艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 榛名を忘れちゃいかんぜよ……。

 なんだかんだでしおい班の授業は終わり、ラストは鬼門のビスマルク班。
果たして無事に授業を終えることができるのか。否、無理に決まっておろう!


その9「土曜と日曜の昼放送」

 

「………………」

 

 なんだかんだでグダグダ感がMAXだったしおい班も終え、最後の鬼門であるビスマルク班の時間を迎えてしまった。

 

 なお、現在ザラの視線は大半が俺に向けられており、キラキラと光らせては「ほぅ……」とため息を吐く始末。

 

 そしてその横でそんなザラを見ながら、同じように溜め息を吐きまくるポーラ。

 

 2人の気持ちは間違いなく正反対なんだろうけれど、正直に言えば俺も一緒にため息を吐いていたい。

 

 しかし、この原因の大半……というか、切っ掛けは間違いなく俺にある以上、ここでめげる訳にはいかないし、修正もしなくてはいけないだろう。

 

 だが、それよりも問題なのは次の授業の時間。

 

 しおい班では、俺を嫁にすると公言しているのは天龍、金剛、時雨の3人。

 

 しかしビスマルク班は、プリンツ、レーベ、マックスの子どもたち3人に加えて、教員であるビスマルクも含まれてしまうのだ。

 

 先ほどのしおいの使えなさも問題だったが、今度はほとんどが敵にまわると言っても過言ではない状況。

 

 そんな中で今のザラが教室に入るというのは、野獣の群れがいる檻の中に投げ込むのと同意に近いものがあるのだ。

 

 どう考えても始まる前から詰んでいます。

 

 ぶっちゃけて今すぐ逃げ出したい。だけど、そうもいかないんだよなぁ……。

 

 ついさっきまでの考えを全否定しかけたが、ここは踏みとどまりつつ策を練る。

 

 どうにかしてザラとポーラを授業に参加させ、平穏無事に終わらせられることができるのか。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 あかんわ。なにも浮かんでこねぇ……。

 

 そして気づけば授業を行う部屋は目と鼻の先。時間もギリギリなので、ここで立っている訳にもいかない。

 

 こうなったら、ぶっつけ本番。

 

 なるようになれ……と祈りながら、部屋の扉を開けて中に入ろうとしたのだが、

 

「………………」

 

 扉のノブに手をかけつつ、上を見る俺。

 

「………………」

 

「………………」

 

 同じくザラとポーラも、ある一点に視線を集中させている。

 

 少し開いた扉の隙間。枠の最上部と扉の間に、黒板消しではなくホワイトボードのクリーナーが挟まっている。

 

 なんというトラップ。使い古されつつ、お決まりなコレをどうするべきなのだろうか。

 

「……ふむ」

 

 気づかなかったフリをして、頭のてっぺんに直撃するイメージを想像してみよう。

 

 挟まっているのはホワイトボードのクリーナー。見た目は黒板消しのアレと似ているが、消す相手がマーカーなので若干硬さがある。

 

 つまり少々痛いかもしれないってことだが、くると分かっていればそれほどでもない。

 

 まぁ、笑いを提供するならワザとかかっても問題ないだろう。

 

 しかし、後ろに続くザラとポーラは既に気づいている。

 

 そんな状況でクリーナーに直撃する俺を見れば、若干なりとも呆れられてしまうんじゃないのかなぁ……と。

 

「先生、先生」

 

「……ん、どうしたポーラ?」

 

「これが俗に言う、関西人のノリってやつなんでしょうか〜?」

 

「いや、それはどうなのかなぁ……」

 

 愛想笑いを浮かべる俺。

 

 確かに教室の中にヲ級がいるというのであれば、それもあり得る話である。

 

 しかし、そうじゃない。

 

 相手はビスマルク率いる佐世保班。関西人とはまったく関係がなく、そういったノリというのはないと思うのだが……。

 

 まぁ、悪い意味で染まったという可能性も、ゼロじゃないか。

 

 特に、ヲ級が絡んでいたら……ね。

 

「先生の頭にクリーナーが直撃……。

 よろめきながら、頭から流血しつつもにこやかに微笑み、決め台詞を……はうっ」

 

 そしてなぜか鼻から血を出しかねないほどに頬を上気させたザラが、ブツブツと呟きつつ頭をグルグル回していた。

 

 ……うん。こりゃあ一種の病気じゃなかろうか。

 

 今すぐ医務室に連れていきたい。そして治療している間寄り添ってあげれば、授業に出なくても済みそうだ。

 

 よし、そうと決まれば善は急げ。ザラを小脇に抱えてさあ行こう……、

 

「敵前逃亡は良くないと思うんですけどねぇ〜」

 

 ポーラのジト目とつぶやきに、ピタリと動きを止める俺。

 

「あとついでに言っとくと、ザラ姉様を誘拐するように見えるので、憲兵さん待ったなしですよ〜?」

 

「……なんで俺の考えていることが分かるのか、本当に教えて欲しいんだけど」

 

 更に言えば、まだザラの身体に触れもしていないのだが。

 

「せ、先生がザラを誘拐……っ!?」

 

 ハッと驚き手で口を押さえるザラ。

 

 やばい。これは、とんでもない思い違いを……、

 

「ザラと先生の逃避行……っ!

 辺り一面に舞い散る花びら……っ!」

 

 フラフラ……どさり。

 

 頭に手を当てつつ床に倒れ込むザラが、「よよよ……」と言いながら目をキラキラとさせてこっちを見ていた。

 

 ………………。

 

 いや、だからなんでやねん。

 

 完全にザラの頭の中は少女漫画と言うか、お花畑が広がっているとしか思えないんだけれど。

 

「ザラ姉様の愛読書は、日本の少女漫画ですからねぇ〜」

 

 そして俺の心を簡単に見透かされてしまうのか、本気で分からない。

 

「まぁ、ポーラはぶどうジュースが飲めればなんでも良いんですけどね〜」

 

 そう言って、懐からジュースを取り出しゴクゴクと飲むポーラ。

 

 さっきの授業前にも注意したはずなんだけれど、まったく懲りていないよなぁ……。

 

「はい、没収」

 

 てれってれってーん。

 

 人形が吸い込まれていく効果音を脳内で流しつつ、心を鬼にする俺。

 

「ああっ、ポーラのぶどうジュースが……っ!」

 

 半泣きで抵抗するポーラが没収したぶどうジュースを取り返そうとぴょんぴょん跳ねるが、ここは甘やかしてはいけない。

 

「先生……恐ろしい子……っ!」

 

 そして目を真っ白にしながら驚きのポーズを取るザラよ。

 

 なんでそのシーンを再現したのか、マジで分からないから勘弁して下さい。

 

 靴に画鋲なんて、入れてないからねっ!

 

 

 

 

 

「「「………………」」」

 

 じとーーー……。

 

 向けられるジト目の嵐。

 

 なにコレ、デジャヴ?

 

 ただし問題は、さっきのしおい班と違って、教員であるビスマルクも加わっていることなんだけれど。

 

 本当に、大人げないぞコイツ。

 

「あー……、一応説明しておくが、この授業ではザラとポーラを臨時加入させ……」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 言葉を遮ったビスマルクが、ズビシ! と効果音を背に指を俺に突きつける。

 

 色々とツッコミを入れたいが、あとが面倒くさいので聞くことにしよう。

 

「どうしてあのトラップを回避したのかしら」

 

 ………………。

 

 えっと、クリーナーをしかけたのって、ビスマルクなのか……?

 

「バレバレ……だったからな」

 

「それでもなお引っかかってウケを狙うのがあなたでしょう!」

 

「いやいや、なんで漫才やコントみたいなことをしなくちゃいけないんだ……?」

 

「な……っ!?」

 

 俺の言葉に狼狽えたビスマルクは、1歩、2歩と後ずさる。

 

 なぜそこまでの反応ができるのかサッパリなんだけれど、嫌な予感しかしないよなぁ……。

 

「せ、先生は生粋のカンサイジーンだと聞いていたのに……っ!」

 

 いやまぁ、確かに京都生まれの京都育ちなんだが、時間と場所はわきまえるよ?

 

 そして、誰からそのことを聞いたのか教えて欲しいんだが。

 

 特にその、イントネーション辺りを。

 

「やっぱりボケにはツッコミが必要ということね……っ!」

 

 小指の爪を噛みつつ、俺を睨みつけるビスマルク。

 

 そして気づけば班の子供たちやザラとポーラも、俺に視線を集中させていた。

 

 しかし俺はあえて言う。

 

「ちょっと待て、ビスマルク」

 

「……なによ」

 

「なんでこの状況で、こんな話になっているんだ?」

 

「………………?」

 

 首を傾げつつ、頭の上にクエスチョンマークを浮かばせているが、そうしたいのは俺の方だ。

 

「会って早々じゃあるまいし、なんだかんだで短い付き合いでもないのに、どうして今このタイミングで関西人だの、ボケとツッコミだの、授業に関係ないことをやろうとしているんだよって話をしているんだよ!」

 

「………………っ!」

 

 図星を突かれたかのように、両腕で自分の身体を抱きしめながら狼狽えまくるビスマルク。

 

 イメージとしては、裁判で大きなダメージを食らった女性検事な感じだ。

 

 ただし、もちろんの如く鞭は持っていない。

 

 むしろ持っていたらマジで怖いが、ビスマルクはそんなものがなくても危険極まりないからなぁ。

 

「ま、まさか……、あなたからそんな言葉が出てくるだなんて……」

 

 いや、これは普通だと思うんだけれど。

 

 なのにどうして、子どもたちは一同に首を縦に振っているんだろうか。

 

「ましてやさっきの長文は、滅多にない現象……。

 これは明らかに、何かあるに違いないわ!」

 

「………………」

 

 ビスマルクからの意味不明な発言に、俺はジト目を通り越して死んだ魚の目を浮かべる。

 

「……はっ!?

 これはまさしく、無の境地!」

 

 水を得た魚のように言葉を畳み掛けてくるのを聞き、頭の中に1つの答えが浮かんできた。

 

「………………」

 

「カンサイジーンの中でも、玄人と呼ばれる者にしかできないという技を、あなたは持っているのね……っ!」

 

 そうか。

 

 そういうことなのか。

 

 つまりこれは、俺からある1つの言葉を出したいだけではないのかと。

 

 そうと分かれば、ビスマルクの無駄な会話に付き合う義理はない。

 

 必要なのは、今のこの時間を有意義に使うことであり、ちゃんとした授業を行うことが俺の義務である。

 

「よし、それじゃあそろそろ、授業を始めるぞー」

 

 ということで、ビスマルクはガン無視することにした。

 

「……ちょっ、それってどういうことよっ!」

 

「どういうことって、普通に授業をするだけなんだが」

 

「なによそれ!

 それじゃあ意味がないじゃない!」

 

「意味ってなんだよ?」

 

「そっ、それは……」

 

 問い詰める俺に目を逸らすビスマルク。

 

 どうしてこんなことをしているのかは分からないが、意図が分かった以上付き合うつもりはまったくない。

 

「あーあ……。

 これはビスマルク姉様の負けですねー」

 

「やっぱりビスマルクには荷が重かったんじゃないかな……」

 

「先生も何気に、頑固なところがあるわよね……」

 

 そしてプリンツ、レーベ、マックスが呆れ顔を浮かべながら口々に言い、教科書を開けていた。

 

 フッフッフ……。これで俺の勝利は決まったようなもの。

 

 いったい何を競い合っていたのかはサッパリだが、ビスマルクに一泡吹かせたというのは少しばかり気分が良い。

 

 ……とは言っても、普段から負けたという感じはないんだけれどね。

 

「……くっ!

 しかしここで負けても、第二、第三の私が……」

 

 いや、何人いるんだよ、ビスマルクは。

 

 しかしここもあえて突っ込まない。

 

 というか、突っ込んだら負けなのだ。

 

「あの有名なビスマルクを手玉に取る先生……。

 やっぱり普通の人間じゃなさそうですねぇ〜」

 

 そして感心しながら、いつの間にかプリンツたちと同じように席に座っているポーラ。

 

「ローマやビスマルクに負けない先生……。

 これはもう、尊さを通り越して神レベルに……」

 

 おーい、ザラよ。頼むから帰ってこーい。

 

 キャラが崩壊どころか、ブレブレ感が凄いぞー。

 

「結局のところ、今回の勝負って先生の勝ちですって……?」

 

「そうだね、ろー。

 まぁ、僕はそうなると思っていたんだけれど……」

 

 ろーとレーベの会話に、やはりという気持ちが強くなる。

 

 俺の勝ちというのはおそらく、ビスマルクにツッコミを入れなかったことだろう。

 

 それがいったい、なにを意味するのか。そして、まったく授業に関係なかったことが残念でならないが。

 

 ……まぁ、ビスマルクがすることだから、仕方ないんだけれどね。

 

 でも結局のところ、俺が関西人とかそういうことについて、誰が言い出したのか分からなかったよなぁ。

 

 どうせ、ヲ級辺りが変な嘘でもついたのが切っ掛けなんだろうが……、

 

「やっぱり、青葉お姉さんの新聞って、ガセネタばっかりですって!」

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

「予想に反して青葉が原因かよーーーっ!」

 

 

 

「「「あっ」」」

 

「………………あっ」

 

 ……しまった。

 

 突っ込んじまったよ、こんちくしょう。

 

 

 

 つーか、この時間ってなんだったんだ……?





次回予告

 関西では土日の昼間に新喜劇がテレビでやってます。

 そんな先生の苦難もいつものこと。恐怖?のビスマルク班授業はまだ続く。
しかし、なんでこんな授業内容になっているのか。その答えとは……?


 艦娘幼稚園 第三部
 ~ザラとポーラはどの班に?〜 その10「カンサイジーン」


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