申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
鳳翔さんも怖かった。
レ級の番が終わり、今度はほっぽが前に立つ。
そこで気になることを話し始めたんだけれど、今度は港湾棲姫が……?
レ級の出番が終わり、今度は五月雨とあきつ丸の出番がきた。
2人は協力し、外に出る際に気をつけるべきであることを色々と説明したんだけれど、差し当たって問題がある訳でもなく、言ってしまえば普通だった。
……まぁ、それが授業としては当たり前だし、参考にすることも多かったので良かったと思う。
むしろ気になるのは、この後に出番となるほっぽなんだけれど、はたしてどんな内容になるのだろうかと気にしながら、耳を傾けることにした。
「ソレジャア、今度ハホッポノ番……ナノ」
踏み台に乗って教卓からギリギリ顔を出すほっぽに、なんだか癒されてしまうんだけど。
「ホッポハ外ニ出タコトガナイケド、艦娘ノオ姉サンタチト、イッパイ仲良クナッタノ」
言って、にこやかに笑みを浮かべるほっぽ。
「それは良いことでありますな。
ここの鎮守府に居るお姉さんたちはみんな良い方ばかりで、あきつ丸もお世話になりっぱなしであります」
「元は同じだった五月雨ですけど、みんな優しくしてくれています」
「レ級モ、色々ト助ケテモラッタコトガアルヨ!」
「ウンウン。
僕モ青……イヤ、トアルお姉サンニ、役ニ立ツテクニックヲ教シエテモラッテルネ」
……おいこらちょっと待て。
ヲ級の言葉だけは見逃せない。教えてくれている相手が明らかに嫌な予感しかしないから、身の危険度が一気に上がった気しかしないぞ。
過去には俺の部屋に入るために鍵を開ける技術を学んだとか言っていたし、本当に洒落にならないんですが。
……ただまぁ、そのおかげで難所を乗り越えられた訳でもあったんだけど。
「デモ……、タマニホッポノ近クデ、変ナ感ジガスルトキガ……アルノ」
話を続けていると、急にほっぽの声と顔色が変わり、疑問を抱えた俺は即座に問い掛ける。
「変な感じ……って、どういうのなんだ?」
「ソレハ……、エット……」
考え込んだほっぽが言葉に詰まるが、俺の頭には再度青葉の顔が浮かんでくる。
幼稚園内での取材が禁止されているが、そこ以外ならやりたい放題である青葉がほっぽを追いかけ回している可能性があるんだよね。
停戦を結んだと通達されているとは言え、以前は戦いあった敵同士。それが身近にいるのであれば、自他ともに認めるトラブルメーカーとしてのジャーナリスト魂に火がつくのは簡単に想像できてしまうのだ。
……って勝手に想像していたけれど、その考えが正しかったのならば、本人がトラブルメーカーだと認めている時点で修正しろよって話なんだが。
いや、もしかするとあいつのことだから、分かっていてそのままにしているかもしれない。
今までもそうだったけれど、本当に厄介だ。しかしその一方で、非常に高い人気を持ち得ているのもまた事実。
類い稀なる諜報能力によって得てくる写真の数々は、多くの提督や関係者にとって喉から手が出るほど欲しがる物。それらを有効に活用することによって、一部の場面で使用できる大きな権力を持ち得ていると言っても過言ではない。
かく言う俺も痛い目にあわされつつも、お世話になったことがあったりする。特に親愛なる愛宕のしゃ……っと、これ以上は良くないな。
口にしないとはいえ、あまり不審な思考を頭の中で張り巡らせるべきではない。ただでさえ顔に出やすいらしいので、どこでどうばれるかなんて、まったく分からないのだから。
もしそうなったら、行き着く先は異様なまで食事に執着する貿易商からアームロックを食らい、折れる寸前まで痛めつけられることは必死。片言の店員が助けてくれなければ、寸前では済まされないかもしれないのだ。
「ナンダカオ兄チャンガ、口煩イコックノヨウナ店主ニ見エタ気ガスルンダケド……」
「いやいや、俺はいたっていつも通りだし、そもそも料理なんてできないぞ?」
「ソンナ雰囲気ガシタ……ンダケド、マァ別ニイイカナ」
そう言って、俺から目を逸らすヲ級。
……ふぅ。危ないところだった。
さすがはヲ級。俺の人生で両親を除けば最も付き合いが長いだけがある……って、あまりに明確過ぎる指摘に冷や汗ダラダラだよっ!
「ホッポ、気ニナッタコトガアッテ、偵察機ヲ飛バシタコトガアルンダケド……」
「北方棲姫様ノタコヤキハ、凄イカラネ!」
目をキラキラさせたレ級が叫ぶと、ほっぽは恥ずかしげに頬を染める。
だが、ひとこと言わせてもらえるなら、鎮守府内で艦載機を使用するのは特例を除いてダメなんだけど。
しかしまぁ、過去に舞鶴で飛龍、佐世保では龍驤から実害を受けている俺としては、そんなルールはあってないようなモノなんだけどさぁ……。
「偵察機ガ怪シイ影ヲ見ツケタラ、スグニ逃ゲチャッタノ……」
ガックリと肩を落とすほっぽ。その表情はとても残念そうで、少しばかり同情してしまいそうになったのだが……、
「それはちょっと気になるな。
鎮守府の中だから外部の人間ではないと思うけれど、逃げた影の特徴とかは分からなかったのかな?」
おそらく……というか間違いなく青葉だろうが、証拠がなければ問い詰めにくい。ならば逃げた影が青葉であるという証言がほっぽから聞ければオッケーだと思っていたのだが、開かれた口から出てきた言葉は予想とは違うものだった。
「エット、頭ノ上ニ、角ミタイナノガ生エテ……タノ」
「角……?」
「角でありますか」
「角って……」
「角ッテイッタラ……」
「………………」
俺や子供たちは小さな声でつぶやきながら、ある1点を見つめる。
椅子に座り、ほっぽの授業をシッカリと聞いていた、港湾棲姫の席へだ。
「……ワ、私ジャナイワヨ?」
ボタンを押した途端に施設内が停電してしまった際の技術者のような、はたまたどでかい大柄のコメンテーターみたいな口調で、プルプルと小さく顔を左右に振って否定する港湾棲姫。
表情を見る限り嘘をついている雰囲気はなく、焦りは微塵も見えなかった。
「オ姉チャンジャナイト思ウノ。
角ハ2本ダッタシ、爪モナカッタシ……」
「ふむ……。
それじゃあいったい、誰なんだろう……?」
俺はそう言いながら頭の中で青葉の姿を思い浮かべてみる。
頭に角は生えていないし、カメラ持ち上げた格好で構えていたとしても2本の角のように見えるとは思えない。
「ちなみになんだけど、2本の角以外にはなにも見えなかったのかな?」
「ンート、他ニハ……」
言って、頭をひねったほっぽが考え込むが、なかなか良い情報は出てこない。それどころか表情がどんどん落胆に色にまみれてしまい、可哀相な気持ちでいっぱいになってしまう。
「思イ出セナイ……ノ……」
しまいには目に涙を浮かばせ始めたのが見え、港湾棲姫が側頭部に血管を浮き出させて俺の方に顔を向けてきたので、慌ててフォローをする。
「ご、ごめんごめん。
そうだよな。簡単に姿を見せるようなら、すぐに捕まえられるし、それこそすぐに爆撃できちゃうもんな」
そう言ってほっぽを慰めると、港湾棲姫の表情が少しだけ和らいだように見えた。
……ふう。なんとかなったか。
俺は別にほっぽをいじめるつもりはないし、それくらいのことは港湾棲姫も分かっているとは思うんだけれど。それでもやっぱり、怒った顔で俺を見るのはマジで止めてほしいです。
「ホッポニ仇ナス輩ハ、消シ炭ニシテアゲルカラネ」
「ウン。
アリガトネ、オ姉チャン」
「いやいやいや、いくらなんでも物騒過ぎますよっ!?」
「次ニホッポガサラワレタラ、コノ鎮守府ヲ破壊シツクシテモ探シ出スワ」
「だから、危険過ぎる発言は止めてくださいよっ!」
「港湾棲姫先生ガホッポチャンヲ思ウ気持チハ、トテモ凄イカラネー」
明るい口調で言うレ級だけれど、視線は完全に別のところへ向いているのは気のせいじゃない。
しかしまぁ、港湾棲姫の気持ちも分からなくはないんだよね。
以前、一時的に呉が占領されたのは、例の中将が深海棲艦の指揮権を奪い取ったからだ。その際中将はほっぽをさらうことで港湾棲姫が手出しできない状況を作り、歯痒い思いをしたのだろう。
だからこそ、2度とそんなことが起きないように考えるのは仕方がないのかもしれないが、それにしたって発言が恐ろし過ぎるんだよね。
「……ん?」
港湾棲姫をどうやって落ち着かせようと思いながら窓の外に視線を向けたところ、幼稚園の敷地を囲む塀の上部分に尖ったなにかが見えた。
「おいおい……、またかよ」
つい先日も潜入を企もうとして愛宕にお仕置きを受けたはずなのに、青葉はまったく懲りていないのだろうか。
授業中かつ港湾棲姫の心境を考えると、ここから離れるのはあまり良い手とは言えない。しかし、それ以上に青葉を放置することの方が危険だと思う。
外から写真を撮るだけならまだマシ。それなら授業をしている風景しか写らないだろうし、きわどい写真を撮られることもないだろう。
だが、青葉が幼稚園の内部に侵入し、隠しカメラなんかを仕掛けてしまえば、子供たちだけでなく俺たち教員のプライバシーも侵害されてしまうのだ。
さすがに入渠中のような状況はないものの、幼稚園にはトイレがある。まさかそんなことはしないとは思っていても、可能性がゼロじゃない限り安心することはできないだろう。
「話の途中で悪いんだけど、ちょっと野暮用ができた」
「野暮用……でありますか?」
「ああ。
別にたいしたことじゃないんだけれど、放置しておくのも具合が悪いからさ」
俺は苦笑を浮かべながら右手を上げ、子供たちが心配しないように言ったつもりなんだけれど、
「先生ノ野暮用ッテ、ナンナノカナ……?」
「チョットダケ……気ニナルノ……」
レ級やほっぽがクエスチョンマークを浮かばせるかのように、大きく頭を傾げた。
「とりあえず……そうだな。
みんなはほっぽの言う影について、色々と考えてみてくれるかな。
それでなにか手がかりが見つかったら、港湾先生がメモをしておいてくれますか?」
「……エ、ア、ソウネ。
分カッタワ」
俺の言葉を聞いて我に返ったのか、港湾棲姫は目をパチパチとさせてから俺に顔を向けて小さく頷き、机の上にメモとペンを置いた。
ちなみに、その2つを取り出したのが胸の谷間からだったというなんとも嬉しい……ではなく恐ろしい出来事に、俺の身体が一瞬だけ固まってしまう。
「……オ兄チャン。
鼻ノ下ガ伸ビテルヨ」
「な、なんのことかなー?」
ジト目で見てくるヲ級から視線を逸らし、そそくさと扉の方へ歩こうとするが、
「下ノ方モ大キクナッテルシ……」
「なってねえよっ!
これっぽっちも反応してないからねっ!」
さすがにこれは否定しなければ色々と厄介なので、振り返りながらヲ級に大声をあげる。
その前に下を向いてちゃんと確認したし、大丈夫だったから問題はないからね……って、なんで言い訳しているんだよ俺ぇ!
活動報告にて今後の予定をご連絡いたします。
申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
次回予告
ヲ級の対処は元より、青葉の方をどうにかしないと。
そう考えた主人公は、教室を出て外から回り込むことにする。
しかしそこにいたのは、思いもしない人物だった……?
艦娘幼稚園 第三部
~幼稚園が合併しました~ その22「ストーカー?」
乞うご期待!
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