艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 2話続けて怯える子どもたち。
それでもめげずに授業は進む。しかし、先生に対するある子どもの行動は目に見えて……?

 2度あることはなんとやら。


その3「好感度は0」

 

「あの威圧感は、ローマを倒した高雄秘書艦と同レベルに見えたわね……」

 

「愛宕先生を怒らせるのは、止めた方が良いってことが分かりました〜……」

 

 うん。間違っていないけど、初っ端から愛宕の高感度が下がりまくっている気がするぞ。

 

 とまぁ色々あったが、愛宕のおかげでおとなしくなった子どもたちがもめることもなく、素直に指定した組分けで納得したようだ。

 

 ちなみに俺の組は、北上、大井、霧島、ザラ、ポーラの5人。北上と大井は運動会のときにある程度の対処方法は分かっているつもりだし、霧島の落ち着きと知識の高さは目を見張るものがある。

 

 まぁ、元々艦娘として働いていたのだから、当たり前ではあるんだけれど。

 

 その経験を活かしつつ、他の子どもたちの参考になれば良いと思うんだよね。

 

「それじゃあ通信の練習をしたいと思います〜。

 混線しないように、組別の周波数をちゃんと合わせましたか〜?」

 

「「「はーい」」」

 

 子どもたちが一同に手を上げて返事をしたのを確認した俺は、通信機のスイッチをオンにした。そして班の子どもたちから少し離れ、部屋の隅へ移動する。

 

 子どもたちもスイッチを入れ終えたようで、俺に視線を向けて小さく頷く。

 

 ただしその中で、やっぱり大井だけはそっぽを向いているのだが。

 

 うーん……。

 

 運動会の時もそうだったけれど、俺ってなぜか大井に嫌われているんだよなぁ。

 

 凹みそうになってしまうが、今は授業中。班には他の子どももいるのだから、大井にだけ構う訳にもいかないのだ。

 

 ただでさえ、さっきも子どもたちを騒がせてしまうような発言をしたのだから、これ以上の失敗は避けておきたい。愛宕から何も言われていないとはいえ、普通に考えれば心象を損ねていてもおかしくない。

 

 なので、ここはちゃんと授業を進め、できるところを見せなければ。まずは、通信がちゃんとできるかを確認しよう。

 

「あー、テストテスト。

 みんな、ちゃんと聞こえているかー?」

 

「ほいほーい。

 聞こえてるよー」

 

 間延びした声を返してきた北上だが、手を上げなくても良いんだけれど。

 

 まぁ、は通信の邪魔にならなければ問題はないし、それもまた子供らしいと思えばそうなのだが。

 

「北上の感度は良さそうだな。

 それじゃあ次は……」

 

 他の4人はどうなのかと視線を動かそうとしたところで、いきなり何かが俺の方に走ってくるような影が見えた。

 

「この不敬者おぉぉぉーーーーっ!」

 

「ぐべふっ!?」

 

 突然跳び蹴りをかましてきた大井に反応が遅れてしまった俺は、腹部に直撃を食らって悶絶する。

 

「ぐ……おぉぉぉ……」

 

 なんとか倒れ込まずに耐えたのだが、大井は着地の隙をキャンセルするかのごとく小ジャンプをして、更に追い打ちをしようと右手を振りかざした。

 

「ちょっ、なんでいきなりっ!?」

 

 連続コンボを受けてはゲージが赤く染まってしまうので、俺は慌ててバックステップをして距離を取る。

 

「チッ、ちょこざいな!」

 

 しかし大井は逃げる俺を追いかけ、またもや跳び蹴りを放った。

 

 だが、流石に同じ技を何度も食らう俺ではない。

 

 左足を引き、半身になって大井の蹴りを避け、ドンピシャのタイミングで左腕を伸ばす。

 

「なっ!?」

 

 飛んできた大井の身体を救うように左腕でキャッチ。見事な釣り具合に、他の子どもたちから「おぉ〜」と感心するような声が聞こえてきた。

 

「は、離して下さいっ!」

 

「それより先に聞かせてくれ。

 なんで大井は、いきなり俺を蹴ったんだ?」

 

 俺は大井に問いつつ、とりあえず開放する。

 

 もちろん次の攻撃を喰らわないように、細心の注意をしながらだが。

 

 だが、いくらなんでも問答無用にも程がある。

 

 俺は通信のチェックをしただけで、大井が怒るようなことはしていないつもりなんだけれど……。

 

「そんなの当たり前じゃないですか!」

 

 しかし、大井の方はそうじゃないみたいで、顔を真っ赤にさせながら頭の上に蒸気が噴出する勢いで怒っていた。

 

 いやいや、マジでそこまで怒る理由が分からないんだけれど。

 

 別に俺、悪いことなんかしていないよね?

 

「北上さんに向かって、あろうことかあんな言葉をかけるだなんて……っ!」

 

「あんな言葉って……俺、変なこと言ったっけ……?」

 

「この期に及んで白を切るつもりなんですか!?」

 

「いや、本当に何が何だか……」

 

 思わず首を傾げた俺に、大井は『ビシッ!』という効果音が似合うような指をさすポーズを取る。

 

「北上さんに、か、か、か……」

 

 そしてなぜか、更に顔を真っ赤にさせてゆでダコのように変化していく……って、なにやら嫌な予感がするんですが。

 

「か、か……感度が良いだなんて、なんて卑猥なセリフを……っ!」

 

「………………は?」

 

 いったい大井は、何を言っているんでしょうか?

 

 他の子どもたちも同じように、首を傾げて固まっている。

 

 うん。普通はそうなるよな。

 

 そして、大井が言おうとしている意味合いは分かる。

 

 分かるのだが、それを説明してしまうほど、愚かな人間ではない。

 

 ……まぁ、ビスマルク辺りならやりかねないかもしれないけれど。

 

 つーか、大井はまだ子どもなんだよねぇっ!?

 

「……はぁ」

 

 心の中で叫びながら、ため息を吐いてしまう俺。

 

「そんな態度を取るなんて、まったく反省していないですよね!」

 

「……いや、反省も何も、俺は通信機の感度をチェックした上で発言した訳であってだな」

 

「言い訳はいりません!

 北上さんを辱めた責任は、死をもって償っていただきますっ!」

 

 過激すぎる発言の方が止めさせなきゃいけないんだけど、ここで発言したら火に油だろうなぁ……。

 

 しかし、このまま大井を放置するのは余計に悪手。授業が進まないどころか、愛宕の心象もよろしくない訳で。

 

 ……いや、こちらの騒動に気づいた愛宕の背中辺りには威圧感が漂っているのが傍目で見ても分かるから、早いところ収拾をつけないとヤバイんだけれど。

 

「ひっ!?」

 

「は、はわ、はわわわ……」

 

「ぶくぶくぶく……」

 

 近くにいる雷や電が震えまくっているからね!

 

 そして暁にいたっては既に泡を吹いています。マジでヤバイ。

 

 今日でもう3回目なんだけれど、俺の心象も完全にマイナスに振り切っているんじゃないだろうか。

 

 今日の終礼後が、非常に怖いです……。

 

「大井、ストップ」

 

「止まれと言われて、止まる馬鹿がどこにいるんですかっ!」

 

 そう叫んだ大井は回し蹴りを放とうとしたのか、左足を軸に体重を移動させた。

 

 だが、この距離でそれはいくらなんでも甘い。回転が終わるまでに、距離を潰せばこっちのものである。

 

「じゃあ、強引に止めるぞ」

 

「ふえっ!?」

 

 回転途中だった大井の頭を右手で抑え、中腰になって俺を蹴ろうとした足に左手を伸ばす。

 

 これで大井の動きを封じたし、視線の高さもちょうど良い感じだ。

 

「な、なにを……っ!」

 

「いいから話を聞け」

 

「……っ!」

 

 若干強めの視線を大井に向け、俺はゆっくりとした口調で話す。

 

「俺は北上に通信機のチェックをしただけで、やましいことは全くしていない。分かるな?」

 

「そ、そんな言葉を信じられる訳が……」

 

 いや、だから通信機の感度をチェックできたと言っただけで、どうしてそこまで意地になって俺を悪者にできるんだろうか。

 

 まぁ、大井の反応は十分予想できていたので、次の手に移るんだけれど。

 

「信じられないというのであれば仕方がないが、このまま騒いでたら間違いなく愛宕先生に怒られるが……良いのか?」

 

「そ、それは……」

 

 俺の言葉で状況を察知したのか、大井はチラリと愛宕の方を見た。

 

 そしてビクリと身体を大きく震わせ、額に汗を浮かばせる。

 

「言っておくが、俺1人で愛宕先生を止められるとは思わないよな?」

 

「………………」

 

 沈黙は肯定だと言わんばかりに、大井はガックリと肩を落とす。

 

 不甲斐ないセリフだったと自覚しているが、この場の収拾をつけるには1番だったろう。

 

 正直に言って、愛宕をこれ以上怒らせる訳にはいかないからな。

 

 子どもたちのためにも、俺自信のためにもだ。

 

 ……ということで、大井が大人しくなったから授業を再開しようかなと思っていたのだが、

 

「やっぱり噂は本当だったんだ……」

 

「先生って……変態さんだったんですねぇ〜」

 

 ザラとポーラの視線が、非常に冷たいものに変化していたのは、どうしてなんでしょうか。

 

 

 

 完全に、風評被害なんだけどねっ!

 

 

 

 

 

 大井が静かになってくれたことで、やっと授業に専念できるようになった。

 

 チラリと愛宕の方を伺ってみたところ、禍々しいまでの威圧感はなさそうで、周りにいる子どもたちに大きな影響は出ていないようだ。

 

 ……まぁ、怯えらしき感情はなんとなく分かっちゃうけど。

 

 なんか、その……ごめんよぅ。

 

「やれやれ。

 先生の授業って、円滑に進んでいない気がするわよね」

 

「ザラ姉様の言葉が難しい気がしますけど、つまり先生は無能ってことでしょうか〜」

 

 とりあえずは当初の予定通り、北上以外のマイクチェックを済ませようとしたのだが、ザラとポーラが冷た過ぎる。

 

 愛宕の心象もそうだが、出会って2日目で既に信頼度は皆無に等しいよ!

 

 いったい誰のせいなんだと八つ当たりをしたくなるが、できるのはせいぜい元帥くらいなので今は無理だ。

 

 非常に悲しくなってしまったが、諦めたら負けなので頑張ろうとする俺。

 

「あー……、通信機のチェックを再開するけれど、他の4人はどうだー?」

 

「……問題ありません」

 

「大丈夫ですねぇ〜」

 

 ザラとポーラの通信旗艦度は良好っと。

 

「霧島の通信機も大丈夫です。

 ちなみに感度も良好です」

 

 グッと親指を立てる霧島だが、先ほどの大井が発言した影響なのか、なんだか卑猥な感じに聞こえなくもないような気がしてきた。

 

 ……って、いやいや。いったい俺は、何を考えているんだか。

 

 今は授業に集中だ。チェックが残っているのは、大井だけだが……。

 

「……チッ」

 

 言葉どころか、舌打ちで返されたんですが。

 

 ちょっと俺、トイレの個室で泣いてきていいかな……?

 

 そうは言ってもここを離れる訳にもいかず、俺は心の中で泣きながら授業を進めていく。

 

「全員チェック完了だ。

 それじゃあ早速、通信で指示を送るから動いてくれよ」

 

「ほーい」

「……了解です」

「ラジャーですよ〜」

「了解しました」

「………………ウザッ」

 

 班の子供たちから返事を聞いた俺は、旗艦の役目として5人の子どもたちに指示を与える。

 

「まずは俺を先頭にして、単縦陣の陣形を組んでくれ」

 

「ほーい」

 

 返事をしたのは北上だけ。後の3人は動いてくれるものの、何人かから突き刺さって心をえぐられそうなレベル視線を感じているので辛いんですが。

 

 しかしまぁ、授業はなんとか進んでいる。だからこそ泣きたいのだが。

 

「そ、それじゃあ今度は、俺を中心に輪形陣を……」

 

「ほっほーい」

 

 相変わらず北上の返事だけ。そして俺を囲む子どもたち。

 

「「「………………」」」

 

 あ……、これ、あかんやつや……。

 

 冷たすぎる視線が、グサリグサリと顔や胸に突き刺さっています。

 

 特に大井、それに少しマシな程度だが結構辛いザラのジト目。

 

 他の3人は問題ないけれど、どんどん精神力が奪われていく感じだぞ……。

 

 さすがにこれはマズイと思った俺は、次の陣形に移ろうと新たな指示を出す。

 

「つ、次は単横陣に……」

 

「「「………………」」」

 

「えっと、聞こえなかったのかな……?

 次は単横陣なんだけど……」

 

「「「………………」」」

 

 あれ……?

 

 子どもたちが、動かないんですが……。

 

「あ、あの……、単横陣に、変更を……」

 

「「「………………」」」

 

 返事がない。ただのしかばねではないようだ。

 

 い、いや、冗談はともかく、なんで大井とザラ以外まで黙ったまま動かないんだ……?

 

 もしかして、俺があまりに不甲斐ないため、遂に見限られてしまったというのか……っ!?

 

「ん……?」

 

 冷や汗混じりの額を拭い、あまりの辛さで倒れてしまいそうになった時、ふとヘッドホンからノイズ混じりの非常に小さな声が聞こえてきたような気がする。

 

 そして子供たちの口も小さく動いているような……。

 

 もしかして……と思い、俺は周波数を少しばかりいじってみる。すると、ヘッドホンからいくつかの声が聞こえてきた。

 

「北上さん、動いちゃダメです。

 そうすれば、間宮さんのデザートがゲットできちゃうんですよ」

 

「それって本当なの、大井っち?」

 

「パスタの国にすら噂になっていた、マミーヤのデザートが……」

 

「それって、ぶどうジュースと合うんでしょうかねぇ〜」

 

 ……どうやら、非常に近い周波数で俺に内緒の話をしているのだろうか。

 

 聞こえた内容を整理すると、大井が俺を貶めようとしている雰囲気がありまくりなんだけれど、どう考えても先ほどの仕返しだとしか思えない。

 

 しかしそれでも、ここで大井を叱るのはよろしくない。そんなことをすれば愛宕がまたしても怒りだし、向こうの班にいる子どもたちが怯えてしまう。

 

 更には俺の評価も悪くなり、良いことが1つもない。

 

 だからここは叱るのではなく、諭すのがベストだろう……と思ったのだが、

 

「そもそも周波数を変えているんだから、俺の通信って聞こえてないんじゃ……?」

 

「……っ!」

 

 そう呟いた途端、大井の表情が驚きに塗れる。

 

「周波数を変えたはずなのに、どうして先生の声が……!?」

 

 ああ、そうか。子供たちの声が聞こえたのなら、俺の声も通信機に流れる訳で。

 

 つーか、そもそもこの周波数って、いつの間に共有したんだろう……。

 

「はいはい。

 お遊びは結構だが、授業はちゃんとしなくちゃダメだぞ。

 輪形陣は終了して、次は単横陣に変更だぞー」

 

「だってさ、大井っちー」

 

「くっ……!」

 

 苦笑を浮かべた北上は俺の指示に従い移動を開始し、ザラとポーラも同じようにする。

 

 大井は歯ぎしりをしながら俺を思いっきり睨みつけ、悪態をつくように舌打ちをしながら視線を逸して、嫌々ながら歩き出した。

 

 うむ、これで一見落着……とは言えないが、授業の進行はちゃんと再開できた。

 

 あとは大井のフォローをちゃんとして、ザラとポーラの誤解も解かないとな。

 

 ……やることが多くてめげそうになるが、放置をしておくのは非常にマズイ。

 

「よし、単横陣もオッケーだな。

 それじゃあ、次は……」

 

 まずは1つ1つ、やっていくべきことを消化していこうと思いながら、子供たちに指示を送っていった。

 





次回予告

 ザラとポーラのお試し愛宕班は終了し、次の班へ行くことに。
こう班にはヲ級という天敵が。それだけでも嫌な予感しかしないのに、初っ端から固まったザラとポーラを見た先生は、冷や汗まみれになりまがら……。

 同盟を組んだ深海棲艦が居るのは知っているよね……?


 艦娘幼稚園 第三部
 ~ザラとポーラはどの班に?〜 その4「エンカウント」


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