艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

346 / 382
 つい先日ですが、久しぶりに日間ランキングにのることができました。
これも皆さんの評価、感想のおかげであります。
これからも、よろしくお願いします




 大井をなんとかなだめ、子供たちに本題の話をする。
愛宕のことをどう思っているのか。そして、それらは比叡に関係があるのか。

 打ちのめされたり、話が逸れそうになるのを修正しつつ色々と聞いているうちに、なんだか嫌な予感がしてきたんだけれど……?


その14「有り得たかもしれない現実」

 

 ひとまず大井からの攻撃は止んだので、今のうちに子供たちを食事と同じ場所に座らせ、本題へ入ることにした。

 

「今日ここに集まってもらったのは、みんなに聞きたいことがあるんだ」

 

 ゴホンと咳払いをし、両肘をテーブルにつけて指を組む。少し前に元帥がやっていたモノと同じだが、いわゆる司令官的なポーズである。

 

 そんな様子を見てか、いつの間にか霧島が俺の後ろ隣に立つ。サポートをしてくれるつもりなのか、それともポーズに合わせての行動なのかは……定かでない。

 

「ねぇねぇ、先生ー。

 この場合って、蝋燭と水を張ったバケツを用意した方が良いのかなー?」

 

「いや、別に地下にある基地に敵が侵入して、設備を稼動できない状況じゃないからさ……」

 

「そっかそっかー。

 パターン青じゃないんだねー」

 

 両手を頭の後ろに組む北上に、よく分からないといった風の大井がいぶかしげな顔を浮かべていたが、これだといつものように脱線してグダグダになりそうなのでポーズを解いた方が良さそうだ。

 

 とりあえずテーブルの上にあるコップに持ってひと飲み。喉を潤してから気を取り直して口を開く。

 

 ちなみにぬるくはなかったです。念のため。

 

「まず質問なんだけれど、ここにいるみんなの中で、おかしなところがあるのは分かるかな?」

 

「もちろんそれは、比叡姉様が居ないことですわ」

 

「そ、そうだな……」

 

 即座に後ろから帰ってきた霧島の言葉に、出足をくじかれた感じに耐えつつ頷いた。

 

 いやいや、一応みんなを集めた当事者側になるんだから、そこは他の子供たちから返事がくるのを待とうよ……。

 

「そういえば……そうなのです」

 

「うん。

 響も気づいたときからおかしいなと思っていたけれど、誰も言わなかったから黙っていたんだよね」

 

「あ、暁は最初から分かっていたわよ?」

 

「何か用事があったから集まれなかったってことなのかしら?

 それならそうと、雷に頼ってくれれば良かったのに……」

 

 暁の語尾が上がっているところが怪しいが、ここで突っ込んだら脱線は確実なので避けておく。

 

「みんなが思っている通り、この場に比叡は居ない。

 実はそれに理由があるんだが、聞きたいことと関係があるんだよ」

 

「ふーん。

 それっていったい、なんなのさ?」

 

「比叡から直接聞いたんだが……」

 

 俺は言葉を詰まらせつつ、チラリと霧島の顔を見る。

 

「………………」

 

 少し迷った表情を浮かべたものの、俺の意図を理解したのかコクリと頷いたのを見て、再び口を開いた。

 

「愛宕先生との関係が思わしくない……というか、比叡の方が極端に怖がっているようなんだが、みんなは知っているかな?」

 

「「「………………」」」

 

 俺の問い掛けに対し、子供たちの口は一切動かない。

 

 まるでこの大広間に重しをかけられたかのように、空気がどんよりとなった気がする。

 

「ここで話したことを口外するつもりは一切ないし、俺達だけの秘密だ。

 だから、怖がることなく話して欲しいんだけど……」

 

 俺はそう言って、子供たちを安心させようとすると、子供たちが揃って互いの顔を見合せる。

 

「べ、別に暁は愛宕先生のことが怖い訳じゃないんだけれど……」

 

「そうだね。

 問題を起こさなければ、まったく問題はないんだけどね」

 

「それでもやっぱり、怒らせたら大変なのです……」

 

「い、雷も、怒ったときの愛宕先生は勘弁したいわね……」

 

 声は小さいが耳を懲らして話を聞く限り、子供たちが愛宕をどう思っているのかはそれとなく分かる。

 

 愛宕が昼食時に騒ぎ立てる子供たちを静かにさせる行動を目にしたことは多々あるので、この辺りは予想の範疇だけど。

 

 それでもやっぱり、比叡の怖がり方は尋常ではないと思うんだけどなぁ……。

 

「……まぁ、愛宕先生のお仕置き部屋に入ったら、そうなっちゃうよねー」

 

「き、北上さんっ!

 そのことはあまり言わない方が……」

 

「別に良いじゃん、本当のことなんだからさ」

 

「うっ……、そ、それは……その……」

 

 普段通りの口調で話す北上に、明らかに動揺している大井だが、お仕置き部屋とはいったい……?

 

 お仕置き……、お仕置き……。

 

 過去にその言葉を聞いたことがあるような、ないような……。

 

「あれ、先生は経験したことがないのかなー?」

 

「経験って……、愛宕先生のお仕置きをか?」

 

「うん、そうだよー。

 あれだけ愛宕先生の胸部装甲をガン見しているんだから、1度くらいは怒られちゃったことがあるんじゃないの?」

 

「んー、なかったと思うんだけど……」

 

「へー………………、そうなんだー」

 

 無茶苦茶棒読みで返された。

 

 しかも、かなり酷いレベルの白い目で。

 

 なんだか今日、ことごとくみんなの好感度が下がりまくっている気がするのは、勘違いじゃないですよね?

 

「それじゃあ、ヲ級辺りから聞いたりしてないの?

 色々と問題を起こしたりしているから、何回かお仕置き部屋に入ったことがあるはずだよー」

 

「え、そうなのか?」

 

 俺は頭を傾げながら思い返してみる。

 

 現在は艦娘寮でレ級と相部屋のヲ級だが、舞鶴にやってきた当初は監視の意味も込めて愛宕の部屋に同居していた経歴がある。

 

 そのときに色々と話を聞いたことがあるけれど、確か愛宕が寝るのはウォーターベッドだったことや、胸部装甲が凄いから欲しいと言っていた。

 

 ………………。

 

 柔らかいモノばっかりじゃないか。

 

 なんていうか……羨まし過ぎるぞ、こんちくしょう。

 

「舞鶴にきた当初は、愛宕先生の部屋に寝泊まりしていたのは知っているんだけれど、お仕置き部屋に関しては聞いたことがないなぁ……」

 

「ふーん、そうなんだ。

 ヲ級もやっぱり、隠すところは隠すんだねぇ……」

 

 遠い目を浮かべた北上がシミジミと呟くが、なんだか年老いた人が縁側でお茶でもすすっているような雰囲気が醸し出されているような気がする。

 

「ヲ級ちゃんが幼稚園にきてバトルが始まって、それから色々とあったわよね?」

 

「休み時間にちょくちょく現れて、先生を狙う輩はミナゴロシと言って威嚇していた覚えがあるかな」

 

「ちょっとだけ怖かったのです……」

 

「でも、結局数日したら大人しくなったのを覚えているわ」

 

 暁たちが「うん、うん」と頷きあって懐かしむ顔を浮かべるが、俺の知らない間にヲ級は何をやっていたんだよ……。

 

 バトルを終えて他の子供たちと仲良くなったと思っていただけに、この事実はちょっぴりショックである。

 

 しかし雷が言った、数日したら大人しくなったというのは、やっぱり……。

 

「さすがに愛宕先生も放っておけないとかで、お仕置き部屋に連行したらしいからねぇー。

 しかも、1度や2度じゃなかったみたいだし、ヲ級も頑張るなぁとは思っていたけどさー」

 

「確か……3度目が終わった辺りから、見違えるように大人しくなったのを覚えてますね、北上さん」

 

「そうそう。

 でも、お仕置き部屋に入った他の子と違って、あんまり怯えた風じゃなかったんだよねー」

 

 ……ふむ。

 

 結果的に大人しくなったのだから、ヲ級もちゃんと更正した……ということじゃないんだろうか。

 

 いやでもそれだったら、俺への行動がもう少しマシになっても良かったと思うんだけど、思い返してみたら人間だった頃よりかは落ち着いているのかもしれない。

 

 小さい頃は、目が覚めたらいつの間にか横で寝ていたからなぁ……。

 

 別々の部屋で寝ていて、さらに扉の鍵はかけていたはずなのに……だ。

 

 あの頃から年齢に合わない行動をしていたけれど、死なずに人間として成長していたら、いったいどうなっていたのだろうか……。

 

 ………………

 …………

 ……。

 

 あかん、これ、あかんやつや……。

 

「どうしたのー、先生ー。

 なんだか顔色が、すっごい青くなってるんだけどー」

 

「あ……、あぁ、うん。

 だ、大丈夫、大丈夫……」

 

「ふーん、そう?

 まぁ、そういうなら別に良いんだけどさー」

 

 方をすくめた北上を見て、しばらく黙っていた霧島が唐突に口を開いた。

 

「ところで先生。

 この話は比叡姉様に何の関係があるのでしょうか?」

 

「ん、あ、そういえばそうだったな」

 

「そういえば……って、もしかして忘れていたんですか!?」

 

「あ、いや、そういうことじゃないんだけれど、あまりにも厄介な想像をしてしまったおかげで、ちょっと頭が空白になってしまったというか……」

 

「そ、それはつまり、比叡姉様に危険が……っ!」

 

「いやいや、そうじゃないんだけれど……」

 

 弟がヲ級になって本当に良かったと思っただけなので、比叡にはまったく関係がない。

 

 でもこの考えは見方を変えれば、弟が死んでくれたので助かったになっちゃうんだけど。

 

 それって、いくらなんでも良くないよなぁ……。

 

「そ、それじゃあ、結局比叡姉様は……」

 

「あー、うん。

 今までの会話で予想できることなんだけれど……」

 

 言って、俺は顎元に手を添えながら考え込むポーズをして、頭の中でまとめたことを披露していくことにした。

 

「佐世保からビスマルクと一緒に比叡、榛名、霧島の3人が舞鶴幼稚園にきた際、金剛が間違った発言をしたせいで俺と対立しちゃったことがあるだろう?」

 

「……ええ。

 先生のロリコン疑惑が確定した出来事でしたね」

 

「それがそもそもの間違いなんだけれど、そこを突っ込むと話が逸れちゃうから後回しにしておくね……」

 

 霧島の発言に心の中で泣きつつ、今は本題を進めていこう。

 

「そのときに比叡の行動がちょっとばかり行き過ぎていたことがあって、1度愛宕先生に連れていかれたことがあったのを思い出したんだよな」

 

「そう……でしたね。

 それから帰ってきた後、随分と消沈していたのを覚えています」

 

「多分、比叡は愛宕先生と一緒にお仕置き部屋に入った。

 そこで何が行われていたのかは分からないんだが、比叡の心にトラウマ的なモノが刻まれた可能性が高いんじゃないかな?」

 

「確かに先生が言う通りだとは思うのですが……」

 

 最後の辺りで言葉を詰まらせた霧島が、眉間にシワを寄せる。

 

「んー、それってちょっとおかしい気がしないかなー」

 

「……え、どうしてだ?」

 

 横槍とばかりに北上が手を挙げながら発言するが、この考えが間違っているというのだろうか?

 

「いくら小さくなったとはいえ、比叡と霧島って、元は大きいお姉さんだったんでしょー?」

 

「え、ええ……、そうですけど……」

 

「それじゃあ、そこまで怯えるなんてちょっと変じゃないかなーって思うんだけどさー」

 

「………………」

 

 北上の問いに考え込んだ霧島が黙り込んだのだが、ここで別の思いが頭を過ぎる。

 

 それを知っている北上が、タメ口で霧島に話すのはいかがなものかと思うんだが。

 

 いやまぁ、仲が良いってことで済ましてしまえば問題はないんだけどね。

 

「それについては、おそらく……思い当たる節があります」

 

「思い当たる……節?」

 

 問いに対して俺が聞き返すと、他の子供たちが一斉に霧島へ視線を向けた。

 

「確実にそうとは言いきれないのですが、可能性は高いかと……」

 

 言って、顔を上げる霧島。

 

 真剣な表情に連れられてか、子供たちの何人かが口に溜まっていた唾を飲み込むかのように喉を動かした。

 

「そ、それはいったい……?」

 

「今から3年と少し前のことになるのですが、国内にある鎮守府間で行われた、合同総合演習での出来事なんです……」

 

 またもや聞いたことがあったような気がする言葉に、俺も思わず唾を飲み込む。

 

 

 

 背筋の辺りに感じる嫌な汗と、部屋に漂う独特な空気が勘違いだと思いながら……。

 




次回予告

 嫌な予感がしながらも、霧島の言葉に耳を傾ける。
3年前にあった、総合合同演習の出来事を。

 まずは、昼での戦いです。

 艦娘幼稚園 第三部
 ~幼稚園が合併しました~ その15「佐世保VS舞鶴」

 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。