艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

381 / 382
間があき過ぎたのでリハビリです。

まだまだ忙しかったり体の不調があったりで更新するのが難しいですが、なんとか生きております。

なお、本当にリハビリなのでいつもと文章が違うばかりか、艦娘の出番も少ないです……はい。ごめんなさい。


〜番外編〜
番外編「背後の音」


 

 チャリンと後ろから音が鳴る。

 

 それはとても小さく、耳を澄ませなければ分からないくらいだ。

 

 音は1度鳴るとしばらく間が開く。

 

 そして忘れた頃に、また背後からチャリン……。

 

 気にしないでおこうとすると、ふとした拍子に聞こえてくる。

 

 それがもう、数日ほど続いているのだ。

 

 

 

 

 

 初めて音を聞いたのはいつの頃だっただろうか。

 

 思い返してみたけれど、ハッキリと出てこない。

 

 しかし、何かを考えていることで音が聞こえなくなるのならば……と、無理やり頭を動かしてく。

 

 

 

 唐突だけれど、僕にはガールフレンドが複数人いる。

 

 まぁ、深い付き合いがあるとかそういうのではなく、あくまで仲が良い友人みたいなものだ。

 

 もちろん立場上、彼女らは僕の部下になるわけだし、有効な関係を築くのは色々な意味で必要なことなのだ。

 

 確か数日前といえばガールフレンドの1人と一緒に、鎮守府の外に出かけて夕食に出かけたはず。

 

 もちろんご飯だけじゃなく、ちょっとしたショッピングに喫茶店でコーヒーを飲みつつ軽い談笑などもした。

 

 仕事やプライベート。様々なことを他愛なく話し合い、良い時間だったと思う。

 

 夕食の時間が近づき、僕は予約していた店へ車で向かった。

 

 到着し、お願いしていた個室に入る。プライベートとはいえ何が起こるか分からないので、密室された空間というのは便利なものだ。

 

 次々と運ばれてくる料理とお酒に舌鼓を打ち、向かい合った彼女と僕は上機嫌になっていく。

 

 ときおり話を挟み、そしてお酒を飲む。料理を食す。

 

 どれだけ楽しい時間だったろうか。

 

 どれだけ幸せな時間だったろうか。

 

 この時のことはすぐに思い出せる。

 

 おそらく、酔っていなかったからだろう。

 

 しかしまぁ。若気の至りというかなんというか。

 

 この後なにがあったのか、あまり……覚えていないのだ。

 

 

 

 次の日の朝。

 

 僕はいつもどおり仕事に精を出す。

 

 とはいっても基本的に指示を出すだけで、後は秘書艦が全てやってくれる。

 

 僕の仕事は現状からどうするべきかを考えて指示を出し、その結果を聞いたり、たまに秘書艦のお尻をタッチしたりだ。

 

 まぁ、その後思いっきり殴られたりしちゃうけれど、アメとムチだと思えば良いだけのこと。

 

 そうしていつもどおりの日常は過ぎ、仕事を終えてプライベートな時間を過ごす。

 

 たまには秘書艦と一緒に鳳翔さんの食堂へと思ったが、体よく断られてしまった。

 

 まぁ仕方ない。どうやらお尻へのタッチがしつこかったのだろう。

 

 僕は机の上にあるリストの中から一緒に食事へ行けるガールフレンドを探し出そうとしたところで、小さな物音に気づいた。

 

 

 

 チャリン……。

 

 

 

 それはとても小さな音。

 

 部屋に僕以外は誰もおらず、他に聞こえてくる音もない。壁時計は小刻みに秒針が動くタイプだから、カチカチ鳴ったりしないのだ。

 

 だからこそ聞こえたのか。それとも、たまたま耳に入ったのか。

 

 ああ、そうだ。初めて聞こえたのはこの時だ。

 

 ……いや、初めて気づいたというべきかもしれない。

 

 ともあれ、小さな音に気づいた僕は、ハッと後ろへ振り返る。

 

 しかしそこには誰もいない。

 

 床を見ても、なにも見つからない。

 

 ただの気のせいだ。そう……その時は思っていた。

 

 そして僕はリストに目を落とし、スマートフォンで連絡を取る。

 

 

 

 しかしまぁ、運が悪い時は重なるもので。

 

 時間が空いているであろうと思ったガールフレンドたちは、僕の誘いに頷いてくれなかった。

 

 どうやらすでに予定が入っていたそうなんだけれど、申し訳なさそうな声を聞いちゃうと僕も無理に押し通すのも辛い。

 

 だから仕方なく、1人でぶらっと車で出かけてみようかなと思って駐車場に向かったのだけれど……、

 

 なぜか僕の駐車スペースに車がなかった。

 

 赤く、そこそこ高価なスポーツカー。

 

 トランクに荷物も載せられる、結構便利なやつなんだけど。

 

 どうして無いのか思い出せない。

 

 色々と考えてみると、ふとあることに気がついた。

 

 そういえば、車検が近かったような気がする。

 

 そんな話を、少し前に秘書艦から聞いた覚えがあった。

 

 だとすれば僕の車は車検に出され、ここにはない……ということだろう。

 

 なんだか違う気もしなくはないが、さすがに盗まれたという可能性は低いはずだ。

 

 だって、ここは鎮守府の駐車場。出入り口には警備が24時間体制で配置されているし、車には盗難用の装置も取り付けてある。

 

 だから盗難はまずありえない。頭になにかが引っかかるが、気にしないでおこうと僕は駐車場から踵を返す。

 

 その時、またしてもチャリンと音が鳴ったような気がした。

 

 振り返っても、誰も、なにも見当たらない。

 

 気のせいだ。

 

 うん。ちょっと過敏になっているのだろう。

 

 頭の中のモヤみたいなものを感じながら、僕は一人で鳳翔さんの食堂へと向かった。

 

 

 

 そして数日が経った今。

 

 僕の背後から、チャリンという音が聞こえている。

 

 もちろん音の出処であろう背後には誰もおらず、なにかが落ちているわけでもない。

 

 気にしていると、聞こえてこなくなる。

 

 あくまで聞こえるのは、音への意識を離してからだ。

 

 しかし、そうだからといって、そればっかりを考えているわけにもいかない。

 

 僕には多くないとはいえ、職務というものが存在するのだから。

 

 机に向かって書類に目を通し、必要な指示を考えながらため息を吐く。

 

 しばらくすると、またしてもチャリンと聞こえてくるが、僕は気にしないぞと念を込めるように目を閉じ、万年筆に手を伸ばそうとした時だった。

 

 コンコン……。

 

 部屋の扉をノックする音が聞こえ、僕は「入っていいよ」と返事をして促す。

 

 中に入ってきたのは僕の秘書艦である高雄だった。

 

「失礼します。少しお耳に入れなければいけないことがあるのですが……」

 

 真剣な目をして言う高雄に一抹の不安を感じながら、僕はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 高雄に連れられ向かった先は、鎮守府にある駐車場近くの埠頭先。

 

 そこには大きなクレーン車が1台鎮座し、海に向かってワイヤーを伸ばしていた。

 

 数人の艦娘が海の上からクレーンを操作している作業員に向かって声をかける。

 

 しばらく見ているとワイヤーが海から引き上げられていき、大きな赤い物体が海の底から浮かんできた。

 

 ドクン……と胸が高鳴りを上げる。

 

 なぜか額や手に汗が吹き出し、今すぐここから逃げ出したくなる衝動に駆られてしまう。

 

 それをなんとか我慢していると、赤いスポーツカーが海から引き上げられ宙吊りになる。

 

 扉や窓の隙間から大量の水が流れ出す。

 

 外見に大きな傷は見当たらない。しかし水没してしまった車を再び動くようにするには、莫大な費用と時間がかかってしまうだろう。

 

 さすがにこれは廃車か……と少々落ち込んでいたところで、あるところに目が止まった。

 

 

 

 トランクが……開いている。

 

 

 

 その瞬間、胸が強く締め付けられた。

 

 どうして、開いているのだろう。

 

 しっかりと鍵は閉めたはず。

 

 強引に開けた形跡もなく、中から鍵を開けることは難しい。

 

 ならばどうして。

 

 どうして開いている……?

 

「元帥……?」

 

 隣に立っている高雄がなにか言っているが、僕の耳には届かない。

 

 その代わりに、背後からチャリンと音が鳴った。

 

 それも、今までにないくらいの大きな音が。

 

「……あら、これは?」

 

 横目に高雄が屈み込む姿が写った。そしてなにかを手に持って、僕に問いかけてくる。

 

「これは今引き上げた元帥の車の鍵ですよね……?」

 

 僕は小刻みに体を震わせながら、ゆっくりと視線を高雄へ向けた。

 

「先程までここに鍵は落ちていなかったと思うのですが。

 それに、なぜかビッショリと濡れているようですけど……」

 

 それは間違いなく、僕の車の鍵。

 

 高雄が言うように、引き上げられた車に使う鍵だ。

 

 

 

 …………チャリン。

 

 

 

 またしても、背後から音が聞こえる。

 

 今度は少し小さく……遠いというべきか。

 

 僕は後ろへ振り返らない。

 

 いや、振り返ることができないのだ。

 

 

 

 ……チャリン。

 

 

 

 またしても聞こえる。

 

 少し大きく、近くなっていた。

 

 僕が使っていた車の鍵に、いくつかのものを付けていた。

 

 キャラクターが印刷された金属製のプレート。

 

 プラスチックでできた小さなフィギュア。

 

 鎮守府内でたまに使う扉の鍵。

 

 

 

 チャリン。

 

 

 

 大きく背後から聞こえる音。

 

 そして、次に聞こえてきたのは、

 

 

 

「ヤット、見ツケマシタヨ……」

 

 

 

 首筋に触れる冷たい感覚。

 

 ビッショリと濡れた手のようなものが僕の首に纏わりついたが、やはり振り返ることができない。

 

「トランクニ詰メルナンテ、酷イ人デスヨネ……」

 

 しっかりと、ハッキリと聞こえた瞬間、僕の意識はプッツリと落ちた。

 

 

 

 

 

「とまぁ、そこで目が覚めたわけなんだけれどね」

 

 そう言って、元帥は目の前に立てたろうそくの火に息を吹きかけて消す。

 

「僕の怪談はどうだったかな。

 怖かった? それとも面白くなかった?」

 

「怖いはまだしも、面白かったら怪談じゃないですよね……」

 

「まぁそりゃそうか……って、なにやら天龍ちゃんがガタガタ震えているんだけれど」

 

 元帥の言葉を聞いて俺は視線を横に向ける。

 

「あわ……あわわわわ……」

 

 あー、うん。これは間違いなくマジビビリってやつですね。

 

 しかもなんか床の辺りが水っぽいし。だから参加するのは止めておけって言っておいたんだけどなぁ……。

 

 俺はため息を吐きながら天龍の頭を撫でつつ慰め、ふとあることに気づいて元帥の方を向く。

 

「ちなみに質問なんですけど、今の話はどこまでが本当なんですか?」

 

「んー、最後に言ったとおりなんだけどなー」

 

「その割には目が泳いでいるんですが」

 

「……うーん、やっぱバレちゃうかー」

 

 言って呆れた顔を浮かべる元帥だが、場合によっては大問題である。

 

「いやー、実はこの話、先生が言うとおり一部は本当なんだよねー」

 

 これほどまでにリアリティのある話はできないだろうと思っていた俺の推測は当たっていたようだ。

 

「でもまぁ心配しなくても、音が鳴ったりだとか、車のトランクに誰かを詰めていたとかは、全くもって事実と異なるからね」

 

「それが本当だったら、この世には生きていないですもんね」

 

「うんうん。深海棲艦は信じても、霊とかは信じてないからねー」

 

 あっけらかんに話す元帥の顔を見る限り、どうやら嘘はついていないようだが。

 

「でもまぁ食事に行って帰ってくる際に、酔っ払っちゃって海に車を落としちゃったのはまじで凹んじゃったよねー」

 

 そう言いつつ、ガックリと肩を落とす。

 

 うん、なるほど。よく分かりました。

 

 結論、この人飲酒運転でアウトです。

 

 

 

 ということで霊を恐れない元帥は後日、憲兵に連れられて行ったのは肝が冷えたとか。

 

 

 

 飲酒運転、絶対ダメだよ。

 




色々不幸が続いたり、自身の手術とかで全く更新できなくてごめんなさい。
もうしばらくお休みになりますが、気が向いたり何か書ければ更新できるかも……気長に待ってくれると嬉しいです。



 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。