赤城から詳しい話を聞き、自体を把握した一同。
そこである人物から、1つの提案がなされたが……。
「本当に……その、失礼……しました……」
赤面しながら頭を下げる赤城に、俺やザラ、ポーラは苦笑いで首を左右に振る。
炭酸飲料一気飲みによる一航戦の誇り崩壊危機をなんとか脱した……というか、どう考えてもダメだった気がするけれど、赤城の心境が持ち直したということで結果オーライ。
話を元に戻してもらうことになったのだが、どこまで聞いたんだったかな……?
「ええっと、話は確か……リットリオさんと高雄秘書艦が険悪になっているのに耐えられず、ソファーに座ろうと提案したところでしたよね?」
「たぶん、そんな感じだったと思います」
思い返しながら頷き、そこから再開してもらう。
「ソファーに座りながらお茶を飲んでいたのですが、リットリオさんと高雄秘書艦はずっと睨み合いをしていました。
書類にサインをする時も、お茶を飲んでいる時も、2人の表情は険悪のまま。
あまりにギスギスした空気にやられたのか、私の胃がキリキリと痛み出し、このままでは食事を取れなくなってしまうのではないかと焦っていた時でした……」
そう言って辛そうな表情を浮かべながら胃の辺りを右手で擦る赤城。
しかし、あえて言いたい。
めっちゃ、お菓子食ってたじゃん。
おもいっきり、炭酸飲料を一気飲みしていたじゃんと。
ただまぁ、そんな状況から席を外すこともできず、昼食を取れなかったという意味では間違っていないけれど。
「そんな中、いきなり扉が開いて元帥が帰ってきたんです。
しかもなぜか、激おこプンプン丸の様子で……」
うわまた古い。
でも、ちょっと前にも聞いたことがあるような気がします。
「ちょっと高雄!
なんでいきなり僕を逆さに吊って放置するのかな!
……と言いながら、ズンズンと私たちの方に向かって歩いてきたんです」
「……ぷっ」
いきなり元帥の真似をした赤城だが、地味に似ていて思わず吹いてしまう。
しかし、逆さに吊られていたってことは、ヲ級にポーラを探してもらっている最中に見つけた時のことだろうか。
そしてついでに青葉も一緒だったはずだけれど、それらを考えたらまっさきに浮かぶ犯人は高雄か愛宕だよなぁ……。
「するとリットリオさんが、元帥の言葉を耳にして険悪な表情を更に悪化させました。
そしていきなり、ひとこと……こう言ったんです」
『元帥に手を出したのは……あなたですね……?』
またしても赤城がリットリオの真似をするように口を開く。しかし、その時俺は上手いとか下手とかそういうのではなく、赤城の口調に背筋を凍らせた。
明らかに、リットリオには殺気があった。
真似を聞いただけにもかかわらず、すぐさまそれを感じることができたのだ。
ならば、実際その場にいた赤城や高雄、そして元帥はどう感じたのだろうか……?
「リットリオさんの質問に、高雄秘書艦は答えませんでした。
けれど代わりに、小さく息を吐きながら微笑を浮かべた瞬間に……」
赤城の身体がブルリと震える。
そして視線は倒れたままの高雄の身体に。
放置しっぱなしというのは未だにどうかと思うのだが、触れてはいけない何かがあるような気がして、そのことを口にできない俺が居る。
その時、何があったのかは、想像しかできない。
だけど、おおよその予想は……つくだろう。
実際、ザラとポーラは怯えた表情で俺を見つめており、時折リットリオへと視線を移していた。
「それから……高雄秘書艦は倒れ、リットリオさんは元帥に……その、抱きつきました……」
「ま、まぁ、今の状況を見ればなんとなく想像はつきますけど……」
なんで、よりにもよって元帥なのかと小一時間問い詰めたい。
いやまぁ、元祖スケコマシとか言われているから、あり得なくもないのだろうが。
それに今回のリットリオやザラ、ポーラの視察だって、元帥が発端な訳なんだし。
何らかの方法でリットリオと元帥が連絡を取り合い、恋仲にいたっていたというのは充分に考えられるんだろうね。
……あと、元帥の方に元祖という単語がつく理由については、問わないでいただきたい。
俺は、決して認めていなんだけれど……ね。
しかしまぁ、そうは言ってもだ。
未だイチャラブ状態の元帥とリットリオを放置しておく訳にもいかず、どうにかしないといけないのは分かっている。
だからこそ赤城は俺に連絡をよこして、ザラとポーラを呼んだのである。
しかし、いきなり子どもである2人に頼むより、俺が先に動くのがあたりまえなんだよね。
「とりあえず、俺がまず説得してきます」
「申し訳ありませんが、お願いします……」
赤城の言葉を背に受けながら、ゆっくり元帥とリットリオがイチャついている机に向かって行く。
「あははははー」
「うふふふふー」
目の前ではなぜかお花畑が浮かびそうな、妙な空気に包まれていた。
なにこれ、凄くウザい。
ちょっと幼稚園まで行って、ロッカールームからジャベリンとか持ってきてぶっ放して良いかな?
「………………」
「………………え?」
なんだか変な気がして振り向いてみたが、何も見えない。
なんとなく、倒れている高雄が右手を少しだけ上げて、親指を立てていたような気がするんだけど。
気の……せいだろうか?
うーん……。
「う……っ」
悩みながら前を向くと、リットリオが凄い形相で俺を睨んでいた。
ちょっと、マジでこれはヤバイ。ガチで殺す気満々な目なんですけど。
リットリオと元帥から半径数メートルの空間が絶対領域だと言わんばかりに、威圧感マシマシでぶつけられている気がします。
もしかして、さっきの内心……読まれてたりするんでしょうか。
……いや、しかしだ。
例えそうだったとしても、ここで引き下がるのはダメな気がする。
単なる正義感とかそういうのではなく、リットリオとは別の脅威があるような、ないような。
何を言っているのか分からないが、俺もサッパリだ。
ただ、なんとなく。
そうーー、なんとなくなんだけれど。
「元帥、ちょっといいですか?」
むしゃくしゃしたとか、そういうんじゃない何かを感じたんだよね。
「んー、なにかな先生?
僕は今、リットリオちゃんとラブラブするので忙しいんだけどー」
元帥は気だるそうな顔を浮かべたが、俺の方を見ようともしない。そんな仕草にイライラとした気持ちが胸の中に充満する。
「イチャつくのは勝手かもしれませんが、1つ言わせて下さい。
秘書艦である高雄さんが床で倒れているというのに、なんで放っておいているんですか?」
俺の言葉にリットリオの威圧感が更に増す。
だけど俺は元帥から視線を逸らさず、睨みを効かせた。
「説明して下さい。
いくらなんでも、こんなのは元帥のやることじゃありません」
「ふうん……」
目を細めた元帥は、やっと俺の方を見る。
「そりゃあまぁ、気にならないと言ったら嘘になるけどさー。
さっきまで僕は高雄のお仕置きだと言われて木に吊るされていたし、毎日フルボッコな感じで殴られているんだよ?
さすがにそんなのが続いたら僕だってちょっとばかりストレスを貯めちゃうし、たまにはこういった感じで発散させてもらわないとねー」
言って、元帥はリットリオの方を向きニッコリと笑う。
「そうですよねー。
元帥は今、私とラブラブするので忙しいんですからー」
同じくリットリオも笑みを見せるが、チラリと俺の方へ視線を向けた。
その目は決して笑ってはおらず、先ほどと同様に殺気に満ちている。
これ以上近づけば、どうするか分からない。
これ以上口を開けば、どうするか分からない……と。
そのような意思がひしひしと感じ、俺は小さくため息を吐く。
あまりのイライラ度合いに、虫唾が走るかのように。
本当にジャベリン辺りをぶっ放したい。
そんな怒りがこみ上げきて、頭より先に身体が動いてしまいそうになった時、
「先生……、ありがとうございます」
俺の背に小さな声がかけられ、間を置いて肩に手が置かれた。
赤城からの合図。それを感じた途端、俺は肩の力を落として振り向く。
そしてコクリと頷き、元帥たちから離れることにした。
「やはり、先生では説得することは難しいみたいですね……」
「すみません……」
落ち込み気味の口調で言った赤城に、俺は深々と頭を下げる。
「もともと先生にそこまで期待をしていた訳では……と言うとなにやら弊害がありますね」
「いえ、自ら言って出たのに、不甲斐ない結果で申し訳ないです……」
赤城の言いたいことは分かるが、言葉にされるとやっぱり凹む訳で。
でもまぁ、本来はリットリオと一緒に来たザラとポーラに頼みたいというのが赤城の気持ち。しかし、いきなり子供たちからというのは気が引けたので、俺が先に説得しに行ったのだが。
結果は惨敗で、不甲斐ないったらありゃしないけどね。
「リットリオを説得できるのは一緒にきた子どもたちしか無理だと思います。
勝手なお願いではありますが、お願いできないでしょうか……」
気まずそうにザラとポーラを見ながら頼んできた赤城だが、内心思うところがあるのだろう。
赤城もまた、元帥を慕う艦娘。秘書艦の高雄ならともかく、ぽっと出のリットリオといイチャついているに黙っていられる訳がない。
しかしそれでも自ら向かわないのは、リットリオの強さを目の当たりにしたのか。
それとも他に、理由があるのかもしれないが……。
「ザラ、ポーラ。
今までの話を聞いて分かると思うんだけど、2人でリットリオを説得してくれないかな?」
俺はすまないという気持ちを全面に出しながら、2人に頭を下げてお願いをする。
「うーん、それはその……分かるんですけど……」
だが、ザラの反応はイマイチで。
「そうですねぇ〜。
正直に言えば、難しいと思います〜」
ポーラは首を横に振り、お手上げだと手を上にする。
なんという無情……と、赤城は肩を落とす。
しかし、それは仕方がないことだ。いくらリットリオと同郷で一緒に来たとはいえ、2人はまだ子どもなんだから。
「リットリオはポーラほどではないけれど、結構マイペースなんです。
今までにも似たようなことがあったんですが、ザラが説得してもどうにもならなくて……」
その言葉を聞き、赤城は小さく息を吐く。
だがここで、ポーラが口を開いた。
「ねえねえ、ザラ姉様。
あの方を呼べばいいんじゃないでしょうか〜?」
ポンっと手を叩き、それが最善だと言うようにニッコリと笑みを浮かべると、ザラが少し驚いた表情を見せた。
「た、確かにそうだけど、今から呼んでも来るのは随分先になっちゃうと思うし……」
「ものは試しですよ〜」
ポーラとは正反対の、少し気まずそうなザラ。
いったいなんの話をしているのか分からないが、リットリオを説得できるのであればやってもらいたいところだ。
「先生、ちょっと電話を貸していただけないでしょうか〜」
「電話……って、コレでいいか?」
ポーラの要望に答え、ポケットから携帯電話を取り出した俺は、開けてから受渡す。
「ぴぽぱぽぴ〜」
なぜダイヤル音を口に言うのか分からないが、今は突っ込まない方が良いだろう。
「とぅるるるる〜、とぅるるるる〜」
だから、なぜに口で言うのか。
でも地味に可愛いから許すけど。
むしろ全力で。
もっとやって下さい。
「あっ、繋がりましたね〜。
もしもし〜、ポーラですよ〜」
ポーラは電話越しの相手と挨拶を交わし、なにやらゴニョゴニョとしゃべり始めた。
「はい〜、そうですね〜。
でもポーラは、ぶどうジュースなんかで酔わないですよ〜?」
それは嘘だと叫びたいが、必死で我慢する。
ザラも同じ気持ちなのか、ジト目を浮かべていた。
ううむ。気苦労の多い姉だよなぁ……。
この件が落ち着いたら、少し相談に乗ってあげた方が良いかもしれない。
でも、ザラもポーラもすぐに帰っちゃうから、それも難しいか……。
「ええ、そうです。
そういう感じで、よろしくですよ〜」
少しばかり考えていると、どうやらポーラは電話を終えたようだ。
電源ボタンを押して通話を終了させ、俺に携帯電話を返しながら答える。
「バッチリおっけーみたいです〜」
満面の笑みで、右手でピースサインを作るポーラ。
「運良く遠征で近くにいるみたいで、こっちに向かってきてくれるみたいです〜」
「えっ、そうなの!?」
驚くザラに、ドヤ顔を浮かべたポーラはゴソゴソと懐を探り、
「それじゃあ待っている間、ぶどうジュースで晩酌です〜」
晩酌って言っちゃってるんですけど。
……というか、まだ夜になっていないので、その言葉は間違っているんだけどさぁ。
まぁ、ポーラの言う通り少し待ってみるしかないみたいなので、仕方がない。
俺はザラと赤城に顔を合わせ、苦笑いをした。
次回予告
ポーラの策が功をそうするかどうか。それは、呼んだ相手が来ないと分からない。
そしてやったきた待望の艦娘は、初っ端からかましてくれちゃいました。
更には、すっかり忘れ去られていた艦娘まで大暴れで……?
艦娘幼稚園 第三部
~パスタの国からやってきた!〜 その9「新たな争奪戦?」
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