うん、完全におかしいけれど、類は友を呼ぶ……って言うからね……。
ところで、自己紹介はまだ終わっていないんだけど。
「ザ、ザラ姉様が……壊れた……」
ワナワナと両手を震わせ、愕然とした表情を浮かべるポーラ。
その他の子どもたちも軒並み信じられないといった感じの顔でザラを見つめているが、当の本人は……、
「尊死……しちゃいそう……」
俺を見つめながら、目をキラキラとさせ、うっとりとしている。
原因は分かっているが、言わせてくれ。
どうしてこうなった。
俺はただ、下がりきってしまった好感度を少しでも元に戻すべく、ちょっとばかりできるところを演出しただけなのに。
「お、おい……、あれってどう考えても普通じゃないよな……?」
「あらあら〜。
あれは間違いなく、恋する乙女の顔ね〜」
「なっ、マジかよ龍田!?」
そして言わなくても良いことを龍田が発してしまったことにより、一部の子どもたちが表情を一変させた。
「ちょっと待つデース!」
真っ先にザラへ近づいた金剛が肩に手を置き声をかけたのだが、
「萌え萌え……きゅん……」
ザラは金剛の手に全く気づいていないのか、俺の方をじっと見つめながら呟く。
いや、メイド姿のベーシストを見たギターとドラムじゃないんだが。
「クッ……!
そんな言葉に負けやしないデスヨー!」
そして金剛よ。なぜ今ので、ダメージを受けたかのような表情と仕草をしているんだ……?
「はぁ……。
先生に……バブみを……感じる……」
「「ゴッハァ……ッ!」」
そして今度は金剛とポーラが同時に、口から血を吐いた……って大丈夫かっ!?
「お、おい、金剛、ポーラ!?」
「ダ、大丈夫……デース……。
ちょっとダケ、ダメージを受けたダケネー」
「ザ、ザラ姉様が……、完璧に……壊れて……グフッ……」
よろよろと立ち上がる金剛だが、ポーラはそのまま床にドサリと倒れ込む。
いやいや、マジでヤバイんですけど。
とりあえずポーラを救出して、医務室に駆け込まなくては……と思いきや、
「でもそんなザラ姉様も……ありっちゃあ……ありですよね……」
床で倒れたポーラの表情はなぜか笑顔で、口から吐いていたと思われていた血は、どうやらぶどうジュースのようだった。
……なにこれ。心配して損してってことか?
だがしかし、根本的な原因はまだ対処がしきれていない訳で。
「バブみ……バブみ……」
こっちを向きながら、ブツブツと呟くザラがマジで怖いんですが。
と言うか、バブみって……なに……?
「ちょっと待つですヨ、ザラ!
確かに先生にバブみを感じることはあっても、そうは問屋が卸さないデース!」
いやだから、バブみってなんなのさ……。
「いや、むしろ先生には僕達にバブみを感じさせる方が良いと思うんだけど……」
時雨まで話に加わってきたんだけれど、やっぱり説明はない訳で。
「よし、先生!
俺様にバブみを感じやがれ!」
そう叫んで親指を立てる天龍だが、マジでサッパリ分からないんですけどねぇっ!
「あら〜。
天龍ちゃんったら、完全に間違った方向にいっちゃってるわ〜」
ニコニコとしながら言う龍田は少し離れて見つめているだけ。
高みの見物で済ませようと考えているんだろうけれど、藪を突いて蛇を出す気はないので黙っておこう。
「せ、先生が壊れたと思ったら……今度はザラちゃんが……」
「こんなのよくあることだから、そんなに心配しなくても大丈夫っぽい」
なお、潮は完全にガクガク震えて涙目状態だが、夕立がフォローしてくれたおかげなのか、ガチ泣きからは少しマシになっているようだ。
泣かせた原因の大半が俺にあるので、後で慰めておかないとな。
……で、夕立の台詞は色々とツッコミたいところなので、こっちも後でフォローの予定。
こんなのがよく起こっていたら、マジで身体がもたないからね!
「うーん……。
先生にバブみを感じるザラちゃんや金剛ちゃんと、自分自身にバブみを感じさせようとする時雨ちゃんに天龍ちゃんかー……アリだね!」
そして勝手に納得するしおいだけれど……って、ちょっとは収拾をつけてくれよっ!
「……でも、先生の場合はどっちかと言えば、ヘタレ具合が良いと思うんだけどなー」
おぉぃ……。
なんでしおいはそこで、更に悪化させるような発言をするんだろうか。
どう考えても嫌な予感しかしない。ただでさえ、子どもたちが加熱しそうな状況なのに……、
「ちょっと待ったーーーっ!」
「うえっ!?」
いきなり扉が開き、大声が部屋に響き渡る。
驚いて扉の方に振り向くと、そこには見知った姿が……。
「……いや、なんで夕張が幼稚園にいるんだよ」
「ちょっと発注を受けた荷物を届けにきていたら、気になる会話が聞こえてきましてー」
「いくらなんでもタイミングが良すぎやしない!?」
ツッコミを入れた俺に、てへへー……と笑う夕張。しかし、時既に遅しとばかりに子どもたちが騒ぎ立て始める。
「やっぱり先生は、へたれた感じの状態が一番良いんだって!」
「いやいや。
天龍ちゃんの言うことも一理あるけれど、やっぱり先生は頼りないところと、たまに見せる格好良いところの間がちょうなんだ」
「私のタックルを正面から受け止めてくれるのが一番良いネー!」
天龍、時雨、金剛が持論を並べていけば、
「先生がナルシストでバブみ飽和のオギャりモードで……」
ザラが全く訳の分からない発言をして、
「違う違う。
先生の凄いところは、なんと言っても鍛えた肉体と、ほんのり匂わせる女性らしさの線よ!」
いつしか夕張も加わってしまい、
「ボコられても起き上がる根性だけは認めるんだけどね〜」
非常に怖い発言をする龍田がいれば、
「せ、先生は……潮のことを……ちゃんと見てくれてるし……」
ちょっぴり嬉しい潮の発言も聞こえてきたり、
「先生はなんだかんだで頼りになるっぽい?」
なんでそこで疑問系なんだよ夕立ェ……。
「もうちょっとぶどうジュースを飲ませてくれたら、良い人なんですけどねぇ〜」
ポーラはいつの間に復活していたんだろう……。
そしてこの状況で言えることは、
自己紹介どころか、完全に授業が崩壊しているってことですよね……。
「とりあえず、ザラちゃんも先生LOVE勢に加わったってことでファイナルアンサー?」
時雨の言葉に、ザラは恥ずかしげにコクコクと頷いていた。
「チッ……。
やっぱりこうなっちまったか……」
「あら〜、不貞腐れちゃう天龍ちゃんも可愛いわ〜」
「予想できていたことだけど、やっぱり少々不安になっちゃうかな……」
「時雨は甘いデース!
どれだけライバルが増えても、最後に勝つのはこの私ネー!」
口々に言い合う子どもたちだが、流石にこれ以上放置はできないので、手を叩いて視線を俺に集中させる。
「はいはい。
自己紹介はまだ終わっていないんだから、これくらいにしておこうな」
原因が俺なだけに言いにくいが、しおいが全く役に立っていないので仕方がない。
「次は潮の番だけど、大丈夫か?」
「う、うん。
大丈夫……です」
言って、潮は席を立ってから深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて口を開く。
「わ、私は綾波型駆逐艦の……潮です。
先生のことは……その、頼りになる……人だと思います」
ペコリと頭を下げ、恥ずかしそうに席に座る潮。
うぅ……、なんて良い子なんだ……。
他の子どもたちももう少し潮を見習って、大人しくなってくれたら良いんだけどなぁ……。
「それじゃあ次は夕立だな」
「了解っぽい!」
俺の言葉に手を上げて応えた夕立が、ニッコリと笑って席を立った。
「白露型駆逐艦の夕立だよ。
先生のことは、初めて幼稚園にきた時、肩車をしてくれたことが思い出深いっぽい!」
言って、席に座る夕立。
ああ、確かにそんなことがあったなぁ。
あの時は確か、潮のボールが木の上に引っかかってしまい、それを取ろうとした天龍が危ないって言いに来てくれたんだよな。
「先生の肩車……だって?」
「うん。
道案内をする夕立を、先生が肩車してくれたの」
「そ、それは……ちょっとばかり羨ましいぜ……」
悔しがる天龍が机を拳でバシバシと叩いているが、別にそれくらいやってあげても良いんだけれど。
でもまぁ、それを今ここで言ってしまったら最後、またしても火に油を注ぐことになるだろうから止めておこう。
「先生の肩車デスカー。
でもどうせだったら、お姫様抱っこでランデブーしたいネー」
「くっ……、それも惹かれるじゃねえか……」
いや、流石にそれはやらないよ?
やったら最後、確実にロリコン呼ばわりされちゃうし。
あ、でも、ほとんどの子どもたち認定されちゃっているから、既に手遅れかなぁ……。
………………。
心が痛い。
「僕の希望としては、先生と一緒にお外に出てデートをしたいかな……」
そして時雨の台詞はいたって普通だが、やっぱりそれも問題があるんだよなぁ。
でもまぁ、普通に子どもたちと出かけて買い物なんかは別に良いとは思うんだけどね。
実際、雷と電とは一緒にコンビニに出かけたことがあるんだし。
その後に変な噂が立ったことは……まぁ、思い出したくなかったけれど。
「ザラとしましては、先生が雨の日に傘もささず、捨てられた子犬を抱きかかえながらトボトボと歩いて帰ってきたところで私と偶然出会って、ニッコリ微笑みながら髪をかき上げつつ斜め30度の角度でポーズを取ってくれると完璧です」
指定が多すぎるって言うか、どんな少女漫画なんだよ……。
「でもそれって、メンチを連れて帰ってきたときに似ている感じっぽい?」
「……いやいや、あの時川に飛び込んだのはしおい先生であって、俺は濡れていなかった覚えがあるんだけれど」
「あら〜、それってつまり、しおい先生はずぶ濡れなのに、先生は高みの見物をしていただけってことかしら〜」
「言葉が悪いけど、龍田の言うことはあながち間違っていないだけに言い返せないっ!」
ガックシと肩を落としつつ龍田に負けてしまった俺。
「やっぱり先生って、昔からヘタレ度が高い感じなんですねぇ……」
「だけど、そこが良いんだって言ってるだろ?」
「うーん……、ポーラにはよく分かりません……」
天龍とポーラの会話にツッコミを入れる気力はなく、うなだれる俺なんだけれど、自己紹介自体はちゃんと終わらせたので問題は……、
「……あっ」
1人、忘れていた。
潮以上の涙目を浮かべて俺を見る視線に、グサリと心をえぐられながら。
「あ、あの……、榛名も……自己紹介を……」
「う、うんうん。
もちろんびっしりばっしり、やってもらおうかなっ!」
半ばテンパりつつ頷きまくる俺にホッと胸をなでおろした榛名。そんな姿を見て、俺もまだまだ不甲斐ないと思いつつも視線を有る方向に向けてみたのだが、
「すぴー……くかー……」
椅子に座ったままうたた寝をしていたしおいに呆れ返りながら、もう一度教育し直さなければならないと心に強く秘める俺だった。
次回予告
榛名を忘れちゃいかんぜよ……。
なんだかんだでしおい班の授業は終わり、ラストは鬼門のビスマルク班。
果たして無事に授業を終えることができるのか。否、無理に決まっておろう!
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その9「土曜と日曜の昼放送」
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