正直、ザラとポーラは港湾班で良いと思うのだが、朝に決めた通り次の班に臨時加入させなければいけない。
そうーー、これからが本番である。
港湾班の授業が終わり、次はしおい班へと向かう。
つまり、何が言いたいか。
ここからが、本番である。
正直に言って、俺の心境はかなりしんどい。だって、天龍に金剛、時雨までが俺のことを嫁にする宣言をしている状況に、朝礼でひと悶着起こしてしまったザラとポーラを加入させるんだよ?
どう考えても平穏な時間が過ぎていくとは思えない。
港湾班での2人はいい感じっぽかったから、もうこの際決まりで良いんじゃないかなぁ……。
それに、次の授業が終わっても、その先も控えているんだぜ……?
「なんだか先生の顔色が悪くないですかね〜」
「さっきの授業で疲れたんじゃないかな。
色々と大変そうだったし」
ポーラの答えは大正解。港湾班の子供たちによるボケラッシュに全てツッコミを入れてしまった俺の体力は、大幅に減ってしまっているのだ。
それじゃあツッコミをするなよと思った君。それは間違いだ。
関西人は目の前でボケられたら、黙って見過ごすなんてことはできないんだよ。
……とまぁ、冗談はさておいて。
そろそろしおい班が授業をする部屋に到着するので、気を引き締めないといけない。
「ところで先生、ちょっと良いですか〜?」
「ん、どうしたんだ、ポーラ?」
背中を指先でツンツンと突きながら声をかけてきたポーラに振り返り、返事をする。
愛宕班の授業で下がりきった好感度により嫌われてしまったのではと思っていたが、話しかけるくらいのことは大丈夫のようだ。
「次の班には、先生を好きって言ってる子どもたちが大勢いるんですよね〜?」
「あー……、うん、まぁなんだ……」
まったくもってオブラードに包まない問いかけに戸惑ってしまう俺。
しかしだ。教員として好きと言われるのは悪くないので、ここは素直に頷いておく。
「なるほど〜。
そして先生はロリコンさんですから……」
「いやいや、ちょっと待って。
子どもたちに好かれているのは肯定するけど、ロリコンってのは全否定だよ!」
「あれ〜。
先生本人が気づいていないんですかねぇ〜」
「変態は、変態だと認めないから変態なのよ、ポーラ」
「なるほど〜。
さすがザラ姉様ですねぇ〜」
「だから風評被害を真に受けて勝手にロリコンや変態扱いしないでーーーっ!」
「またまた〜。
実際のところは、分かっているんでしょ〜?」
「違うから!
本当に、俺は普通の人間だから!」
「「………………」」
いや、なんで2人は急に黙り込んでジト目を浮かべているんですかね……?
「ローマの攻撃を避けていた時点で、普通じゃないですよねぇ〜」
「それどころか、悪名高き戦艦ビスマルクを手玉に取っていたのにね……」
「後者はともかく、ローマに関しては偶然だからね!」
「「またまたー」」
2人は揃って右手をパタパタと振りながら、半ば呆れた笑顔を浮かべていた。
いや、マジでいったいなんなのさ……。
「………………」
「………………」
あえて言おう。
予想通りの展開により、胃が痛すぎる。
しおい班の授業が行われる教室の扉を開けた途端、集中する視線。もちろんそれらは中にいた子どもたちからなのだが、明らかに敵意を持ったそれに、思わずたたずを踏みかけたほどだ。
しかしそれでも中に入らなければならないので、俺はなんとか勇気を振り絞る。
いや、それ以前に、教室に入るだけでなんでそんな心境になるのか不思議でたまらないが、原因が俺自身であるがために文句を言うことができない。
結局のところ、しおい班の子どもたち……特に、天龍、金剛、時雨は、ザラとポーラが俺を狙っていると勘違いしているのだ。
だからこその視線。
だからこその敵意が、この教室に充満している。
そんな中、俺はザラとポーラを誘導するために教室にあるホワイトボードの前に立つ。そして、開口一番に子どもたちを落ち着かせようと思った時だった。
ギロリ……ッ!
「うおっ!?」
ホワイトボードの近い席に座った天龍がいきなり机の上に勢い良く足を乗せ、明らかな不良の態度を取りながら俺を睨みつける。
「おうおう、浮気者の先生が登場だじぇ……って、噛んじまった!」
………………。
いや、そこで噛んだら、完全にアウトじゃん。
「あらー、ダメじゃない天龍ちゃん。
ここは一発メンチを切って、先生をビビらせてからワンパンでしょー」
「そうですヨ天龍ー。
そして悶絶する先生を私が解放シテ、ハッピーエンドになるつもりだったんデスヨー」
「ちょっ、そんな話聞いてねぇぞ!?」
驚いた天龍が後ろの席に座る金剛に振り向きながら立ち上がり、抗議の声を上げた。
「どういうことだよ金剛!
ここはみんなで先生を虐めつつ、ザラとポーラにギャフンと言わせるんじゃなかったのかよ!」
「そんなことをしたラ、先生が可哀相じゃないデスカー!」
「そりゃあ俺だってコンナことはしたくねぇよ!
だけど、こうすれば先生が俺のことを……ごにょごにょって、龍田が……」
「あらあらー、天龍ちゃんったら色々と漏らしちゃってるわよー?」
「えっ、ど、どこだよ!?
俺は別に漏らしてなんか……」
天龍は慌てながら自らの下腹部を見る。
もちろん、天龍が漏らしているはずもなく、意味合いが違うんだけど。
まさにぐだぐだ。本能寺レベルである。
「だからこんな茶番は止めようよと言ったんだけどね……」
そして悟ったかのようなすました表情で座っていた時雨がそう言ってからため息を吐くと、パンパンと手を叩く音が聞こえてきた。
「はいはい。
お遊びはこれでおしまいだよー」
言って、しおいが子どもたちに声をかけたのだが。
子どもたちの策略というか、やろうとしていたことが分かっていたのなら、先に止めてくれたら良かったのになぁ。
「いやー、それじゃあ面白くないですしー」
「俺まだ何も言ってないよねっ!?
心の声なんか漏れてないよねっ!?」
「なんだよ。
漏らしたのは俺じゃなくて先生なのか……?」
そう言った天龍が俺の下腹部をジロジロと見る。
「だから意味合いが違うってば!」
「あれ……、漏れてないよな?」
天龍の手が俺の下腹部……というか、股間を叩く。
しかも、下から上に。
「きょんっ!?」
「あっ、やべえ。
ちょっとキツめに叩きすぎちまったか……?」
ぐ、ぐおおおおお……。激痛がぁ……。
子どもとは言え、艦娘のパワーは相変わらずパネェよ……。
「せ、先生がうずくまっちゃったけど……大丈夫かな……?」
「あれってかなり痛いっぽい?」
「さあ〜。
私たちには分からない痛みじゃないかしら〜」
焦る潮に、首を傾げながら俺を眺める夕立。それに答える龍田は間違いないが、もう少しなんと言うか慰めて欲しいところなんだけど。
「でも、さっすが天龍ちゃんだわ〜。
さっきのを挽回するどころか、見事な直撃をかましちゃうなんて〜」
「お、そうか?
龍田に褒められると、何だか照れちまうぜ……」
「イヤイヤ、そんなに軽視できる状態じゃないですネー!」
「そうだよ。
今ので先生が使い物にならなくなったら、大変じゃないか……」
悲壮な顔をした金剛と時雨が俺に駆け寄ってくるが、未だ悶絶して床にうずくまり中。
と言うか、龍田は狙ってやったんじゃないだろうな……?
それと時雨よ。今の言葉の意味合いは色んな意味で気になりまくるので、返事に困るんだが。
「ありゃー……。
これはちょっと、先生がダメっぽいですよね……」
「今日の先生を見ていると自業自得っていう感じがしなくもないけれど、ちょっとだけ可哀相に思えてきた……かな」
そして相変わらずの間延びしたポーラと、少しばかり好感度が上がった気がしなくもないザラの言葉が聞こえつつも、意識が遠のいていく間隔に慌てて立ち上がろうとする。
「ふぐっ……おぉぉ……」
痛みに耐えつつ、生まれたての子鹿のようにプルプルと震える俺。
元帥とリングの上で戦った以上の辛い現状だが、ここで倒れては授業にならないのだ。
「はぁ……はぁ……」
ホワイトボードの端を手で持って身体を支え、なんとか立つことができた。
「はいはーい。
いつものコントはこれくらいにして、授業を始めちゃうよー」
そしてしおいが子どもたちに声をかけるが、ちょっと待ってくれ。
この痛みはいつもに増して、マジで洒落にならないんだけれど。
強いて言うなら、金剛のハリケーンミキサーとプリンツタックルを足して1で割ったくらい。
……あ、それって結局いつもの倍じゃん。
つまり、天龍の叩きはタックルよりも強いってことか……?
いや、的確すぎたからと言うべきか。
………………。
つーか、まだ昼にもなっていないのに、どれだけシモの話をするんだよってことなんだが。
それともう1つ。しおいってちょっと冷たくないか……?
「ぶふー!
しおいは全然、冷たくないですよーだ!」
「……いや、だからなんで俺の心が読めちゃっているんですか?」
「そんなの、先生の顔に全部出てるからじゃないですかー!」
「いやいや、そんなことある訳が……」
そう言いつつ苦笑を浮かべた俺だったのだが、
「「「………………」」」
……え、なんでみんな揃って俺から視線を逸らすんだ?
近くで立っているザラやポーラまで同じようにしているし、マジでそんなことが……。
「……って、やっぱり何も書いてないですよ?」
俺は内心焦りつつも、ポケットから取り出した携帯電話のカメラを起動して顔をパシャリ。そして画面を見てみたが、やっぱり文字らしきモノは見当たらない。
「……先生って、天然さんですよね〜」
「……うん。
今のはちょっと、破壊力が高すぎたかな……」
呆れるどころか、白い目を浮かべるザラとポーラ。
そして心配そうにしてくれていた金剛や時雨も、大きく肩を落として哀れみの目を浮かべている。
……いや、マジでどうしてこうなった。
「まぁ、これが先生だから、仕方ないよねー」
「「「ですよねー……」」」
そして一斉に子どもたちがため息を吐き、おずおずと自分たちの席に座る。
本音を言えば俺こそため息を吐きたいんだけれど、部屋の空気がそうさせてくれない。
まぁ、なんと言うか、今の状況を省みて1つ。
……本当に、俺って不幸だよね。
現在仕事が忙しすぎて執筆時間が取れにくいため、更新速度が遅くなる可能性があります。申し訳ありませんが、気長にお待ちいただけますと幸いです。
次回予告
バーニングミキサーじゃなかったよ……。
手痛い打撃を受けたが授業をせねば教員として廃る。
そう思っていたはずなのに、時雨の一言から自己紹介が始まって……。
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その7「乙女回路かマヌーサか」
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