次は港湾棲姫の班なんだけど、嫌な予感がしています。
だって、ヲ級が居るんだよ……?
その18「そんなことをやってたの!?」
愛宕班のサポートを終えた次の日。
いつものように教員がスタッフルームで集まり、打ち合わせをした上、今日の仕事は港湾班のサポートをすることになった。
その際、ビスマルクはブツブツと文句を言っていたが、佐世保では嫌というほどサポートをしてきたのだから理解をしてくれよと思う。
……まぁ、未だにビスマルク1人では放っておけない気持ちもどこかにあるのだが、それを言葉にしてしまったら最後、またしても厄介ごとに巻き込まれるのは必死。
だから俺は喜々として港湾班が授業を行う教室へと向かい、中に入ったのだが……、
「みんな、おはよう」
「アッ、先生ダ!」
「オ、オハヨウゴザイマス、先生……」
「おはようであります!」
「おはようございますっ!」
席に座ったまま挨拶をする子供たちの中に、1番厄介な奴がいないことに気づいた。
「レ級にほっぽ、あきつ丸に五月雨………………で、ヲ級はどこに行ったんだ?」
「ヲ級ナラ、モウ少シスレバ来ルト思ウヨ!」
「そう……か。
なら、良いんだけど……」
トイレにでも行っているのだろうと思えばそれまでなのだが、あいつが厄介ごとを持ち込むのはビスマルクに匹敵するくらい当たり前のことであるだけに、気にならないといえば嘘になる。
ちなみにこの班のことだが、港湾が担当しているだけあって、深海棲艦であるレ級やほっぽが所属している。元は人間で弟であるヲ級もレ級と面識があるのでこの班なのだが、あきつ丸と五月雨は人数合わせという理由ということを聞き、若干可哀相にも思えてきたのだが、
「ところでレ級どの。
この前にお貸しした、陸軍の挨拶術についての本はどうでありましたかな?」
「アレハナカナカ面白カッタヨ!
声ヲ出セナイトキニ使ウジェスチャーッテノガ、漫才デ使エソウダヨネ!」
「そうでありますか。
漫才にとは盲点でありましたが、役に立ったのなら良かったであります」
漫才……って、やっぱりヲ級とコンビを組んでいるのだろうか……?
「五月雨……、コノ間ホッポニクレタ、ゼロ紙飛行機ッテマダアル……ノカナ?」
「あれならすぐに作れますし、明日にでも持ってくるね」
「アリガトウ……、ナノッ!」
キラキラと目を光らせたほっぽが、五月雨と仲良く会話をしているのだが、ゼロ紙飛行機っていったいどんな物なんだろう。
とまぁ、こんな風に和気あいあいといったところを見る限り、問題ないどころか良い感じなので、俺の心配は杞憂のようだ。
あきつ丸は陸軍時の固さが若干取れ切れていない気がするとはいえ実直な性格が良い方向に向いているし、五月雨は運動会で港湾チームに所属していたのだから大丈夫なのだろう。
これもまた俺が目指していた夢が現実になった状況だし、無性に嬉しくなるのは仕方がない。あとは何事もなく授業が進み、サポートをしていければ……と思っていたのだが、
キーンコーンカーンコーン……。
授業開始のベルがスピーカーから鳴っても、未だにヲ級はやってこない。それどころか、港湾棲姫まで遅れているのはどういうことなのだろうか。
「仕方がない、探しに行くか」
港湾棲姫に代わって授業をしても良いが、俺の役目はあくまでもサポートだ。何かトラブルがあって遅れているのなら、そこをフォローするべきであるのだが、
「オ待タセー」
扉を開けて入ってきた港湾棲姫の姿を見て、胸を撫で下ろして良いのかどうか複雑な気持ちになる。
まぁ、探しに行く手間が省けたと思えばそれで良いんだけれど。
「……ん?」
見れば、港湾棲姫の後ろを追いかけてくるようにヲ級が教室に入ってきた。
もしかすると港湾棲姫が遅れてきたのは、ヲ級が関係しているのかもしれないと思った俺は、小さなため息を吐きつつ肩を落とす。
愛宕班の子供たちから聞いた話に、ヲ級が色々と面倒ごとを起こしていた事実を知った。俺の方も少しばかり予想できた部分もあったけれど、問題児扱いの一歩手前だったことには驚いたし、それを矯正した愛宕にも色んな意味で一目置いたのだが、港湾棲姫の手を煩わすようなことをしていたとあれば、未だに治っていないといえるのではないだろうか。
ここは1つ、ビシッと叱るべきかもしれない……と思っていた俺は、授業の合間か終わったあとにどんな言葉をかけようかと考えていたところ、予想外の出来事が目の前で繰り広げられた。
「ハイ、ソレデハ授業ヲ始メマス」
「いやいや、ちょっと待て」
あとから入ってきたヲ級が教壇側に立ち、あろうことか港湾棲姫が他の子供たちと同じように椅子に座ったのだ。
「イキナリツッコミヲ入レルナンテ、オ兄チャンハドウイウツモリナノサ?」
「つっこみもなにも、なんでお前が授業をする流れになっているんだよ」
「ナンデッテ……昨日ノ授業デ、ソウ決マッタンダケド」
「………………は?」
意味が分からない。
まったくもってサッパリなので、俺の顔は45度を超えて傾げまくっている。
そんな話は朝のスタッフルームで港湾棲姫から聞いてはいないし、そもそも子供であるヲ級が授業を行うこと自体が……、
「アア、ソウイエバ先生ニ、今日ノ授業内容ニツイテ話ノヲ忘レテイタワネ」
おーい。
いくらなんでも、そりゃないよ港湾ちゃ~ん。
……と、なぜか頭の中でもみあげが長い大泥棒みたいな口調になってしまったが、大事なことはちゃんと言っておいてくださいよね。
「実ハココ最近、私タチ深海棲艦ハ舞鶴鎮守府ノ近クデアレバ外出シテモ良いイコトニナッテネ。
ソレデ街中ノ行動ニツイテ、事前ニチャント勉強ヲシテオコウトイウコトニナッタノヨ」
「またしても初耳過ぎて、驚いちゃうんですが……」
授業の内容を伝え忘れた以上に、とんでもない発言ですよね、それ。
ファンクラブなんかで半ば世間に浸透してしまっているヲ級はともかく、港湾棲姫や北方棲姫、レ級の情報はそこまで伝わっていない……と思う。
そんな中、いくら舞鶴鎮守府から近いところまでとはいえ外出を許可されるっていうのは、いくらなんでも早計過ぎるんじゃあ……、
「オ兄チャンハ心配症ダカラ言ッテオクケド、港湾先生モ、ホッポチャンモ、今ジャチマタヲ騒ガス人気者ダカラネ?」
「そりゃあ騒ぐのも無理は……って、人気者?」
「ウン、ソウダヨ。
グラマラスナボディニ、チョッピリオチャメナ手ガアクセント。
最近デハ那珂チャントコラボヲシテ歌ヲ動画サイトデ発表シタラ大爆発シチャッタ、港湾先生ナンダヨネー」
「イヤァ……、ソレホドデモ……」
ヲ級の説明に照れながら頬を掻く港湾棲姫だが、その爪で切ったりしないんだろうか。
いや、それ以前に色々と突っ込みどころが満載なんですが。
「ホッポチャンモ動画ニ出演シタトコロ、踊リガ可愛イッテ評判ガ伝ワッテ、大ブレイクシタンダヨネ!」
「ソウソウ。
次ノ動画デ港湾棲姫ト一緒ニ歌オウカッテ話ガ浮上中ダカラ、閲覧数ガ加速装置並ニ待ッタナシハ確定ダロウシ、広告収入ガッポガッポデ羨マシイナァー」
「ホ、ホッポ、恥ズカシイケド、ゼロガ買エルノナラ……頑張ルッ!」
レ級とヲ級の説明に、ほっぽも握りこぶしをギュッと……って、マジでちょっと待ってくれるかな。
俺が知らない間に、動画サイトでビューしちゃってんのっ!?
しかも広告収入が入るレベルって、半端じゃない数だよねぇっ!
「しかしそれを言うなら、ヲ級殿やレ級殿も負けてはいないであります」
「………………は?」
横から口を挟んできたあきつ丸に、完全に目が点になる俺。
いや、これ以上にいったい何があるというんだ……?
「おふたりは某スポンサーが開催した漫才動画で1番を決めるキャンペーンで1位を取ったコンビではありませんか。
確かあの賞金は1000万円だったと思うのですが、そろそろ振り込まれているのでは?」
「ぶふーーーっ!?」
ちょっ、1000万円ってマジかよ、おいっ!
「アレ、ソウナノ?」
「………………」
驚く俺に気にもせず、レ級は頭を傾げながらヲ級を見る。
対してヲ級は、ガチで目を逸らしながら口笛を吹け……ていないんだけど。
「ヲ級。
レ級ハソンナ話、一言モ聞イテナイヨ?」
「ソノ件ニツイテナンダケド、悲シマセタクナイカラ黙ッテイタンダヨネ……」
「ドウイウ……コト?」
「僕タチハ舞鶴鎮守府ニ所属シテイル訳デ、収入ナドハ……ソノ、一度全部ソッチノ方ニイッチャウンダヨ……」
そう言って、ヲ級はガックリと肩を落とす。
ああ、なるほど。確かにそれはありえる話だな。
ヲ級を筆頭に、ここにいる深海棲艦のみんなは舞鶴鎮守府の庇護の下で生活している訳であり、収入などは元帥や高雄さんが管理しているのだと思う。
日々の生活に必要なお金はゼロじゃないし、それらは全部鎮守府の予算で賄っているはずだ。収入があった場合、全てとはいわないまでも、何割かは徴収されてもおかしくはない。
まぁ、それでもヲ級とレ級の2人にまったく渡されないというのであれば問題だが、あまり多過ぎるお金を持たせるのも問題だろうからね。
……特に、ヲ級は何をしでかすか分からないし。
「フウン……。
マァ、レ級ハ別ニ、オ金ガ欲シクテヲ級トコンビヲ組ンデイル訳ジャナイカラネー」
「ナンテ泣カセテクレル相方ナンダー!」
「HAHAHA!
ソレガコンビッテイウモノダヨネ!」
「ソレジャア儲ケノ取リ分ハ、8:2トイウコトデ……」
「いくらなんでも、がめつ過ぎでしょうがっ!」
「オーゥ……」
「ナイスツッコミダヨ、先生!」
「HAHAHA……って、笑うわけないよっ!」
「「「アルェー?」」」
「2人揃ってどころか、全員でハモって俺を見ないでぇっ!」
つーか、授業はどこにいったんだって話なんだけど。
「と、とにかく、初耳なことがたくさんあり過ぎて頭がパンクしそうだけれど、今日の授業は外に出る際に気をつけることを学ぶってことで良いんだよな……?」
「ソノ通リダヨ、オ兄チャン」
「その答えを聞くまでに、どれだけ寄り道をしたんだか……」
授業開始から10分も経たないうちに、心の疲労度が半端じゃないぞ。
「デモ、ツッコミヲ入レタノハ先生ダヨネ?」
「先生ハ、ツッコマナケレバ生キテイケナイ身体ダカラネ……」
「難儀な身体でありますなぁ……」
「ちょっと、港湾先生!
変なことを子供たちに吹き込まないでくださいよっ!」
「ダガ、事実デショウ?」
「関西人の血が恨めしいっ!」
「ソノ返シノ段階デ、既ニ手遅レダヨネー」
「ソウトモ言ウネ!」
「「HAHAHA!」」
「だから漫才に持っていこうとするんじゃねぇぇぇぇぇっ!」
結局叫ぶことになったのはいうまでもなく。
つーか、これ自体がツッコミなので、港湾棲姫が言っていることはあながち間違ってもいないんだけれど。
いや、それを認めてしまったら最後、俺は芸人として生きなければならない……訳ではないのだが。
ううむ……。どうにもヲ級と面と向かってしゃべるのは久しぶり過ぎる気がして、上手くいなせていない気がする。
これはちょっとばかり、気を引き締めないと飲まれてしまいそうだよなぁ……。
「五月雨ー。
今ノ様子ヲチャント録画デキテル?」
「あ、はい。
大丈夫……だと思います」
「……いや、ちょっと待って。
いつの間に授業風景を録画しちゃってんのっ!?」
「コレモマタ、ファンクラブノサイトニアップスル訳デアリマシテ……」
「それは完全にアウトだ!
いくらなんでも、それは色んな意味でヤバいぞ!」
「大丈夫ダヨ。
オ兄チャンハ目ノ部分ダケ黒イ線ヲ入レテオクカラ」
「それって逆にやましい感じにしか見えないから止めてーーーっ!」
……とまぁ、そんなこんなで港湾班のサポートは初日からグダグダになってしまった訳でしたとさ。
「……ネェネェ、五月雨。
目ノトコロニ黒イ線ッテ、ドウイウコト……ナノ?」
「そ、それは……その……」
「それはでありますな。
主に男性が好む書籍に多く使われている手法でありまして……」
「あきつ丸も明確に説明しなくて良いからーーーっ!」
はい。最後の最後まで、グダグダです。
次回予告
グダグダ過ぎてどうしようもない。
でもまぁ仕方ないね。先生にヲ級だもん(ぉ
ということで、ヲ級の授業が始まる訳ですが、
艦娘幼稚園 第三部
~幼稚園が合併しました~ その19「ハモりフレンズ」
乞うご期待!
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