ついでに愛宕の力を見せつけて、ザラとポーラの臨時加入を開始する。
さあ、果たして無事に授業が進むのでしょうか……?
朝礼の後、再びスタッフルームに戻った俺は、愛宕にザラとポーラを各班に臨時加入させるという予定を変更するべきだと提案した。
もちろんその理由は、ヲ級の言葉によってほとんどの子どもたちがザラとポーラに偏見とも取れる目を持ってしまったのではないだろうかということなのだが、
「その必要はありませんよ〜?」
「い、いやしかし、今の状況ではザラとポーラに威圧的な子どもが……」
「先生の気持ちは分からなくもないですけど、大丈夫だと思います〜」
「佐世保の子どもたちが来た時より随分とマシって感じがしますもんね〜」
「い、いや、あの時は人数も多かったですし……」
「ムシロ、身カラ出タ錆ッテコトデ、先生自信ノ心配ヲシタ方ガ良イノデハ?」
「うぐ……」
愛宕に加えて、しおいや港湾にまで反対意見を言われてしまえば、これ以上の太刀打ちは難しい。
「港湾の意見に賛成……と言いたいところだけれど、それよりもっと良い案があるわよ」
そんな中、いつもとは違って静かにしていたビスマルクが言う。
「……良い案?」
「ええ、そうよ。
あなたの心配が全て解消され、なおかつ私も納得できる素晴らしい案……」
「却下の方向で」
「なんでよ!?
まだ何も言ってないじゃない!」
「ビスマルクが勝ち誇ったような表情で自慢げに言おうとした時点で、嫌な予感しかしない」
「そんな横暴なんて、許されないんだからっ!」
そう言って重心を落としたビスマルクを察知した俺は、そそくさと距離を取る。
「むうううぅっ!」
先読みされて怒ったビスマルクは、その場で地団駄を踏む。ぶっちゃけ子どもと変わらないというか、すぐに暴力で訴えようとする癖をまず直して欲しいところだ。
「ところで、ビスマルクさんが言う良い案って、いったいなんでしょう……?」
「ドウセ、先生トビスマルクガ結婚スレバ、文句ヲ言ウ者ガイナクナル。
……ト、ソンナ感ジジャナイカシラ?」
「それは……言いそうですね」
あはは……と苦笑いを浮かべたしおいが、ジト目でビスマルクの方へ顔を向ける。
港湾は呆れ顔で、愛宕は相変わらずニコニコ笑顔だが、若干の威圧感的オーラが出てきているような気がしなくもない。
そしてそんな状況にいるにもかかわらず、ビスマルクは全く気にしていないかのごとく、怒り心頭だった。
まぁ、ビスマルクだから仕方ないんだけどさ。
「ということで、1時間目はみんなと一緒に授業を受けるからな」
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします〜」
「「「はーい、よろしくねー」」」
1時間目の授業が始まり、俺は子どもたちにザラとポーラの臨時加入の説明をし終えると、元気の良い返事が帰ってきた。
ちなみに先ほど俺の案は却下されたものの、熱が上がった子どもたちがいるのも確かなので、比較的安全であろうと思える愛宕班から始めることになり、幾分かはマシだろうと胸を撫で下ろしていた。
これが初っ端から天龍たちが居るしおい班や、プリンツを筆頭にした海外組であるビスマルク班だったら、血を見ていたかもしれない。
言い過ぎかもしれないが、実際に経験してきた俺だから分かるのだ。
特にビスマルク班に関しては、子どもたちだけじゃないからな……。
「今日の授業は通信機の練習をします〜。
予習は前回にしましたけど、ちゃんと覚えていますか〜?」
「もちろんよ!
雷は寮に帰ってから、ちゃんと復習もしたんだから!」
「電もちゃんとしたのです」
「暁は別に復習なんかしなくても、ちゃんと覚えてるんだから」
「そうは言うけど、4人で復習をしていて狼狽えていたのは誰だったかな……」
「そ、それは……」
相変わらず暁4姉妹の和気藹々っぷりには、思わず笑みが零れそうになるな。
「私と北上さんも、ちゃんと復習しましたから問題ありません。
ねー、北上さん」
「そうだねー、大井っち。
でも、なんでわざわざ一緒の布団に入って本を読みながらだったのかな?」
「その方が覚えやすいからじゃないですかー」
「そうかなぁ……。
横になりながらだと、ウトウトしちゃうんだよね……」
そう言って肩を落とす北上に、なぜかジュルリと舌なめずりをしている大井。
色んな意味で危うい発言が混じっていたんだが、このまま放置していて大丈夫なんだろうか……。
「通信機の練習なら慣れたものですから、全然問題ないです!」
両脇を締めて手の拳を握る比叡が、元気良く声を上げる。
「元々私たちは海上に出ていた訳ですから、自慢できることではありませんけど……」
そんな比叡を冷ややかな目で見る霧島。しかし、眼鏡がキラーンと光り、どこかしらに頼っても良いのよ? 的な雰囲気が感じられるのは姉妹揃って同じに見える。
「ですので、存分に頼ってくれて構いませんっ!」
「艦隊の頭脳と呼ばれた霧島に、任せておいて下さい」
確かに経験者ではあるのだから、戸惑う子どもが出てきた場合役に立ってくれるだろう。
それよりも俺が心配するのは、今回臨時で加入するザラとポーラだ。2人は今日初めてここにきたのだから、予習なんてできるはずもない。
「2人は通信機の練習とか、訓練は受けたことがあるのかな?」
「それなら大丈夫だと思います。
自国で充分に訓練を積んでいましたから、通信機の使い方に大きな違いがなければ問題ないかと……」
「なるほど。
それじゃあ大丈夫そうだな」
「ちなみにポーラは、訓練の後に冷えたぶどうジュースを一気に飲むのが大好きです〜」
「いや、そういうのは聞いていないんだけど……」
「えぇー。
ちゃんとできたご褒美とか、ないんですかー……?」
「そりゃあまぁ、優秀だったら頭を撫でてあげるくらいはしても良いとは思うけどさ」
「ほほぉー……」
なんとなく答えた言葉を聞いたポーラが、なぜか霧島よりも鋭い光を目から放つ。
あれ……。 なんか俺、ミスっちゃった感じがする……?
「電……、今の聞いたかしら……?」
「ば、バッチリ聞いちゃったのです……っ!」
「先生のナデナデか……。
これはちょっと、本気を出さないといけないね」
「あ、暁は頭をナデナデしてほしくないんだから!」
先ほどよりもテンションが上がる、暁4姉妹。
「大井っち、練習が上手くできたら先生が頭を撫でてくれるんだってー」
「それって罰ゲームじゃないですか」
「あれ、そうなの?
先生に頭を撫でられると、良いことが起きるって聞いた気がするんだけど」
「私がもし先生に頭を撫でられたりしたら、虫唾が走って吐いちゃうかもしれません」
「そ、そうなんだ……」
ひ、酷ぇよ大井……。いくらなんでも、吐くはないだろう……。
「気合、入ります!」
「これはサーチアンドデストロイな案件ですね……」
両手を勢い良く合わせて大きな音を立てる比叡に、恐ろしい発言をする霧島。
つーか、通信機の練習でサーチアンドデストロイって……何をするつもりなんだよ。
「はいはーい。
やる気があるのは良いことなんですが、あまり騒がないようにしましょうね〜」
パンパンと手を叩いて子どもたちを静かにさせた愛宕が、ニッコリと笑いながら俺の方を見たので小さく頷き、用意していた箱に手を入れる。
「それでは早速、先生から通信機を受け取って下さい〜」
そして子どもたちに1つ1つ通信機を渡し、全員に行き渡ったところで再び愛宕の方へ顔を向けた。
「通信機は海上における情報伝達に重要な機器です。
これは訓練用ですけど、壊さないように扱いましょうね〜」
「「「はーい!」」」
気合が入りまくっている子どもたちが一斉に手を上げたが、大井だけはそっぽを向いたまま。
理由はさっき公言した通りだから仕方ないとはいえ、練習はちゃんとしないとダメなんだけど。
まぁ、運動会でもそこそこに優秀だったはずなんだから、授業に関して手を抜くようなことはしないと思うけどね。
……と思ったけれど、大井に対しての記憶って、蹴られたことくらいしか出てこないんだけど。
うーん、思いっきり嫌われちゃっているよな……。
「さて、それじゃあまずは、私と先生の組に分けようと思うんですが〜」
そう言って、愛宕は子どもたちを指差しながら考える仕草をする。
元々は愛宕が旗艦の役割で、子どもたち全員に通信を送りながら練習をするつもりだった。しかし、ここにザラとポーラが臨時加入したため、人数が多くなりすぎたのだ。
暁、響、雷、電、北上、大井、比叡、霧島、それにザラとポーラ。合計10人で一斉に旗艦から通信を送るのは可能だが、戻ってくるのを聞き取るには少々難しいかもしれない。
なので、子どもたちを2組に分け、愛宕を旗艦として5人、俺を旗艦にして残りの5人を受け持てば、ちょうど6人編成というキリの良い艦隊が出来上がるという寸法である。
「私を含めた5人と、先生を含めた5人に分かれ、通信の練習をします〜。
そこで、組分けは……」
「はいっ!」
「あら、雷ちゃん。
どうしたんですか〜?」
愛宕が説明をしている途中で、いきなり雷が元気よく声を出しながら右手を上げた。
「雷は絶対、先生の班にして欲しいわ!」
「抜け駆けはずるいのです!
電も同じでお願いしたいのです!」
突拍子もなく言い出した雷に感化され、電も同じように声を上げる。
いや、俺が優秀だったら頭を撫でるというご褒美を提示してしまったから、こういうことになってしまったのだろうが。
気合が入るのは良いんだけれど、これでまた騒ぎが大きくなってしまったらと思うと、少々マズイよなぁ。
「それじゃあ響も、一緒が良いな」
「あっ、暁は別に先生のことはどうでも良いんだけれど……、4人姉妹でやりたいし……ごにょごにょ」
2人手を上げれば後は芋づる式に、4人姉妹が一斉に揃う。
しかしこうなった以上、他の子どもたちも黙っていない訳で。
「もちろん比叡も先生と同じ組ですよね!」
「ずるいですね、比叡姉様。
霧島も先生と同じ組を希望します」
更には比叡と霧島も手を上げ……って、これじゃあ人数がオーバーしちゃうんだけど。
「ほぇ〜。
先生って、人気があるんですねぇ〜」
「朝礼の時に気づいてたけど、どうしてこんなに……」
間延びした感じで驚くポーラに、少し不機嫌そうな感じで呟くザラ。
どうだ。俺って人気があるんだぜ。
なんて言葉を吐く気はないが、嬉しくない訳がない。
だけど、これは時と場合によりけりであり、授業を円滑に進めるのには少々困ったことになってしまっている。
「あらあら〜。
みなさんの希望には添えたいですけど、これじゃあ1人多いですねぇ〜」
「そうだぞ。
みんなの気持ちは嬉しいけれど、6人で1組が決まりなんだからな」
ルールを守るのもまた、艦娘として大事なことである。
それをしっかりと教えるのも、教員である俺の役目なのだ。
サポート役の俺が騒ぐ切っ掛けを作ってしまったので、ぜひともここで挽回しないといけない……と思っていたところ、
「それじゃあ組を決めるために決闘ね!」
上げていた右手を胸の辺りに下ろした雷が、グッと握りこぶしを作る。
いやいやいや、いきなり何を言っちゃってんの!?
決闘って何!? 組を分けるだけで、そんなの必要ないからねっ!
「い、雷ちゃんが燃えているのです……っ!」
電の言う通り、雷の背後には炎の壁が立っているような気合を感じるものの、この状況は厄介でしかない訳で。
「雷のこの手が真っ赤に燃えているわ!」
どこのガ◯ダムファイターだよ。
「雷ちゃ〜ん」
「……はっ!?」
1人盛り上がっていた雷が、呼び声に気づいて視線を向ける。
そこにはニッコリと笑みを浮かべながらも、雷とは対称的に青く燃え盛る炎をまとっているような愛宕が立っており、
「今は授業中であって、決闘をする時間ではありませんよ〜?」
「は、はわわわわ……」
まるで電のように慌てふためいた電が愛宕の威圧感に負け、その場でへたり込むのは当然であり、
ついでに若干漏らしたのは……仕方がないことかもしれない。
授業中は騒がないように。そして、愛宕は絶対に怒らせちゃあいけない。
これ、幼稚園では大事なことだからね……と、ザラとポーラに伝えておくのは……、
「「………………」」
うん。ガタガタ震えたまま黙っちゃっているし、必要ないかもしれないね。
次回予告
2話続けて怯える子どもたち。
それでもめげずに授業は進む。しかし、先生に対するある子どもの行動は目に見えて……?
2度あることはなんとやら。
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その3「好感度は0」
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