するとそこでは、とんでもない状況が繰り広げられていた……?
「なんだ……これ……っ!?」
赤城から電話で呼び出された俺は、ザラとポーラを連れて執務室にやってきた。ノックをしたが返事はなく、恐る恐る扉を開けて中に入った途端、信じられない光景を目にしたのが今の俺である。
「あれあれ〜、これはいったい、どういうことなんですかねぇ〜」
この場の状況を分かっていないポーラは、疑問を俺にぶつけてくる。
しかし、言わせて欲しい。
俺もサッパリ分からないと。
「……あっ、せ、先生!」
部屋に入ってきた俺たちに気づいた赤城が、急いで近づいてきた。
しかしその表情は……なんというか、悔しさみたいなものにまみれている気がする。
「あ、赤城さん。
こ、これはいったい……」
「お呼びだてしたのは、これが原因なんです……っ!」
言って、赤城は執務室の中央奥に鎮座する、元帥の机を指す。
「は〜い、元帥。ミルクたっぷりのカフェラッテが入りました〜」
「えへへへ……。
ありがとねー、リットリオちゃん」
「いえいえ〜、元帥のためならコレくらい、なんでもありませんよ〜」
そこには、なぜか元帥の秘書艦のように振る舞うリットリオと、ニヤニヤというよりデレデレという感じで不抜けた表情をしていた元帥がいた。
そして、更に問題なのは、
部屋の中央に、高雄がうつ伏せで倒れていたという事実である。
な、なんというカオスな空間なんだよこれは……っ!
つーか元帥! 秘書艦である高雄が倒れているのに、どうしてデレデレなんかしていられる状況なんだよっ!
更に言えばそれ以前に、木に吊られてたんじゃなかったっけ!?
「い、いったいこの部屋で、何が起こったっていうんだよ……」
「全てを説明するには時間がかかりますが……」
額に汗を浮かばせながら呟く俺に、赤城はぼそりぼそりと話し始めた。
「リットリオさんと一緒に執務室を訪ねたのですが、元帥はお留守でした。
中には高雄秘書艦が元帥の机でデスクワークをしていて、非常にお忙しそうでした」
「なるほど……」
赤城の言葉にとりあえず相槌を打った俺は、チラリと視線を横に向ける。
そんな高雄は今、床に倒れたままピクリとも動かない。
「前日のお話ではリットリオさんをここに案内し、元帥と対談と、いくつかの書類にサインなどをお願いしてから鎮守府の各施設を視察する予定でした。
しかし、その元帥が居られないというのはどうしてかと高雄秘書艦に訪ねたところ……」
『元帥は今、ちょっとした用事があって席を外していますわ。
ですので対談はキャンセルし、書類にサインを頂いてから視察を行って下さい』
「……と言われたので、そうしようかと思っていたのですが、いきなりリットリオさんが……」
『それはおかしいですね……。
ここに来る前に元帥と連絡を交わしていたので、席を外すなんて考えにくいんですけど?』
『あら、そうでしたの?
しかし現に、元帥は今ここにおられませんので……』
『へぇ〜。
どこかの誰かさんが、隠しているんじゃないですかね〜』
『………………』
「いきなり高雄秘書艦とリットリオさんが睨み合い始め、ギスギスした空気になってしまったのです……」
「な、なんでそんなことに……」
今までの話を聞く限り、いきなりリットリオが高雄に喧嘩を売った……というのだろうか?
初めて会ったときには、そんな雰囲気は微塵も感じられなかったんだけどなぁ……。
「正直、私もサッパリ分かりません。
埠頭から執務室の間、短い会話しかしていませんでしたが、いきなり豹変するような方には見えなかったんですけれど……」
どうやら赤城も俺と同じく、リットリオの変化に驚いたようだ。
想像でしかない俺と違い、すぐ側で見ていた赤城が言うのだから間違いはないだろう。
「しばらく2人の睨み合いが続いていましたが、このままの空気に耐えられなかった私は、ひとまずソファーに座りませんかと提案したんです」
そうして一旦は落ち着いた……ということらしい。
「高雄秘書艦はリットリオさんと私のお茶を用意してくれたんですが、ギスギスした感じは一向に晴れませんでした。
このままここに居るのは辛いですが、仕事をほっぽりだすこともできず、針のむしろ状態を我慢し続けていると、だんだんと……その……」
いきなり赤城の表情が曇りだし、何事かと焦る俺。
元帥とリットリオは、未だ俺たちに気づかず2人の世界に浸っている。
そして倒れたままの高雄。このまま放っておいて良いものではないと思うんだが、赤城が俺に電話をかけてきたことを考えれば、すでに救急隊に連絡をしているのだろう。
つまり、次に赤城から語られる言葉が今の状況を生み出したと思われる内容であり、深刻に受け止めなければいけないのだと、俺は真剣な表情で息を呑む。
妙な緊張が俺に襲い、ザラとポーラの表情も心無しか固いものに変わった。
ごくり……と誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえ、タイミングもバッチリと思われた時、
そんな空気は、赤城からの音で一気に変わる。
ぐぅぅぅ……。
「うぅ……。お腹が……空きました……」
「「「………………」」」
俺、ザラ、ポーラの顔が、瞬間に冷めた。
強いて言うなら白目。そして石化だろうか。
しかしまぁ、あれだ。朝のことを思い返せば、分からなくもない。
「………………あー、うん。そうでしたよね」
埠頭に向かう際にもあったが、赤城は朝ごはんを食べたにも関わらず空腹で倒れたんだった。その際は持っていたお菓子で事なきを得たが、それから今の時間まで何も食べていないとなると……、
あれ? それって、赤城が昼ごはんを抜いたってことになるんじゃあ……。
ぐきゅるるるるるるる……。
「うぁぅ……、め、めまいが……」
いつの間にか赤城の顔が真っ青になって、今にも倒れそうなんですけどっ!
「ちょっ、赤城さん!
大丈夫ですかっ!?」
「も、もうダメです……限界です……」
「傷は浅いぞ、しっかりしろ!」
衛生兵を呼びたくなるが、ここでそれを叫んでも意味がない気がする。
「私が死んだら……加賀さん……に……」
「そのネタ朝もやったから!
もう流石にめんどくさいからっ!」
なにげに酷い気もするが、状況が状況なだけに仕方がない。
確か、朝にあげたお菓子以外にも……とポケットを探る。
がさごそがさごそ。
今日はザラとポーラが来るということで、念のためにお菓子を色々と用意して持っていたのだ。
朝の段階で大半を赤城にあげてしまったが、まだ残りはあったはず。
おっ……発見。
「赤城さん!
これでひとまず……」
俺は声をかけながら、お菓子の箱についているフィルムを剥がす。
「……っ!
こ、この香りは……1粒300メートル!」
がばっ! と身を起こした赤城は、目を光らせて俺が持っているお菓子の箱を凝視した。
いや、なんでフィルムを取っただけで香りが分かるんだろう。
色々とツッコミたいが、ここは我慢……だよな。
「と、とりあえず1粒どうぞ……」
「いただきますっ!」
俺からお菓子を受け取り、素早く口に放り込む赤城。
もっちゃもっちゃもっちゃもっちゃ……ごくん。
「せ、先生!
追加をお願いします!」
「早っ!
舐めるんじゃなくて、めっちゃ噛んでたよこの人!」
お腹が減っていたことを考えれば分からなくもないが、いくらなんでも速すぎやしないだろうか。
しかし、目が血走っている赤城に逆らうのはちょっと怖いので、箱に残っている分を全部渡す。
「これは……もちゃもちゃ……すごく……もちゃもちゃ……甘いです……」
箱に入っていた残りの全部を口の中に放り込み、口を動かしながら感想を語る赤城。
正直行儀が悪いので黙って食べなさいと言いたい。
だが、これだけだと喉が渇きそうだと思った俺は、先ほどからどうして良いのか分からないといった風に佇んでいるザラとポーラに声をかける。
「ちょっと質問なんだけれど、飲み物を持っていたり……しないかな?」
「私はもう全部飲んじゃいましたねぇ〜」
両手を広げてアメリカンなジェスチャーをするポーラ。
そりゃあまぁ、幼稚園の前であれ程の飲み物容器を散乱させてりゃ、そうなるわな……。
つーか、あの量をどこに隠し持っていたんだよ。
「ポーラ用のトラップならいくつかありますけど……」
そう言って、ザラはポーラを起こすために使ったぶどう味の炭酸飲料を俺に渡してくれた。
トラップだったんかい。
というツッコミは心の中でしておき、ありがとうと礼を言ってから赤城に差し出す。
「ほら、赤城さん。
喉を詰まらせないようにこれで……」
「もちゃもちゃ……ごくん。
ありがとうございますっ!」
俺が言い終えるよりも速く、炭酸飲料を奪った赤城がキャップを開けた。
「あっ、それは炭酸ですから一気飲みは……」
「んぐっんぐっんぐっんぐっ……」
「ちょっ、俺の話を全く聞いていない!」
「んぐっんぐっんぐっんぐっ……ぷはーーー、もう一杯!」
「完全に一気飲みだーーーっ!」
あえて言おう。2リットルのペットボトルであったと。
つまりそれを一気飲みしたってことは、間違いなく……、
………………。
…………。
……あれ?
「あ、赤城さん。
大丈夫なんですか……?」
「何がですか?」
「い、いや、2リットルの炭酸飲料を一気飲みしたら、普通はその……」
ゲップが……、しかも、特大レベルで……出るはずなんだけど。
「先生。私をいったい、誰だと思っているんですか?」
「それは……その、赤城さんですよね?」
「ええ、そうです。
舞鶴鎮守府で第一艦隊の旗艦を務める、一航戦の赤城ですよ」
「それは存じてますけど……」
どちらかと言えば、ブラックホールの片割れという方が大きい気がするが。
「そんな私が2リットル程度の炭酸飲料を一気飲みした程度で、はしたない姿を人前で晒してしまうなど……」
……と言ったところで、赤城の言葉がピタリと止まる。
「………………?
あ、赤城……さん」
「………………」
な、なにやら、プルプル震えている気がするんですけど。
「だ、大丈夫……ですか……?」
「………………え、ええ……、だいじょう……です……」
「いや、どう見てもそうは……」
「……けぷっ」
「………………」
あるぇー?
何だか今、可愛らしい声が聞こえた気がするんですけどー?
そしてめっちゃ我慢している表情と一緒に、頬の辺りが赤く染まってきたんですけどー?
「い、今のは、そ、その、気のせいで……けぷっ」
「………………」
ジト目を浮かべる俺だが、内心では「何これ可愛い」と連呼しまくってます。
やばいこれ。ビデオかなんかで動画に撮りたい。
「い、一航戦の……けぷっ、ほ、ほこり……けぷっ」
「ぷ……ぷぷ……」
「こ、こら、ポーラ。
それは失礼に……ぷぷっ」
「ザ、ザラ姉様こそ……うぷぷ……」
顔を真っ赤にさせながらも弁明しようとする赤城に、ザラとポーラが笑い出しそうになるのを必死でこらえていた。
もちろん俺も、同じく笑わないようにと我慢しているわけで。
だがしかし、あえて言おう。
完全に話が、逸れちゃっています。
リットリオと高雄がどうなったのか、未だに分かっていないんですけど。
とりあえず赤城が一航戦の誇りとやらを取り戻せるまで、待つしかないのかなぁ……。
次回予告
話が逸れていましたが、なんとか戻しまして。
赤城から詳しい話を聞き、自体を把握した一同。
そこである人物から、1つの提案がなされたが……。
艦娘幼稚園 第三部
~パスタの国からやってきた!〜 その8「切り札」
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