ザラとポーラ、どの班に入れたら良いんだろう?
そして2人を子どもたちに紹介したら、案の定という訳で……。
その1「新たなイベントもいつも通りに」
リットリオの秘書艦強奪事件の翌日、幼稚園へ出勤しようとした俺の前に現れたローマから舞鶴鎮守府に所属することとなった説明を聞き、非常に驚いた。
まず、あれだけの問題を起こしたリットリオ、ローマの両名は、高雄秘書艦の計らいもあって処分なし。ぶっちゃけありえないと思うのだが、後から聞いた話だと、お返しはしたので大目に見てあげます……だそうだ。
まぁ確かに、ローマは高雄から受けた複数の打撃によって昏倒したので、お返しと言えばそうかもしれない。しかし、リットリオの方はどうなったのか、未だに分からないままである。
そして、リットリオ、ローマの2人が所属していた鎮守府の提督は、2人の不甲斐なさに怒ったのか、帰還を許さなかったらしい。
曰く、『負けた相手をギャフンと言わせるまで帰ってくるな』だそうだが、それってつまり、永久に帰れない可能性すらあるのではないかと、色んな意味で可哀相に思えてしまう。
「もちろん私もこのままおずおずと帰るつもりなんてないから、この命令はありがたかったわね。
そういう訳で、しばらくこの鎮守府で厄介になるから、挨拶にきたの」
「は、はぁ……。
それはまぁ、ご愁傷様ですと言うか、なんと言うか……」
いったいどう答えれば良いのか、サッパリ分からないのだけれど。
俺の言葉を聞いたローマが不快感を露わにしていないから、たぶん大丈夫なんだろう。
「そういう訳で、姉さんが一緒に連れてきたザラとポーラも幼稚園に通うことになったわ。
悪いんだけど、よろしくお願いするわね」
「そういうことなら、任せて下さい」
「そう。
良い返事ね」
ふぅ……と、小さく息を吐いて肩の力を抜いたローマは、ほんの少し口元を釣り上げる。
「それと、もう1つ……」
「言っておきますけど、高雄さんの弱点を教えろっていう話なら無理ですよ?」
恩のある高雄を売ることはできないと、俺はローマに前もって言っておく。
……まぁ、本音を言えば高雄の弱点なんて全く思いつかないのだが。
だがしかし、元帥の弱点ならいくらでも教えてあげるけどねー。
「そんなつもりは全くないわ。
仮にアイツの弱点を知ったとしても、正面から正々堂々と戦って勝たなければ納得できないもの」
言って、ローマは敵意を込めた視線を執務室がある建物へと向ける。
その言動は、下手をすれば戦闘狂。いわゆるバーサーカーってやつだが、ローマから感じる威圧感も伴って、思わず冷や汗をかいてしまう。
「そのためには、今までよりもハードな訓練が必要よ」
「はぁ、そうですか……」
できるだけ危ないことからは避けたい俺は、半ば力のない返事をしたものの、
「だから、先生には訓練の協力を頼もうと思っているわ」
「………………はい?」
いったい何を言っているんでしょうか。
全くもって理解できません。なんでそんな危なっかしそうな訓練を俺なんかに頼むんだろう。
ローマは艦娘であるからして、人間である俺がちょっとばかり手伝ったところで、邪魔にしかならないと思うのだが。
「なによ、その目は」
「いや、だってそうでしょう?
俺なんかがローマの訓練を手伝ったところで、足手まといにしかならないでしょうに……」
更に言うなれば、ビスマルクで懲りているからやりたくないんだけどね。
まぁ、流石にこれを声にすれば厄介事が舞い込みかねないので、固く口を閉ざした訳だが。
「そういうことなので、訓練の協力は……」
「何を言っているのかしら。
あなたは少し前に行われた、鎮守府最強トーナメントの優勝者でしょう?」
「いやいや、だからあれはたまたまというか、半ば強引に出場させられただけであって……」
「私の前で謙遜なんかしなくて良いの。
現に昨日、私の攻撃を見事に躱したじゃない」
「それは……なんというか、そのですね……」
つい数ヶ月前からほぼ毎日、ビスマルクの襲来に対応していましたなんて言ってしまったら最後、間違いなく訓練に連行されてしまいそうだ。
しかし、ここはどんな言い訳で逃げれば良いんだろうか……と思っていたところ、
「………………あっ!」
腕時計の針が、ヤバイところまで回っている。
これはつまり、久しぶりに……遅刻の危機じゃん!
「す、すみません!
幼稚園の出勤時間が迫ってきているっていうか、すでにギリギリなので!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
腕を伸ばして捕まえようとするローマをかいくぐり、俺は急いで幼稚園へと駆け出す。
「チッ……、仕方ないわね。
けど、まだ諦めた訳じゃないんだから……」
なにやら嫌な予感しかしない言葉が背後から聞こえてきたけれど、それよりも朝の会議に遅刻をしてしまう方がヤバイと思った俺は、久しぶりに鎮守府内を全力疾走することになってしまったのであった。
「さてはて、どうしましょうかねぇ〜」
スタッフルームで行う朝の会議になんとか間に合ったものの、新たな問題に直面していた。
もちろん議題はザラとポーラが幼稚園に通うことなのだが、悩む点はそれじゃない。
「2人ヲ、ドノ班ニ入レルベキナノカ……」
「普通に考えれば海外から来たんですし、ビスマルクさんの班ですよねぇ……」
「私は別に構わないわよ」
ビスマルクは全く悩む素振りを見せず、普段通りに言う。
しかし俺を含む他の教員は、揃って頭をひねらせていた。
「いや、もうちょっとよく考えるべきですよね。
俺が考えるに、ザラとポーラに相性が良い子がいる班がベストだと思うんですが……」
「前もって入園が決まっていたなら、下調べをしておくんですけど……」
「聞イタノガツイ先ホドダカラ、仕方ナイワネ……」
「しおいも同じく、ここにきてから知りましたし……」
「だから、私の班で良いじゃない」
なぜそんなに迷うのかしら……? と、若干不満げな顔のビスマルクだが、確かにしおいが最初に言った通り、ザラとポーラはパスタの国の艦娘。距離が近いことを考えれば、ビスマルクの班に入れるのが妥当だとは思えるのだが、やっぱり不安は残るのだ。
もちろんその理由は、教員の中で1番信頼が薄いからなのだが。
そりゃあもう、底辺レベルを直進中。場合によっては更に下へ潜りかねない。
なんでそんなビスマルクを教員として採用したのかと問われれば、ぶっちゃけ答えに詰まってしまうのだが、佐世保幼稚園のころから担当している以上、無碍にクビを切るなんてこともできないんだよね。
まぁ、元帥と安西提督の関係もあるだろうし。
「それじゃあ……そうですねぇ〜。
こういうのって、どうでしょうか〜」
しばらく考え込んでいた俺たちに向かって、愛宕が人差し指を立ててニッコリと笑い、説明をし始める。
「先ほどから色々と考えていましたけど、1番大切なのはザラちゃんとポーラちゃんが伸び伸びと楽しく暮らせるかどうかだと思うんですよね〜」
「確カニ、気ヲ使イスギテ窮屈ニ暮ラスノハ可哀相ダカラネ」
「その通りですね〜。
それにはやっぱり、2人と相性の良い子が誰なのかを調べる必要がありますけど、それをする時間がほとんどありません」
「そんなの、ぶっつけ本番でやれば良いじゃない。
合わないなら合わないで、面と向かってやりあえば良いだけの話よ」
過激な発言をするビスマルク。
だからお前はダメなんだ……と言いかけたところで、愛宕がパンッ! と両手を合わせた。
「ええ。
ですから、試してみれば良いと思うんですよ〜」
「「「「……へ?」」」」
俺と港湾、しおい、それにビスマルクの4人が、ぽかーんと口を開いて固まるが、愛宕は気にせず話を続ける。
いや、それ以前に、言い出したビスマルクまで固まるってどういうことだよ。
「当たって砕けろではないですけど、分からないなら試してみる。
サポートで頑張ってくれている先生と一緒に、各班にお試し加入をしちゃえば良いかと思うんですよ〜」
「ナルホド……。
ソコデ相性ノ良イ子ヲ見ツケツツ、ドノ班ガベストナノカヲ調ベルノネ」
「港湾先生、大正解で〜す」
ぱちぱちぱち〜と言いながら、拍手をする愛宕が満面の笑みを浮かべる。
確かに愛宕が説明した通り、ぶっつけ本番ではあるものの、実際に試してみれば相性は分かる。それに、ザラとポーラの2人に面識がある俺が一緒についてフォローをすれば、いきなりやってきた幼稚園という不安も少しは紛れるのではないだろうか。
それには俺の頑張りが必要不可欠ではあるが、ビスマルクの班に放り込むよりかは断然マシだ。
「若干腑に落ちない点はあるけれど、それなら納得できるわね」
そして珍しくすんなりと受け入れたビスマルクに、少しばかり関心しかけた俺だったのだが、
「つまりそれって、私の班にも先生がサポートに来るってことよね?」
言って、目をキラーンと光らせるビスマルク。
「………………」
あー、うん、まぁなんだ。
ビスマルクの班だけ、やらなくても良いんじゃないかな?
「もちろん愛宕が言った通り、全部の班を試すのよね?」
「ええ、そうですよ〜」
「……くっ」
まるで俺の心を見透かしていたかのようにビスマルクが愛宕に問い、思わず苦悶の表情を浮かべてしまう俺。
「マァ……ナンダ。
頑張レ、先生」
「……はい」
港湾に肩をポンと叩かれた俺は、大きなため息を吐きながら肩を落とすのであった。
……と、いうことで。
ザラとポーラをどの班から試すかよりも先に、やらなければいけないことがある。
「みなさん、おはようございます〜」
「「「おはよーございまーす」」」
元気良く挨拶をする子供たち。
そう、今は朝礼の時間。幼稚園にきた子どもたちが一同に集まるのは毎日の日課であり、様々な連絡をする時間でもある。
「今日は少し曇り空ですが、みなさんには良いお知らせがあります〜」
そう言った愛宕が笑ったのを見た天龍が、真っ先に声をあげた。
「おっ、このパターンは……アレじゃねえか!?」
「新しい子がきたんですかネー?」
「この前は佐世保からプリンツちゃんたちが一斉にきたから、今度は1人か2人くらいっぽい?」
盛り上がる子どもたちに思わず俺も嬉しくなる反面、若干の不安が心のよぎる。
「はいは〜い。
嬉しいのは分かりますけど、話を聞きましょうね〜」
パンパンと手を叩く愛宕の合図とともに子どもたちの声がピタリと止み、話が再開された。
「今回はパスタの国から2人のお友達がやってきてくれました〜。
みなさん、仲良くしてあげて下さいね〜」
「「「はーい!」」」
子どもたちは一斉に手を上げ、にこやかに返事をする。
しかしその中に、少し浮かない顔をしている1人の子ども。
やはり、俺の嫌な予感は的中してしまうのだというのだろうか。
いや、まだ分からない……が。
「それでは早速、部屋に入ってきて下さい〜」
愛宕が合図を送り、部屋に入る扉がゆっくりと開く。
そうして入ってきたザラとポーラが俺の前を通り過ぎ、愛宕の隣に立とうとした時に……事件は起こった。
「アッ!
アノ2人ハ昨日ノ……!」
頭についた2本の触手が天井に向かって伸び、表情を険しくするヲ級。
やはり、こうなってしまうのか……。
「おいおい、知ってるのかよ、ヲ級?」
「ウム……。
オ兄チャンニ色目ヲ使ッテイタノト、ソノ……昼間カラ飲ンダクレテイタ2人ダネ」
いつぞやの夕張のように。はたまた、どこかの塾に通う物知り学生のように、ヲ級は低いトーンで話したところ、
「なっ!?
ザラは、先生に色目なんか使っていませんっ!」
「ポーラは飲んだくれじゃないですぅ〜」
ザラとポーラが反論し、一気に子どもたちがざわつき始めた。
「また先生が新しい子に手を出したのかな……?」
「飲んだくれって、鳳翔さんの食堂にいる髪の毛がトゲトゲのお姉さんみたいな感じ……?」
またしても勝手に広がっていく俺の悪評に凹んでしまいたくなるが、隼鷹の扱いもある意味可哀相な気がする。
いやしかし、ほぼ毎日食堂で飲み明かしている隼鷹を見る機会は多いから、それもまた仕方がない。それに、ポーラも食堂で隼鷹たちと一緒に飲んだ挙句、幼稚園の前で酔っ払ったサラリーマンのようにぶっ倒れていたのは間違いないからね。
ただし1番最初のやつ、それはダメだ。
俺はザラに手を出してなんかいないし、そもそも教員としての立場をちゃんと弁えているからね。
「くっ……、また先生は新しい女を作ったっていうのかよ……っ!」
「佐世保から連れてきたのもそうでしたケド、ちょっと最近お痛が過ぎますネー……」
「これは少しばかり、釘を刺したほうが良いんじゃないかな……」
「イザトナッタラ、僕ノ触手羅漢撃デ……」
おいおいおいおい、死ぬぞ俺。
一部の……というか、いつもの子どもたちである天龍、金剛、時雨、ヲ級が、なにやらヤバイことを言いまくっているんですが。
そしてヲ級よ。マジで怖いから頭についている触手をウネウネさせるのを止めなさい。
「……マックス、どう思う?」
「先生の節操なしはいつものことだけど、いくらなんでも目に余るわね」
「しかも今回は私たちと同じ海外の……。
このままじゃあ、私の威厳が無くなっちゃいます!」
そしてビスマルク班の子どもたちも感化されてか、俺とザラを交互に睨みながら半端じゃない威圧感を放っているんですけどっ!
「ところで、プリンツに威厳って……ありましたっけ?」
「ろーちゃん酷い!?」
「そうですって?」
ある意味空気を読まないろーのおかげで若干雰囲気が緩まったものの、このままでは本当にやばいんじゃないだろうか。
ザラとポーラをどの班に入れるかの段階よりもまず、俺が今日という日を無事に過ごせるかを考えなきゃいけないんじゃないですかねぇっ!?
「なんだか先生って、とんでもない人に見えてきちゃった気がする……」
「ポーラは最初っから、怪しいと思っていました〜」
いやいや、ちょっと待って。
ポーラにそんな素振りは全くなかったと思うんだけど、今の言葉ってマジなのか!?
「あらあら〜。
みんな元気ですねぇ〜」
そしてそんな子どもたちを微笑ましく見つめる愛宕……ではなく、明らかに禍々しいオーラが見を包みだし、
「でも、今は朝礼の時間ですよ〜?」
その言葉が放たれた途端、部屋の中が静寂に染まったのはいつものことで。
……と、踏んだり蹴ったりな俺が内心凹みっぱなしで朝礼は終わったが、幸先が悪すぎる1日の予感に胃がキリキリと痛んでいましたとさ。
次回予告
いつもの朝礼ざわざわタイム。
ついでに愛宕の力を見せつけて、ザラとポーラの臨時加入を開始する。
さあ、果たして無事に授業が進むのでしょうか……?
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その2「愛宕班の通信授業」
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