しかし、ここに呼び出された本題には入っていないが、なんとなく予想はつきそうで……。
休日の朝……というよりかはもう昼前だったが、いきなり部屋に押しかけてきたしおいに連れられて、やってきたのは調理準備室。
そこでは俺を出迎えてくれた天龍、時雨、雷、電、金剛、ヲ級、比叡、霧島の8人がいて、エプロン姿に身を包んでいた。
もちろん、ヲ級が言うような裸エプロ……は断固拒否。どうせなら愛宕にやってもらいたい……って、自重しろよ俺。
そんなこんなでひと息つけたところで、現在の状況を説明してもらうことにした。
「それで、今日は一体どういうことなんだ?」
俺が問いかけたのは、幼稚園の中でもとびきり優秀な時雨だ。
「少し前のことなんだけど、僕が先生に質問したことがあったのを覚えている?」
「少し……前?」
質問に質問を返されてしまい悩む俺。
両腕を組みながら頭を捻り、うーん……と唸っていると、ソワソワし始めた天龍が口を開いた。
「こないだの夕食のことだよ先生!
好きな料理は何かって聞かれたじゃねーか!」
「……あぁ、そういえば確かに、時雨から聞かれた覚えがあるな」
「そうだね。
そして先生が好きな料理がラーメンだと分かった僕たちは、色々と勉強して食べてもらうことにしたんだよ」
「食べて……もらう?」
言って、俺は子どもたちの姿を流し見る。
なるほど。だからこそのエプロン姿なのか。
そして今いる部屋は調理準備室。壁に見える扉はおそらく調理室に続いていて、子どもたちの料理が今か今かと出番を待っている……ということだろうか。
ふむ……。なんともまぁ、泣かせる話というか、めちゃくちゃ嬉しいところではあるんだけど。
ちょっとだけ気になったことがあったので、質問してみよう。
「ところで……なんだが、今日は休日だよな」
「うん、そうだね」
コクリと頷く時雨に釣られて、他の子どもたちも同じように頭を下げる。
「ついさっきまで俺は部屋にいて、しおい先生が呼びに来てくれたんだけどさ」
「おう。
俺様がお願いして、先生を呼びに行ってくれたんだぜ!」
「……それじゃあ、もし俺がたまたま出かけていたら、どうするつもりだったんだ?」
「「「………………あっ」」」
俺の問いかけに大半の子どもたちとしおいが、大きな口を開けて固まった。
つまりはまぁ、そういうことなんだよね。
例えばなんだけれど、俺が前日から外出していたりしたら、子どもたちはどうするつもりだったのだろうか。
準備を終えて、さあ俺を呼びに来たら居ませんでしたじゃ悲しすぎる。
運良く俺は出かけていなかったので良かったものの、もしそんなことになったら色んな意味で辛いんだけど、
「それは大丈夫ですね、先生」
「……ん?」
そんな中、眼鏡のブリッジを指で押し上げて位置を整えた霧島が小さく口を釣り上げた。
「先生の行動や予定は全てこの霧島が把握しておりますので、危惧されている点につきましては全く持って問題ありません」
「………………はい?」
いや、それってどういうことだ?
「寮内はともかく外出するには門での記帳が必要ですし、それをチェックすれば確認が取れますので」
「な、なるほど……。
でもまぁ、そんな面倒くさいことをしなくても、昨日とかに予定として言っておいてくれれば安全だったんじゃあ……」
「ソレジャア、オ兄チャンヲ驚カセルコトガデキナイカラネー」
「驚かせることが前提なのかよ……」
「まぁ、仮に出かけていても、どこにいるかくらいはすぐに分かるんだけどね……」
「「……え?」」
時雨の呟きに隣にいた天龍と俺が声を上げた。
「先生の行動は逐一ファンクラブのメンバーから情報板に流されているし、カメラマンのAお姉さんも頑張ってくれているからね」
「おおっ、さすがは時雨だぜ!」
「い、いやいやいや、ちょっと待って!」
時雨のとんでもない発言に、いくらなんでもスルーできない事案がありまくりである。
まず、どうして俺の行動が逐一ファンクラブに流されちゃってんだよ!
そしてAお姉さんって、ほぼ間違いなく青葉のことだよねぇっ!?
「いくらなんでも嘘だよな、時雨!」
俺はそうであってくれという願いを込めて時雨に問いたのだが、
「世の中には……知らないことの方が多いんだよね……」
そう言って、俺から視線をそらしてしまった。
そ、それならそれで、そういったことを言わないで欲しかったんですけど……。
というか、完全にプライバシーの侵害だよね!?
「まぁまぁ先生。
そんなことを気にしてたら、この鎮守府ではやっていけないよー」
「……この状況下において現れること自体が謎なんですけど」
背後から聞こえてきた声に振り返りながら白い目を向ける俺。
そこには扉を開けて仁王立ちする、元帥の姿があった。
あえて言おう。
なんでここにいるのかと。
つーか、話がややこしくなることこの上ないので、さっさとお帰りください。
「なんだか先生は心の中で、僕に対して非常に酷いことを言っている気がするんだけれど?」
「気のせいじゃないので、お帰りください」
「堂々と言われちゃった!」
叫ぶ元帥だが表情は明るく、むしろ楽しんでさえいる。
なんでそんな顔ができるのか全く持って分からないけれど、俺の気分は最悪なので本当に消え去って欲しい。
できればニフラムなんかで。
つまり、雑魚ってことです。
「更に酷くなっている気がするけど、僕も先生と同じように呼び出された口なんだよねー」
「呼び出された……ですか?」
俺は思いっきり首を傾げながら元帥を見た後、ゆっくりと振り返る。
すると子どもたちはウンウンと頷いて、本当であると知らせてくれた。
「ほらね。
僕の言っていることは嘘じゃないでしょ?」
「そう……みたいですけど、どうして元帥がここに呼び出されたんだろう……」
「そりゃあもちろん、僕の人気は子どもたちにまで広がっているってことだよねー」
ニコニコと笑っていそうな声が後ろから聞こえてくるが、目の前にいる子どもたちは一斉に首を左右に振る。
「どうやら違うみたいですけど?」
「あ、あるぇー?」
振り返りながらそう言った俺に、ガックリと肩を落としてへこむ元帥。
ざまあみろって感じだが、元帥がここに呼び出された理由は未だに分からない。
なので俺はてっとり早く済ませるために、質問してみることにする。
「とりあえず元帥は、誰からここに来るように言われたんですか?」
「そりゃあもちろん高雄からだよ。
子どもたちが人手を必要としているから、暇を持て余している僕に行ってこいってね」
「いや、暇を持て余しているって……、普段の仕事とかがあるでしょうに……」
俺や子どもたちは休日でも、鎮守府の長である元帥がそうだとは限らない。そりゃあまぁ、毎日仕事をし続けるのには限界があるだろうし、今日が休みだった可能性は無きにしもあらずだけれど。
「日常業務なんかは、ほとんど高雄がやってくれてるからねー。
特別な事案が発生したときくらいしか、僕の出番はなかったりするんだよ」
「それが本当なら、確かに暇を持て余していそうではあるんですが……」
ぶっちゃけ、元帥必要ないじゃん! とは流石に言えないので自重しておくが、それで良いのか舞鶴鎮守府は。
「そういうことで、僕も参加するからよろしくねー」
気づけばへこんでいたはずの元帥はニコニコ顔に戻り、近くにあったテーブルに備え付けられている椅子に腰掛ける。
「えっと、これで皆が揃ったってことでいいのかな?」
「うん、そうだね。
それじゃあしおい先生、進行をお願いするね」
「うんうん。
まっかせといてー!」
1人で「おー!」と言ったしおいは拳を振り上げ、元帥の横にある椅子を引いて俺に座るようにと促した。
「先生と元帥はここに座って、少しだけ待っていてくださいね」
「はーい」
「わ、分かりました」
元気よく返事をする元帥と、未だに納得しきれない俺。
そんな俺たちを見ながら子どもたちは小さく頷くと、一斉に壁にある扉に向かって歩きだす。
おそらく向かった先は隣の部屋。そしてそこは、調理室だろう。
時雨から聞いた内容が正しければ、俺が好きだと言ったラーメンを作っているという。
その気持ちは嬉しいし、今日は昼から鎮守府を出て近くのラーメン屋に行こうと考えていた。
ならば今から起こることは予定とあまり変わらず、子どもたちの気持ちも受け止められるので一石二鳥というところだろう。
まぁ、隣に元帥がいるのが若干不安だけれど。
なんだか、嫌な予感しかしないんだよなぁ……。
「さてさて、どんなラーメンが出てくるのかなー」
ニコニコ笑って待っている元帥は鼻歌を歌いながら腕組なんかをしちゃっているし、俺の気持ちなんか微塵も分かっちゃいない。
しおいも期待した表情を浮かべているので、ここは同じように子どもたちを待っているべきだろうか。
時雨に天龍、雷に電、金剛にヲ級、比叡に霧島。
8人の子どもたちが、どんなラーメンを持ってくるのか。
流石に店で食べられるレベルを子どもたちに期待するのは酷ってものだろうが、それでも少しは心が踊る。
それはおそらく、俺がラーメン好きであると同時に子どもたちの気持ちが嬉しいからだろう。
どんな種類のラーメンか。どんな具材を使っているのか。
果たしてそれは美味しいのか。失敗せずに作れるのか。
考えれば考えるほど気になってしまい、思わず立ち上がって調理室に向かいたくなる。
しかしここは子どもたちのことを尊重し、俺はジッとここで待ち続けるのが一番だろう。
そうーー、このときはそう思っていた。
少しでもあの噂を知っていればと思うと、今でも後悔しっぱなしである……。
「待たせたな、先生!」
そう言って勢い良く扉を開けた天龍が、お盆を持って現れた。その後ろに続く時雨も同じようにお盆を持ち、上にはどんぶりが乗っている。
「僕と天龍ちゃんのラーメンが先にできたから、置かさせてもらうね」
そうして俺と元帥の前に並べられるラーメン。どうやら2つとも同じものらしく、見た目はほとんど一緒だった。
「俺様と時雨の激ウマラーメン、おまちどおさまだぜ!」
天龍の言葉に理解する俺。つまりこの2人はコンビであり、一緒に1つのラーメンを作ったということだ。
どんぶりから立ち上がる湯気に、濃厚な香りが部屋中に広がる。鼻腔をくすぐられる感じに、お腹からはぐぅぅ……という音があがる。
「お箸とレンゲも用意してあるから、伸びないように早く食べてね」
「ああ、そうだな。
それじゃあ、いただき……」
「いっただっきまーーーすっ!」
俺が合掌して言い切る前に、元帥は叫びながらお箸を持って勢い良く食べ始めた。
……なんか、すんごいムカつくんですけど、元帥だから仕方ないね。
ということで、次回から実食です。
次回予告
まずは天龍と時雨のラーメンから。
見た目からして想像できそうなラーメンに、先生は食べ始めてみたのだが……。
艦娘幼稚園 第三部
~子供たちの料理教室!~ その3「いざ、実食1&2」
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