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比叡はなんとか助かりました。
そして治療のためにと連れられていったのだが、このまま何もやらなくて良いのだろうか?
否、ここは一肌脱ぐべきだろう。
「それじゃあ比叡ちゃんの治療に向かいますので、後はよろしくお願いいたしますね~」
「は、はい……」
にこやかに手を振る愛宕に返事をすると、真っ青な顔をした比叡を連れて部屋から出て行った。
「こ、これで良かったのでしょうか……」
「確かに、悪口とも取られかねない会話を聞かれてしまった後に連れていかれるのは少しばかり心配にはなるかもしれないけれど、ここは愛宕先生を信じるべきだと思うぞ?」
「そう……、思いたいのですが……」
霧島はゆっくりと息を吐き、ズレていた眼鏡を直すためにブリッジに指をかける。表情は普段とあまり変わっているようには見えないが、手が小刻みに震えているところを見る限り、心境は思わしくないのだろう。
そりゃあまぁ、比叡が怖がる当の本人の愛宕に連れていかれたとなれば、心配になるのは当たり前だが。
しかし、治療と言われたら断ることもできないし、少しの時間とはいえ息が止まっていたのだから大事に越したことはない。艦娘と人間の違いを明確には分からないけれど、後遺症の可能性があるのならしっかりと調べてもらいたいのだ。
……そういえば、俺が佐世保でプリンツに踏まれた際、しっかりと検査をした記憶がないんだけれど。
治療所の女医さんに簡単なチェックと問診を受けて大丈夫だと言われたが、本当にそうなのだろうか……?
「……どうしたのですか、先生。
何やらさきほどから、頭の後ろ辺りをさすっているようですが」
「あー、いや。
なんでもない。なんでもないよ」
霧島に手の平を見せて大丈夫だと伝え、肩を落としながら微笑んだ。
いまさら気にしたとしても後の祭り……とはならないだろうが、あれからだいぶんと時間も経っているけど身体に不調はないし、心配のし過ぎだろう。
「さて、それじゃあこれからだけど……」
「そうですね……。
比叡姉様がいない以上話を続けることもできませんし、そもそも愛宕先生本人にバレてしまったのですから対処のしようがなくなりましたので、完全に手詰まりとなってしまいました」
「いやいや、そんなことはないよ」
「……え?」
素っ頓狂な声を出し、俺の顔を見上げてくる霧島。
仮にも幼稚園の頭脳と自称するくらいなのだから、もう少し考えてほしいところなんだけれど……というのは少々酷だろうか。
……いや、もっと言うのであれば元は普通の艦娘だったのだから、他の子供たちより賢いのは当たり前だけどね。
「今から取るべき手は十分にあるし、ちょっと調べておきたいこともあるから、手伝ってもらえないかな?」
「霧島が……ですか?」
「ああ。
比叡を救うため……になるかどうかは分からないけれど、助けてくれると嬉しいかな」
俺はそう言って、ニッコリと笑みを浮かべて霧島の目を見た。
「……っ!
わ、分かりました。
せ、先生にそう言われては、断れるはずもありません……」
なんだか嫌そうな口調で返された挙げ句、顔を背けられたのはちょっぴりショックだったりして。
でもまぁ、嫌だとは言われてないので大丈夫だろうと、俺は愛想笑いを浮かべながら説明を始めた。
霧島にお願いごとをしてから幼稚園前で別れ、玄関扉の戸締まりを確認してから寮へ戻る途中に携帯電話を操作してメールを送る。
自室に入った俺は必要になるのであろうノートと筆記用具を入れた小型の鞄を準備したが、メールの返信によっては予定を変えなければいけなくなるので内心ハラハラだ。
それじゃあ先に連絡を入れて確認してから霧島に話をすれば良かったんじゃないかと思えるが、いまさらそんなことをいっても始まらない。
最悪の場合、別の場所を確保する手段を考えなければ……と思っていたところで、携帯電話の着信音がポケットから聞こえてきたので取り出してみる。
「ん……、この番号は……?」
ディスプレイに写る番号と一緒に、名前が表示されていない。つまりこれは、電話帳に登録していない番号からだということが分かる。
高校生活に至るまでほとんど友人らしき人物がいなかった俺にとって、登録されている番号は数少ない。逆にいえば、俺の番号を知っている人物も少ないということであるが。
……なんか、いまさらながらに涙が出てきそうになってきたんですが。
「おっと……、へこみそうになっている場合じゃないよな」
負のループにはまりそうだった俺を着信音が呼び覚まし、半ば反射的に通話ボタンを押してしまったので、携帯電話を耳に当てた。
「も、もしもし……?」
「いきなりの電話、失礼いたします。
こちらは先生の携帯電話で良かったでしょうか?」
「は、はい。
そうですけど……」
とっさに答えたのが良かったのかどうかと心配すると同時に、何やら聞き覚えのある声なんだけれど。
「メールの件についてお返事しようと思ったのですが、今の時間はよろしいでしょうか?」
「メールの……って、ああっ!」
寮に帰ってくる途中に送ったメールを思い出すが、その相手の声ではない。しかし、俺の頭の中に浮かんだ1人の顔と声が一致した途端、思わず大きな声を出してしまった。
「この声は鳳翔さんですか!」
「あっ、これは失礼いたしました。
名乗る前に質問をしてしまい、申し訳ございません」
「い、いえいえ。
ご丁寧にありがとうございます……」
どう返していいのか分からない俺はとりあえず思いついた言葉を並べ、返事を待つことにする。
「それで、千歳に送っていただいたメールの件なのですが」
「あ、はい。
いきなりお願いをして申し訳ないのですが、どうでしょうか……?」
「実は……」
俺の問い掛けに鳳翔さんの口調が重たくなり、思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
むむ……、やっぱり当日にお願いしても、難しいよなぁ……。
「今日の予約は入っていませんので、2階の大部屋は空いていますので大丈夫ですよ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「ただ、急遽になりますのでコース料理などをご用意することはできないのですが……」
「い、いえ、それは大丈夫です!
食事をしながら話をできる場所をお借りしたいだけなので、まったく問題はありません」
「そうですか。
それなら今からでも大丈夫ですので、お待ちしておりますね」
「ありがとうございます!」
電話越しに聞こえる鳳翔さんの声を聞き、いつもの笑みを浮かべているのを想像しながら俺は頭を下げて終話ボタンを押した。
ふぅ……、これでなんとかなったな。
後は霧島が、班のみんなを集めてくれれば言うことがないのだが。
「呼び出した俺が遅れる訳にもいかないし、心配していたって始まらないからな。
早速鳳翔さんの食堂に行って、みんなを待つことにするか!」
嬉しさで思わず独り言を大きな声で喋りながら、準備していた鞄を持って自室を出る。
足が無意識に早くなって久しぶりのスキップをしそうになるのを抑えながら、日が暮れていく鎮守府内を進むのであった。
「それじゃあ、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
鳳翔さんの食堂にある2階の大部屋に、俺と子供たちの声が響き渡る。
霧島に頼んでいたお願いは完璧に実行され、大きなテーブルを囲むように座っていた。
「いやー、先生も粋なことをするよねー」
「そうですね、北上さん。
運動会のときはいけ好かない……と思っていましたけど、少しくらいは認めてあげても良いかもですね」
嬉しそうにオレンジジュースを飲む北上は良いとして、大井は俺のことをそんな風にとらえていたのか……。
霧島といい、大井といい、なんか俺の評価がボロクソなんですが。
いったい何がいけないのか本気で分からなくなりそうなんだけれど、この機会に少しでも良い方向へ進んでくれればと思う。
「あれれ、先生のコップが空いているじゃない。
雷が注いであげるから、持ってくれるかしら」
「おっ、ありがとな」
「ううん、良いのよ。
もっと、もーーーっと雷に頼って良いんだから」
「雷ちゃんずるいのです。
電のジュースも、飲んでほしいのですっ」
「分かった分かった。
雷が注いでくれたジュースを飲んだら電にお願いするから、よろしく頼むな」
「はいです。
うれしいのですっ」
ニッコリ微笑んで嬉しそうに頷く電に、俺はホッと胸を撫で下ろす。
まぁ、ジュースの1杯や2杯くらい、余裕だから大丈夫だろう。
「それじゃあ先生、響の分も受けてくれるかな」
「……え?」
気づけば響がすぐ横にいて、いつの間にか2リットルのペットボトルを持って待ち構えていた。
「響ちゃんもなのですか!?」
「雷と電が先生に注ぐのなら、響の分も受けてくれるよね?」
「あ、ああ。
もちろんだけど……」
そう答えた俺の視線は、響よりもその後ろに向いてしまう。
ソワソワした感じで同じようにペットボトルを持った暁が、恥ずかしそうな表情でチラチラと俺の方を見ているのだ。
こ、これは、4人から注いでもらわないといけないよね……。
コップのサイズはジョッキとまではいかないものの、結構大きめなんだけど。
とはいえ、ここで1人だけ仲間外れはよろしくない。ここは気合いを入れて飲み干さねば。
「ゴッ……ゴッ……ゴッ……」
「す、すごいのです!
先生の飲む勢いが半端じゃないのです!」
2番手の電からジュースを注いでもらい、続けて一気に飲み干していく。
「……よし、次は響にお願いするよ」
「う、うん……って、そこまで喉が乾いていたのかな……?」
少し心配そうな顔で響が呟きながらも、なみなみと注いでくれた。
も、もう少し少なめでも……と言う訳にもいかないし、頑張って飲んでいくが……、
「ごふ……、ぐ、げふぅ……」
「なんだか先生が苦しそうなのです……」
「い、いや、大丈夫だ。
ちょっと勢いよく飲み過ぎただけだから、心配しなくていいよ」
「しんどくなったら、雷に頼ってくれたら良いのよ?」
「ああ、ありがとな」
「響もできることならするから、気軽に言ってくれれば良いから」
ペットボトルをテーブルに置いた響は、なぜか俺の方に身体を向けて正座をし、ポンポンと自分の太ももを叩いた。
えっと、それって……、そこに頭を置けってことなんだろうか。
つまり、ひざ枕をしてくれるってことで、ファイナルアンサー?
「先生をひざ枕……、キライじゃない」
「ひ、響ちゃんが大胆なのです!」
「雷も負けていないわ!
先生、雷の太ももに寝てくれて良いのよ!」
いやいやいや、なんでやねん。
ジュースを注いでくれる流れから、どうしてひざ枕をする方向に進むんだよ。
「べ、別に、暁はそんなことをするつもりなんてないし、ジュースを注がなくても平気なんだから……」
そしてそんな俺達を見ながら、ふて腐れている暁がブツブツと呟いている。
「……げふっ、お、おーい、暁ー。
せっかくペットボトルを持っているんだから、注いでくれないかー」
「……へっ?」
仲間外れは良くないからと、俺は必死になってコップを開けてから暁にお願いする。
「みんなから注いでもらったジュースがなくなっちゃったし、暁のも飲みたいんだけどなー」
「……っ、しょ、しょうがないわね。
1人前のレディのジュースを、味わって飲むのよ!」
そう言って嬉しそうに俺のコップにジュースを注ぐ暁の顔を見たら、頑張りも無駄ではないと思えてくる。
べ、別に、響や雷のひざ枕が残念って思っている訳じゃないんだからね!
……とまぁ、久方振りのテンプレ思考をジュースで流し込みながら、楽しい夕食の時間は過ぎていく。
「先生……、目的を完全に忘れてしまっているような気がするのですが」
そんな俺の状況を見かねた霧島が、大きなため息を吐いて苦言を申したとしても、仕方がないことだったのかもしれない。
「ま、まぁなんだ。
忘れていた訳じゃないんだけどさ……」
「それなら良いですけど、せっかくですし」
言って、俺にペットボトルの先を向ける霧島に、げんなりとしそうになったのは言うまでもなく。
「あ、ありがとう……、いただくよ……」
若干呆れながらも、ほんのりと嬉しそうな笑顔が見られたのだから良しとするしかないよね……?
胃の中は、ジュースでタッポンタッポンだけどさ……。
次回予告
ちょっとしたトラブルも乗り越え、夕食会も終わりが見えた……と思いきや、何やら様子がおかしいようです。
謎なアイテムに、お約束……?
いや、マジパナいよ?
艦娘幼稚園 第三部
~幼稚園が合併しました~ その13「楽しい夕食会?」
乞うご期待!
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