艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開催中です。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。



 いつの間にか居なくなっていたポーラに驚いた先生とザラ。
2人が鎮守府内を駆けずり回って探そうとしたところで、またしても新たな火種が……?


その5「エンカウント」

「どこだ……、どこにいるんだ……っ!」

 

 ザラの手を掴んだまま鎮守府内を走り、何度も辺りを見回した。しかし、目当てのポーラは見つからず、少し疲れも感じてきたので足を休めようと立ち止まった。

 

「先生、ごめんなさい……」

 

 すると背後から小さな声が聞こえてきたので振り返り、視線を落とす。

 

「ザラが悪い訳じゃないよ」

 

「いえ、私が先生にポーラのことをちゃんと伝えてなかったのが悪いんです……」

 

 目を伏せ、今にも泣き出しそうになるザラ。

 

 そんなザラを放っておくことはできるはずもなく、俺は頭のてっぺんを優しく撫でた。

 

「………………」

 

 ザラは上目遣いで俺を見る。そして小さく深呼吸をしてから口を開き始めた。

 

「ポーラは放浪癖があって、いつも大変なんです……。

 気づいたらどこかに行っちゃってるとか、目を盗んでぶどうジュースをいっぱい飲んじゃうとか……、色んな人にご迷惑をかけまくっちゃって……。

 今も先生に大変な思いをさせてしまい、本当にごめんなさい……」

 

 肩を落とすザラに俺は言葉をかけず、微笑みながら頭を撫で続けた。

 

 落ち込まなくて良いんだよ。ポーラは俺が絶対に探し出すから。

 

 その気持ちを目に込めて、ザラに投げかける。

 

「………………ありがとう、ございます」

 

 するとザラはボッ……と頬を赤くしたと思ったら、いきなり視線を逸しながらそう言った。

 

 あれ……?

 

 もしかして、なんか違う意味が伝わっちゃっていないかなぁ……?

 

 ザラは背中に両手を隠し、モジモジとしているような感じなんだけれど。

 

 まるで天龍が隠し事をしているような、金剛がバーニングミキサーを放つ少し前の行動のような。

 

 非常に嫌な予感ではないと思うが、あまりいい感じではない……気がする。

 

 いや、しかしだ。

 

 今はポーラの行方を探すのが1番であり、このままだとザラが可哀相かつ俺の立場が非常に危うい。

 

 完全に監督不行届は確定で、減俸どころかクビって可能性もあり得るのではないだろうか。

 

「まずい……、まずいぞ……」

 

 ザラに聞こえない大きさで呟いた俺は、どうにかしてポーラの行方を探し出さなければと頭の中で色んなことを考えた。

 

 必要なのは、目撃者を探すこと。ポーラは舞鶴に普段いないから、見かけた人や艦娘なら記憶に残るはずだ。ならば、その目撃者を1人でも探し出すことができれば、ポーラがいる場所に1歩近づくはずである。

 

 しかし、ここで俺の不幸がフルで発揮されているのか、鎮守府内を駆けずり回っていてもほとんど誰にも会わないのだ。

 

 時間帯を考えれば休憩はまだ少し先なので、多くは建物内にいる可能性が高いだろう。だが、ポーラがその建物の中に入っていない限り、見かける可能性は限りなく少ないはずなので、効率的には悪くなってしまう。

 

 だからこそ、俺は鎮守府内で大きい道を選び走っていたのだが、ここまで誰にも会わないってのは……やっぱり不幸なのかなぁ。

 

「先生、大丈夫……ですか?」

 

 無意識に肩を落としていたのか、ポーラが心配そうに俺の顔を見つめてきた。

 

「あ、あぁ。

 ポーラの居場所を探し出す方法を考えていたんだけれど、良い案が浮かばなくってさ……」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 再び悲しそうな顔になるザラに、俺はしまったと顔を覆いたくなった。

 

 せっかく慰められたのにと思ったのに、すぐ悲しませてしまうなんて、なんて俺はバカなんだ。

 

 穴があったら入りたい。いや、むしろ自分で自分を殴りたい……と思っていたところで、いきなり聞き覚えのある声がかけられる。

 

「アレ、オ兄チャン……ドウシタノ?」

 

「この声と呼び方はヲ級……か?」

 

 声がした方に視線を向けると、予想通りの姿が目に映った。

 

 小さな身体に似合ぬ大きな頭の艤装。間違いなくヲ級だ。

 

「ヲッス、オラヲキュ……ン?」

 

 いつぞやに聞いた挨拶をしようとしたヲ級が、急に言葉を止める。

 

 そして視線は俺から少し逸れ、ザラの方へと向けられた。

 

「コノ子……誰?」

 

「ひっ!?」

 

 おいおいおいっ、なんでザラにいきなりメンチを切っているんだよ、お前は!

 

「ヲヲヲヲヲ……」

 

 しかもスタンドを出しそうなポーズを決めながら移動して……って、どうやってるんだよ!?

 

「コレゾ、ヲ級立チ!」

 

「勝手に人の心を読んだ挙句、意味の分からない答えを言うんじゃない!」

 

「アベシッ!」

 

 当然ながらのツッコミと、膝が震えて怯えるザラが可哀想ということで、艤装の上から拳骨を1発御見舞する。

 

「マダダ、マダ終ワラン……」

 

「教育的指導!」

 

「フギャッ!」

 

 2発目の拳骨を放ったところでヲ級が涙目を浮かべ、ポーズを解除する。

 

 そんなヲ級の頭をガッシリと掴み、ザラに頭を無理やり下げさせた。

 

「謝りなさい」

 

「ナ、ナンデ……」

 

「初めて会う子にメンチ切って怯えさせたお前が悪い」

 

「ダ、ダケド、オ兄チャンガ、マタ新シイ子ヲテゴメニ……」

 

「事実無根な発言は控えるべきだが分かっているのかな?」

 

「ヴッ……」

 

 ヲ級の顔を覗き込み、ガン見モードになった俺。

 

「ゴ、ゴメンナサイ……」

 

 うんうん。これで一見落着だ。

 

 ただ、なんというか、ザラの怯える目が俺の方に向いていた気がするけれど、気のせいだということにしておきたいです。はい。

 

 

 

 

 

「……ソレデ、オ兄チャンハソノ子トイッタイ何ヲシテイタノ?」

 

「あっ、そ、そうだった!」

 

 ヲ級に言われてポーラのことを思い出した俺とザラは、無意識のうちに辺りを見回してみる。

 

 ………………。

 

 やっぱり、この付近にポーラの姿は見当たらない。

 

 ヲ級が現れたことで時間をロスしてしまった。ポーラがウロウロと動き回っていたのならば、距離が離れてしまった可能性が高いかもしれない。

 

「あ、あの……」

 

 焦る俺の横にいたザラが、恐る恐るヲ級に問いかける。

 

「私と同じくらいの背で、グレーの髪色をした子を見かけませんでしたか……?」

 

 膝を少し震わせながらもポーラの居場所を聞こうとする姿に、ある意味感動すら覚える。

 

 だが、しかし。

 

 相手は、残念ながら、ヲ級なのだ。

 

「ソレッテ、オ兄チャンノ新シイ……ナンデモナイデス」

 

 半ば予想していた発言内容に、俺は眼力という名の威圧感で黙らせながら、ヲ級の頭をポンポンと叩く。

 

 さっき指導したばかりなのに、本当にヲ級は懲りないやつである。

 

 まぁ、分かっていたからこそ言葉を途中で遮ることができたんだけれど。

 

「ザラと同じ服を着て、髪はウエーブがかかっている子だ。

 鳳翔さんの食堂までは一緒だったんだが、気づいたらどこかにいなくなってしまってな……」

 

 俺はザラの言葉に追加する形で、ヲ級に問う。

 

「ウーン、僕ガココニ来ルマデニ、ソンナ子ハ見カケナカッタケド……」

 

 腕を組むヲ級はしばらく考え込んだあと、急にポンと手を叩いた。

 

「モシ良カッタラ、探シテアゲヨウカ?」

 

 そう言ったヲ級だが、なぜ俺の方を見ながらニヤニヤしているんだろうか。

 

「本当ですか!?

 ぜひお願いします!

 それじゃあ今から手分けして……」

 

 ザラは驚いた後、喜ぶ顔をしながら今にも走り出そうとせんとしたところで、

 

「イヤイヤ、ソノ必要ハナイヨ」

 

「ふえっ!?」

 

 触手をザラの前に伸ばし、動きを強引に止めた。

 

「マァ僕ニ、任セテオキナヨ」

 

 ヲ級が両手を広げて万歳をすると、ブイイイン……と駆動音を立てる小さな艦載機が頭上に出現する。

 

「わ、わわっ、凄いです……」

 

「お、おい、ヲ級!」

 

 ザラの動きを止めた触手をそのままに、慌てて止めようとする俺へヲ級が手を突き出す。

 

「鎮守府内ニオケル偽装ノ使用ハ禁ズル……デショ?」

 

「ああ、その通りだ。

 だからお前が出した艦載機を使うのは……」

 

「問題、ナイサーーーッ!」

 

 いきなり大声をあげるヲ級……って、いや、なんで大◯ライオン?

 

 ちなみにそれ、過去にレ級もやってたよね?

 

「僕ハ特別ニ許可ヲ貰ッテイルカラ、艦載機ヲ使ッテモ平気ナンダヨネー」

 

「………………は?」

 

 そんな話、初耳なんだけど。

 

 俺にそんな嘘を言って、誤魔化そうとしているんじゃないだろうな……?

 

「ソノ疑心暗鬼ミタイナ目デ何ヲ考エテイルカ丸ワカリダカラ言ッテオクケド、チャント高雄オ姉サンカラ許可証モ貰ッテイルヨ」

 

 そう言ってヲ級が懐から出した紙を受け取った俺は目を通す。

 

『許可証

 ヲ級の艦載機を鎮守府内で使用することを許可する。

 使用目的は主に偵察。元帥の暴走行動が見受けられた際、即座に秘書艦である高雄、もしくは幼稚園の愛宕に連絡すること』

 

「………………」

 

 確かに……、許可を与えられているが……。

 

「………………マジか」

 

 高雄さん……、そして元帥ェ……。

 

 色んな意味でツッコミどころが満載だが、今はこれが役に立ちそうということなので、目をつむっておくしかないのかなぁ……。

 

 いや、一応舞鶴鎮守府のトップである元帥の秘書艦が許可を出しているんだし、俺がどうこうできる話じゃないんだよね。

 

 つーか、1番与えたらダメなやつに許可を出しちゃってるってことを、高雄は理解しているんだろうか。

 

 ………………。

 

 俺のプライバシー、完全に無くなっちゃっているんじゃないのか……?

 

「ソレジャア、偵察機ヲ発艦サセルネ」

 

 それについて非常に気になるものの、今はポーラを探すことが先決だ。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 ならばヲ級がやる気になってくれている内が勝機だと、俺はコクリと頷く。

 

「チナミニ確認ナンダケド、ウエーブカカッタグレー色ノ髪デ、僕タチト同ジ子供ナンダヨネ?」

 

「ええ、その通りです。

 ポーラは私の妹ですから、服装も同じです!」

 

 そう言ったポーラが、アピールするように両手を広げた。

 

「フムフム……、スタイルハ普通……ト」

 

「うえっ!?」

 

「お前はいったい何を考えているんだよ……」

 

「イヤ、見ロッテ言ワレタラ見ルデショ?」

 

「時間と場合を考えてから行動しろよな……」

 

「何ダカ金剛ト同ジコトヲ言ッテイル気ガスルケド、マァドウデモイイカ」

 

 いや、よくねえよ。

 

 心の中で突っ込んだ俺をよそに、ヲ級が艦載機を発艦させようと触手を構える。

 

「ヲッ、ヲッ、ヲッ、ヲヲヲー、ヲヲーヲヲッヲ、ヲー、ヲヲー、ヲヲヲー、ヲヲヲー……」

 

 鼻歌を歌いながら空を見つめるヲ級だが、どこかで聞いた感じの音楽だなぁ。

 

 結構古い洋画で流れていたような気がするが、どちらかといえば最近聞いたような……?

 

「パンツァー、フォー!」

 

 言って、頭の艤装から艦載機が飛び立っていった。

 

 ………………。

 

 うん、分かった。

 

 さっきの曲は、女学生が戦車で戦ったりするアニメの曲だ。

 

 でもどうして自分が関係している戦艦とかの方向じゃなかったのかと気になってしまうのだが、今は捜索に集中させるためにもツッコミは避けた方が良いだろう。

 

 ちなみに俺はそのアニメが大好きで、映画の方もバッチリ見たんだけれど。

 

 ただし、初見は最終話です。色んな意味でへこんじまったぜ……。

 

「ヲッ、発見シタヨ」

 

「本当ですかっ!?」

 

 若干落ち込み気味だった俺だが、ヲ級が艦載機を発艦させて数分もしないうちに発見したようだ。

 

 珍しく有能だが、明日は雨が降るんじゃなかろうかと思ってしまう。

 

「そ、それで、ポーラはどこに!?」

 

 ポーラが問いかけると、なぜかヲ級が眉間にシワを寄せながらこちらを向く。

 

 そして、ゆっくりともったいぶるように口を開くのであった。

 




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次回予告

 ヲ級の力を借りて最初に見つけた者はどうでも良かったりしたが、なんとかポーラを発見する。
ただし、その状況はあまりにも……であった。


 艦娘幼稚園 第三部
 ~パスタの国からやってきた!〜 その6「怠惰の嵐」


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