艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開催中です。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。


 鳳翔さんの食堂で昼食を取る3人。
先生は遠い国からやってきた2人にプレゼントとして、スペシャルなランチを予約していた。

 おいしい料理に舌鼓で、うまくいったと思いきや、やっぱり何事も起きないなんて保証はなく……?


その4「新たな火種?」

 

「お待たせしました。

 ご予約いただいてました、スペシャルランチセットになります」

 

 ぶどうジュースを飲みながら待っていたところで、千歳がお盆に乗せた3つの大きなプレートを持ってきて、テーブルの上に置いた。

 

「ほわ〜……」

 

「す、すごい……」

 

 四角い形の大きなプレートは凸凹があり、ご飯やおかずがところ狭しと並べられている。それら見たポーラとザラが、目を真ん丸にさせて驚いていた。

 

「見たことのない料理がたくさんありますねぇ〜」

 

「ど、どれも美味しそう……」

 

 ポーラの口からジュルリとヨダレがたれてきたが、料理に集中しているためか全く気づいていない。こういうときはザラが怒る場面だろうけれど、どうやら同く料理に目を奪われているようだ。

 

「それじゃあごゆっくりお召し上がり下さいね」

 

「はい。

 ありがとうございます、千歳さん」

 

「いえいえ。

 ジュースのおかわりが必要でしたら、またお声掛け下さい」

 

 言って、千歳は頭を下げてから踵を返し、厨房へと戻っていった。

 

「う〜ん……、どれから食べるか……迷っちゃいますねぇ〜」

 

「………………」

 

 両手を胸の下で組み、メトロノームのように頭を左右に動かしながら考えるポーラ。

 

 大してザラは真剣な表情で料理を見つめながら、こちらも考えているようだ。

 

「考えるのは分からなくもないけれど、冷めちゃう前に食べた方が良いと思うよ」

 

「はっ、そうでした!」

 

 俺の言葉に我を取り戻したザラが顔を上げたのだが、

 

「もぐもぐ……。

 う〜ん、美味しいですねぇ〜」

 

 気づけばポーラがすでに食べ始めており、それを見たザラが大きなため息を吐きながら、拳をテーブルの上でプルプルと震わせていたのはお約束だった。

 

「それじゃあまぁ、いただきます」

 

「い、いただきますっ!」

 

 苦笑を浮かべつつお箸を持った俺は、そのまま合掌して食べ始める。

 

 同じようにザラもお箸を持ち、いくつもある料理に目移りしてからだし巻き卵を選んだ。

 

「……っ!」

 

 口に入れてひと噛みした瞬間、ザラの目が大きく開かれる。

 

「こ、これは……すごい……っ!」

 

 ザラの反応に思わず釣られた俺も、だし巻き卵を口に入れた。

 

 ふっくらと柔らかい食感。ひと噛みすると溢れ出す大量のだし。鰹と昆布の香りが鼻腔をくすぐり、口の中いっぱいに解けていく卵の欠片。

 

 まさに至高の一品といえる出来に、毎日ここで食事を取っている俺であっても感動してしまう。

 

「ザラ姉さま〜。

 この四角いお肉、と〜っても美味しいですよぉ〜」

 

「四角いお肉……って、これね」

 

 そう言って、ザラがお箸でつまんだ豚の角煮を口に入れる。

 

「……っ、な、なにこれ!」

 

 再び驚くザラ。モグモグと口を動かすにつれ、非常に嬉しそうな顔になっていく。

 

「ものすごく柔らかくって、口の中でとろけていく……。

 味付けはちょっと濃いめだけれど、ライスと一緒に食べたらたまらないです!」

 

 角煮、ごはん、角煮、付け合せの大根、ごはん……と、次々に口の中に入れて満面の笑みをこぼすザラ。

 

「この濃い味がぶどうジュースと非常に合いますねぇ〜……グビグビ」

 

 そしてポーラはご飯の代わりにジュースを……って、

 

「コップじゃなくて、瓶を持って一気飲みしてるーーーっ!?」

 

 行儀が悪いとかそういうのじゃなくて、完全にやってることが酒飲みと変らないよっ!

 

「このお魚も独特な風味だけど、とっても美味しいです!

 これはライスが進む……って、もう残りが少ない……」

 

「本当ですぅ〜……って、ジュースが切れました〜。

 おかわりお願いします〜」

 

「あ、私もライスのおかわりをお願いします!」

 

 2人はサワラの西京漬けをパクパク食べながら、ザラはライスを、ポーラはついにジュースのおかわりを頼みだした。

 

 ……うん。分からなくはない。

 

 だって、鳳翔さんの料理はどれも絶品だからね。

 

 特製のスペシャルランチという、普段出ていない予約料理を初めて食べたとなれば、こうなってしまっても仕方がない。ある意味俺の狙いは間違っていなかったんだけれど、ここまで喜んでくれているというか、大騒ぎになってしまうとは思わなかった。

 

 あと、ついでなんだけれど、2人ともお箸の使い方が上手いよなぁ。

 

 ……とまぁ、現実から目をそらすかのような思考が頭によぎりながら、俺は苦笑しつつプレートの料理を食べていく。

 

 だし巻き卵に豚の角煮、さわらの西京漬けと筑前煮。わかめと豆腐の味噌汁。これらの和食が揃っているだけではなく、プレートにはまだ他の料理が並んでいた。

 

「このお肉とピーマンに……シャキシャキしたお野菜みたいなのが入ったのも、すごく美味しいっ!」

 

 それはチンジャオロース。中華料理の一品だ。

 

「マカロニをマヨネーズで和えたサラダも、ジュースが進みますぅ〜」

 

 たしかにポーラが言う通り、マカロニサラダも美味い。粗挽きの黒胡椒に細かく刻んだチーズ、人参とタマネギのスライスが調和して、見事な完成度を醸し出しているな。

 

「鳥を揚げたものに3つのソースだなんて、なんて贅沢なんですか!」

 

 マヨネーズにチリソース、大根おろしポン酢の唐揚げ3種盛り。これはマジでご飯が進んじゃう美味さだ。

 

「野菜を細切りにした甘辛い味のやつも、絶品ですねぇ〜」

 

 それはきんぴらゴボウだな。若干味が濃い目なのは豚の角煮と同じだが、ご飯のお供には完璧すぎる一品なんだぞ。

 

 そういえば昔、戦時中の捕虜にごぼうの料理を出したら木の根っこを食べさせられたという虐待行為だというのがあったが、どうやらザラもポーラも大丈夫みたいだ。ごぼうは日本以外であまり食さないらしく、漢方に使うだとか。

 

 さすがは鳳翔さんの料理だぜ……と再認識したが、ザラとポーラのテンションは一向に冷めやまない。まぁ、美味しい料理を前にした幼稚園の子どもたちを見てきている俺にとっては、あまり驚くことでもないんだけれど。

 

 他のテーブルに料理を運んでいる千歳も2人を微笑ましく見ているし、あまり大きく騒がなければ問題はないだろうと、俺もを楽しむことにした。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 前言撤回させてもらってもいいだろうか。

 

 ザラの前には料理があるが、その横には空にしたプレートとどんぶり茶碗が積まれている。

 

 計算すれば、プレートは5枚。どんぶり茶碗はすでに8杯にいたっていた。

 

 対してポーラの前には空にしたプレートもどんぶり茶碗もない。しかし代わりに、ぶどうジュースの瓶が7本あり、ビールの小瓶が5本立っていた。

 

 明確にはビールじゃなく、こどもびーるなんだけれど。

 

 それにしたって、食べ過ぎ&飲み過ぎでしょうが!

 

 気づけばザラの正面には青い袴の一航戦である加賀が、対抗するかのごとく食べ終わったお皿とどんぶり茶碗を積み重ねているし、ポーラの飲みっぷりに感銘を受けたかのように隼鷹や那智が現れて飲み始めているんだけれど、いったいどうしてこうなったのかと改めて問い詰めたい。

 

「美味しい……美味しいです!」

 

「子どもなのにこの食べっぷり……、これは負けられません」

 

 まるで大食い競争のように食べ続けるザラと加賀。

 

「ふぃ〜、まりゃまりゃ飲めまゃすよぉ〜」

 

「ひゃはははっ!

 このお嬢ちゃん、良い飲みっぷりだなぁ〜」

 

「うむ。

 大きくなったら、さぞ楽しい飲み会ができるに違いない」

 

 真っ赤な顔でこどもびーるを飲むポーラに、一升瓶を片手に笑う隼鷹。そして何度も頷きながらお猪口で日本酒を飲んでいる那智。

 

 完全に溶け込んじゃっているのは悪いことじゃないんだけれど、それにしたってやり過ぎじゃないんですかねぇ!?

 

 それとポーラ、マジでそのジュースにアルコールは入っていないんだよな……?

 

 完全に呂律がまわっていないし、今にもぶっ倒れそうに見えるんだけど!

 

「すみませーん。

 ライスのおかわりをお願いしますー」

 

「……末恐ろしい子ね。

 だけど、ここは譲れません」

 

 ザラと加賀が2人揃ってどんぶり茶碗を持ちながら千歳を呼ぶ。すると厨房から申し訳なさそうな顔をした鳳翔さんが現れた。

 

「すみません……。

 申し訳ないのですが、ご飯が無くなってしまいました。

 新しいのもまだ炊けていなくて……」

 

 そう言って、両手を合わせながら頭を下げる鳳翔さん。

 

「そう……ですか……」

 

「まだ食べられますが、それなら仕方がないですね……」

 

 残念そうに肩を落とすザラと加賀に、鳳翔さんはもう1度頭を下げた。

 

 しかしまぁ、それもそうだろう。

 

 俺がザラとポーラをこの食堂に連れてきたのは、昼食のピーク時間を過ぎてから。つまり、ランチタイムを見据えた飯の在庫は少なかっただろうし、ザラがここまで食べるとは夢にも思っていなかったのは俺だけではないだろう。

 

 ましてやそこにブラックホールコンビの片割れである加賀が加われば、ご飯が枯渇してしまうのはもはや必須。今までよく保った方だと、厨房の3人を褒めても良いのかもしれない。

 

「まぁでも、お腹もそこそこ膨らみましたから大丈夫です。

 それと、美味しい料理をごちそうさまでした!」

 

 椅子から立ち上がったザラは、鳳翔さんに深々と頭を下げてお礼を言う。

 

「いえいえ、お粗末さまでした。

 今度はしっかりとご飯を炊いておきますので、また来て下さいね」

 

「はい!

 今度はいつ来られるかわかりませんけど……、よろしくお願いします!」

 

 ニッコリと答えるザラに、鳳翔さんの顔もほころぶ。

 

 なんだかんだあったが、良い昼食になった……と俺は胸を撫で下ろしたんだけれど、

 

「………………あれ?」

 

 ふとポーラのことが気になって顔を向けたところ、全く姿が見えないんですが。

 

 あれかな。トイレにでも行っているんだろうか?

 

 テーブルの上には2桁になるジュースの瓶があるし、よくもまぁ飲めたもんだと呆れるどころか関心さえしてしまう。

 

 これが全額俺のおごりだったらと思うと背筋が凍ってしまいそうだが、今回は視察なので費用は全部元帥持ち。

 

 そうーー高雄から聞いたと愛宕が言っていたので、俺は全く気にしなくても大丈夫だよね。

 

「ふぅー……」

 

 鳳翔さんが厨房に戻っていくのを見送ったザラが席に座り、お茶のコップに口をつける。改めて積まれているプレートとどんぶり茶碗の数を見ると、これで満腹じゃないのかと冷や汗が出るのだが。

 

 食べるザラに飲むポーラ。パスタの国の艦娘は、胃袋が特殊なんだろうか。

 

 そうなると、2人を連れてきたリットリオもやっぱり……?

 

 ………………。

 

 まさか、両方だったりするのだろうか。

 

 うむむ……。想像すると色々と怖いので、考えない方が良いんだけれど……、

 

 だけどリットリオは今、赤城と一緒にいるんじゃなかったっけ……?

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 元帥の財布、轟沈確定じゃね?

 

 まぁ、自業自得だから仕方ないよね。

 

「……あれ?」

 

「ん?」

 

 ふと声を出したザラがキョロキョロと辺りを見回す。

 

「あの……先生。

 ポーラはどこに行ったんですか?」

 

「これだけいっぱいジュースを飲んだんだから、トイレだと……思うんだけれど」

 

 俺はそう言いながらトイレの方を見る。するとちょうど1人の女性が、トイレのドアを開けて中に入っていった。

 

「……え?」

 

 鳳翔さんの食堂は男女別のトイレがある。しかしそのどちらもが1人しか入れない小さな個室型であり、女性が中には入れたというのであれば……、

 

「トイレじゃ……ない?」

 

「えっ、そ、それじゃあポーラはいったい……?」

 

 慌てだしたザラが席から立ってポーラを探し始める。食堂内に人や艦娘はまばらで、パッと見渡せば姿を見落とすことはないはずだ。

 

 俺も同じくポーラを探すが、姿は見当たらない。

 

 これってマズイ……よな。

 

「じゅ、隼鷹!

 さっきまでこの席にいた小さな子どもを見なかったか!?」

 

「んあー?」

 

 俺は慌てて隼鷹にポーラの居所を聞く。しかし、かなり出来上がっているのか、隼鷹の目はとろんとしていて呂律もまわっていない。

 

「そういえば〜……いなくにゃってりゅねぇ〜」

 

 言って、手に持った一升瓶に口をつける隼鷹。

 

 あかん。これ完全に酔っ払いや。

 

 こんな状態じゃあ、ろくな情報も……

 

「さっきの子なら、ジュースの瓶を片手に食堂から出ていったぞ?」

 

「そ、それは本当ですか!?」

 

 クイッとお猪口に入っている日本酒を飲み終えた那智が、俺の方を向きながら教えてくれた。頬が少し赤いものの、言葉はハッキリとしているので信憑性が高そうだ。

 

「それじゃあ、ポーラは1人で外に……っ!?」

 

 那智の言葉が聞こえていたのか、驚いたザラが俺に駆け寄ってくる。

 

「くそっ、どうして勝手に……っ!」

 

 俺はザラの手を掴むと、急いで入り口へと走り出す。

 

「鳳翔さん、千歳さん、ごちそうさまでした!

 伝票は元帥の方へお願いします!」

 

「ええ、分かってますよ」

 

「またいらして下さいね」

 

 俺の背に声をかけてくれた鳳翔さんと千歳に手を振り、引き戸を開けて外へと出る。

 

「ちょっと、千代田にはなんの言葉もないのっ!?」

 

 なにやら苦情らしき声が聞こえたけれど、気にしないでおこう。

 

 どうせ夕食のときにでも会うんだろうし。

 

「ポーラ……」

 

 それよりも、今はポーラを探すことが先決である。

 

 心配そうな顔を浮かべるザラの手を引きながら、できるだけ早く見つけなければと鎮守府内を駆け回り始めるのであった。

 




 長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開催中です。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。


次回予告

 いつの間にか居なくなっていたポーラに驚いた先生とザラ。
2人が鎮守府内を駆けずり回って探そうとしたところで、またしても新たな火種が……?


 艦娘幼稚園 第三部
 ~パスタの国からやってきた!〜 その5「エンカウント」


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