい、お待たせしました。今度は少し、ゆっくり飲んでくださいね」
そう言って、千歳は俺にコップを差し出してくれた。俺はお礼を言って受け取ると、先ほどとは少し違う手のひらの感触に少し戸惑いつつも、ゆっくりと口をつける。
「んぐ……んぐ……ぷはーっ、美味いっ!」
「ふふ……先生の飲みっぷり、ちょっと惚れ惚れしちゃうかもですね」
「えっ!?」
「まぁ、麦茶ってところが先生らしいですけど」
「あっ! そ、それって……からかわれてますよねっ?」
「さぁ、どうでしょうか……ふふ……っ」
意味ありげな表情で微笑む千歳に、俺はちょっぴりドギマギしつつコップの中を飲み干した。飲み終えてからハッキリと分かったのだが、どうやら一杯目の麦茶よりも冷たさが幾分か弱いように感じのは、どうやら氷の量が少なかったらしい。多分、汗だくの俺を見た千歳が気を利かせて、1杯目は身体を冷やす為に冷たくし、2杯目は麦茶を味わうべく飲みやすい温度にしてくれたのだろう。
有名な戦国武将の逸話を聞いたことがあるが、まさかそれを体験できるとは思ってもいなかった。
さすがは鳳翔さんに一目置かれていると噂されているだけはあるなぁ。
「ふぅ……ごちそうさまでした。本当にありがとうございますね、千歳さん」
「いえいえ、お粗末さまでした」
そう言って千歳は俺からコップを受け取ると、少し考え込むような表情を浮かべる。
「それで、先生は秋雲を探しているんですよね?」
「えっ、あ……はい。青葉から聞いた情報なんですけど、こちらで食事を取る事が多いらしいけど、時間はバラバラだから、いつ居るかは分からないって言ってました」
「確かにその通りですね。任務に出てる日は他の艦娘達と一緒に来ることが多いですけど、非番の日は混み出す時間帯以外によく来てますよ。でも、今日は朝から一度も見ていないから……」
「えっ、一度も来てないんですか!?」
「ええ。朝から今まで一度も来てないですね。たまに丸1日来ない時もありますから、多分別の所で食事を取っているんじゃないでしょうか?」
少し苦笑を浮かべながら千歳はそう言った。
その言葉を聞いた俺の脳裏に嫌な感じがして、ごくりと唾を飲み込んだ。もしかすると、例の同人誌とやらに感づいた俺から身を隠すべく、雲隠れの如くどこかに隠れているのかもしれない。そうなると、探し出すのはかなり困難になってしまう可能性があるのだが――
「千歳姉ぇ、たっだいまー」
厨房の方から元気の良い声が聞こえてくると、千歳は俺の方を向いたまま、返事をした。
「お帰りなさい、千代田。少し予定より時間がかかったみたいだけど、仕入れで何か、問題でもあったの?」
「えっ、あ、ううん。別に対した問題はなかったんだけど、ちょっと良い物を見つけちゃってさー。千歳姉ぇにも、是非見て欲しいんだよねー」
声の主はそう言いながら、厨房の間切りにある暖簾を手で上げて、俺の方を見る。
「……え?」
「あ、どうも、千代田さん」
「えええええっ!?」
「こら、千代田。どうして先生の顔を見て、そんなに大きな声を出すの? 失礼じゃない」
「だ、だだだっ、だって、何で先生がここに居るのっ!?」
「ここは食堂なんだから、先生が来るのはあたりまえじゃない」
「で、でもでも、まだ時間も早いし、いつもの夕食時刻じゃないしっ!」
「別に、いつもの時間に来なきゃいけない理由なんて無いわよね。なのに、どうしてそんなに驚いているのかしら、千代田は」
「そ、それは……その……」
千代田は言葉を濁しながら、ほんのりと頬を染め、何かを隠すように手を背中に隠れるように後ろに向けて、厨房の方へと後ずさった。
ドックの建物で会った蒼龍と同じような驚き方に、俺は一抹の不安を感じながらも、千代田に問おうと口を開こうとしたのだが、
「何を騒いでいるのかしら?」
厨房の奥にある階段で2階から降りてきた鳳翔が、少し不満げな表情で千代田の後ろに立っていた。
「え、あっ、ほ、鳳翔さん……こ、これは……えっと……」
慌てふためく千代田は振り向いて、鳳翔から何かを隠すように手に持っている物を背中に隠す。だが、後ろを向いたと言うことは、俺や千歳に背を向ける訳であり、そこに隠そうとしたのならば、それはもう簡単に見えてしまう訳で……
「あら、千代田の手に持っているそれ……何かしら?」
「あっ、こ、これは、な、何でもないのっ!」
慌てて今度はこちらに振り返る千代田。
「何でもないって言いながら、隠すところが怪しいわよね」
「べ、べべっ、別に怪しくなんか、ぜ、全然っ、全然無いんだからっ!」
言動がすでに怪しさ満開。大爆発である。
「いいから、ちょっとそれを見せてみなさいよ。さっき、私に見て欲しいって言ってたじゃない」
「そ、そうなんだけどっ! で、でもでも、今はちょっと……ダメって言うか……危ないって言うか……っ!」
「危ない……?」
ぼそりと呟く俺の額に、たらりと一筋の汗が流れ落ちる。
嫌な予感が、ムンムンと漂ってくるようだ。
「千代田、あなたも良い歳なんだから、そんな子どもみたいにゴネないで、ちゃんと言うことを聞きなさいっ!」
「い、いくら千歳姉ぇの頼みでも……今はダメなのぉっ!」
「じゃあ、私だったら良いのかしら?」
「へあっ!?」
千歳の迫力に後ずさっていた千代田だが、今度は鳳翔の方ががら空きだったようで、手に隠し持っていた物を簡単に取り上げられてしまった。
「だ、だだだ、ダメだって、鳳翔さん!」
「いったい何がダメなのかしら?」
そう言いながら千代田から奪った物へと視線を落とすと、鳳翔は少し眼を大きく開いて、驚いたような表情を浮かべた。
次回予告
焦る千代田に驚く鳳翔。
その手に持ったものは、予想通りのアレだった!
艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その7
乞うご期待っ!
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