艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 前回の更新時に活動報告でお伝えしましたが、今章の更新をもって少しの間お休みさせていただきます。詳しくは活動報告をお読みくださいませ。


 久しぶりに登場したのは長門でした。
ただし、以前とは違ってながもんですが。

 長門の悩みを聞いた先生の取った行動は……。


その23「ながもんの憂鬱」

 

「私がほっぽちゃんと始めて出会ったのは、北方AL海域に出撃したときだった……」

 

 少し気まずそうに、だけど真剣な雰囲気を帯びたまま、長門は俯き気味に口を開いていた。

 

「圧倒的な航空戦力。

 戦艦をワンパンさせてしまうほどの攻撃力。

 そして……、あの愛くるしさは私を虜にした」

 

「前半は脅威ってことで理解できるんですが、最後の辺りがよく分からないんですけど……」

 

「なぜだ。

 あの小さな身体に詰まった恐ろしいまでの力に、心を引かれはしないのか?」

 

「100歩譲って可愛いから引かれるならともかく、敵対する相手が強いのは避けたいところだと思うのが普通の感覚だと思いますよ」

 

「……ふむ。

 そういう考えもあるのか……」

 

 言って、腕を組み小さく息を吐く長門。

 

 今の会話から察するに、長門は強者に引かれ、戦うことに喜びを感じる性格だということだろうか。

 

 しかしそれだったのなら、可愛らしい部分に引かれたのはどうしてなんだろう……。

 

「先生ほどの強者なら、私の考えを理解してくれると思ったのだがな」

 

「いやいやいや。

 俺は強者ではありませんし、普通に可愛い方が好きですよ」

 

「なにをそんなに謙遜するのだ。

 あの青鬼とタイマンで渡り合うどころか、悲鳴を上げさせ最後には気絶させるほどの実力があると言うのに……」

 

「あー……。

 あれはなんといいますか……、まぁ、偶然……ですかね」

 

「それが謙遜だと言うのだ。

 私としては青鬼の元帥を倒した後、続けて赤鬼退治も見たかったのだがな」

 

「やめてください、死んでしまいます」

 

 運動会の昼休みに行われたタッグマッチに半ば強制的に参加させられた俺だけれど、なんとか勝利を収めた結果となった。青鬼と呼ばれる元帥を反則ギリギリの手で気絶させることができたのだが、あれは半分以上がマグレであり、長門が言うような実力が俺にあるとは思えない。

 

 さらに腕っ節を見れば元帥以上の実力者である赤鬼こと安西提督と続けて戦えだなんて、それはただの拷問以外のなにものでもないぞ。

 

 まぁ、安西提督は腰を痛めていたせいで後半は動けなかったし、あの状態なら勝てたかもしれないけれど。

 

 どちらにしても、2度と戦いたくはない相手だよ……、うん。

 

「とりあえずプロレスの件は置いといてですね……。

 そんな北方棲姫……というか、ほっぽが幼稚園に編入したことで、長門さんがストーカーになったと」

 

「い、いや、だから私はストーカーではないのだが……」

 

「でも、ほっぽの後をつけ回していたり、幼稚園の周りをうろついていたりするのは、どう考えてもストーカーのそれですよ?」

 

「む、むぐぅ……」

 

 うめき声をあげた長門は、そのまま顔をテーブルにふせた。

 

 俺としては長門をいじめるといった気持ちはないんだけれど、港湾棲姫の手前もあるので言い聞かせるに越したことはない。しかし一方で、可愛らしいほっぽの姿を見たいと思う気持ちも分からなくはないのだ。

 

 実際、ほっぽは幼稚園の中だけでなく、動画サイトでも人気がでていると聞いたばかりだからね。

 

「確認をしたいんですが、長門さんはほっぽちゃんに危害を与える気はないんですよね?」

 

「そ、それはもちろんだ。

 ほっぽちゃんが大好きだからこそ、私は……その……、見守っていただけなのだからな」

 

「そう言うわりには視線が泳いでいる気がするんですが」

 

「……ぐっ」

 

 ふむ……。どうやら長門は、嘘がつけない性格なんだろう。

 

 しかしまぁ、この返答を聞く限り対処方法はそれほど難しくもなさそうだ。

 

「分かりました。

 それじゃあ、こういうのはどうでしょう」

 

「ん……?」

 

 俺はニッコリと長門に笑いかけ、人差し指をピンと立てる。

 

 長門の願いを叶え、港湾棲姫を怒らせることなく、子供たちが怖がらない方法を提示するとしよう。

 

 

 

 

 

「せ、先生。

 これで良いのだろうか?

 ちゃんと着られているだろうか?」

 

「ええ、ちゃんと後ろもチェックしましたから、問題ないですよ」

 

 心配し過ぎな長門が自らの身体を見回し、忙しなく肩紐をチェックするために手をかけていた。

 

「それよりも早くしないと子供たちがやってきますから、手伝いをお願いできますか?」

 

「あ、あぁ。

 分かっているのだが……」

 

 そう答えつつも、気になる素振りをしまくっているんだけれど、なんでそんなに心配しちゃうのかなぁ。

 

 ちなみに今、俺と長門がいる場所は幼稚園の食堂だ。昼ご飯の時間が迫ってきているので、鳳翔さんの食堂から届いたお弁当をテーブルの上に配置しようとしているのである。

 

 そのため、長門にはエプロンを着てもらうことになったのだが、ちゃんと着こなせているのかが心配なのか、さきほどから忙しなくチェックをしている訳である。

 

「そんなに気にしなくても大丈夫ですって」

 

「い、いや、しかしだな……。

 もし私の姿を見たほっぽちゃんが笑いでもしたら、恥ずかし過ぎて自決してしまうかもしれん……」

 

「幼稚園の中でいきなり物騒な発言はしないでくださいよ……」

 

 笑われただけで自決するって、意味が分からないんですが。

 

「私にとって、それほど大切なことなのだ……」

 

「いやいや。

 今から普通に昼食を取るだけですよ……?」

 

「だ、だが、ほっぽちゃんと面と向かって話すのは始めてであって……」

 

「それで笑ってもらえるなら本望じゃないですか。

 気難しい顔で無視されるより、よっぽど良いと思いますけど」

 

「はっ!

 た、確かに……、先生の言う通かもしれないな!」

 

 そう言った途端、急に長門の表情がパッと明るくなった。

 

 いやはや、現金というかなんというか。

 

 しかしまぁ、これで作業がはかどるならオッケーなんだけど。

 

「せっかくお膳立てしたんですから、ちゃんと仕事はしてくださいよ?」

 

「うむ、分かっている。

 先生の心意気、大切にさせてもらおう」

 

 コクリと頷いた長門は真剣な表情を浮かべ、俺から弁当包み受け取ってテーブルに置く作業をし始めた。

 

 なぜ、こんなことをしているのかというと、すぐに思い浮かぶかもしれないけれど説明しておこう。

 

 長門はほっぽが可愛すぎるため、気になって仕方がない。その結果、ストーカー紛いの行動を取ってしまい、ほっぽが恐れる事態になりそうだった。それを聞いた港湾棲姫が危険な発言をしていたことを考えると、すぐにやめさせるべきだと結論づけられる。

 

 しかし、それをそのまま突きつけてやめさせたとしても、長門の気持ちは解消されない。下手をすればフラストレーションが貯まり、危険な行動へと走ってしまうことすら考えられるのだ。

 

 舞鶴鎮守府を代表する戦艦である長門が、そんなことをするはずがない。――そう考えるのは簡単だけれど、もしものことを踏まえておくのが教員である俺の役目。それに、ストーカー紛いの行動の段階でかなり危険だと思えるので、放置だけは絶対にすることができない。

 

 ならば、どうすれば良いか。

 

 答えは簡単で、直接会って話をすれば良いだけである。

 

 敵同士ならまだしも、今は停戦に合意した間柄。ましてやほっぽは幼稚園に通っているのだから、ひょんなことで出会ったとしても問題はない。

 

 しかしそれだけでは弱いので、もっと大きな切っ掛けを……と思いついたのが、長門に臨時の手伝いとして幼稚園にきてもらうということなのだ。

 

 もちろんこれについては愛宕に了解を取った。これで合法的に……って、別に違法でもなんでもないんだけれど、なんら問題なく会話をすることができる。

 

 まぁ、さきほどのテンパり具合から見るに、暴走してしまうんじゃないだろうかと心配してしまう部分もあるけどね。

 

「よし、これで以上だな」

 

「そうですね。

 あとは、子供たちが来るのを待つだけです」

 

「ふふ……、胸が踊るな……」

 

 ニッコリと笑みを浮かべた長門の頬はほんのりと赤く染まり、ほっぽがやってくるのを今か今かと待ちわびているように見える。

 

 そんな様子を見た俺としては切っ掛けがどうであれ、長門をこの場に誘って良かったなぁと思っていたところで食堂の扉が開き、ぞろぞろと子供たちが入ってきた。

 

「腹減ったー……って、なんで長門お姉さんがここにいるんだよっ!?」

 

「あら~、本当ね~」

 

「こんにちわっぽい!」

 

「こ、こんにちわ……です」

 

 愛宕班の子供たちが入ってくるや否や、長門の姿を見つけて驚きながらも挨拶をする。

 

「あ、あぁ、こんにちわ……だな」

 

 すると長門も右手をあげて挨拶を返したと思いきや、やけにギクシャクしているんですけど……。

 

「先生、どうして長門お姉さんがいるのかな?」

 

「えーっと、それはだな……」

 

 時雨が唐突に聞いてきたため、俺は言葉に詰まってしまう。

 

 しまった。そういった質問がきたときの返事を考えていなかったぞ……。

 

 適当に答えても良いんだけれど、相手が時雨なだけに下手な返事はしない方がいいだろうからなぁ。

 

「そういえば、どうして長門お姉さんはエプロンなんかしているんだ?」

 

「こ、これは……だな……」

 

「あら~、天龍ちゃんったら、相変わらず馬鹿なのね~。

 エプロンをして食堂にいるんだから、先生のお手伝いに決まっているじゃない~」

 

「なるほど……って、俺を馬鹿扱いするんじゃねぇよ龍田ぁっ!」

 

「きゃ~」

 

 両手をあげて怒る天龍に、逃げる龍田。

 

 これはもうお決まりのパターンではあるけれど、今のタイミングでは非常にナイスだと言えなくもない。

 

「なるほど、そうだよね。

 長門お姉さんがエプロンをしてここにいるってことは、お手伝いをしているって分かるんだけど……」

 

「うんうん、そうなんだよ」

 

「でも、それならどうして長門お姉さんなのかな?」

 

「「……え?」」

 

 時雨の問い掛けに俺と長門の声がピッタリとハモる。

 

「だってそうでしょ。

 今まで幼稚園にほとんど関係を持たなかった長門お姉さんが、急に先生と一緒に食堂で準備をしているだなんて、どう考えてもおかしいよね?」

 

「い、いや、別におかしくは……」

 

「そうやって先生がごまかそうとしているのって、僕たちに知られちゃマズイってことだよね?」

 

「ま、マズイって……、そんなやましいことは考えていないぞ……?」

 

 俺は長門の望みと港湾棲姫の暴走を抑えようと思っただけで、今の言葉にうそ偽りはない。しかし、そのことを詳しく説明するとほっぽや港湾棲姫の耳に入った場合厄介なことになりかねないので、黙っておいた方が良いと思うのだが……、

 

「ふうん……。

 そう……、そうなんだね……」

 

 言って、なぜか時雨は俺と長門の顔を交互に見る。

 

「い、いったいなにがそう……なんだ?」

 

 嫌な予感が過ぎり、額に汗が浮き出てきた。

 

 ぶっちゃけると聞きたくはないが、ここで時雨を放置するのも危険極まりないと思った俺は、恐る恐る問い掛けてみたのだが、

 

「つまり先生は、長門お姉さんに手を出そうってことでしょ?」

 

「ぶふぅーーーっ!?」

 

 その言葉に吹き出してしまったが、それだけではない。

 

 目のハイライトが消えた時雨の顔が、とてつもなく怖いモノに見えたんだけど。

 

「な、なん……だと……。

 まさか先生は、私に手を出そうとしているのか……?」

 

 そして吹き出した俺を見た長門が、驚愕した表情を浮かべていたと思いきや、

 

「い、色恋沙汰が目的だったとは……。

 この長門、少々戸惑いはしたものの……嫌いでは……ない」

 

「いやいやいや、なんでここで肯定っぽい発言をしちゃうのかなぁっ!?」

 

「そういう流れだと思ったのだが……」

 

「火に油を注いだだけですからーーーっ!」

 

 ――そう叫んだ俺であったが、どうやら見通しが甘かった。

 

 気づけば時雨の後ろにはいつの間にか他の班の子供たちが立っており、

 

 

 

 背後霊のようなモノやオーラみたいな威圧感を醸し出しながら、俺を睨みつけていたのである。

 

 

 

 あぁ、結局こうなっちゃうのね……。

 

 内心で涙を流し続ける俺に誰も優しい言葉をかけるはずもなく。

 

 昼食前に孤立無援、四面楚歌モードに突入することになったのでしたとさ。

 

 

 

 しくしくしく。

 




次回予告

 いつものように勘違いを起こさせてしまってフルボッコを食らった先生。
しかし、今回の目的だけは達成しようと思っていたら、あることに気づいたんです。

 あれ、弁当が1つ足りない……?

 艦娘幼稚園 第三部
 ~幼稚園が合併しました~ その24「策士でもなかった」(完)

 乞うご期待!

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