その際にちゃんとした情報を青葉から得たのだが、すべてはそれだけでは無かった……らしい。
「青葉をからかうからですよっ!」
そう言いながら、デッキブラシでごしごしと床を磨く青葉に続き、俺はスポンジで空になったドックの湯船を洗っていた。
「いやまぁ、からかうつもりは無かったんだけどさ……勘違いさせたのは本当に悪いと思ってるし……ごめん」
「そんなに何度も謝らないでくださいっ! 分かってても、惨めになっちゃうんですから!」
ぷんぷんと頭に文字を浮かべるかのように怒った様子の青葉だが、表情は明るく、掃除を楽しんでいるようにも見えた。
「でも……ちょっと青葉残念でした……」
「……え、今何か言った?」
「……っ! な、なんでもないですっ!」
「ん、そっか……」
ゴシゴシ、キュッキュ……とドックの中にリズム良く響く音を聞きながら、掃除をこなしていく。
「……それでさ、さっきの話なんだけど」
「は、はい、さっきの話って……何でしょう、先生?」
「秋雲って艦娘のこと。俺の写真を買ったんだよね?」
「あっ、はい。確か、先生のお風呂上がり牛乳飲みセットを買っていきました」
セットってなんだセットって。
1枚だけじゃないのかよっ!?
「なんでそれが気になったのかがよく分からないんだけど、秋雲って艦娘がその写真を買ったから注文が増えたってことになるのは……なんで?」
「青葉もあくまで予想でしかないんですけど……可能性が高いって考えられるのですよ」
「可能性?」
俺は頭をひねりながら青葉に問う。
「はい、可能性です。秋雲って艦娘のこと、先生はご存知です?」
「んー……あんまり知らないかも。会った事もないし」
「そうですか。まぁ、私も詳しく話したりする艦娘じゃあないんですけど……」
さっき秋雲に写真を売った件で、断れない理由とか言ってたけど、それは空耳だったのだろうか……?
話がだんだんややこしくなりそうだなぁ。
「秋雲って、薄い本とか書いてるみたいなんですよねー」
「薄い――本って、なに?」
「いわゆる、個人出版と言いますか、同人誌と言いますか……」
「あーあー、何か聞いたことあるかも。確か、大きいイベントとかで売り買いされたりするやつだったかな?」
「専門店で売られたりすることもありますけどね。その知識で間違ってないです」
「……で、その同人誌がなんで気になるのかな?」
「いやだって、普通考えたら分かりそうですよね?」
「いや、全然分かんないんだけど?」
「えー、ウソでしょ先生ー」
「いや、マジで」
うん、本当にさっぱりなんですけど。
「うーん、先生も以外に知識が無いですねー。仕方ないです、教えてあげましょう」
青葉はそう言って、両手を腰にあててふんぞり返るようなポーズを取った。
うーむ、横に立っているデッキブラシで足払いかましたい。
「青葉が思うに、秋雲が買っていった写真は資料として扱われたんじゃないかって事なんですよ」
「……まぁ、別に問題なさそうだけど」
「普通ならそう思っちゃいますよねー。でも、相手はあの秋雲ですよ! 薄い本を書いちゃうんですよ!?」
さっき秋雲のこと詳しくないって言ってたんじゃ無かったかなぁ。
「ましてや先生の上半身裸の写真! 腹筋が割れちゃってるやつです! ウホッ、良い漢ですよっ!?」
だから、全然分からないって言ってるのになぁ。
「ここまでくりゃあ、もう分かったも同然じゃないですかっ! かん――ぜんにっ、やおいですよ、や・お・いっ! 青葉は完全に分かっちゃいましたねっ!」
「……は?」
「先生の割れ割れ腹筋キャラ……男性同士で描かれる愛……青葉ちょっと気になりますっ!」
「……ちょっと待って。後、しゃべり方がどっかの好奇心旺盛な学生っぽいから止めて」
「先生は攻めですかっ!? それとも受けですかっ!?」
「とりあえず黙れ」
「はぐあっ!?」
先ほどとは全くの逆のような状態で、顔を突き出しながら問い詰めてきた青葉をネックブリーカーで落とした後、静かになったのを確認して俺は口を開く。
「つまり青葉が言いたいことは、秋雲が俺の写真を資料にして。やおい同人誌を描いた可能性があるって事でファイナルアンサー?」
「は……はひ……そ、そういう……ことでひゅ……」
喉を押さえながら床から起き上がる青葉。
うーむ、もうちょっと強めでもよかったかもしれない。
「で、その結果、その本を読んだ他の艦娘達が俺の写真を注文した為に、急遽写真を増やすことになったって訳だな」
「青葉の予想では、そんなところです」
「ふむ、なるほど……」
筋が通っているし、問題もなさそうで……ある訳もなく、
「ちょっと待て」
「はい?」
「なんで俺がやおい漫画にされなきゃいけないんだ?」
「さ、さぁ……それは秋雲が勝手にやったことですし……ごにょごにょ」
そう言いながら、視線をちゃっかりそらす青葉を掴んで引き寄せる。
「ひょわぁっ!?」
「事と場合によっては、分かってるよね?」
「イ、イエ、青葉ハ、ワカリマセン……」
「ウソだよね。分かってて売ったよね?」
「そ、それは……」
がっしりと両手で青葉の顔を掴み、ぐぐぐ……と顔を寄せる度に視線がそらされていく。見事なまでに嘘がつけないんだなぁ……青葉って。
「ハッキリ言わないならキスするぞ?」
「にゃわっ!?」
「ちなみに、中学生の花●薫並みに吸う」
「青葉の唇伸びちゃいますっ!?」
「え、何? 片方の乳も伸ばすの?」
「青葉もうお嫁に行けなくなっちゃいますっ!」
うん。そんな感じで冗談はほどほどにして置いて、掴んでいた手を離し、青葉を開放した。
ぶっちゃけて、やつあたりだよね、これ。
反省反省。
「とりあえず――だ。今すぐ秋雲の居場所を教えてくれ」
「え、えっと……やっぱり問い詰めに行っちゃいます?」
「出来るだけ早く同人誌とやらを回収しないと、俺の今後が危うい」
嫌な予感がムンムンとしている。
やおい本が描かれているのならば、間違い無くもう1人、被害者がいる筈なのだ。
そしてそれは、両人にとって最悪の噂になりかねない。
「うぅ……もうちょっと掃除を手伝って欲しかったですけど……仕方ないですね……」
そう言って肩を落とした青葉は、俺に秋雲がいるであろう場所を教えてくれた。
「まぁ、青葉が言うのもなんですけど、頑張って下さい、先生」
「あぁ、ありがとな。それじゃあ、青葉も掃除頑張って」
「はいです。あ、それと先生」
「ん、どうした?」
「同人誌手に入れたら、青葉に1冊下さいね~」
にっこり笑ってそう言った青葉に無言でジト目を向け、俺は速やかにドックから立ち去った。
◆ ◆ ◆
ドックに残された青葉は、自分以外が居ないことを確認してからぼそりと呟く。
「ふぅ……なんとか、ばれずにすみました……。
でも、結構やばかったですよね……ポロっと言いかけちゃいましたし……」
次回予告
最後の青葉の呟きは誰にも聞こえない。
それがいったい何を指すのか……
主人公はそれに気づくのか……
まずは秋雲を探すべく、向かった先は鳳翔さんの食堂だ!
いったい何が起こるのか! 慌てふためく一人の艦娘!
今章思いっきり引っ張りまくるよっ!(マテ
艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その6
乞うご期待っ!
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